弁護士解説同一労働同一賃金とは?ガイドラインを詳しく解説労働法制

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働き方改革関連法の柱の一つが「同一労働同一賃金」です。2018年末には、厚生労働省の諮問機関である労働政策審議会の部会で、具体的なルールとなる「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(同一労働同一賃金ガイドライン、以下:ガイドライン)が承認されました。大企業では2020年から、中小企業ではその翌年2021年から適用されます。基本給や賞与、各種手当て等「賃金」に関することだけでなく、教育訓練や福利厚生までが対象となるこの制度について、上野真裕弁護士に伺いました。

同一労働同一賃金とは?

これまで、日本の雇用形態においては、能力や経験が同等で、企業の業績に対する貢献度が同じであっても、正社員と非正規雇用労働者には待遇に差が生じるケースが少なくありませんでした。同一労働同一賃金とは、こうした正社員(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者)の間に生ずる不合理な待遇差を解消する制度です。

主な対象は、パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者(協定対象派遣労働者を含む)です。同一労働同一賃金を導入することで、労働者がどのような雇用形態および就業形態を選択しても納得できる待遇を受けられ、多様な働き方を自由に選択できるようにすることを目的としています。

同一労働同一賃金が企業に与える影響

「かつて非正規雇用労働者は、その雇用形態から、正社員とは待遇に差があるのは当然とされたこともありました。しかし今後は、それだけでは待遇格差の理由とはなりません。両者の間の賃金の決定基準やルールに関する違いは、職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情の客観的・具体的な実態に照らして不合理なものであってはならないとされています。また、企業は非正規雇用労働者から求めがあったときは、待遇の相違の内容および理由などについて説明することが必要となります。このように企業は考え方を大きく転換しなければなりません」(上野弁護士)

賃金などの待遇差を解消するために、関連する就業規則などの見直しは不可欠となります。さらに、食堂や更衣室、休憩室といった福利厚生施設の利用、現在の職務に必要な技能・知識を習得するために実施する教育訓練などについても不合理な待遇差がある場合は、是正しなければなりません。

各種手当も見直しが必要です。退職手当や住宅手当などの待遇に関して、ガイドラインには具体的な記載がありませんが、不合理な待遇差の解消が求められています。

ここで大切なのが労使間の合意。企業側が一方的に規定していくのではなく、“労使間で話し合う”というプロセスの必要性がガイドラインでは説かれています。さまざまな待遇差の解消について「各社の労使により、個別具体の事情に応じて待遇の体系について議論していくことが望まれる」とされています。

ガイドラインでは給与から福利厚生まで幅広く対象

ガイドラインの具体的なポイントを見ていきましょう。同一労働同一賃金の導入に際して、キーワードは「不合理ではないか?」ということ。待遇差がある場合、企業に求められるのは“主観的・抽象的な説明”ではなく、“客観的・具体的な実態”に合わせた合理的な説明です。それができない不合理な待遇差は解消しなくてはなりません。
※以下はいずれも非正規雇用労働者の待遇。

基本給 能力や経験などが同じであれば、正社員と同一の賃金を支給
ボーナス(賞与) 会社の業績等への貢献度が同じであれば、正社員と同一を支給
手当 ※主なものを抜粋
職務手当 役職の内容が同じであれば正社員と同一を支給
通勤手当/出張旅費 正社員と同一の金額を支給
時間外労働手当の割増率 業務内容が同一であれば正社員と同一の割増率
精皆勤手当 業務内容が同一であれば正社員と同一を支給
退職金/住宅/家族手当 不合理な待遇差の解消が求められる
福利厚生 ※主なものを抜粋
食堂/休憩室/更衣室 正社員と同一の利用・付与を実施
慶弔休暇/健康診断に伴う勤務免除・有給保障 正社員と同一の利用・付与を実施
教育訓練 現在の職務に必要な技能・知識を習得するために実施するものについては、正社員と同一の職務内容であれば同一の、違いがあれば違いに応じて実施

注)非正規雇用労働者が派遣労働者の場合、表中の「正社員」は「派遣先に雇用される通常の労働者」をさす。

ガイドラインでみる待遇差が不合理になるケース・ならないケース

ガイドラインでは「短時間・有期雇用労働者」「派遣労働者」「協定対象派遣労働者」にわけて、それぞれ基本給(賃金)や賞与、福利厚生などについて、不合理な待遇差における具体例を示しています。ここでは「短時間・有期雇用労働者」について、いくつかの例を見てみましょう。

基本給

問題となる例……A社は、労働者の能力・経験に応じて基本給を支給している。多くの経験を有することを理由に、通常の労働者Xに対して有期雇用労働者Yより基本給を高く支給しているが、Xのこれまでの経験は現在の業務に関連性がない。

問題とならない例……A社は、労働者の能力・経験に応じて基本給を支給している。同社ではある能力の向上のための特殊なキャリアコースを設定している。通常の労働者であるXはこのコースを選択した結果、能力を習得。一方、短時間労働者であるYは、同コースを選択していないためその能力を持たない。A社は能力に応じた基本給をXに支給、Yには支給していない。

賞与

問題となる例……A社は、会社の業績等への労働者の貢献に応じて賞与を支給している。通常の労働者には、職務内容や貢献度にかかわらず全員に賞与が支給されるが、短時間・有期雇用労働者には支給されていない。

問題とならない例……A社において、通常の労働者であるXは、生産効率および品質の目標値に対する責任を負っており、目標値に達成しない場合はペナルティを課されている。一方通常労働者Yや有期雇用労働者Zにはペナルティはない。A社はXに対して賞与を支給しているが、YやZに対しては賞与を支給していない。

食事手当

問題となる例……A社は、労働時間の途中に昼食のための休憩時間を設けている。通常の労働者であるXと有期雇用労働者であるYは共に休憩時間を利用しているが、XにはYより高い食事手当を支給している。

問題とならない例……A社は、労働時間の途中に昼食のための休憩時間を設けている。通常の労働者Xは休憩時間を利用しているため、食事手当が支給されている。一方、短時間労働者であるYは勤務時間中に休憩時間の利用がない(例えば、午後2時から午後5時までの勤務)ため、食事手当は支給されていない。

導入に向けて企業が準備・対応すべき3つのポイント

同一労働同一賃金の導入には、企業への影響が大きいため慎重に進めていくことが大切です。以下のポイントをしっかりと押さえ準備をしていきましょう。

ポイント①:まずは自社の方針を決める

同一労働同一賃金の導入にあたり、企業がすべきは、導入に際し、自社がどのように対応していくか方針を決めることです。制度の最も大きな課題は、基本給や賞与など賃金に関すること。指針では正社員の待遇を下げることは回避するよう促していますが、賃金の引き上げは企業の経営・存続に影響を及ぼすことも。まずは対応の方針を決定することが急務です。

ポイント②:自社の不合理な待遇差を洗い出す

方針が決定したら、自社が有する不合理な待遇差を洗い出し、解消すべく対策を講じていくために、就業規則や労務規定等を見直していきます。職務の区分や評価基準があいまいな場合は、公正で明確な制度への再構築が必要です。その際、忘れてはならないのが労使間での話し合いです。経営側の都合だけではなく、労使が意見を交換できる場を設け、双方が納得できる形で待遇差が解消できるよう議論することが大切です。

ポイント③:待遇差の内容や理由を明らかに

同一労働同一賃金の改正前は、企業側は非正規雇用労働者に対して、待遇内容や考慮事項等について、説明義務の規定がない場合もありました。しかし改正後は、非正規雇用労働者は「正社員との待遇差の内容や理由」など、自身の待遇について説明を求めることができるようになります。企業は労働者に対する待遇に関する説明義務を強化し、労働者が納得できる合理的な説明ができるように努めなければなりません。

同一労働同一賃金に関する判例

2018年6月、同一労働同一賃金に関する2つの訴訟に対して、最高裁の判決が下されました。「ハマキョウレックス事件」(最判平成30年6月1日労判1179号20頁)と「長澤運輸事件」(最判平成30年6月1日労判1179号34頁)です。

それぞれ一般貨物自動車運送事業を営む会社において、前者は配送ドライバーとして雇用されている契約社員が、作業手当等について正社員との待遇差が不当であると訴えたもの。後者は、定年後継続雇用されたドライバーが、賃金が下がったことに対して不合理であると訴えたものです。

最高裁の判決は、ハマキョウレックス事件に関しては、住宅手当を除く各種手当(皆勤手当、無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当)は、ドライバーとしての職務内容が異ならなければ差異が生ずるものではないとして、正社員と差異を設けることは不合理であると判断しました。一方、長澤運輸事件に関しては、賃金項目にかかる相違の不合理性の審査にあたっては、賃金総額の比較だけでなく、賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきとして、結論として、精勤手当及び超過手当(時間外手当)を除く賃金項目(能率給、職務給、住宅手当、家族手当、役付手当、賞与)については、これを定年後継続雇用されたドライバーに支給しなくとも不合理ではないと判断しました。

企業にはさまざまな手当が存在します。賃金にプラスされることで労働者にも利となってきた各種手当ですが、今後はその合理性について問われることになりそうです。就業規則を見直す際、自社の手当についても見直しが必須です。

複雑な同一労働同一賃金制度。まずはしっかりとガイドラインや指針の読み込みを!

同一労働同一賃金の制度への対応は、賃金体系から福利厚生や教育訓練まで複雑多岐にわたることから、人事部はさまざまな案件を解決しなければなりません。担当者は、厚生労働省がHPに掲載している、具体的な事例を示したガイドラインや指針を読み込むことをおすすめします。

制度の実施まで大企業は1年で、中小企業は2年を切りました。雇用形態や就業形態に関わらず、すべての労働者が不合理のない待遇を受けることができ、多様な働き方を自由に選択できるような環境を整えていきましょう。

Profile

中野通り法律事務所 弁護士
東京弁護士会所属
上野 真裕氏監修

1997年日本大学大学院法学研究科私法学専攻博士前期課程修了。2003年弁護士登録。勤務弁護士を経て、2007年中野通り法律事務所設立。労働事件を含む一般民事事件を中心に扱う。主な著作は『退職金の減額・廃止をめぐって』(中央経済社)など。

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