アンガーマネジメントとは? 具体的なやり方や効果などを紹介

職場では、思いも寄らなかった事態やトラブルが起こるものです。想定外の事態が起こると、時には業務中に感情的になってしまうこともあるでしょう。そんな時に有用なのが、アンガーマネジメントです。

アンガーマネジメントは、「怒り」の感情を理解することで上手にコントロールする方法です。アンガーマネジメントを身に着けることにより、一時の感情に流されず、冷静に状況をコントロールできるようになります。

本記事では、アンガーマネジメントの基本的な考え方や、具体的な手法を解説していきます。

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アンガーマネジメントとは?

アンガーマネジメントは、1970年代にアメリカで提唱・開発された、怒りをコントロールするための手法です。

人間の持つ自然な感情の一つである「怒り」と、上手に向き合っていくために研究されました。怒りについて理解し、取り組むことで良好な人間関係の維持や、職場でのチームワーク・生産性向上が期待できます。

怒ると叱る、の違い

「怒る」と「叱る」は、似ているようでいて明確な違いがあります。

「怒る」ことは自分の感情を発散させ、相手にぶつけることですが、「叱る」ことは叱る相手をおもんぱかり、成長を促すことを目的とする行為です。この違いを理解しておくことが、アンガーマネジメントを身に着ける一歩となります。

企業でも関心が高まるアンガーマネジメント

アンガーマネジメントが注目されるのには、企業における生産性や競争力に好影響を与えるという背景があります。具体的にその理由を見ていきましょう。

ダイバーシティの浸透

ダイバーシティという概念に代表されるように、人間の価値観は年々多様化しています。世代はもとより、性別・国籍など人によって「常識」や「当たり前」も異なります。

企業においてさまざまな考えを持つメンバーが集まり業務を遂行するケースは増えつつあり、価値観の相違による諍いを避けるためにも、アンガーマネジメントは有用といえるでしょう。

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職場におけるパワーハラスメント防止

厚生労働省による平成29年発表の「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」では、社内相談窓口に寄せられた従業員の悩みで一番多かったのはパワーハラスメントで32.4%でした。

大企業では2020年6月から、いわゆるパワハラ防止法が施行されたことで取り組みを強化したという企業も多いのではないでしょうか。中小企業においても、努力義務期間を経て2022年4月に施行されます。多少時間に余裕はありますが、当然のことながら法令遵守が必要であることは変わりありません。

パワーハラスメントは、受けた当人にダメージが大きいだけではありません。ハラスメントがあるという事実だけで組織のモチベーションを大きく損なってしまいます。アンガーマネジメントを学び、適切な対応方法を身に付けることでパワーハラスメントの予防にもつながるといえるでしょう。

参考・出典:「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」の報告書を公表します│厚生労働省

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生産性やチームワーク向上

怒っている時間は、問題の前向きな解決策などが考えられず、生産性がある状態とはいえません。パワーハラスメントの防止という観点だけでなく、適切なコミュニケーションを心掛けることで職場の人間関係が良好となり、結果的に生産性やチームワークの向上が期待できます。

感情のマネジメントは、生産性にも大きく影響するのです。

怒るデメリット

そもそも怒ることにどんなデメリットがあるのでしょうか? 怒ることのデメリットは、下記のように多くあります。改めて整理してみましょう。

職場の雰囲気が悪くなる

怒る際、声を荒げたり、場合によっては机を叩いたり蹴るなど、物に当たってしまう場合もあります。このような行為を他の人が目にすると、直接自分とは関係なくても「あの人を怒らせないようにしよう」と不安に感じてしまい、結果として職場の雰囲気が悪くなってしまいます。

人間関係が悪化する

当事者間で人間関係が悪化してしまうのもデメリットの一つです。同じ職場にいる限りは関わることもあるため、人間関係が悪化してしまうと業務遂行にも影響してしまいます。

本人もストレスを抱える

感情に任せて怒ってしまうと、その後に後悔や自責の念に駆られてストレスに苦しむことも少なくありません。

パワハラなどにつながる

怒ることは、相手の立場やシチュエーションによりパワハラにもつながりやすくなってしまいます。

生産性が低下する

職場において感情的に怒ることが多くなると、その人に相談しにくくなるなど、円滑な業務遂行が難しくなる側面もあります。そのため、生産性が低下してしまうことが懸念されます。

アンガーマネジメントを実践するメリットと効果

アンガーマネジメントを実践するメリットと効果にはどのようなものがあるのでしょうか。 怒りをコントロールすることで、自分はもちろん周囲にも好影響があります。

怒りをコントロールできるようになる

アンガーマネジメントを実践する過程において怒りのメカニズムや、自分の怒りのパターンを理解することで、怒りをコントロールできるようになります。

怒りを感じて衝動的な言動をとってしまうのは、自分にとってもチームにとっても良い影響を与えません。衝動的に発言してしまうことで、周囲からの不信感や信頼喪失につながってしまうことも。

また怒りを抑えきれない自分に対してネガティブに感じ、自己肯定感を低下させてしまうこともあるでしょう。

適切な叱り方を身に付けられる

パワーハラスメントを恐れるあまり、「部下をうまく叱れない」という管理職の悩みもあります。しかし、指導するべき時に正しい振る舞いができないのでは、リーダーやマネージャー、管理職としての職務を果たせません。

部下をうまく導くために、アンガーマネジメントを通じて「適切に叱る」というスキルを学ぶことはマネジメントにも役立ちます。

怒る回数を減らし、ストレスも減らせる

怒りを抱えることは、当事者にとってストレスとなる場合があります。

アンガーマネジメントにより、怒りをコントロールすることで悩む頻度を減らし、自分のメンタルヘルスも保ちやすくなるでしょう。

視野が広がる

アンガーマネジメントを実践することにより、自分の感情はもちろんのこと、相手の考え方や意見に対して耳を傾ける習慣も身につきます。結果として、複合的に物事や出来事を考えられるようになり、柔軟性や視野が広がるといえるでしょう。

視野が広がることで新たな気付きを得られる機会も増えます。

チームの生産性向上

アンガーマネジメントを実践することで、コミュニケーションが取りやすくなり、業務も円滑に進められます。職場の雰囲気も良くなり、働きやすく意見を言いやすい環境ができることで、生産性向上につながるでしょう。

まずは怒りのメカニズムや性質をよく理解する

アンガーマネジメントの実践には、怒りのメカニズムや性質の理解が欠かせません。「怒り」という感情の性質や特徴を見ていきましょう。

出来事に自分が意味付けをしていることに気付く

怒りはある出来事に対して、自分自身が意味付けをすることによって生まれます。自分がなぜ怒りを感じているのか、怒りに隠れている他の感情に気付くことで、怒りのパターンを理解できるといえるでしょう。

怒りの種類を理解する

怒りは大きく4つに分類されるといわれています。それぞれの種類や特徴を知っておきましょう。

強度が高い 強度が高い怒りは、声を荒げたりするなどの言動につながりやすい衝動的な怒りです。抑えるのが難しいため、怒りを貯めないように意識することが重要です。
持続性がある 時間が経っても忘れられない怒りや、思い出していらいらしてしまう怒りが「持続性がある怒り」です。「あの時ああすれば良かった」と消化できない怒りや後悔があるため、持続してしまう状態です。
頻度が高い 例えば、メンタルヘルスが良くない状態では、些細なことでも刺激となり怒る頻度が多くなることもあります。精神的な疲労が蓄積し、悪循環に陥りやすい状態です。
攻撃性がある 相手を攻めるあまり、攻撃してしまうタイプの怒りです。対象は相手であったり物であったりさまざまですが、周囲にも悪影響を与えます。

アンガーマネジメントの具体的な手法

アンガーマネジメントの具体的な手法にはどのようなものがあるのでしょうか? 一つずつ詳しく見ていきましょう。

16秒ルール

怒りを感じてから、冷静に考えられるようになるまで一般的に6秒かかるといわれています。例えば、かっとなってしまっても6秒抑えられれば冷静な思考を取り戻せるということです。
6秒待つということを忘れてしまう場合は、1からではなく6からカウントダウンするなど、意識的にタスクとして自分に課すことで、6秒ルールを実施しやすくなるといえるでしょう。

2思考を止める

怒りを感じた時に、一度思考を止めるのも有効です。例えば、怒りを感じる文書やメールを見てしまった時に、一時的にファイルや画面全体を閉じることで思考を止めやすくなります。意識的に思考を止められると、怒りに任せた言動を抑制する効果があるといえるでしょう。

3深呼吸をする

怒りを感じた時には、深呼吸をしてみましょう。深呼吸をすると、副交感神経が優位になるため、落ち着きや冷静さを取り戻すことができます。4-5秒かけて息を吸い、10秒程度かけて吐くことを意識してみましょう。

4アンガーログで怒りのパターンを見つける

アンガーログとは、その名の通り怒りについて記録したものを指します。怒りを感じた日時や場所、程度を記録することで、自分が怒りやすい状況などのパターンを見つけられます。
パターンを認識することで、自分の怒りの感情を認識し、対応がしやすくなるといえるでしょう。

5怒りを数値化してみる

アンガーログを記録する時や、怒りを感じた際に、その怒りを数値化してみることも客観的に自分を見つめることにつながります。また数値化してみることで、自分の怒りの傾向がより理解できます。

6怒りを相手へのリクエストに置き換える

怒りの感情を抱いた際、不満ではなく相手に「こうして欲しい」という具体的なリクエストの形で伝えるのも有効です。

    例えば、
  • 今でも満足しているが、期日を少し早めてもらえるとより良い
  • 帳票の形式を、集計しやすいようにサマリーを入れてもらえるとありがたい
  • 最低限〇〇は意識して欲しい
など、リクエスト形式で相手に伝えれば怒りの感情を抑えながら要望を伝えられます。

アンガーマネジメントを踏まえた指導や叱り方のコツ

アンガーマネジメントを踏まえた指導や叱り方のコツにはどのようなものがあるのでしょうか。 方法やコツを知って、ビジネスの現場で生かしてみましょう。

信頼関係は必須

業務上では、厳しいことを言わなければならないシーンも度々あります。その際、適切な指導を行うためには、相手と日常的に信頼関係が築けているかが重要であるといえるでしょう。

最低限の信頼関係が無ければ、叱られた相手はただ「自分を否定された」と感じてしまうこともあります。そうならないためには、意識的にコミュニケーションを増やすことが重要です。

裏を返せば、信頼している上司の言葉であれば、聞き入れてもらいやすいといえます。

相手のために叱るという目的意識を持つ

相手のために叱るという目的意識を持つことで、適切に指導を行いやすくなります。自分の怒りを発散させるためではなく、相手のこれからをおもんぱかった上で叱るという意識を持ちましょう。

人前で叱らない

言うべきことであっても、人前で叱ると対象者は傷ついてしまいます。そのような事態を避けるために、叱る際には1対1で話す場を設けることを意識するのが良いといえるでしょう。

相手の人格を否定しない

指導するべきは相手の「行為」であり、相手の人間性や人格ではないことに十分留意しましょう。相手の人格否定などはパワーハラスメントにつながってしまうおそれもあります。

程度を表す言葉を控える

叱る際には、程度を表す言葉の使用について、なるべく控えるようにするのが良いといえます。例えば「しっかり」「ちゃんと」などといった程度を表す言葉は、基準が曖昧であり、何をもって「しっかり」なのかが分かりません。

人によって程度の捉え方も異なるため、具体的にどのようなレベルを求めるのかについては、なるべく数字で表現して伝えてみるのが良いでしょう。

感情をぶつけない

「なぜいつも心配ばかりさせるのか」「なぜ人を困らせるのか」などといった感情的な言動についても控えるように意識しましょう。

感情的すぎると何も解決しないばかりか、自分の評価を下げてしまう結果にもなります。

決めつけない

「どうせ甘く見積もっていたのだろう」「さぼりたかったのだろう」など、決めつけたような発言も厳禁です。

言われた相手には不信感が残ってしまい、その後の信頼関係に影響する可能性があります。

表現や伝え方を意識する

叱らないといけない場合「君の意見もある意味正しい」や「君の判断を尊重している」といった言葉で相手を認めつつ、改善してほしい点を伝えてみましょう。「現状にも満足しているが、もっと良くしたいので協力してほしい」といった表現も有効です。

ただし、厳しい指摘が必要な場合は、迷いがあると伝わりにくくなってしまうため、はっきりと指摘する姿勢も重要です。

まとめ

本記事では、アンガーマネジメントの基本的な考え方から、具体的な実践方法を紹介してきました。

企業経営にもアンガーマネジメントは欠かせない概念であり、生産性やチームワークに影響します。また、職場において良好な人間関係を築いて維持するだけでなく、アンガーマネジメントの実践により自分のメンタルヘルスを守ることもできます。

アンガーマネジメントの実践にあたっては、外部サービスの力を借りるのも一つの手です。

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