ダイバーシティとは? 基礎知識から人事施策までわかりやすく解説

多様な人種、国籍の人物

近年、注目を集める「ダイバーシティ」。働き方改革の柱のひとつとしても推進されています。一方で、「よく聞くけど、詳しく知らない」という方もまだ多いのではないでしょうか?

この記事では、ビジネスにおけるダイバーシティの基礎知識から活用方法、人事施策などをわかりやすく解説していきます。ぜひご活用ください。

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ダイバーシティとは?

ダイバーシティ(Diversity)は、直訳すると多様性を意味します。集団において年齢、性別、人種、宗教、趣味嗜好などさまざまな属性の人が集まった状態のことです。もともとは人権問題や雇用機会の均等などを説明する際に使われていました。現在では多様な人材を登用し活用することで、組織の生産性や競争力を高める経営戦略として認知されています。

ダイバーシティ&インクルージョン

ダイバーシティは「ダイバーシティ&インクルージョン」という使われ方もされます。インクルージョン(Inclusion)は英語で受容という意味があり、多種多様な人が互いの考え方の違いや個性を受け入れながら、ともに成長することです。単に多様な人材が集まっているだけでなく、共存共栄することがダイバーシティ&インクルージョンの特徴です。

ダイバーシティ経営(マネジメント)とは?

ビジネスにおいてはダイバーシティ経営という考え方もあります。ダイバーシティ経営とは、経済のグローバル化や少子高齢化が進む中で、企業競争力の強化を図るための施策です。女性、外国人、高齢者、障がい者を含め、多様な人材を活かし、その能力が最大限に発揮できる機会を提供することで、イノベーションにつなげます。

ダイバーシティ2.0とは

経済産業省が提唱した「ダイバーシティ2.0 」はダイバーシティの新たな方向性を示すもので、中長期的に企業価値を生み出し続ける経営上の取り組みです。経産省が中心となり2017年に策定、2019年6月には改訂版がリリースされました。企業が実践するにあたっての「行動ガイドライン」も提示されています。

ダイバーシティを推進するため「ダイバーシティ経営によって企業価値向上を果たした企業」を表彰する事業や、「ダイバーシティ2.0」に取り組む企業の選定も実施しています。

ダイバーシティが注目される理由

経営戦略にダイバーシティが不可欠といわれる背景には、労働環境の変化や個人の価値観の多様化があります。

少子高齢化など労働力人口の減少

総務省の調査によると、国内の労働力人口は2008年をピークに減少傾向にあり、今後も労働力人口の減少は加速すると見られています。女性や高齢者、障がい者、外国人などの多様な人材の活用で労働力を補うことが、今後ますます必要といわれています。

価値観の多様化、人材の流動性の高まり

時代とともに、労働者の働き方やキャリアに対する考え方は多様化しています。雇用形態にこだわらず、やりたい仕事を求めて転職をする人も珍しくありません。企業側は、多様化する人材のニーズに応え、人材獲得競争で他社に後れを取らないためにも、ダイバーシティを実践し、採用力を高める必要があります。

ビジネスのグローバル化

海外に生産拠点を構える、海外市場に進出するなど、ビジネスのグローバル化が進んでいます。グローバル化に対応するためには、外国人材の活用は必要不可欠となるため、企業側は受け入れ体制を整える必要があります。ダイバーシティを推進することで、外国人材が働きやすくなり、グローバル化の推進につながります。

ダイバーシティ経営のメリット

ダイバーシティ経営は、企業と従業員、双方に多くのメリットをもたらします。多様な人材を戦略的に活用することは、以下のような効果が期待できます。

新たな視点によるイノベーション

ボストン コンサルティング グループが行った調査を見ると、ダイバーシティとイノベーションの成果には相関関係があるとわかります。ダイバーシティ経営の目的は「オピニオン・ダイバーシティ」ともいわれます。多様な視点からの意見を活用することで、同質的な組織では得られないアイデアやひらめきが生まれ、新たな商品やサービスを生み出しやすくなるからです。

グローバル市場における競争力の強化

クレディ・スイスの調査では、全世界の時価総額100億ドル以上の企業で、女性取締役が1名いる企業のほうが、そうでない企業より2008年のリーマンショック(世界的金融危機)後の回復力が強くなっています。常に変化し続ける世界経済にあって、多様な人材が活躍する組織は、同質的な組織よりも環境変化に強いといえるでしょう。

採用、雇用力の強化

PwCコンサルティングが、日本を含む世界各国の主要企業の最高経営責任者に対して行った調査によると、ダイバーシティ経営によって得られた最も大きな効果は、人材の獲得です。多様な人材が活躍できる土壌を整備することは、企業の採用能力を高めることでもあります。

※ 参考:厚生労働省|平成30年雇用動向調査結果の概要

働き方改革とダイバーシティ経営

働き方改革とダイバーシティ経営は密接に関係しています。ダイバーシティ経営を実践するには働き方の見直しや生産性向上、適正な評価が必要不可欠だからです。

2019年に発表された世界男女平等ランキングでは、日本は153か国中121位と低迷し、日本のダイバーシティ経営は世界的に見ても遅れているといえます。またアデコグループが実施した調査では、労働者の約7割がダイバーシティの重要性を実感しているにもかかわらず、そのうち効果を実感しているのは3割を下回りました。

日本での働き方改革はまだ始まったばかりです。働き方改革がさらに進むことで、ダイバーシティ経営も進み、下記のような相乗効果も期待できます。

ワークエンゲージメントの向上

従業員が仕事に対して感じている充実感や満足度を表すワークエンゲージメントは、働く環境にも左右されます。テレワークなど柔軟に働き方を選べる環境は、ワークエンゲージメントを高めますが、働き方を選べない環境だと、従業員が不満を感じワークエンゲージメントは下がってしまうかもしれません。

ダイバーシティにより、さまざまな人材の交流が生まれることは、従業員に刺激を与え、モチベーションアップの効果も期待できます。

人材のリテンション

多様な人材を登用、活用するだけではなく、働き方にも多様性を持たせることで、優秀な人材の流出を防ぐリテンション効果が期待できます。育児や介護などで働き方を変える必要があり、ベテラン人材が退職するケースは少なくありません。労働環境を整備し、働きやすく復帰しやすい職場にすることが、人材を維持・確保することにつながります。

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企業ごとのダイバーシティ経営の取り組み事例

ダイバーシティへの取り組みを企業戦略の柱に位置付ける企業が増えています。ダイバーシティへの取り組みは多岐に渡りますが、「先駆者」「風土醸成」「キャリア」がキーワードとなる先進的な3社の事例をご紹介します。

楽天

2010年には「社内の公用語を英語にする」と発表し、話題を集めた楽天株式会社。グローバルマーケットで成長するためにいち早くダイバーシティに注目し、多彩な取り組みを行う先駆者です。

現在では、世界中からユニークで多様な文化的背景や視点をもつ優秀な人材が集まり、イノベーションの原動力になっています。

社内の公用語を英語に

国籍にかかわらず社員同士がコミュニケーションしやすくするために、2010年から取り組みを開始しました。現在、本社には70を超える国・地域からの従業員が在籍中で、異文化理解によるコミュニケーションの円滑化を促進するための研修も実施中です。

女性従業員向けのサポート

キャリアセッションの実施、メールマガジン配信、産休前・復職前セミナー、育児休業中の従業員向けニュースレター配信などを行っています。母乳育児を希望し、復職を思いとどまる従業員も多いことから、安心して復職できるようオフィス内に搾乳室を用意しています。

パパ、ママ従業員のサポート

社内託児所を設置。勤務時間の調整や削減、在宅勤務など、勤務体制をアレンジすることも可能です。また、従業員とその家族が働きやすい環境を整えるために、休職前・復職前セミナー、社外講師後援会、先輩従業員紹介等を実施しています。

LGBT従業員のサポート

社内規定上の配偶者の定義を改定し、福利厚生の適用範囲を拡大しました。社内有志によるネットワークと連携し、全従業員向けオープンセミナー、へルプデスクや多目的トイレの設置など、理解を深める啓蒙活動や、当事者がより安心して働ける環境の提供を目指しています。

障がい者雇用・活躍推進

障がいのある従業員が活躍できる職場環境の提供を目的に、子会社を設立しました。障がい者の雇用率は、2015年以降約2.4%と法定雇用率(民間企業=2.3%)を上回っています。

宗教への配慮

社内のカフェテリアでは、イスラム教で許された「ハラール料理」やインドの伝統的なベジタリアン食「インドベジ」のメニューなどを提供するほか、祈祷室と足洗い場も設置するなど、環境面の整備・改善を行っています。

参考:ダイバーシティの推進|楽天株式会社

ローソン

株式会社ローソンで注目すべきは、ダイバーシティを推進していくための風土醸成です。ポリシーの策定や推進体勢の整備に加えて、社員一人ひとりが「ダイバーシティを知る、認める、そして価値に変えるにはどうすれば良いか」を考える機会を提供するなど、社員参加型で多様な人材が働きやすい職場づくりに取り組んでいます。

ダイバーシティポリシーの策定

「固定概念を捨て、女性や外国籍の社員を含めた全社員がもっている能力と可能性を最大限に活かし、新たなるイノベーションを起こし、企業価値向上の実現に努める」といった主旨のダイバーシティポリシーを策定しています。

ダイバーシティ推進担当役員の設置

社長をトップにダイバーシティ推進担当役員を配置し、必要な制度設計・運用・登用などを実施。全国エリアごとにリーダーを選出し、ダイバーシティ推進、社内コミュニケーションの活性化、従業員の健康促進を目的とした「元気リーダー委員会」を定期開催しています。

ダイバーシティ対話大会の開催

全国規模で開催し、一般社員と管理職が働きやすい職場づくりの実現について、一緒になって考えます。管理職は多様な人財をマネジメントするためのポイントを知る機会になるといいます。

社員意識調査の実施

年1回、働きやすく働きがいのある職場にするためのヒアリングを行っています。調査結果をもとに組織ごとにカルテを作成し、職場環境やマネジメントの改善を促進するためのフィードバックを行います。

外国籍社員の積極的な採用

2008年から外国籍社員の採用を継続中で、すでに140名以上が在籍し、活躍しています。

参考:ダイバーシティ(多様性)の推進|株式会社ローソン

味の素

味の素株式会社のダイバーシティのキーワードは「キャリア」です。社員一人ひとりが個人のキャリアをつなぎ、キャリアを活かせる仕組みを整備し、多様な働き方ができる組織風土づくりを推進しています。

ダイバーシティ&インクルージョン推進チームの設置

担当役員を中心にした推進チームを設置し、性別や年齢、国籍、経験によらず、社員一人ひとりが互いを尊重し合い活躍する会社と社会を目指しています。

ダイバーシティ研修

テーマを設定して、組織風土づくりに関する研修を実施しています。2018年度からはアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)をテーマに、公平な機会提供を目的とした研修を開始。経営メンバーからスタートして、全社員に展開しています。

30% Club Japanへの加入

「30% Club Japan」(=企業の重要意思決定機関に占める女性割合の向上を目的とした活動)の趣旨に賛同し、2030年までに取締役の30%およびライン責任者の30%を女性にすることを目指しています。

事業所内保育所「アジパンダ®KIDS」

仕事と家庭を両立し、安心してキャリアが継続できる環境づくりを目的として、2018年3月に設立されました。

※「アジパンダ®」は味の素株式会社のうま味調味料「味の素®」の商品キャラクターです。

LGBTポリシーの策定

「マーケティングコミュニケーションに関するグループポリシー」および「人財に関するグループポリシー」を制定し、LGBTに関する差別の禁止を明確しています。LGBTに関するeLearningを実施し、2018年度の新卒採用より、エントリーシートの性欄も変更しました。2019年にはPRIDE指標(=職場でのLGBTに関する取組み評価指標)にて、シルバー認定を受けています。

参考:ダイバーシティ(多様性)の推進|株式会社ローソン

企業がダイバーシティを推進するためのポイント

ダイバーシティを推進、定着させるうえで、労働環境の整備や機会の提供は必須です。ただし、それ以外にもおさえておきたい重要なポイントがあります。

意見の尊重

たとえば、「日報や週報で気づきをメールする」「直談判の窓口を設ける」など、意見を出しやすい仕組み作りが有効です。

透明性

多様な人材のコミュニケーションを活性化させるには、意志決定のプロセスを透明性の高いものにする必要があります。日本人にありがちな「言わなくてもわかっているはず」は、ダイバーシティ経営には禁物です。

たとえ意見が採用されなかったとしても、納得感が得られることで、参画する意欲の低下を抑制できます。

コミュニケーション

ダイバーシティ経営を推進するためには、コミュニケーションが必要不可欠です。組織が縦割りになることでセクショナリズムや横のつながりを欠くサイロ化に陥るリスクがあります。

組織横断で行うオフサイトミーティングやタスクフォースプロジェクトなどを取り入れることで、コミュニケーションが取りやすくなります。

集団ではなく個として捉える

陥りがちな失敗として「女性向け商品だから女性チームを結成して、丸投げしてしまう」ケースがあります。そもそも新しいプロジェクトを推進するには、まずはチームメンバーが活躍するための情報や環境、権限が必要です。

また、「女性」を同質的に捉えてしまうことで、発想が限定されることもあります。男性の意見が新たな発想をうむこともあるでしょう。

ダイバーシティ経営においては、従業員を「女性」や「外国人」といった集団ではなく、個でとらえることが重要です。

成果の発信と共有

ダイバーシティに関する取り組みを社内外に発信することは大切です。社内においては、とくにトップがダイバーシティの成果を認識し、フィードバックすると効果的です。成果を従業員にも発信することで、達成感も共有でき、好循環が生まれやすくなります。全社集会での表彰やイントラネットなどでの共有など、仕組み化するのも有効です。

よくある質問

Q.ダイバーシティとはどういう意味ですか

A.ダイバーシティとは多様性を意味し、集団において年齢、性別、人種、宗教、趣味嗜好などさまざまな属性の人が集まった状態のことです。詳細はこちらでも説明しています。

ダイバーシティとは?

Q.ダイバーシティとはどのような考え方ですか

A.もともとは人権問題や雇用機会の均等などを説明する際に使われており、現在では多様な人材を登用し活用することで、組織の生産性や競争力を高めていこうとする考え方です。

まとめ

ダイバーシティは、労働人口の減少やグローバル化といった市場環境の変化に直面する現在の日本において、多様な人材を積極的に採用することで人材不足を解消するため、人的資本経営を推進するうえで欠かせません。

しかし、ダイバーシティの推進には課題も多く、社員全体の正しい理解がないままでは生産性の低下を招くリスクがあります。

人事施策としては、従業員が遠慮なく意見を交換でき、働きやすく、パフォーマンスを発揮しやすい環境づくりが推進の要になるといえるでしょう。

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