出向とは? 種類やメリット、注意すべきポイントなどを解説

人材不足や社員の育成など、企業は人に関するさまざまな課題と向き合わざるを得ません。新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて、さらにその状況が加速しています。

そのようななか、関心が向けられているのが「出向」の活用です。注目が集まる理由は、社員の出向や受け入れが、企業の人材に関する問題や課題に対する解決策となるからです。

今回は、「出向とは何か」「出向元や出向先、出向者それぞれの立場のメリットとデメリット」「給与や保険など労務関連のルールと注意点」、「出向に関連する各種サービス」などについて分かりやすく解説します。

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出向とは? 出向の種類や現状

出向は、「人材派遣」や「左遷」などと混同されがちですが、似て非なるものです。ここでは、出向とは何か、また在籍・移籍それぞれの特徴や派遣・左遷との違いを解説します。

出向とは?

出向とは、他の企業(出向先)に移り、出向先の業務に携わる雇用形態です。業務は出向先の指揮下で遂行します。業績アップや社員のキャリア形成、企業間交流の促進や雇用調整などを目的として行われます。

高まる出向のニーズ

厚生労働省では、コロナ禍を受け2021年に「産業雇用安定助成金」を創設しました。同省が公表している「産業雇用安定助成金の活用状況」では、2021年2月5日から2022年2月4日の1年間で出向労働者数は10,440人に上りました。

このことから、在籍出向のニーズが増えているとわかります。

また、同省では在籍型出向に対するアンケート調査を行っており、企業側・労働者側ともに高い評価を得ていることが明らかとなりました。

メリットとして、モチベーション向上や能力開発効果・即戦力確保・雇用維持などがあります。反対にデメリットとしては出向契約プロセスの負担や、職場環境が変化することによる精神的な負担があげられています。

参考・出典:【アンケート結果】在籍型出向の利用度・メリット・デメリットなど │厚生労働省

参考・出典:~産業雇用安定助成金の創設から1年、対象者が1万人を超えました~ │厚生労働省

「在籍出向」と「移籍出向」の違い

出向には、「在籍出向」と「移籍出向」があります。在籍出向とは、出向元に籍を置いたまま、別会社とも労働契約を結ぶことです。出向期間が終われば、出向元での就労に戻ることが前提となります。企業の人事異動のような形態といえるでしょう。

移籍出向は、転籍出向とも呼ばれます。出向元から籍が抜ける、つまり雇用契約は解消され、新たに出向先との雇用契約を結ぶ点が在籍出向との違いです。賃金を含め全て出向先の規定が適用され、後に出向元に戻るという前提はありません。実質、転職と考えられる形態です。

人材派遣や左遷との違いについて

出向は、人材派遣や左遷とはどのように違うのでしょうか。

  • 派遣との違い
    人材派遣は在籍出向とよく似ていますが、在籍出向は社員が出向元/出向先の両方と労働契約を結ぶもので、業務の指揮命令権は出向先に移ります。

    人材派遣は、あくまで派遣社員が人材派遣会社と労働契約を結び、派遣先企業の指揮命令下で業務を行います。

    また、人材派遣は1日~週単位の短期契約もありますが、出向は1年以上など比較的長めのケースが多い傾向です。

  • 左遷との違い
    左遷とは、これまでの役職よりも低い地位で働くというマイナスの計らいです。出向とは目的が異なります。出向はキャリア形成や業績向上、雇用確保など、将来的にプラスになるよう行われるものです。

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出向制度を活用する目的

出向制度は、どのような目的で活用されているのでしょうか。目的を理解しておくことで「自社が出向制度を取り入れるべきかどうか」の意思決定がしやすくなります。

雇用調整

出向制度を活用する目的として挙げられるのが「雇用調整」です。さまざまな理由で自社での雇用が困難になった場合に、雇用を維持したり、転籍を視野に入れたりして、自社の従業員を他社に出向させます。

先述したとおり、コロナ禍による出向制度の利用の広がりは、この「雇用調整」によるものが多数あります。

人材育成と越境学習

出向の目的の一つが、人材育成や越境学習、キャリア形成支援です。
例えば、製造業の企業に勤務する社員が、IT系のコンサルティング企業に出向する事例もあります。

出向した社員は、コスト意識や業務改善の視点を持った人材として経験を積んだ上で、在籍企業に戻ることになるため、出向元の企業にとってプラスの効果が期待できます。

今の環境ではできないさまざまな経験を積むことは、従業員にもメリットです。

人材戦略・経営戦略

事業の立ち上げ期に有能な人材に期間限定で来てもらうなど、人材戦略・経営戦略の一環として、出向を利用することもあります。

期間限定で来てもらう理由は、スキルや経験のある人材を採用するのはコストがかかり、社内登用が難しい場合があるからです。

コストが限られるなかで、知識やスキルに長けた人材を必要としている場合、出向制度を活用するのも有効手段の一つといえます。

企業間交流

関連会社や子会社、取引先などの関係性強化のために、出向が活用される場合もあります。

出向した人材が帰任(在籍企業に戻る)した際、出向先で築いた人脈を、新しい事業や取引に生かせるのがメリットです。銀行や公務員などは、こうした企業間(組織間)交流による出向が多くあります。

【出向元・出向先・社員別】出向によるメリット、デメリット

雇用調整や人材育成など、さまざまな目的がある出向制度を活用するに当たり、想定されるメリットとデメリットを知っておくことは重要です。

出向元のメリット、デメリット

出向元のメリットは、若手社員を子会社や関連会社に出向させることによって、自社ではできない経験をさせられる点です。

逆に優秀な社員には、出向先の経営を立て直すために、出向してもらうこともできるでしょう。その場合、優秀な人材が社外に出ることにより、出向元の事業運営に支障が出たり、業績が下がったりすることがあるかもしれません。

ただ通常は、業績の安定している会社が社員の出向などを検討するため、このようなケースはまれでしょう。

出向先のメリット、デメリット

優秀な出向社員を受け入れることで、出向先の職場は活性化されます。また出向社員の受け入れは、本社や親会社との信頼関係の構築にも役立ちます。

ただし出向先の企業は、出向社員のポジションや携わる業務について、受け入れ体制を整備する必要があります。ポジションや能力によっては、かえって人件費がかさんでしまうかもしれません。

また、即戦力になるか分からないことや、限定期間での勤務であることもデメリットといえるでしょう。

出向者(社員)のメリット、デメリット

出向する社員にとって、出向は新たな経験を積めるチャンスです。出向に対してネガティブなイメージをもつ社員は少なくありません。しかし先述したとおり、基本的に出向の目的は、人材育成や人材戦略・経営戦略などといった前向きなものが多いです。

たとえ一時的な雇用調整が目的で出向することになったとしても、在籍出向であれば、出向期間中に得られたスキルや人脈を、帰任後に生かして働けます。

ただし、職場環境が大きく変わることになるため、新しい知識を習得したり、新しい職場になじんだりするための労力が必要になります。

出向について企業が注意すべきポイント

出向について企業が注意すべきポイントにはどのようなものがあるのでしょうか。具体的に確認していきましょう。

保険の扱いはどうなるのか

社会保険は、原則、給与を支払う企業が負担し、社員を加入させます。

  • 【出向元が出向社員の賃金を全額支払う場合】
    雇用保険と同じく、出向元で手続きを行って加入させます。

  • 【出向先が出向社員の賃金を全額支払う場合】
    雇用保険と同じく、出向先で手続きを行って加入させます。移籍出向(転籍出向)の場合はこのケースです。

  • 【出向元と出向先の両方が賃金を一定の割合で支払う場合】
    出向元の被保険者資格は継続し、かつ出向先でも資格取得の手続きをします。ただし、二重加入はできないため、出向社員がどちらか一方を選択します。保険の企業負担については、出向元と出向先双方で協議します。

給与の扱いについて

給与については、出向元と出向先の話し合いで決定します。単純にどちらか一方から支払うこともあれば、出向先が出向社員の給与負担金として出向元に支払い、出向元が出向社員に支給する給与を確保するという形も可能です。

福利厚生の扱いについて

出向者の福利厚生の扱いについては、出向契約で定められます。仮に出向元と出向先の二重適用になったとしても、福利厚生自体が任意の制度であるため、従業員側に不利益が生じない限り、問題はありません。

出向元と出向先のどちらの制度を適用するか、出向時に両者間で協議し、決定するのが基本です。

出向命令を出すときに注意すべきポイント

出向は、勤務する場所や生活が変わるため、社員の人生にとって大きな出来事です。そこで、出向命令を出すときにどのような点に注意するべきなのか、ポイントを見ていきましょう。

1在籍出向の命令には従業員は従わなければならない

在籍出向の場合は、包括的同意が認められています。

包括的同意とは、出向に関する規定が就業規則などに記載・周知されており、企業との契約を結んだ時点で同意を得ているとみなされることです。つまり、社員に対して個別に同意を得なくても出向を命じられ、社員は命令に応じる義務があります。

会社からの出向命令に対し、その規定が就業規則に記されていれば社員は拒否できません。もし、社員が在籍出向の拒否や無視をした場合、企業側は就業規則に則り、懲戒処分の措置を取ることが可能です。

2移籍出向(転籍出向)は本人の承諾がなければ行えない

移籍出向(転籍出向)の場合、在籍出向とは違い、出向者本人の同意が必要です。なぜなら、雇用契約が完全に解消されて別会社の従業員となり、在籍出向に比べて本人の状況やキャリアが大きく変わるためです。移籍出向を選択する際は、必ず出向者本人の承諾を取りましょう。

3出向契約で労働条件を明確にする

出向契約とは、出向時において、出向元と出向先の企業間で交わされる契約です。 出向者の労働条件や指揮命令系統、給与支払いの方法などを明確にする目的があります。

決める条件は多岐にわたり、具体的には「出向先と出向元、どちらの就業規則をどのように適用するか」などが挙げられます。先述したとおり、社員にとって出向は、人生における大きな変化です。そのため、労働条件については、出向先で伝達するのではなく、事前に出向社員に伝えておくことが重要です。

4出向命令権を持っている必要がある

自社が従業員に対して出向命令権を持っている必要があります。

従業員と雇用契約書を交わしている場合には、そのなかに出向に関する記載があるか、就業規則などに盛り込まれているかなどを確認しましょう。これらに従業員が同意している場合に、従業員に対する出向命令が可能です。

5権利濫用にあたらないこと

従業員が雇用契約書や就業規則に同意している場合も、出向命令が権利濫用にならないか注意しなければなりません。出向命令に適切な理由や必要性がない場合には、出向命令は認められない場合もあるからです。

この点は、労働契約法14条に以下のように規定されています。

第三章 労働契約の継続及び終了
(出向)
第十四条 使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。

参考・出典:労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)│e-gov法令検索

6偽装出向とならないようにする

意図しないまま、偽装出向にならないよう、認識と対策も欠かせません。

出向の実態が、単なる労働者派遣や供給のための事業となってしまっている場合には、職業安定法違反となってしまいます。

出向している従業員の労働に対して対価を支払うことは必要ですが、「出向していること自体」に対価が発生する場合には偽装出向であるとみなされます。万が一該当してしまった場合には罰則の対象となります。

7出向解除の手続きについて把握する

出向後、想定していた期間よりも早期に、出向を終了させたい事情が出てくる場合もあります。 早期に出向を終了させたい場合は、出向元企業から出向先の企業に対して通知を行うのが基本となっています。 またその際には、従業員にも背景を十分に説明するよう心がけましょう。

出向を円滑に行うための制度やサービス

出向を行うには、「出向先の企業を見つける」「出向先の企業と契約条件を擦り合わせる」など、さまざまな業務が発生します。出向を円滑に行うための制度やサービスについて解説します。

AdeccoのCAREERBRIDGE

出向元企業と受け入れ先企業は出向契約を締結。出向元企業から人材の出向が行われ、受入先企業からは出向負担金を支払います。アデコは仲介として、受入先企業のご紹介と出向人材のご紹介を行います。

Adeccoが蓄積してきた人事課題解決ノウハウをもとに、従業員の出向を希望する企業のコンサルティングとマッチングを行うのが、CAREER BRIDGEです。出向先企業において「自社では得難い体験」を得られ、実際に出向する従業員のサポートや人事担当者の業務も総合的に支援します。

CAREER BRIDGEには成功報酬型とプロジェクト型があり、ニーズにあった方法で利用が可能です。

アデコのCAREER BRIDGE
(出向支援ソリューションサービス)

社内人材活用に課題を持つ企業と即戦力人材を求める企業をマッチング。人材育成や企業の事業戦略に合わせた多様な人事施策をコンサルタントが提案いたします。
また、転職市場にはいない高い実務能力と業務経験を持った現職中の専門人材が本サービスを通じて受入先企業で即戦力として活躍します。

雇用調整助成金

雇用調整助成金とは、厚生労働省が実施する助成金制度です。新型コロナウイルス感染症拡大の影響によって、事業縮小を余儀なくされた企業が対象になります。

企業が「休業」を行い、従業員に「休業手当」を支払う場合に、事業主に対して休業手当などの一部を助成する仕組みですが、休業だけが制度の対象ではありません。

従業員を出向させることで雇用を維持した場合も、助成金支給の対象です。

現在は緊急対応期間に特例措置(助成率及び上限額の引上げ)を利用した事業主について、経過措置が2022年12月1日~2023年3月31日まで取られています。

緊急雇用安定助成金は2023年3月31日で終了しますが、雇用調整助成金制度は2023年4月以降も継続し、詳細は追って厚生労働省より周知されます。

参考:雇用調整助成金|厚生労働省

産業雇用安定助成金(雇用維持支援コース)

産業雇用安定助成金とは、雇用調整助成金と同じく厚生労働省が実施する、新型コロナウイルス感染症拡大の影響によって、事業縮小を余儀なくされた企業に向けられた助成金制度です。

在籍出向によって従業員の雇用を維持する際に、出向元と出向先の双方に対して、賃金や出向時にかかった経費の一部などが助成されます。

産業雇用安定助成金の対象となるためには、出向に関していくつかの要件を満たさなければなりません。

そのなかの一つとして、出向期間が終了したら出向元に戻って働く「在籍出向」であることが挙げられます。

これまでは出向元と出向先が、

  • 親会社や子会社の関係ではないこと
  • 代表取締役が同一人物ではないこと
  • 経済的・組織的関連性や資本状況などから見て、独立性が認められること

などが要件とされていましたが、一部緩和されています。

2021年8月より制度が一部改訂され、「独立性が認められない事業主間で実施される出向への助成」が開始しました。これにより、子会社間の出向や親会社と子会社間の出向も対象になりました。

一方で出向先が自社の従業員を離職させるといった「玉突き出向」は助成金制度の対象企業として認められないため注意しましょう。

就業規則の整備など出向前に必要な措置を行い、各種条件を満たした場合に出向元・出向先それぞれに対して助成金が支給されます。

出向先が自社の従業員を離職させるといった「玉突き出向」も、助成金制度の対象企業として認められません。

参考:産業雇用安定助成金|厚生労働省

出向に関するQ&A

出向に関する一般的な疑問点を取り上げます。

Q.出向の一般的な期間は?
A.
出向の期間については、法的な制約はありません。 しかし、期間が長すぎると出向している従業員が「出向元の企業に戻れないのでは」と不安に感じることもあります。そのため、出向期間は6カ月~3年程度となる場合が多いようです。出向期間は、企業ごとの就業既定の中で定義できます。
Q.従業員が出向先からの復帰を望んでいる場合は?
A.
従業員が出向先からの復帰を望む場合、期間が終了している場合にはもちろん終了するべきです。そうでない場合には、企業ごとの就業規則や個別の状況で判断しなければなりません。
Q.出向前提での採用は可能か?
A.
従業員の募集と採用については、採用プロセスや書面において労働条件を明確にしなければなりません。労働条件とは具体的には就業場所や業務内容・給与などの待遇などです。

そのため、親会社などで募集し、子会社やグループ会社に出向前提という条件を求人票などで明示していれば出向前提での採用も可能です。

出向前提であるという意図を明らかにせず求人を行った場合、企業側の虚偽や採用する側であるという立場を利用した権利の濫用となってしまい、罰則の対象となる可能性があります。
Q.出向中の給与負担はどちらの企業が行うか?
A.
出向している従業員の給与について、どちらが支払うかという法的な取り決めなどはありません。出向の目的などに応じて、契約時に協議しておきましょう。

まとめ

ここまで見てきたように、出向には企業や社員にとってさまざまなメリットがあります。ただ、社員のなかには出向と聞くとネガティブに感じる人も一定数いるかもしれません。懸念を取り除くために、出向を打診する際には意義や目的を明確にし、伝えることが重要です。

これから初めて出向制度を検討する企業は、出向コンサルティングサービスなどの利用を検討するとよいでしょう。

Adeccoでは、上記のような人事ノウハウをわかりやすくまとめ、定期的に更新しております。
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