
派遣と出向は、どちらも雇用契約を結んでいる企業とは別の企業に就業する働き方で、一見するとよく似ています。しかし、実際には雇用関係や仕組みに違いがあり、企業はそれぞれの特徴を理解せずに人材を受け入れていると、偽装派遣や偽装出向と見なされ、トラブルにつながることがあるため注意が必要です。 この記事では、派遣と出向の違いについて、それぞれの特徴や受け入れる企業側のメリットのほか、注意点について解説します。
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派遣と出向の基礎知識
派遣と出向は、どちらも雇用元とは別の企業などで人材を活用する方法です。まずは、それぞれの概要について見ていきましょう。
派遣:派遣会社と雇用契約を結んだ派遣社員が、派遣先企業で働く
派遣は、企業の一時的・臨時的な人手不足を補う目的で活用されている働き方です。派遣社員は派遣会社と雇用契約を結び、派遣元と派遣先の労働者派遣契約に基づいて派遣先企業で就業します。
派遣社員の雇用主は派遣会社なので、給与や社会保険、福利厚生などは派遣会社の管理となり、派遣先企業には労務管理の手間がありません。
ただし、派遣先企業には派遣社員に対する指揮命令権があります。派遣契約により、あらかじめ定めた業務範囲内で指示を出し、業務の遂行を管理します。
出向:企業と雇用契約を結ぶ従業員が、別の企業で働く
出向とは、企業に所属している社員が、別の企業や関連会社などで一定期間働くことを指します。社員としての身分は出向元(元の企業)に残ったまま、勤務先や業務内容が一時的に変更される働き方です。
出向の目的
- 1企業が従業員の雇用を維持するため
- 2経営指導や技術指導のため
- 3職業能力開発のため
- 4企業グループ内の人事交流のため
出向には、基本的に元の企業に戻ることを前提とする「在籍出向」と、戻らないで転籍する「転籍出向」があり、派遣に似ているのは在籍出向です。在籍出向はよく人材派遣と比較されます。
在籍出向
在籍出向とは、出向元と出向先との出向契約により、出向元企業と雇用関係を結んだまま、出向先とも雇用契約を結んで勤務する働き方です。雇用関係が就業先とは別の企業にある点が派遣と似ていますが、契約形態が異なります。
ただし、出向の目的に該当しない出向が繰り返し行われている場合、職業安定法第44条で禁止されている労働者供給事業に該当すると判断される可能性があります。
在籍出向と労働者派遣の仕組み

転籍出向(移籍出向)
転籍出向(移籍出向)は、企業間の合意のもと、出向元との雇用契約を解消して出向先と新たな雇用契約を結ぶ形態です。
出向者が出向元に復帰することはないので、実質的には転職のようなものだといえるでしょう。
出向とは?種類やメリット、注意すべきポイント、派遣や転籍との違いについても解説派遣と在籍出向は何が違う?
派遣と仕組みが似ているのは、在籍出向です。ここからは、派遣と在籍出向の違いについて、詳しく見ていきましょう。
派遣と在籍出向の比較
派遣 |
在籍出向 |
|
---|---|---|
雇用関係 | 派遣会社と雇用契約を結ぶ | 出向元と雇用契約を継続したまま、出向先企業とも雇用契約を結ぶ |
契約形態 | 派遣契約(派遣元と派遣会社の契約) | 出向契約(出向元と出向先の契約) |
指揮命令権 | 派遣先企業 | 出向先企業 |
給与の支払い | 派遣会社 | 出向契約によって異なる |
契約期間 | 数カ月単位(原則最長3年) | 出向終了後は出向元に戻る |
業務内容 | 派遣契約による | 出向元の事情に応じて柔軟に対応 |
雇用関係
派遣 | 派遣会社と雇用契約を結ぶ |
---|---|
在籍出向 | 出向元と雇用契約を継続したまま、出向先企業とも雇用契約を結ぶ |
派遣社員は派遣元である派遣会社と雇用契約を結んで派遣先で勤務します。派遣先企業とのあいだに雇用関係はありません。在籍出向をする社員は、出向元との雇用契約を維持して出向先とも雇用契約を結びます。
契約形態
派遣 | 派遣元と派遣先との派遣契約 |
---|---|
在籍出向 | 出向元と出向先との出向契約 |
派遣は、派遣元と派遣先企業とのあいだで締結される「派遣契約」、在籍出向は出向元と出向先のあいだで締結される「出向契約」に基づいて就業します。
指揮命令権
派遣 | 派遣先企業 |
---|---|
在籍出向 | 出向先企業 |
指揮命令権とは、業務の遂行方法などについて労働者に指示する権限のことです。派遣、在籍出向ともに、実際に就業している企業に指揮命令権があります。
給与の支払い
派遣 | 派遣会社 |
---|---|
在籍出向 | 出向契約によって異なる |
派遣は派遣元企業と雇用契約を結んでいるため、給与や社会保険、福利厚生などの管理は、すべて派遣元である派遣会社が行います。派遣社員が就業する派遣先企業から受け取った契約金のうち、一部が派遣社員の給与として支払われ、その割合については派遣会社によってさまざまです。
在籍出向は、出向元・出向先の双方と雇用契約を結んでいるため、労務管理先は契約によって異なります。出向元が支払う場合もあれば、出向先が支払う場合もあるでしょう。
契約期間
派遣 | 数カ月単位(原則最長3年) |
---|---|
在籍出向 | 6カ月~3年程度 ※法的な制約はなく本人同意の上、出向元、出向先の協議により決定 |
派遣は有期雇用が前提なので、派遣契約で期間を定めます。数カ月単位で契約を更新するのが一般的ですが、同じ派遣社員に働いてもらう場合、原則として最長3年です。
一方、在籍出向は、経営指導や技術指導、能力開発などを目的としているため、期間は6カ月~3年程度とする場合が多いようです。出向期間の満了後は、出向元に戻るのが一般的ですが、場合によっては転籍出向となることもあります。
業務内容
派遣 | 派遣契約で定めた業務のみ行う |
---|---|
在籍出向 | 出向先からの求めに応じて柔軟に業務を担当する |
派遣と在籍出向では、業務内容の決め方や対応に違いがあります。派遣社員を受け入れる企業は、派遣契約で定めた業務範囲以外の業務を指示することはできません。
在籍出向の場合も、あらかじめ業務範囲を定めますが、出向先企業の事情に応じて柔軟に業務範囲を広げて対応することもあります。
企業が派遣と在籍出向を活用するメリット
派遣と在籍出向の活用は、企業にとってそれぞれメリットがあります。自社に合った雇用形態を選択するため、それぞれのメリットを比較してみましょう。
派遣と在籍出向のメリット
人材派遣のメリット |
在籍出向のメリット (出向先企業) |
在籍出向のメリット (出向元企業) |
---|---|---|
・コストを抑えやすい ・必要なときのみ雇用できる ・専門性の高い人材を確保できる ・業務効率の向上が期待できる |
・人手不足の解消 ・採用コストの削減 ・自社従業員の成長促進 ・職場の活性化 |
・雇用の維持 ・人材育成 ・出向者が新たな知識や経験を持ち帰ることによる組織の活性化 |
人材派遣を活用するメリット
人材派遣のメリットは、大きく下記の4つがあります。自社で派遣を受け入れるかどうかの判断材料の参考にしてください。
人材派遣全般について、詳しくは下記ページでも解説しています。人材派遣を検討されている方はこちらも併せてご確認ください。
人材派遣について詳しくはこちら人材派遣のメリット
・コストと手間を抑えやすい
人材派遣で派遣社員を受け入れた場合、正社員のような採用コストや研修費用がかかりません。また、社会保険も派遣元である派遣会社が負担するため、固定費も削減できます。
・必要なときのみ雇用できる
派遣は、臨時的もしくは一時的な雇用を想定した雇用形態です。繁忙期や特別なプロジェクトなど、人手が必要なときにだけ雇用することで、余剰人員を抱える心配がありません。
・専門性の高い人材を確保できる
派遣社員は、高度な専門性を持つ人材が多くいます。そのため、即戦力として活躍できる人材を、スピーディーに確保しやすいでしょう。
・業務効率の向上が期待できる
スキルや経験が豊富な派遣社員を配置することで、正社員の負担が軽減され、業務の質の向上と効率化が期待できます。

人材派遣
全国対応はもちろん、期間制限がない無期雇用派遣、テレワーク派遣など、さまざまなニーズにお応えします。さらに、独自のビジョンマッチングとキャリアコンサルティングで、人材のパフォーマンスを最大化します。
出向を活用するメリット
出向は、出向先・出向元それぞれの企業に、下記のようなメリットがあります。
出向先企業の出向のメリット
・人手不足の解消
在籍出向を活用すると、特定のスキルが必要なタイミングで最適な人材を確保でき、人手不足を解消できます。
・採用コストの削減
新たに人材を採用する場合、求人広告の掲載費用や人材紹介会社への成功報酬といった外部コストのほか、採用担当者の人件費や内定者研修費用などの内部コストがかかります。
採用プロセスを省いて経験豊かな人材を受け入れられる出向制度なら、採用コストを抑えて即戦力に活躍してもらうことが可能です。
・自社従業員の成長促進
異なる企業文化のもとで結果を出してきた出向社員が加入することで、自社の従業員は新しい視点やスキルを学ぶ機会を得られます。自社の従業員が成長すれば、組織内の競争力も高まることが期待できるでしょう。
・職場の活性化
出向社員によって刺激を受けた自社従業員の意識が向上することにより、積極的な改善と新たな事業計画の立案が進み、職場の活性化につながります。
出向元企業の出向のメリット
・雇用維持
コロナ禍で需要が落ち込んだ企業が、従業員の雇用確保のために在籍出向を活用したケースを記憶している方も多いでしょう。出向元は、一時的に人材を出向させることで人件費を圧縮でき、優れたスキルを持った従業員を解雇せずに済む場合もあります。
・人材育成
出向者は、出向先で自社とは異なる技術や知見、業務ノウハウを習得します。自社にない学びの機会により、大幅なスキルアップ・キャリアアップが望めるはずです。
・出向者が新たな知識や経験を持ち帰ることによる組織の活性化
出向者は、一定の出向期間を終えると出向元へ戻り、出向先で得た経験を出向元に還元します。社内に新しい考え方が導入されてイノベーションの促進につながったり、刺激を受けたほかの従業員の学ぶモチベーションが高まったりすることが期待できます。

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派遣や出向を活用するうえでの注意点
派遣や出向で労働力を確保するにあたって、活用する企業が注意しなければならないのが「偽装請負」と「偽装出向」です。それぞれどのようなものか解説します。
偽装請負 :請負契約にもかかわらず労働者派遣をしていること
偽装請負は、請負として契約しているにもかかわらず、実質的には労働者派遣である状態です。請負は、労働の結果として納品した仕事の成果物に対して報酬を支払う契約形態で、労働者と発注者のあいだに指揮命令関係が生じません。
したがって、発注者が細かい業務の指示をしたり、労務管理をしたりしている場合は、本来結ぶべき派遣契約を請負契約と偽って雇用している偽装請負とみなされることがあるのです。派遣法の規制を逃れようとしている可能性が高いと判断され、労働者派遣法および職業安定法違反に該当します。
偽装出向:出向契約にもかかわらず労働者派遣をしていること
偽造出向とは契約上は出向を装い「労働者供給事業」を行うことを指します。
通常の出向は「雇用機会の確保」、「経営・技術指導」、「職業能力開発」、「企業グループ内の人事交流」を目的として行われます。この目的から逸脱するなど、契約上は出向であっても実質的に「労働者派遣」であるとみなされる場合は処分の対象になります。
派遣と出向の違いを知って、人材獲得の課題解決に生かしましょう
派遣や出向は、スキルのある労働者を迅速に確保したい企業にとって、さまざまなメリットがあります。メリットや注意点をよく比較して、自社に合った形態を選びましょう。
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