インタビューこれからの人事部門について考える

飛躍的な生産性向上へ 高まる人事部門への期待

日本のGDPは、米国、中国に次ぐ世界第3位。一方、時間当たり労働生産性はOECD加盟35カ国中20位、一人当たり労働生産性は同22位(2015年)に過ぎない。このギャップを埋めることが企業経営にも求められている。
では、企業内ではどの部署がその役割を担い、何をすべきか──。
日産自動車で開発、企画、人事の3部門を経験し、カルロス・ゴーン氏の教えを独自に発展させ、「利益を生む組織と人材をデザインする」ための戦略人事を提唱する山極毅氏にお話をうかがった。

付加価値を生み出す人事が求められている

日本企業が成長するためは、一人当たりの生産性向上を飛躍的に高めていく必要があります。ダイバーシティや働き方改革などをきっかけに、現場の生産性は着実に向上してきています。今後求められるのは、上流での変革です。つまり経営に近い部門、例えば人事部に対する期待も高まっています。

山極 毅氏

大きな流れとして、少子高齢化、人財の流動化、グローバル化などを背景に、企業内では人材の「管理」から「活用」へと変化しています。そして人事部は、事務処理や労務管理といった定型のある業務のほか、人材開発、人的リソースの適正配置などを通じて、経営戦略の実現をサポートするビジネスパートナーとしての機能が求められているのです。

私が人事戦略のアドバイザーとして話しているのは、戦略人事の目的は「利益を生む組織と人財をデザインする」ことだということです。そのために欠かせないのが、戦略的人員計画(SWP*)という手法です。経営戦略と結びついた人員計画――ビジネスの目標を達成するために必要な職種、社員数、経験、知識、スキルを明らかにし、現状の組織と将来像を比較して足りないものを明確にした上で、採用、教育、研修、人事制度、報酬制度を検討し、解決策を導き出すことを指します。

  • Strategic Workforce Planningの略

人材を活用するための「戦略人事」

経営戦略と直結するものですので、ポイントは利益を軸に戦略を立案すること。また、そのためにも計画に必要な要素を数値化することが重要になります。こうした戦略人事の作法をもとに人事部がやるべきことは、リソース(人材の量)マネジメントとタレント(人材の質)マネジメントとなります。

リソースマネジメントは、すべての人事指標を数値で見える化すること。つまり、人材という観点から会社の姿を知ることができます。一方のタレントマネジメントとは、個人の能力に注目して、人材を採用し活躍できそうな場所(業務やチーム)を設計することです。その対象は、マネジメント層だけでなく、一般社員も含まれます。

ビジネスパーソンとして一番成長したのは、どんなときだったかを思い出すことはできますか。それは、面白い仕事に出会い、助け合える仲間がいたときではないでしょうか。人材とチームと仕事、この3つが噛み合うと、チームの生産性が向上し、素晴らしい成果を上げるとともに、人材も成長することができます。もし、社員一人ひとりにこの成長した瞬間をより多く提供できれば、一人当たりの労働生産性は確実に上がるはずです。

そのためにも、社内にどんな仕事があり、どのような人材が必要とされているのか、というリソースを知ることが欠かせません。また、求める人材がどこにいるのかを知ることも重要です。つまり、生産性向上の鍵を握るのは、社内の人材データを収集・分析し、経営戦略を根拠に、適材適所もしくは適所適材という2つの観点から、人材と仕事とチームをマッチングさせることです。そうやって会社に、労働生産性の向上という付加価値をもたらすのが「攻めの人事」なのです。

人事部がプロフィットセンターになるために

一般的な人事から「戦略人事」にシフトするには、人員が必要です。ところが、人事部の人数は社員100人当たりに1人が相場といわれています。さらに定型的なオペレーション業務の負荷もあります。人事部が経営に絡む本来の仕事に集中するには、業務量を軽減する必要があります。

私が日産自動車を卒業してからさまざまな企業の人事戦略コンサルティングを行ってきて分かったことは、図で示すように人事部が担当する業務であっても外部委託(アウトソーシング)が可能だということです。ただし、着手する順番は重要になります。

人事業務の外部委託検討マップ 生産性(売上増またはコスト減)への影響 影響大、外部リソースの活用可能性 可能性小 優先順位C 生産性への影響大、社外にプロがいない ・組織改正 ・人事評価 ・労働組合との話し合い 生産性(売上増またはコスト減)への影響 影響大、外部リソースの活用可能性 可能性大 優先順位A 生産性への影響大、社外にプロがいる ・人事戦略コンサルティング ・パーソナリティ診断 ・ヘッドハンティング 生産性(売上増またはコスト減)への影響 影響小、外部リソースの活用可能性 可能性小 優先順位B 生産性への影響小、社外にプロがいない ・社内調整 ・会議運営 ・人事年次業務のサポート  生産性(売上増またはコスト減)への影響 影響小、外部リソースの活用可能性 可能性大 優先順位@ 生産性への影響小、社外にプロがいる ・給与計算 ・旅費計算 ・健康診断 (出所)株式会社経営人事パートナーズ作成

生産性への影響が少なく外部にプロがいる仕事は積極的にアウトソーシングするべきです。例えば、給与計算業務などの労務関連の業務が該当します。他には、採用業務においても説明会や履歴書の確認、候補者へのフォローアップなど一部業務を切り出すことで、「どんな人材が欲しいのか」の見極めや、「企業の生の声を伝える」といった人事担当者でないとできない仕事にリソースが割けるようになります。

通常、外部にプロが存在する業務は、アウトソーシングしたほうが早く、安くなります。さらに現状の人員を戦略人事業務や経験が生かせる業務にシフトさせることで、会社の生産性を向上させることができます。

これを提案する場合に絶対に避けたいのは、「トレンドだから」「他社が行っているから」という理由を付けることです。

私が日産自動車の人事部に異動して最初に思ったのは、「企画の通し方が下手」ということでした。会社で企画といえば、基本的には「儲かる」ことです。アウトソーシングを行うケース、行わないケースの2つを提示し、アウトソーシングしたときに費用以上の効果があることを証明し、「儲かるシナリオ」を提案できればいいのです。

大切なのは、数字で示すことです。数字は嘘をつきませんから。

〈プロフィール〉

山極 毅氏
株式会社経営人事パートナーズ CEO

1989年、日産自動車株式会社入社。在籍中の27年間で開発、企画、人事の3部門を経験し、評価報酬制度の見直しなどの責任者を歴任。2015年、「第4回日本ヒューマンリソースチャレンジ大賞」の人材育成部門優秀賞を受賞。2016年3月に日産自動車を退職。同年4月に株式会社経営人事パートナーズを設立し、最高経営責任者に就任。