生産性向上の方法とは? 計算方法や定義、事例までわかりやすく解説

労働人口の減少や、新型コロナウイルスの影響による社会環境の変化に伴い、企業活動における生産性の向上が注目されています。「生産性」はよく聞く言葉ではありますが、なんとなく使っていることも多い言葉です。

そこで今回は生産性の定義から計算方法、生産性向上の具体的な手法、成功事例まで、包括的に紹介していきます。

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生産性とは何か?

生産性とは、一般に「産出された成果物と、その成果物を産出するために投入された資源量の比率」と定義されています。計算式で表せば「産出(アウトプット)÷投入(インプット)」です。

生産性とひと口に言っても、「労働生産性」、「資本生産性」、「全要素生産性」の3種類があります。その違いは次のとおりです。

労働生産性

労働投入量(労働者数あるいは労働時間)に対して、どれだけの成果を産み出したかの比率を示すのが労働生産性です。「産出÷労働投入量(労働者数や労働時間)」の算式で表されます。

労働生産性の計測方法

労働生産性とは、一般に「労働投入量に対する産出成果物の比率」と定義されており、1人あるいは1時間当たりの成果物産出量を示す指数として用いられています。

前述のとおり、労働生産性の基本的な計算方法は「産出量(アウトプット)÷労働投入量(インプット)」です。

しかし労働生産性の場合は「物的労働生産性」と「付加価値労働生産性」に分かれているので、実際の計算はこの基本を応用した次の算式になります。

  • 物的労働生産性の計算法
    物的労働生産性とは、労働の投入により産出されるのが「生産量・額」という物的な成果物であるという考えに基づき、生産性を把握する際に用いられる指数です。

    「1人あるいは1時間当たり、どれだけ効率的に製品やサービスを生産したのか」を把握するための指数で、以下のような算式が使われます。

    生産量(額)÷労働投入量(労働者数や労働時間)

    主に製造、営業など事業部門の生産性を把握する際に用いられます。

  • 付加価値労働生産性の計算法
    付加価値労働生産性とは、労働の投入により産出される成果物が「付加価値」との考えに基づき、生産性を把握する際に用いられる指数です。

    事業活動の結果として産出された製品・サービスと価値のなかで、その企業独自の活動(技術革新、ブランド戦略、知的財産など)により付け加えた価値を金銭換算した指数で、以下のような算式が使われます。

    付加価値額÷労働投入量(労働者数や労働時間)

    主に管理部門を含めた企業全体の生産性を把握する際に用いられます。

    付加価値額の算出は、主に「控除法」と「加算法」です。

    控除法は生産額から原材料費、エネルギー費、消耗品費など外部購入費を差し引く算出法で、加算法は事業過程の成果額を積み上げる算出法です。

    具体的には人件費、金融費用、減価償却費、租税公課、経常利益などの積み上げで計算します。付加価値労働生産性の場合、付加価値額は加算法を用いるのが一般的とされています。

資本生産性

有形固定資産の投入に対して、どれだけの付加価値を生み出したかの比率を示すのが資本生産性です。「付加価値÷有形固定資産」の算式で表されます。

資本生産性は一般に労働生産性とは相反関係になります。例えば、最新鋭設備の導入により省力化を図った場合、従業員数が減った分だけ労働生産性が上がります。しかし、最新鋭設備を導入した分だけ固定資産が増えるので、資本生産性は下がります。

全要素生産性

労働力、資本、設備、原材料などすべての生産要素に対して、生産性がどれだけ上がったかを示すのが全要素生産性で、「生産性の伸び率」として表されます。

労働生産性と全要素生産性の関係は、「労働生産性伸び率=全要素生産性伸び率+資本装備率×資本分配率」の算式で表されます。

全要素生産性は技術革新、ブランド戦略・経営戦略・業務革新・知的財産・無形資産の有効活用、労働能力向上など、数値だけでは測定できない生産性を示す指標として用いられるのが一般的です。

労働生産性が注目されている背景

労働生産性が注目されている背景にはどのようなものがあるのでしょうか? 背景を見ていきましょう。

国内の労働生産性は低い傾向にある

日本は、先進国の中でも特に労働生産性が低いとされており、事実伸び悩んでいるという現状があります。

公益財団法人 日本生産性本部が発表している調査によると、実質労働生産性の上昇率推移については、2008年のリーマンショックの影響で低下した後、一時は持ち直しているものの、2015年以降では再び低下しています。

日本の労働生産性が低い理由としては、労働時間をベースにした評価や、長時間労働の常態化などが影響しているといえるでしょう。

長時間労働などにより労働生産性が低い状況が続くと、企業経営だけでなく従業員のメンタルヘルスにも悪影響が出かねません。

結果として、労働生産性がさらに低下するという負のスパイラルに陥る可能性があります。

労働人口の減少

日本の労働人口は減少傾向にあります。そんななかで、国内のGDPや経済成長率を維持・上昇させるには、生産性の向上は必要不可欠です。減少する労働人口に対し、一人あたりの労働生産性を向上させることで国内の生産性を高めることができます。

そのため、より効率的な働き方を目指す「働き方改革」が推奨されています。企業や個人が働き方をより効率的に変化させることで、生産性の向上が実現できるのです。

新型コロナウイルス感染症による社会環境の変化

新型コロナウイルス感染症は、個人のライフスタイルや企業における働き方を大きく変えました。リモートワークが急速に普及し、働く場所を問わず成果を出すことが求められています。

多様化するワークプレイスの中でも、高い生産性を実現できれば、今後の社会環境における変化にも柔軟に対応しやすくなるといえるでしょう。

労働生産性が低くなってしまう要因とは

労働生産性が低くなってしまう要因にはどのようなものがあるのでしょうか? 6つの要因を紹介します。

残業や長時間労働

日本には残業をすればするほど、努力していると評価される文化は少なからずあるといえます。人員不足や業務過多により、残業ありきの業務設計になってしまっていることもあるでしょう。

残業や長時間労働が常態化すると、上述の計算式にのっとると結果的に生産性が低下します。

テレワークの普及による長時間労働

テレワークの普及により在宅勤務が多くなったことで、長時間労働につながるケースも出てきています。家で働くと、仕事とプライベートの区切りをつけるのが難しく、テレワーク普及前よりも労働時間が長くなるケースも増えているのです。

業務分担が曖昧で、コア業務にフォーカスできない

日本では多くの企業が新卒一括採用という手法を取っており、担当する仕事の領域が曖昧かつ広くなりがちです。その結果、各人がマルチタスクとなってしまいコア業務にフォーカスできない状況になることも少なくなりません。

特に営業職や事務職などにおいて顕著であるといえるでしょう。ゼネラリストは育ちやすいですが、専門的なスキルを持つ人材層が薄くなる傾向にあります。

意志決定プロセスが複雑で長い

稟議や各種社内申請における、紙の書類への押印など、複雑で長い意志決定プロセスを要する企業も多く存在します。また、組織構造上の問題などでセクショナリズムが働いてしまうことで、合意形成に時間がかかることもあるでしょう。

意思決定プロセスが長くなることで無駄が発生し生産性も低下してしまいます。

ITツールの導入が不十分

本来クラウドツールなどを導入すれば効率化できる業務を、紙やエクセルなどで管理しているケースも多くあります。ペーパーレスについても、取り組めていないと過去の書類の管理などに手間がかかり、年間で見ると多くの時間的損失になっていることがあります。

ITツールの活用がうまくいかないことで、テレワークに対応しきれず、生産性を落としてしまうケースもあります。

意味合いの薄い会議や慣習

長時間労働や残業とも関連しますが、目的が不明確で意味合いの薄い会議が多いことも労働生産性を低下させる要因です。近年では会議の出席メンバーを限定し、会議時間を30分や15分単位で設定する企業も少なくありません。

またITツールとも関連しますが、日本は紙を使う慣習が深く根付いています。コロナ禍では押印ために出社するといったことも見受けられ問題になりました。

労働生産性を向上する方法

具体的に労働生産性を向上する方法には、どのような方法があるのでしょうか? 企業と個人に分けて解説していきます。

企業として生産性を高める方法

企業として生産性を高める方法には、ハードとソフト両面の取り組みがあります。一つずつ見ていきましょう。

  • モチベーション向上のための施策を実施する
    生産性と従業員のモチベーションは密接な関係にあります。表彰制度など、従業員のモチベーションアップ施策を実施することは生産性向上に効果があるといえるでしょう。

    明確な評価軸を示すことで、目標を持って意欲的に業務に当たってもらえます。

  • 人材育成の仕組みを見直す
    従業員教育によりいっそう力を入れ、スキルアップを図ることも生産性向上に有効です。新入社員や中途入社の社員に対してチューターを決めるなどの方法があります。

    類似のもので、同年代の社員がペアになるブラザーシスター制度を導入している企業もあります。教える側の社員も、教えることによって改めて業務が言語化されてスキル向上につながるでしょう。

    関連リンク:部下の残業時間を減らし、生産性を高めるタイムマネジメント

  • ITシステムの導入
    生産性を高める方法として、業務効率化が見込めるシステムやツールに注目が集まっています。OCRやRPAなど、ここ数年で飛躍的に発展し普及した分野もあり、取り組みの一つとして必要に応じたシステムやツール導入は有効だといえるでしょう。

    またクラウドストレージなどをはじめとしたクラウドサービスを導入することで、テレワークでも円滑な業務遂行が期待できます。

  • 戦略的な人員計画を策定する
    労働生産性を高めるには、人材戦略そのものを抜本的に見直す必要があるといえるでしょう。「戦略人事」「攻めの人事」という概念が近年日本でも普及しつつあります。戦略人事とは経営目標を実現するための、戦略的な人材配置や育成計画を指します。

    従来までの労務管理的な人事部門の働き方は反対に「守りの人事」と呼ばれることもあります。戦略人事の実現のために「HRBP」あるいは「CHO」といった役職を新たに設置する企業も少なくありません。

  • 評価制度の見直し
    生産性が高いチームや個人を評価するような評価制度改革も効果的です。これまでの慣習から、年功序列的に評価や昇進が行われている場合は、成果や生産性をもとに評価する仕組みがつくれないか検討してみましょう。

    残業削減に取り組み、削減できた残業代を賞与に加えて従業員に還元するなどといった取り組みを行う企業もあります。

  • ノンコア業務のアウトソーシング
    ルーティン作業を中心としたノンコア業務をアウトソーシングし、戦略立案などのコア業務に集中することで生産性を高められます。人事領域では、採用関連業務などをはじめとしてアウトソーシングが可能です。

    アウトソーシングを推進することで、上述した戦略人事などの取り組みを行うための時間を捻出しやすくなるといえるでしょう。

  • これまでのビジネス習慣を見直す
    会議や紙を使ったやり取りなど、生産性を低下させる要因となるビジネス習慣は企業に多くあります。会議の時間を短く区切る、座って行うのではなく立って行う、Webミーティングを活用するといった方法もあります。

    紙についてはクラウドツールで代替できる仕組みや、紙の帳票を読み取るAI OCRといったサービスを活用するのも有効です。先入観を捨てて、ビジネス習慣について見つめ直すことを意識してみましょう。

個人で生産性を向上する方法

個人で生産性を向上するためには、自助努力が必要だといえるでしょう。具体的な方法を見ていきましょう。

  • 自己研鑽を心がけスキルアップする
    社内の上司やスキルのある人に依頼し勉強会を開いてもらう、あるいは社外研修に行くなどして自己研鑽を行うことも有効です。外部のコミュニティに積極的に参加し、知識を得るなどの取り組みもスキルアップに役立つでしょう。

  • 業務ごとの優先度を明確し、見通しを立てる
    期日があるもの、重要度が高いもの、成果に直結するものなど、業務の特性を分類し優先順位をつけることも重要です。優先順位の高いものから進めていきましょう。

    また仕訳した優先順位に沿って、業務の計画(いつまでに、誰がするのかなど)や見通しを立てチームで共有することが大切です。

  • 業務優先度を踏まえ時には断ることも大切
    前述のように、マルチタスクになるとコア業務に集中できず生産性が落ちてしまうことはよくあります。業務に明確な優先度をつけ、場合によっては依頼があっても時間がかかることを伝える、または断ることも大切です。

  • 業務改善のための体制や仕組み、習慣をつくる
    日々の業務を改善するための体制や習慣をつけることは、生産性を向上させるための取り組みとして重要です。業務で改善できる箇所はないか、などを常日頃から考えるようにしましょう。

生産性を向上するためのステップ

生産性を向上するには複数のステップがあります。各ステップを一つずつ見ていきましょう。

1業務の見える化と現状分析を行う
生産性を高める第一歩は業務の見える化です。生産性を測定するためにどの指標を使うか決め、業務にかかっている総工数を可視化することで業務の状況を定量化します。さらに、見える化・定量化した結果を分析することで改善するべき点を見出せます。
2労働生産性の計測をもとにPDCAサイクルを回す
計測のために使う指標を決め、業務の定量化や見える化を行えば、それらをもとに労働生産性を計測できます。労働生産性を計測できれば、その結果を評価し、PDCAサイクルが回せるようになります。

生産性を向上した事例

企業において生産性を向上した事例にはどのようなものがあるのでしょうか? 2つの事例を紹介します。

MS&ADインシュアランス グループ

三井住友海上火災保険株式会社や、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社を含むMS&ADインシュアランス グループでは、AI-OCRを導入し大幅な業務効率化を実施しています。

これまで手作業で入力していた保険の解約書類を、自動的にPDF化し帳票ごとに仕分けてデータ化するようにしました。

またグループ共通の「エンゲージメントサーベイ」も導入しており、従業員のモチベーションなどを測定し、その分析結果をタレントマネジメントのKPIとして活用しています。

AI-OCR導入により従来行っていた膨大な数の手作業が不要になり、年間40,000時間の業務削減につながっています。

参考・出典:AI-OCRを活用した自賠責保険の解約関連業務の自動化

大手通信会社

大手通信会社では、紙の申込書について入力業務が大量に発生していました。かつ入力業務に割いている時間・労力が適切かという点については管理されていない状態でした。

そこで、専門のコンサルタントに業務の見える化を依頼し、生産性についてデータを計測することにしました。 計測の結果、約100名のオペレーターの対応時間に大きなバラツキがあると判明。

作業のダブりや、処理待ちの時間について改善策を実施したところ、業務品質を維持しつつ4130時間の削減を実現しました。

細かく現状を分析し、生産性を計測する指標を活用して改善策を見出せた好例だといえるでしょう。

関連リンク:生産性計測・改善ソリューション

まとめ

本記事では、生産性の具体的な計測方法や生産性が注目されている背景をはじめ、向上施策を紹介してきました。企業において生産性向上の取り組みを定着させるには、長期的な見通しと計測が重要です。

リソースが足りない場合は、アウトソーシングを活用することで、業務の効率化も期待できます。従業員がコア業務に専念でき、アウトプットが変わることで生産性向上につながります。社内外のリソースを有効活用して、生産性向上を目指していきましょう。

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