企業の生産性向上に役立つEAPとは? メリット、導入について包括的に解説

EAP(従業員支援プログラム)という言葉を耳にしたことはありますか? 近年、ビジネス環境の変化や新型コロナウイルス感染症の拡大により、EAPという概念に注目が集まってきています。EAPは組織や個人の悩みや課題・心配事を解決することで、個々人や組織の能力を十分に発揮し、生産性の維持向上に役立つプログラムやサービスのことを指します。

本記事ではEAPの特徴やメリット・導入方法などについて、詳しく紹介していきます。

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EAP(従業員支援プログラム)とは

EAPは「Employee Assistance Program」の略で従業員支援プログラムともいいます。元々は、1960年代のアメリカで深刻な社会現象となったアルコール依存症への対策としてスタートしました。

組織の生産性を向上させるために、個人と組織に対して包括的に課題解決の支援を行う取り組みです。

メンタルヘルスの支援から、キャリア支援、コンプライアンスまで、現在のEAPの領域は幅広くなっており、予防からはじまって問題解決へと導くために多様なアプローチを取ることが特徴となっています。

アメリカでは、成果を目指す企業においては欠かせない仕組みだと認知されています。

EAPの対象範囲は幅広い

EAPは、組織と個人の両方を支援対象にしており、課題の対象範囲は仕事からプライベートまで幅広い領域となります。一般社団法人 国際EAP協会によると、EAPの対象となる個人的な問題は、健康・メンタルヘルス・家族・経済問題・アルコール・薬物・法律・感情ストレスなど、仕事の結果に影響を及ぼす可能性のある、あらゆる分野に存在します。

組織や個人を問わず、抱える問題が複雑になるにつれ、医療や法律を背景にした専門的な知識やコンサルティングが必要になります。そのためEAPではテーマごとに専門機関と協働し、これらの解決のため支援を行います。

メンタルヘルス対策だけでなく生産性向上が目的

EAPの目的は従業員のメンタルヘルス対策はもちろん、組織や個人の課題について支援することで、最終的には個人と組織の生産性をより向上させることが目的です。そのため、EAPではアセスメントやカウンセリング、コーチングを繰り返し実施し、組織変革を行っていきます。

組織全体にポジティブな変革を促すことで、生産性を高められるのです。

EAPが求められる背景

EAPはなぜ注目を集め、企業から求められるようになったのでしょうか? 社会的な背景などについて詳しく見ていきましょう。

競争の激化により増え続ける従業員のストレス

ビジネスのグローバル化や企業間競争の激化により、従業員のストレスは増加傾向にあります。長時間労働や過剰なノルマなどが社会問題となり、ニュースなどで報じられるようになりました。

職場における複雑な人間関係に起因する「職場うつ」などが、問題として取り上げられることも多くなっています。

こうした背景から、政府は2000年8月に「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を発表。2006年に改訂された同指針では、企業が従業員に関する健康のために行うべき「4つのケア」を定めています。

厚労省が定める「4つのケア」

  • セルフケア
    自分自身のメンタルを含むケアでまず大切なのは、自らそのストレスに気付くことです。まず「自分がストレスを抱えている」と自覚した上で、次はストレスの原因が何かを特定していきます。
    自分のストレスに気付いて分析するためには、ストレスケアに関する基本的な知識や方法について知ることが必要です。

  • ラインによるケア
    ラインによるケアは、従業員と日常的に接する機会の多い上長などの管理者が主となって、メンタルヘルスに関する相談に対応することを指します。研修などの実施や情報提供、1on1によるサポートなどが該当します。

  • 事業場内産業保健スタッフ等によるケア
    事業場内産業保健スタッフとは、セルフケアやラインによるケアが適切に実施されるよう、企画立案やネットワーク構築などの支援を行います。人事労務担当だけでなく、産業医や保健師などの専門家を含む場合もあります。
    取り組みには、メンタルヘルスに関する個人情報取り扱いのルール策定や、不調をきたした従業員に対して不当な扱いが行われないようにすることなども含まれます。

  • 事業場外資源によるケア
    社内のリソースだけで全てを対応することは難しいので、専門家の手を借りることも非常に有効です。従業員が社内の人間に相談しにくい、といった場合にも活用できます。
    人事部門が中心となって外部の専門家とネットワークを作り、適切に対応できる体制をつくりましょう。この時、外部に委託するからといって、人事部門が主体性を失わないよう注意することも重要です。

ハラスメントなどによるビジネス・リスクの高まり

職場でのハラスメントも年々増加しています。厚生労働省が運営するWebサイト「あかるい職場応援団」ではハラスメントに関する情報を発信しています。同サイトによると都道府県の労働局などの総合労働相談コーナーに寄せられる、「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は、2007年の28,335件から、2019年には87,570件と約3倍に増加していることが分かります。

ハラスメントが深刻化することによる、生産性の低下や訴訟リスクなどが大きな社会問題となっているのです。職場内のハラスメントが、万が一訴訟などに発展してしまった場合には、企業の信頼性を大きく損なう可能性もあり、事業を行う上で大きなリスクとなります。

こうした背景から、2014年6月には「労働安全衛生法」により、従業員50名以上の事業場に「ストレスチェック」が義務付けられるようになりました。(従業員50名以下の場合は努力義務)

新型コロナによる働き方や暮らしの変化

新型コロナウイルス感染症の拡大によって、働き方やライフスタイルは大きく変化しました。急速に広まったテレワークは、移動時間を削減することによる時間の有効活用や感染対策などのメリットを生み出しました。

しかしその反面、これまでなかった新たな問題も出てきています。株式会社デジタルシフトが2021年2月に発表した調査によると、新卒社員のうち86.3%が「在宅勤務による悩みやストレス」を感じていることが分かりました。

コロナ禍においては、オンライン面接やオンラインオンボーディングなど、オンラインでの採用や育成が行われています。その一方で、気軽に相談できる機会が減り、職場になじみにくくなっている可能性もあります。

在宅勤務による悩みやストレスによって、退職に至った新卒社員がいたと回答した人事担当は、25.0%に上りました。

働き方の急激な変化によって従業員が抱える問題を把握し、トラブルを未然に防ぐ、あるいは早期解決するために、EAPの関心が高まっています。

EAPではどのような支援が得られるのか

EAPは対象範囲が広く、企業によって提供するサービスも多岐にわたります。ここではアデコが提供するEAPサービスを基に具体的な内容を解説していきます。

組織のストレス診断・EQ診断

EAPにおいてはまず現状を把握することが重要となり、職場におけるストレス診断や、従業員のEQ診断を行うことで、現状を客観的に測ります。

EQとは「Emotional Intelligence Quotient」の略で心の知能指数ともいわれており、自分自身のモチベーションを高めたり、感情をコントロールして他人に共感したりする能力などを指す言葉です。ビジネスパーソンとして活躍するには欠かせない要素だといえるでしょう。

また、50名以上の労働者がいる職場のストレスチェックは、企業の義務となっています。ストレス診断、EQ診断の目的はメンタルヘルスにおける不調の予防にあります。組織のストレス傾向や顕著な特徴を知ることで、より具体的で効果的な対策を取りやすくなるでしょう。

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啓発・セミナー

EAPのプロセスのなかで、診断やヒアリングによって得られた情報に基づき、従業員や管理職、経営層に対する啓発活動やセミナーを実施します。セミナーは座学形式だけでなく、演習などを組み合わせ、メンタルヘルスなどへの理解を深める内容になっています。

コーチング・コンサルティング

EAPによって問題を予防し解決するには、単発的な取り組みだけでなく、継続的なフォローアップが必要となります。セミナーで得た知識の定着のサポートや、社内において従業員が抱えている問題などについてカウンセリングを行います。

カウンセリングなどのフォローアップの効果を最大化するには、人事担当者や上長にもコーチングやコンサルティングの知識が必要になります。個人や組織の状況は常に変化するため、継続的にPDCAを回す仕組みが重要です。

専門家とのネットワーク構築

記事の前半で紹介したとおり、EAPでカバーすべき領域は幅広くなっています。そのため、人事など担当部署が中心となり、各領域の専門家とのネットワークを構築することが重要です。

例えば、保健師や臨床心理士、弁護士などの専門家が挙げられます。またこうした専門の外部機関を活用することで、従業員のプライバシーを守った上で、相談もしやすくなるというメリットもあります。

EAPのメリット

EAPの具体的なメリットにはどのようなものがあるでしょうか? 一つずつ見ていきましょう。

職場のメンタルヘルスの現状を把握できる

EAPにはそのプロセスを通じて、職場のメンタルヘルスの現状を把握できるというメリットがあります。ストレスチェックだけでなく、組織の生産性などさまざまな調査を行うことで、組織が抱えている課題を可視化できます。

課題を可視化することで、管理職や従業員が課題を認識し、EAPやメンタルヘルスに関する啓発にもつなげやすくなるでしょう。発見した課題を通じて、組織運営上、注意すべき点について知ることもでき、打ち手を見つけやすくなります。

なお、メンタルヘルス対策は4つのフェーズに分かれており、それぞれ

10次予防
メンタルヘルスに不調が出ないような職場環境づくりを行うフェーズ
21次予防
ストレスチェックを活用しメンタルヘルスの不調を防止するフェーズ
32次予防
メンタルヘルスの不調があるメンバーを早期に発見し、適切なケアを行うフェーズ
43次予防
メンタルヘルスにより休業した社員の復帰を支援するフェーズ

となっています。

フェーズが進むに連れて、職場への影響やコストが大きくなるため、早い段階で予防することが重要です。

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適切な対策により問題の予防や早期解決ができる

現状の課題を可視化することで、問題の発生を未然に予防できたり、早期解決が期待できたりします。個人が抱える問題のなかには、プライベートな問題も含まれます。そのため他の従業員には言いにくく、把握がしづらいことが難点です。人事へ相談に来たときにはすでに離職の意向が固まっていた、ということも少なくありません。

問題の予防と早期解決には、定期的かつ継続的なフォローアップが必要です。頻繁にコミュニケーションを取るなど、普段の仕事のなかでも意識してコミュニケーションするとよいでしょう。

管理職やリーダーの育成につながる

現状の問題点を可視化し、啓発やセミナーなどで知識を身に付けさせることでリーダー育成にもつながります。組織改革のためには、特にマネージャーやリーダーなどの管理職の振る舞いが重要です。

管理職がチームメンバーに対するコミュニケーションの方法や、問題に対する向き合い方を学びながら、継続的なフォローアップを受けることで、彼らのスキルアップにつなげられるでしょう。

外部の第三者が実施するため中立的なアドバイスを聞ける

EAPは基本的には外部の第三者による支援であるため、客観的かつ中立的な意見を聞けるのもメリットです。

利害関係や、上下関係のない第三者であれば、従業員や経営層も耳を傾けやすくなる効果も期待できます。従来までの慣習や偏った見方のない、客観的な立場からのアドバイスで、新たな気づきも得られるでしょう。

EAPの事例やケーススタディ

EAPの事例やケーススタディにはどのようなものがあるのでしょうか? 具体的なシチュエーションを見ていきましょう。

ケース1:まず何から取り組んだらよいか分からない

EAPに取り組みたいけれど、どうしたらよいか分からない場合は、まず体制づくりから始めましょう。施策を検討・導入するフェーズでは、社内で取り組みを行うための下準備としてチームメンバーの選出や育成のために教育・啓発が必要です。

マネジメント層や上長向けのセミナーの開催なども有効でしょう。また、社員からの視点として、メンタルヘルスについて気軽に相談できる窓口の設置も予防措置として効果的です。

ケース2:実施しているメンタルヘルス対策の効果がよく分からない

メンタルヘルス対策に限らず、施策の効果を可視化することは重要です。現在行っている施策の効果を知ることで、次への具体的な打ち手を考えられます。効果を把握できない場合には次に必要な施策の検討が難しくなるため、具体的な数値をもとに分析する必要があるといえるでしょう。

定量的な数値として把握する方法としては、「ストレス診断」や「組織診断」などがお勧めです。数値化した後は、フォローアップのために、社内の産業医や保健スタッフに協力を仰ぐことも検討してみましょう。

ケース3:組織変更などによって従業員のモチベーションが下がってしまった

配置転換に伴うモチベーションの低下は、どんな組織においても起こり得ることです。職場全体のコミュニケーションを改善するために、年代や階層別にコミュニケーションに関するセミナーを実施したり、得られた学びを生かせるよう現場でフォローアップしたりするのがよいでしょう。

EAPにおいて人事が意識すべきこと

EAPにおいて人事が意識すべきことはどのようなことなのでしょうか? 人事が意識すべきポイントについて解説します。

従業員にとってのよき理解者であること

EAPは外部の第三者かつ、特定領域のプロフェッショナルが実施します。第三者だからこそ相談がしやすいというメリットもあります。しかしながら、人事担当が従業員にとってよき理解者であるべきなのは、変わりがありません。

「クライアント」ではなく、「当事者」だからこそ、理解できる悩みも多くあります。EAPで得られた情報や知見だけでなく、人事が現場で見聞きする情報も大きな価値があることを心に留めておきましょう。

得られたデータや情報を集合知化すること

現状を把握するには、データが必要となり、定量的な調査データと、定性的な情報はどちらも重要な手掛かりです。定量的なアンケート調査を実施していない、あるいはヒアリングした内容が属人的に管理されている、といった企業も決して少なくありません。

EAPによって得た知見はデータ化、マニュアル化するなどし、組織の情報資産としてストックしておく、という考え方も重要でしょう。経年データを蓄積すればするほど、変化を俯瞰的に把握できます。

経営層やマネジメント層などをうまく巻き込むこと

EAPによって組織変革を行うならば、経営層やマネジメント層の行動をどのように変革していくかも重要です。EAPを実施するパートナー企業と従業員、経営層やマネジメント層の間を取り持ち、うまく組織を巻き込んでいくことが人事の重要な役割でもあります。

社内体制や社外ネットワークの構築

EAPをしっかりと推進していくには、外部の専門家も含めた体制を整えることが重要になります。EAPは一度実施し終わりではなく、継続的に取り組むものであるため、担当者や窓口の設置が必要不可欠です。

また、カバー範囲が広く全てを社内リソースで対応することは実質的に不可能であるため、外部の専門家をうまく活用することも必要となります。

EAPのサービスでは、こうした体制作りの支援を行うものもあるので検討してみるのもよいでしょう。

アデコのEAP・メンタルヘルスケア

企業の生産性の向上という観点からよりよい職場環境づくりに役立つソリューションを提供する、アデコ独自の従業員支援プログラム(EAP: Employee Assistance Program)です。
企業の組織・人事・管理監督者・従業員、その家族に対して、さまざまなサービスをご用意しています。

まとめ

EAPについて、その特徴やメリット・導入のポイントなどを紹介してきました。

近年では政府による働き方改革の推進もあって、各企業における働き方や働きやすさがよりシビアに評価される時代となっています。採用の過程でアプローチできていなかった層や、より良い人材に集まってもらうためにもEAPの取り組みは有効です。

従業員にいかに能力を存分に発揮してもらうかは、企業にとって重要な課題といえるでしょう。組織の生産性向上に課題を感じている場合は、EAPに取り組んでみてください。

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