
人材派遣会社を上手に活用すれば、業務効率化や人手不足の解消につながります。派遣社員を受け入れるときに気になるのが、派遣社員の管理。派遣元の人材派遣会社と派遣先の企業で分担して責任を負うことになっています。
せっかく派遣社員を受け入れても、体制が整っていないために、思ったように業務が進められないという結果になるのは避けたいところ。派遣先である企業が管理する項目をしっかり押さえ、より効率の良い体制を整えましょう。今回は、派遣社員を管理する際に必要なチェック項目についてお伝えします。
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派遣先と派遣元が管理する項目
まずは、派遣先と派遣元が管理する項目について確認してみましょう。派遣法で定められている内容を大まかにまとめると、下記のようになります。
派遣先が管理する項目……業務の指示、職場環境を整える、出退社時間など、主に業務の現場でのこと
派遣元が管理する項目……給与の支給、有給休暇の付与、健康診断など、雇用主としての責任を果たすこと
派遣社員の管理のため主に必要な5つの項目
では、実際に派遣社員を受け入れる際の「派遣先が派遣社員の管理のために必要な項目」を詳しく紹介します。派遣社員の管理においては様々な項目がありますが、この記事では以下の5つの項目において、それぞれ確認してみます。
- 1.勤怠管理
- 2.派遣社員への指導、指示
- 3.派遣社員の健康管理
- 4.派遣社員が快適に業務にあたれる環境を整える
- 5.苦情の申出を受ける者を決めて解決する
上記の項目は派遣社員の就業前に準備し、就業中も派遣先に責任の所在があります。続いて、具体的なチェックポイントを見てみましょう。
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5つの項目について必要な対応とは

上述した5つの項目について、おおよそのイメージはあるものの、実際の場面でどのように取り組んだらよいのかが、わかりにくい部分もあるかもしれません。1つずつ、丁寧にチェックしていくことで、何をすればよいのか具体的な対応が見えてきます。
勤怠管理
勤怠管理とは、派遣社員の始業・終業時刻、休憩時間などを記録することで、勤務状況を確認することです。派遣社員の始業・終業時刻、休憩時間については、1カ月に1度以上、派遣元に通知する必要があります。
記録を行うツールには決まりがないため、企業や業務内容の状況に合わせて選択できます。例えば、勤務状況を記載する所定の用紙を用意し、派遣社員に手書きしてもらう方法があります。派遣社員番号や氏名、始業・終業時刻、休憩時間を記入し、派遣先の担当社員が了承のサインをする形式です。
また、パソコンから勤務状況を入力できるシステムが採用されるケースもあり、パソコンを使う業務の現場で導入されることが多いスタイルです。手書き同様に、派遣社員が自らの始業・終業時刻、休憩時間をシステム上で入力、申請することになります。
クラウドで勤怠状況を管理するようなシステムを導入する場合には、派遣元と派遣先がともに同じシステムを採用することで、より効率の良い管理体制が整います。ただし、いずれの場合でも派遣社員が入力、申請している内容に間違いがないかを常にチェックする必要があるでしょう。実際の勤務状況と申請内容が一致するかだけでなく、契約書で定められた業務外の就業時間や内容になっていないかも確認しましょう。
派遣社員への指導、指示
派遣社員は、派遣元と雇用契約を結んでいますが、具体的な業務内容を指導・指示するのは派遣先側です。複雑な業務においては、就業前に派遣先による研修を実施するようにしておくとよいでしょう。その場合、研修を担当する社員を決め、同時にマニュアルの作成も進めておくと効率的です。
また、実際に業務がスタートしてからも、派遣社員からの質問に答えたり、指示を出したりする指揮命令者を定めなくてはなりません。業務遂行ルールが変更になるときは、速やかに派遣社員に周知するようにしましょう。
就業する派遣社員の数が多い派遣先では、派遣社員のなかでリーダーを決めるケースもあります。多くの派遣社員が、一人ひとり社員に質問していると、業務が滞ってしまいかねません。そこで、派遣社員の代表的な存在としてリーダー役を決め、他の派遣社員から出る質問をまとめたり、相談役をしたりしてもらうことで、より効率的な業務の遂行が可能になります。こうした場合も、リーダーに指示・指導をする指揮命令者は決めておく必要があります。
派遣社員の健康管理
派遣先企業は、派遣社員の健康面を管理することも忘れてはいけません。一般健康診断については、雇用主である派遣元に実施義務がありますが、労働時間や危険防止に関する項目については、派遣元・派遣先の双方で管理責任を負います。
例えば、業務スペースの環境において、暑すぎる、または寒すぎるということがないように、適切な温度調節を行うことも健康管理の一部です。また、繁忙期であっても、社員同様に、派遣社員にも必要な休憩時間を与えるといった基本的な勤怠管理は欠かせません。そのほか、契約条件とは異なる危険な業務の遂行を指示したり、健康に害を及ぼすような材料などを扱わせないように注意したりすることも大切です。
派遣社員が快適に業務にあたれる環境を整える
派遣先は、派遣社員が業務を行うために十分な作業スペースを確保するといった環境整備も求められます。ロッカーなどの設備とともに、着替えが必要であれば、着替えができるスペースも準備しましょう。社員向けのリフレッシュルームがあるのなら、派遣社員も気軽に利用できるような体制を整えましょう。
加えて、社員が利用する保健室や診療施設などについても、業務中の健康管理として派遣社員も利用できるように便宜をはかると、より良い環境が提供できます。また、パワハラやセクハラが起きていないかのチェックも怠らないようにしましょう。
苦情の申出を受ける者を決める
派遣先と派遣元は、それぞれ派遣社員からの苦情の申出を受ける担当者を定めなければなりません。この場合、指揮命令者と苦情の申出を受ける担当者を同一人物にすることは望ましくありません。派遣先の担当者は、派遣社員から苦情の申出があった場合、派遣元に連絡をして苦情の処理を行います。
具体的には、苦情内容の確認を行ったり、状況改善をはかったりするといった対策が求められます。ただし、苦情を申出た派遣社員に対して、契約上の問題がない限り、派遣契約の早期打ち切りや更新をしないといった結果にならないように注意が必要です。
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派遣先管理台帳の作成を行う

もう1つ、派遣社員を管理するうえで、派遣先は受入事業所ごとに派遣先管理台帳を作成する必要があります。特に、下記の項目については、1カ月に1度以上、派遣元である人材派遣会社に通知を行う必要があるため、確認しておきましょう。また作成した派遣先管理台帳は、派遣契約終了日から3年間、保存しておく義務があることも覚えておきましょう。
派遣先管理台帳の項目で、通知を行うべき内容
- 派遣労働者名
- 派遣就業した日
- 派遣就業した日ごとの始業・終業時刻、休憩時間
- 業務の種類
- 派遣就業した事業所の名称・所在地、就業場所、組織単位
- 派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度
- 派遣労働者が労働に従事した事業所名称および所在地その他派遣就業をした場所ならびに組織単位
その他の記載する主な項目
- 派遣元の会社名・事業所名・事業所の住所
- 無期雇用派遣なのか有期雇用派遣なのか
- 60歳以上であるか
- 苦情処理の状況
- 紹介予定派遣の場合のみ、紹介予定派遣に関する事項
- 派遣先責任者名・派遣元責任者名
- 期間制限のない業務としている根拠となる労働者派遣法の条項番号など
- 派遣会社から通知を受けた雇用保険・社会保険の加入状況(なしの場合はその理由)
- 教育訓練を行った日時・内容
- 派遣労働者氏名
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体制を整えて、派遣社員の管理をスムーズに行いましょう
派遣先が行う派遣社員の管理内容は、派遣社員の就業スペースの確保や勤怠管理など、業務を行う場でしか確認できない項目がほとんどです。また、業務の指示を出すのは派遣元ではなく派遣先なので、体制を整えて、滞りなく派遣社員が業務を進められる環境を維持できるような仕組みも求められます。
派遣社員が快適に業務を行える万全の体制作りは、業務の効率アップにもつながります。派遣社員の就業中だけではなく、受け入れ前から派遣先で管理する事項をチェックし、スムーズな業務遂行ができるように整備していきましょう。
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労働相談須田事務所所長、NPO法人労働者を守る会代表
パワハラや解雇など労働トラブルの相談、解決をメイン業務にしている。
労働者からの相談は年間200件を超える。
かつしかエフエムにて労働問題をわかりやすく解説する番組「スダとクロダのクロストーク」放送中。情報番組のコメンテーターとしても活躍。