DX人材とは? 推進に必要な6つの役割や人材獲得、育成について詳しく解説

IT技術が進化し続ける社会において、デジタルを活用し、組織やビジネスモデルを変革するDX(デジタルトランスフォーメーション)。必要性を感じつつも、DXを推進していく人材の不足に悩む企業も多くあります。

一概にDX人材といえど、求められる役割やスキルなどはさまざまです。本記事では、DX人材の6つのタイプや、それぞれのタイプで求められるスキル・マインドを紹介します。DX人材を確保する具体的な方法や、企業のDXを阻む3つの壁についても解説しますので、ぜひ参考にしてください。

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DXとは?

DXとは「Digital Transformation」の略で、デジタル技術を活用して、組織やビジネスモデルそのものを変革することです。

DXとデジタル化は同じだと捉えられがちですが、意味は異なります。デジタル化は「既存の業務をデジタルに置き換えること」なのに対し、DXは「デジタルに移行するのを手段として、組織やビジネスモデルを変革すること」です。

DXの成功企業例として、アメリカ合衆国に本社を置くNetflixが挙げられます。今や全世界で1億9,000万人の会員数を誇っているNetflixですが、もともとは宅配型DVDレンタル会社でした。デジタルを活用し、アナログだったビジネスモデルをサブスプリクション型の動画配信サービスに変革したことで、世界的な企業になることに成功しています。

ITの普及により、消費行動の大きな変化や、企業間競争の激化が起こっている現在。企業の競争力を保持し高め続けるため、DXへの関心が高まっています。

日本におけるDXの課題

DXへの注目度が高まり続ける一方、浮き彫りになりつつある課題もあります。では、日本におけるDXの課題には、どのようなものがあるのでしょうか?

デジタル技術の普及がビジネスに与える影響

2018年に、IPA(独立行政法人情報処理推進機構、以下、IPA)が東証一部上場企業1,000社に実施した「デジタルトランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」によると、AIやIoTといったデジタル技術の普及がビジネスに与える影響について、「自社の優位性や競争力が低下する」と答えた企業が58.7%ともっとも多い結果になりました。

調査結果から、日本の多くの企業は「日々デジタル技術が進歩する社会において、既存のビジネスモデルを維持するだけでは競争に打ち勝てない」と強い危機意識をもっていることがわかります。

欧米諸国と比べたDXの進展度合い

2020年に、一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会と株式会社野村総合研究所が公開した「デジタル化の取り組みに関する調査」によると、日本のDXの進展度合いについて、「欧米企業に対して、圧倒的に遅れている」と答えた企業は41.3%でした。

「欧米企業に対して、多少遅れている」と回答した企業は35.6%で、合計すると76.9%もの企業が「欧米に比べて遅れている」と感じていることがわかります。

2017年の合計が81.3%、2018年の合計が80.6%だったことを考えると、減少傾向にはあるものの、割合としては高いといえるでしょう。

業務効率化にとどまる日本のDX

上述したIPAの調査によると、社内での「DX」という言葉の認知度について、「全社的に広く使われている」と答えた企業が7.6%、「経営層や一部の部署では使われている」と答えた企業が27.2%で、合計すると約3割という結果になりました。

また、現在取り組んでいるDXの内容について、「業務効率化による生産性向上」と答えた企業が78.3%ともっとも多くなっています。一方、「現在のビジネスモデルの根本的な変革」と答えた企業は38.0%にとどまりました。

調査の結果から、まずは効果が発揮されやすい既存業務の「デジタル化」に着手している企業の割合が多数であることがわかります。

大幅に不足しているDX人材

日本におけるDXの課題として、DX人材が大幅に不足していることも挙げられます。上述したIPAの調査によると、DX推進を担う「プロデューサー」や「データサイエンティスト/AIエンジニア」の充足度について、「大いに不足」と「ある程度不足」と回答した企業を合わせると、ともに7割前後という結果になりました。

企業のDXを推進するうえで、旗振り役となる「DX人材」をいかに採用して育成するかは、緊急かつ重要な課題といえるでしょう。

意外と広い! DX人材の6つのタイプ

DX人材は6タイプに分けて定義されています。では、タイプごとの役割や求められるスキルについて、解説していきましょう。

プロデューサー

プロデューサーの役割は、パートナーや顧客など、ステークホルダーを巻き込みながら、プロジェクトを統括して推進することです。

  • CDO:Chief Digital Officer(最高デジタル責任者)

プロデューサーに求められるスキルやマインドは、プロジェクトを推進するための「現状への問題意識」や「危機意識」です。プロジェクトを統括して成功を収めるための「諦めずに最後までやりきる力」や、常に変動するプロジェクトを臨機応変にマネジメントする「柔軟性」も求められます。

ビジネスデザイナー

ビジネスデザイナーの役割は、市場調査などを行い、現状の課題を解決したりニーズを満たしたりするためのビジネス企画を立案することです。

ビジネスデザイナーに求められるスキルは、新しいビジネスを企画するための「着想力」や「発想力」です。常に社会のトレンドに目を向けて、変化を読み解く「観察眼」も求められます。ビジネスを企画するだけではなく、推進していくためには「周囲を巻き込む力」や「ファシリテーション能力」も必要です。

アーキテクト

アーキテクトの役割は、DXに必要なシステムやソリューションの要件を整理して設計することです。

アーキテクトに求められるスキルは、システムに要求される機能などの要素と、要素間のインタフェースを明確にする「アーキテクチャ設計」です。システムを設計する「設計技法」や、ルールを決めて作業を定型化する「標準化」、定型化した作業をカスタマイズする「再利用」といった能力も求められます。

こうした共通スキルに加え、アプリケーションやインフラなど、それぞれに特化したスキルも必要です。システムを設計するうえで、ITスキルだけでなく、ビジネス領域の知識も重要になるでしょう。

データサイエンティスト・AIエンジニア

データサイエンティスト・AIエンジニアの役割は、企業あるいは外部から取得した膨大なデータを分析し、分析結果からビジネスに役立つ知見を抽出することです。

データサイエンティスト・AIエンジニアに求められるスキルは、大量のデータを収集して処理するためのITスキルです。「PythonやRなどの言語のプログラミング」「データベース」「大容量データ」を処理するための技術に関する知識も求められます。

分析した結果を適切に伝え、メンバーに理解してもらうための「プレゼンテーション能力」も必要です。

UX・UIデザイナー

UX・UIデザイナーの役割は、ユーザビリティ調査などの結果をもとに、エンドユーザーがサービスを円滑に利用できるよう、最適化した画面設計などを行うことです。

UX・UIデザイナーは、デザインやプログラミング能力はもちろん、ユーザーの行動や感情を読み取るための「マーケティング」や「データ分析」のスキルも求められます。分析した結果を可視化し、メンバーへ論理的に伝えるための「コミュニケーション能力」も重要です。

エンジニア・プログラマー

エンジニア・プログラマーの役割は、AIやクラウドといった最新技術を有効活用し、DXのために必要なシステムやインフラを構築することです。

エンジニア・プログラマーに求められるのは、AWS(アマゾン ウェブ サービス)やGCP(グーグル クラウド プラットフォーム)をはじめとしたクラウドや、AIに関する知識です。機能単位で「計画→設計→実装→テスト」のサイクルを回し、スピーディに開発を進める「アジャイル開発」の経験なども必要とされています。

DX人材をどうやって確保するべきか

DX人材の不足が叫ばれるなか、DX人材を自社にどう引き込むかは、多くの企業が掲げる課題です。DX人材を確保するには大きく3つの方法があるので、解説します。

新卒、中途での採用

DX人材を確保するには、新卒社員として採用して育成する方法と、中途社員として即戦力採用を行う方法があります。近年、即戦力人材を採用するために、求めるスキルや業務内容を明確にして採用する「ジョブ型雇用」を取り入れる企業も出てきています。

メリット

新卒採用をするメリットは、将来のDX中核人材として育成できることです。中途採用をするメリットには、AIやIoTに長けたエンジニアや、DXプロジェクトの経験者などを採用することで、即戦力として活躍してくれることが挙げられます。社内にない新しい知見や技術も取り入れられ、DXの推進を加速させられるでしょう。

デメリット

新卒採用や中途採用をするデメリットは、そもそもDX人材や候補者の母数が少なく、採用の競争が激しいことです。資本力のある企業がDX人材に提示する条件に、自社が提示する条件が負け、採用できないこともあります。

また、中途採用に関して、DXのスキルがあっても、自社のビジネスや顧客に対する知識があるわけではありません。オンボーディングを適切に行わないと、思うように成果が出せず、結果的に従業員満足度が低下し、早期離職につながるケースも考えられます。

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社内人材の育成

DX人材を確保するには、外部から人材を獲得するのではなく、社内の人材を育成していく方法もあります。

メリット

外部人材を獲得する場合、求人広告費や人材紹介費など、採用コストがふくらむケースが多くあります。しかし社内人材の場合、研修やOJTなどの育成コストのみで、DX人材の確保が可能です。

すでに自社のビジネスモデルや顧客への幅広い知識をもっている社内人材であれば、育成コストも抑えられるでしょう。ある程度社内での人間関係も構築されており、DXチームの組成がしやすいメリットもあります。

デメリット

社内人材を育成するデメリットは、育成に時間を費やす分、既存業務のリソースを圧迫してしまう可能性があることです。人的リソースが豊富な企業であれば、リソース調整が可能かもしれません。しかし、少人数で事業展開する企業は、人手が足りず、育成に割くリソースがないことも考えられます。

また、DX人材に対する評価と、既存人材の評価のバランスをどう取るかという課題もあるでしょう。

派遣などの外部リソースの活用

DX人材を確保する方法として、人材派遣やアウトソーシングなど、外部リソースの活用も挙げられます。

メリット

外部リソースを活用するメリットは、通常の採用活動では採用しにくい高いスキルをもった人材を確保できることです。DXプロジェクトの発足など、一時的に多くの人材を確保したいときも、臨機応変に対応できます。

また、ノンコア業務を派遣社員に任せたりアウトソーシングしたりすることで、社員がDX推進のためのコア業務に専念できる環境を整えることも可能です。

デメリット

派遣を活用するデメリットは、派遣期間の制限があることです。有期雇用の派遣社員の場合、派遣期間は最長3年になります。期間制限を超えて派遣社員を活用したい場合は、無期雇用派遣という選択肢もあります。

アウトソーシングを活用するデメリットは、社内にノウハウがたまりにくいことです。アウトソーシングを活用する場合は、アウトソーシング先の企業とコミュニケーションを取りながら、進捗状況やノウハウを共有してもらうのもひとつの手です。

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企業のDXを阻む3つの壁

経営側が積極的にDXを推進しようと思っても、なかなかスムーズに進むものではありません。できるだけスピーディにDXを成功させるためにも、企業のDXを阻む3つの壁を知っておきましょう。

推進担当の不在

企業のDXが進まない要因のひとつが、そもそもDX推進担当者が不在であることです。上述したとおり、DX人材は多くの企業で不足しています。DXを推進する候補者はいるけれど、既存事業や既存業務が忙しくて手が回らないからと、DX推進担当者が不在になることもあります。

DXの一歩を踏み出すには、経営層が人材リソースの確保の難しさを理解し、DX推進のための業務環境整備をすることが重要です。

失敗リスクに対する不安

「組織やビジネスモデルを変革」と覚悟をもって行うDXは、失敗のリスクを乗り越えなければなりません。

失敗を恐れるあまり、リスクの洗い出しに時間をかけ、事業化がまったく進展しないケースもあります。あるいは失敗のリスクを危惧した既存事業部門からの反発にあうケースも少なくありません。

新しい挑戦には、失敗のリスクがつきものです。「石橋を叩いて渡る」ということわざがありますが、石橋を叩きすぎて割らないよう、失敗のリスクについて経営層が理解を深めておき、許容できる環境を整えることが大切でしょう。

PoCでの頓挫

「PoC (Proof of Concept:概念実証※)」で停滞してしまうことも、DXにありがちなパターンです。失敗のリスクに関しても同じことがいえますが、PoCをやって終わりではなく、事業化する意識をしっかりともたなければなりません。

PoCで100%の結果を追い求めていたら、先には進めないでしょう。あらかじめ評価基準を明確にし、PoCに取り組むことが重要です。

  • PoCとは
    PoCは概念実証とも呼ばれ、新しい技術やビジネスモデルが実現可能かを検証すること。DXではAIなどの新しい技術を採用することも多いため、狙った効果や目的が果たせるかどうかをテストや調査などを行い検証します。

DXを推進するためのポイント

DXは、ただ闇雲に進めていくだけではうまくいきません。DXに取り組む企業が押さえておきたい推進のためのポイントを5つ解説します。

1トップの強いリーダーシップ
DXを推進するには、経営トップの強いリーダーシップが重要です。DXに成功している企業の多くは、経営トップ自らが旗振り役となり、事業を推進しています。
経営層からの理解がある、つまりお墨付きがあることは、現場にとっても大きな安心感につながります。経営トップがDXの方針を示すことで、従業員は失敗リスクに対する不安を乗り越えられ、プロジェクトが前に進みやすくなるでしょう。
2複数の人材確保の手法を組み合わせる
DX人材は確保が難しいため、上述した「新卒、中途での採用」「社内人材の育成」「派遣などの外部リソースの活用」といった獲得手法をうまく組み合わせる必要があります。
たとえば「ノンコア業務は、派遣やアウトソーシングで効率化。DXの中核を担う人材は、人材紹介や社員育成で確保する」といった合わせ技が有効です。
3スキル面だけでなくマインドやカルチャーフィットも重視する
DX人材を確保する際、スキル面だけを見て採用を決めてしまっては、ミスマッチになる可能性があります。「事業に興味関心があるか」「組織風土にうまく馴染めるか」といった視点からも検討しましょう。
DX人材が不足するなか、せっかく採用した人材がすぐにいなくなってしまったら、お互いにとっていい結果になりません。早期離職を生まないために「自社にあったDX人材とはどのような人物なのか」を、マインドやカルチャーフィットの観点からも要件定義する必要があります。
4DX人材が活躍できるための環境を整備する
DXを推進する際、既存業務が忙しくて手が回らないケースもあり得ます。DXに集中するには、組織責任者がプロジェクトメンバーを既存業務から開放し、推進に必要なデータやツールを用意するなど、環境の整備が重要です。
既存事業部門など社内からの理解を得るために、DX推進チームの成果を可視化し、全社向けにアピールするのも有効といえます。
5DX推進のためのチームを組成する
当然ながら、DXは一人では実現できず、必要なチームを組成しなければなりません。部門内や他部門、あるいは社外から、DXのために必要な人員を集めてチームをつくりましょう。
組織やビジネスモデルの変革を担うDX人材は、幅広いスキルや能力が求められます。プロデューサーやビジネスデザイナーなど、各役割に閉じることなく、互いに補完し合える環境を整えることが大切です。

まとめ

DX人材は、デジタル技術を活用し、会社の未来を切り拓いていく存在です。人材不足が叫ばれるなか、採用が難しいとされるDX人材を確保しプロジェクトを推進するには、複数の方法をうまく組み合わせ、人材獲得と環境整備を行う必要があるでしょう。

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