キャリアオーナーシップとは? ジョブ型雇用とも関連深い注目ワードを徹底解説

終身雇用制度の変化や長寿社会の到来により、企業の雇用形態や個人の働き方が大きく変わりつつあります。そこで重要といわれるのが「キャリアオーナーシップ」。

今回はその背景や概要、意義やメリット、どう推進するのか? などについて解説します。具体的な施策や企業の取り組み事例もありますので、ぜひ参考にしてください。

人事用語に関するお役立ち情報をお送りいたします。
メールマガジン登録

キャリアオーナーシップとは

キャリアオーナーシップとは「自らのキャリアについて、主体的・能動的に考え行動すること」です。将来の予測が困難なVUCA時代と呼ばれる今、変化に対応するために従業員の自律的なキャリア形成の重要性が高まっています。以前からいわれてきた中高年人材の活用という側面だけでなく、働き方改革を支える考え方としても注目を集めています。

  • VUCA(ブーカ)=英語でVolatility(不安定)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(不明確)という、現代を表す4つのキーワードの頭文字から取った言葉。ビジネス環境や個人のキャリアの将来が不透明な状況を示す言葉として使われています。

人生100年時代の到来

キャリアオーナーシップの背景のひとつに「人生100年時代」という考え方があります。政府の「人生100年時代構想会議」やベストセラー「ライフ・シフト」で紹介された海外の研究では、2007年に生まれた国内の子どもの半数が107歳より長く生きると推計されています。

「人生100年時代」を前提とした社会では、定年後も長い人生があります。今まで多くの従業員は一度就職すれば終身雇用でキャリアは会社がつくるものという意識を持ち、定年後も同じ会社での再雇用で「低付加価値労働」をする形が一般的でした。

しかし人生100年時代では、定年後も安定した収入を継続的に得るために「生涯にわたる高付加価値労働」を実現する必要があります。個人がキャリアに対するオーナーシップを持ち、社内外の広い選択肢を視野に入れてキャリアを開発することが重要となるのです。

参考:経済産業省|「人生100年時代」の企業の在り方~従業員のキャリア自律の促進~(平成29年12月)

雇用保障型から自立支援型へ

企業の雇用形態も変わりつつあります。これまでの終身雇用を前提とした働き方では時代の急激な変化とグローバルな競争環境に対応するのは難しく、経団連も2018年に新卒就活ルールの廃止※1を、2019年にはゼネラリストではなくスペシャリストを求めるジョブ型雇用※2を推奨すると発表しました。

企業にはこれまでのように雇用し続けることで従業員を守りながら囲い込むのではなく、社外でも活躍できる人材として成長を促しながら、自立的なキャリア形成を支援するという考えが必要となります。

キャリアオーナーシップを推進する意義やメリット

キャリアオーナーシップを推進する3つのメリットを紹介します。

1生産性向上
キャリアオーナーシップを推進することで、「言われたことをやる」受け身型人材から「自ら考え行動する」自立型人材の育成につながります。従業員の個々の強みや専門性を高めることにもつながるため、企業全体の生産性の向上が期待できます。
2エンゲージメント向上
企業がキャリアオーナーシップを推進するには、人事や上司の協力が不可欠です。キャリア面談や1on1ミーティングなどで社内のコミュニケーションが活性化すれば、上司はより従業員を深く理解することができます。従業員の組織に対する愛着も強まり、エンゲージメント向上にもつながるでしょう。
3リテンション強化
キャリアオーナーシップの推進施策を展開することで、リテンション強化につなげられます。従業員が将来へのポジティブなビジョンをもつことでモチベーションを維持・向上でき、優秀な人材の離職率を下げ人材確保もしやすくなります。

キャリアオーナーシップを推進するには

キャリアオーナーシップを推進していくためにはどのような取り組みをする必要があるでしょうか? 具体例をいくつかご紹介します。

キャリア開発支援(機会の提供)

キャリアオーナーシップを推進するには、従業員がキャリアと向き合うための機会の提供が重要です。キャリアオーナーシップも含めた社会人基礎力の鍛錬、多様なキャリア選択肢の発見や、スキルの把握ができるような機会を提供することが必要です。

社員としては、募集時から求められる役割や達成すべき目標が明確なため、その基準で下された評価に対して不満も出にくくなります。

<取り組みの具体策>

社内外でのキャリア研修、スキルアップ研修
キャリア研修は、キャリアの形成を後押しするための研修。また社員のモチベーション向上や、企業に対する信頼感や絆を強める狙いもあります。年代別、階層別に定期的に実施されるのが一般的です。
スキルアップ研修は従業員が社内で成果を上げるだけでなく、社外も含め活躍できる場所を増やすことを目標に実施します。最近ではオンライン研修も活用されています。
社内公募制度
人材を求める部署が社内で募集をかけ、応募者から選抜する異動制度です。従業員にとっては自らのキャリアを主体的に考えて、目指すキャリアに挑戦できる機会となります。
社内インターンシップ制度
現在の所属部署以外の業務に興味・関心をもつ社員が一定期間、希望する部署で業務に従事できる制度です。従業員にとっては興味のある業務を体験できる機会になり、キャリアオーナーシップを育てるのに格好の制度です。
ジョブ型雇用の導入
従来の日本型のゼネラリストを採用するメンバーシップ雇用に対して、職務を特定して採用・雇用するジョブ型雇用。仕事の内容や評価基準を細かく定義し、労働時間ではなく成果を評価する制度で、欧米諸国では広く普及しています。
場所や時間にとらわれない多様な働き方ができるため、テレワークなどの普及にともない注目を集めるようになりました。キャリアオーナーシップの考え方に合う雇用制度です。
副業の解禁
政府は2018年1月に「モデル就業規則」を改訂し、働き方改革の一環として副業・兼業を推進しています。「長時間労働を助長する」「貴重な人材が流出してしまう」などの懸念から解禁する企業は比較的少ないですが、従業員にとっては、キャリアに向き合い、選択肢を広げることにつながります。

あわせて読みたい
副業・兼業について - 第1回 -

2018年1月には、厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表し、従来厚生労働省が公表していた「モデル就業規則」において規定されていた、労働者の遵守事項としての「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」という言葉が、削除されるに至りました。
本稿では、新しい働き方として注目を集める副業・兼業シリーズ第1回として、海外の状況、また企業にとっての副業・兼業のメリット・デメリットを法制の動向とともに個別に検討していきます。

リテンション強化(モチベーション維持)

従業員が自らのキャリアに対して具体的なイメージをもつように促すためには、コミュニケーションや制度の整備が必要です。国家資格であるキャリアコンサルタント保持者を人事に抱える企業も少なくありません。従業員がキャリアビジョンを描けるようになると、モチベーションが高まり、離職率の低下や優秀な人材の確保につながります。

総合職の新卒一括採用が一般的で、職務が流動的な日本型雇用では、専門人材の採用や育成が難しいという課題がありました。しかし職務を明確に定義して市場価値に見合った報酬を設定すれば、ジョブディスクリプションによる採用活動が一般的である外国人人材を含む、多様な専門人材も採用しやすくなります。

<取り組みの具体策>

キャリアカウンセリングや面談
キャリアカウンセリングは社員の適性や経験に応じて、今抱える課題や悩みを解決へと導くとともに、仕事を中心とした「生き方」そのものへの援助や支援を行います。
キャリア面談は社員の経験を振り返り、強みや弱みを見つめ直して、キャリアを主体的に描かせるためのもの。キャリア相談室を設け個別にサポートする企業もあります。
参考:キャリアコンサルタント/キャリアカウンセラーの資格~特定非営利活動法人キャリアカウンセリング協会
1on1ミーティング
上司と部下が1対1で行う対話のこと。「人材育成」を目的としているため、目標や成果を確認する面談とは異なります。シリコンバレーでは当たり前の習慣として実施されていましたが、ヤフー株式会社など日本の有名企業も取り組みをはじめたことで、一気に注目が集まりました。1on1によって部下の仕事やキャリアに対する主体性も生まれやすくなります。

あわせて読みたい
1on1ミーティングとは? 意味やメリット、話すことがない場合の対処法や事例など

1on1ミーティングを導入している企業は多く存在していますが、実際には導入したもののうまくいかず、なかなか効果を実感できないという担当者もいるのではないでしょうか。
1on1ミーティングとは何なのか改めて整理したうえで、うまくいかない原因や対処法、効果的に進めるコツについてご紹介していきます。

管理職向け研修(年上の部下のマネジメント方法など)
実力主義による人材登用を進める企業が増え、「年上の部下」をもつ管理職も増えています。年上部下へのキャリアオーナーシップを推進するためには、マネジメントをする管理職の意識改革も重要で、そのためのプログラムを用意している研修機関もあります。
柔軟な再雇用制度
従業員のモチベーション維持には多様なポジションの用意も必要です。これまで一律だった再雇用制度を見直し、能力やニーズに合わせて選択できるコースやポジションを柔軟に運用することで、キャリアオーナーシップを育成できます。

新たな関係性の構築(処遇の整備、支援)

新たな関係性の構築とは、中高年に向けての処遇の整備や転進支援などを指すのが一般的です。中高年のキャリアオーナーシップを支援することで、事業変化に対応するための次世代管理職の育成や社内新陳代謝を促す効果も期待できます。

<取り組みの具体策>

早期退職者への退職金上積み、キャリア転換の準備休暇
早期退職者への退職金の上積み、キャリア転換の準備休暇や支援金の支給など、処遇の整備を進めることで、従業員が主体的にキャリアを選択できるよう支援します。
退職者への業務委託
定年後に雇用契約を締結し継続雇用するのでなく、業務委託という形で契約する方法もあります。従業員には場所や勤務時間に拘束されることなく仕事ができるといったメリットがあり、キャリアの選択肢が広がる制度です。企業側にとっては経費節減なども見込めるでしょう。
70歳まで働ける環境整備に向けた制度改正が進む中、厚生労働省は、定年後にフリーランスや起業する元従業員を対象に、企業が継続して業務委託契約を結ぶための、新たな制度を創設する方針を固めています。
参考:厚生労働省|高年齢者雇用安定法改正及び創業支援等措置について(参考資料)

転進先マッチング、紹介
再就職支援会社を通じて転職先の斡旋を行うほか、社内で専任チームを設置して転身先の開拓や従業員とのマッチングを行うケースもあります。出向のための専門部署を創設して社員と出向先企業の間を取り持つ、グループ外の求人の開拓や維持に取り組む企業などもあります。

企業の取り組み事例

日本でキャリアオーナーシップを積極的に推進している企業について、その具体的な取り組みをご紹介します。

1.富士ゼロックス株式会社

『会社が「人材育成の場」そのものである』として、キャリア教育に力を注ぐ富士ゼロックス。求めるのは変化に対応し変革を起こすことのできる「自ら考え行動する」人材です。その育成のため、キャリアオーナーシップを推進するさまざまな施策が用意されています。

特徴的なのはキャリア開発支援制度。従業員は年に1度、「キャリア開発シート」を作成し、自分の過去と現在のキャリアプランを振り返り、次年度だけでなく中長期のキャリアプランや目標まで考えます。それをもとに上司と面談を行い、キャリアプラン計画を共有します。

<取り組みの具体策>

  • 年1回のキャリア開発シート作成、キャリア面談
  • 社内公募制度
参考:富士ゼロックス|人材育成の取り組み

2.伊藤忠テクノソリューションズ株式会社

「人が全て」、「一人ひとりが、自己実現に向かって能力を磨き、健康で充実した日々を送ることが、会社の成長と発展につながる」をモットーに、人材育成とキャリア形成に力を入れる伊藤忠テクノソリューションズ。

社員が自ら「マネジメント職」と「専門技能を究める上級職」という2つのルートを選択できる複線型人事制度を導入、キャリアを選択しやすいようジョブローテーション制も実施し、年次や職種に合わせた研修プログラムも用意しています。

人事部内には国家資格であるキャリアコンサルタントの有資格者が複数在籍しており、相談対応の質の向上やワークショップに取り組んでいるとのこと。

「従業員一人ひとりの能力や適性・意欲に応じた主体的・自律型のキャリア形成支援」が高く評価され、厚生労働省の「グッドキャリア企業アワード2019」の大賞を受賞しています。

<取り組みの具体策>

  • 自分自身でキャリアを選択できる複線型人事制度
  • キャリア形成支援制度
  • キャリアフォロー面談
  • 職務等級や在籍年次に合わせた階層別研修を企画、実施

3.日本生命保険相互会社

「一人ひとりが誇るべき“個”有の強みを持ち、生涯に亘り活躍し、日本生命グループを支える“逞しい人財”に成る」ことを目指し、2015年度から「人財価値向上プロジェクト」を展開する日本生命保険。

従業員のキャリア自立支援として社内公募や社内インターン等を用意、また9〜10月をキャリア月間に設定して、管理職向けのキャリア支援ツールの提供や動画コンテンツを配信しています。キャリアコンサルタント資格取得者が個別キャリア相談を実施するなど、継続的に従業員がキャリアを見なおす機会を提供しています。

同社も厚生労働省の「グッドキャリア企業アワード2019」の大賞を受賞。「人材育成を経営基盤の一つに位置づけ、“個”有の強みの獲得に向けた多彩な能力開発メニューを提供」していることが高い評価を受けました。

<取り組みの具体策>

  • 職務公募、社内インターン制の整備
  • キャリア月間の開催、キャリア研修の運用
  • キャリアコンサルタントによる個別キャリア相談
  • 能力開発プログラム「ニッセイアフタースクール」のオンライン配信
  • 次世代女性リーダー育成プログラム

キャリアオーナーシップとジョブ型雇用

キャリアオーナーシッとジョブ型雇用は相性がよいといわれています。ここではその関係性について紹介します。

増えつつあるジョブ型雇用

テレワークの普及も後押しとなり、ジョブ型雇用を導入する企業が増えつつあります。ジョブ型雇用は、ジョブディスクリプション(職務記述書)で従業員に求める役割や責任を明確に提示し、評価できるため、浸透すれば終身雇用や年功序列といったこれまでの雇用習慣が変わる可能性もあります。

ジョブ型雇用と相性のよいキャリアオーナーシップ

ジョブ型雇用とキャリアオーナーシップは相性がよいと考えられています。ジョブ型雇用は従業員の自律的なキャリア形成を前提としており、欧米ではジョブの消失や成果が出ない場合に解雇されることは珍しくありません。企業に依存するのではなく、自分のキャリアは自分でつくるという考えも浸透しています。

相乗効果による内部人材の変革

ジョブ型雇用とキャリアオーナーシップ、両方を支えるのが企業のキャリア形成支援施策です。日本ではまだキャリアオーナーシップが浸透していないため、企業側の支援は重要となるでしょう。

ジョブ型雇用により求められる役割が明確になることと、企業のキャリア形成支援施策で従業員の当事者意識が高められること。この相乗効果で社内コミュニケーションも活性化し、内部人材の意識改革や変革が期待できます。

あわせて読みたい
ジョブ型雇用の基本をおさらい。メンバーシップ型との違いや成功事例など

業務内容を定義する書類、「ジョブディスクリプション」の関心も高まっています。
ジョブディスクリプションとは何か、メリットとデメリット、どういう項目を書くべきかを具体的に解説します。

まとめ

キャリアオーナーシップを推進するためには、制度の整備が重要なのはもちろん、鍵を握るのは「対話とコミュニケーション」です。経営、人事、マネジメント層が一丸となって取り組むことが必要不可欠といえます。

先行き不透明な時代、周りの環境や時代の流れを読み解き、柔軟な働き方ができる従業員を育成するために、キャリアオーナーシップの推進は欠かせない課題となりそうです。

弊社では、上記のような人事関連のキーワードをわかりやすくまとめ、定期的に更新しております。
メールマガジンにご登録いただくと、労働法制や人事トレンドなどの最新お役立ち情報をチェックいただけます。

最新の人事お役立ち情報を受け取る(無料)

最新のセミナー情報、コラムなどを受け取りたい方は、下記からメールマガジンを登録してください。

ご案内

無料セミナーのご案内
アデコの人材サービスラインナップ

関連記事

お役立ち情報 に戻る

人材に関するお悩みがございましたらお気軽にご連絡ください