技能実習生の受け入れはどうなる?
これから企業が取るべき対策

技能実習生とは、技能実習制度を利用して日本企業などが受け入れた外国人のことです。2023年11月、政府の有識者会議により技能実習制度を「廃止」する意向が示されました。外国人材を適正に受け入れる代わりの方法として、2024年以降に新制度の開始が見込まれています。
この記事では、技能実習生の受け入れ制度が廃止される理由、その背景にある問題点、新制度のポイントや企業への影響、企業が取るべき対策について解説します。

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技能実習生とは

技能実習生とは、技能実習制度を利用して国内の企業や団体が受け入れた外国人のことです。技能実習制度は、1993年に国際貢献を目的として創設されました。開発途上国の外国人を日本で受け入れ、非営利団体や企業でOJT(職業教育)を通じて、技術を習得してもらう制度です。

技能実習制度には、以下の3つの区分があります。

  • 技能実習1号(1年目)
  • 技能実習2号(2年目、3年目)
  • 技能実習3号(4年目、5年目)

最長5年間の在留ができる仕組みで、在留資格の変更・取得などの要件を満たすと次の区分に進むことができます。技能実習生は、受け入れ企業である実習実施者と雇用契約を結んだうえで働きます。

2023年6月末時点の技能実習生数は約35.8万人で、その半数がベトナムからの人材です。次いでインドネシア、フィリピン、中国と続きます。

図1

出典:外国人技能実習制度について|法務省、厚生労働省

技能実習生の受け入れ制度はなぜ廃止される?問題点とは

技能実習生の受け入れ制度は、政府の有識者会議で「廃止」の意向が示され、代わりの新制度が検討されています。

なぜ技能実習制度は廃止されることになったのでしょうか。その背景には、5つの問題点が存在します。

技能実習生が労働者として扱われている

本来の技能実習制度は、日本の技術を移転するために職業訓練を外国人に提供し、母国での活躍をサポートするという、国際貢献を目的としています。

ところが技能実習生は、日本の人手不足を補うための「労働者」として扱われている実態がありました。

技能実習制度の基本理念では「労働力の需給調整の手段として行われてはならない」とあるにもかかわらず、本来の目的と実態に乖離があることが問題視されたのです。

技能実習生への違法行為がある

技能実習生が労働者として扱われているだけでなく、労働基準関係法令違反が疑われる受け入れ企業も見られます。

2022年の厚生労働省による調査では「労働基準関係法令違反が疑われる実習実施者に対して9,829件の監督指導を実施し、その73.7%に当たる7,247件で法令違反が認められた」と報告されました。

具体的には、次の違反事項が指摘されています。

  • 使用する機械等の安全基準違反
  • 割増賃金の支払に関する違反 など

契約で定められた労働時間を超え、1カ月あたり100時間を超える違法な時間外労働や、休日労働を行わせていた事業所も見られました。

参考:技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況(令和4年)|厚生労働省

転籍ができない

技能実習生の長時間労働や賃金不払いなどの違法行為があるにもかかわらず、実習生はほかの事業所に原則として転籍できない仕組みとなっています。

また技能実習生の受け入れに関する手続きや、受け入れ先への訪問指導などを行う監理団体に訴えても、適切に対応してもらえないケースも発生しています。

技能実習生は受け入れ期間が終了するまで、劣悪な労働環境に耐えざるを得ない状況に追い詰められていたのです。

失踪者数が増加している

過酷な労働環境に耐えられず、失踪してしまう技能実習生も後を絶ちません。

法務省によると、2022年に失踪した技能実習生の数は9,006人で、2021年の7,167人と比較すると、増加していることがわかりました。なお2022年における約9,000人の失踪者数の内、約6,000人がベトナム人です。

図1

出典:技能実習生の失踪者数の推移(平成25年~令和4年)|法務省

国際的に非難されている

日本の技能実習制度は、国際的に非難されている側面もあります。

2022年、米国の国務省は「日本の技能実習制度で、労働搾取の人身取引被害が起こっている」と、この制度を厳しく非難しました。「劣悪な生活環境や生活の制限などにより、人権侵害が起きている」とも指摘しています。

またEUでは不当な労働によって製造された商品の不買運動が見られ、技能実習制度の継続は日本経済に影響を与える恐れがあるため、今回の廃止に結びついたとも考えられます。

技能実習制度は廃止され、育成就労制度へ

図1

本来、技能実習生は母国への技術移転を目的に在留していますが、労働力と見なされ劣悪な環境で就業を強いられているのが実態です。

このような状況を受け、2022年12月から16回にわたり政府の有識者会議が開催されました。この会議では、技能実習制度の課題を洗い出し、外国人材を適正に受け入れる方策について検討が重ねられました。

その結果、技能実習制度を廃止し、新たに「育成就労制度」を設ける旨の最終報告書が2023年11月30日、法務大臣宛に提出されています。

代替案として検討されている「育成就労制度」とは、どのような内容なのでしょうか。従来の技能実習制度との違いを紹介します。

いつから新制度が始まるのか

新制度の運用開始は、2024年以降になると考えられます。外国人材受け入れに関する新制度である「育成就労制度」に関し、2024年の通常国会に関連法案を提出する意向が政府によって示されました。

人材確保と人材育成が目的

新制度の「育成就労制度」は、目的が「人材確保」と「人材育成」へと変更される見込みです。従来の「国際貢献」から、労働現場での実態に即した目的へと変更が検討されているといえるでしょう。

またキャリアパスを明確にし、外国人がキャリアアップしながら活躍できる明瞭な仕組みづくりが想定されています。外国人材が「日本で働きたい」「キャリアアップの舞台として日本を選びたい」と思えるような仕組みを作る、と新制度の方向性が示されています。

育成期間は3年間

新制度では、育成期間も変更される見込みです。これまでは「最大5年間」だったところを、「3年間」に変更されます。3年間の就労を通じた育成期間で、「特定技能1号」の技能水準の人材へと育成する考えです。

特定技能1号とは、外国人材向けの在留資格のことです。特定の産業(介護、ビルクリーニング、建設、自動車整備など)に従事可能な一定以上の知識や技能、日本語能力を持つ外国人材であることを意味します。

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転籍が可能に

新制度では「労働条件が契約と実態で違う」「ハラスメントがあった」など、やむを得ない事情がある場合には、次の条件を満たすと転籍も可能になる見込みです。

  • 同一の受け入れ先での育成期間から1年経過している
  • 日本語能力A1相当以上に合格している など

技能実習生の受け入れ制度が廃止されると企業はどうなるのか

技能実習制度が廃止されることで、外国人の技能実習生を受け入れている企業は影響を受ける可能性があります。新制度における重要な変更点として、「転籍が可能になる」と想定されているからです。

転籍が可能になると、受け入れ企業にとって以下の懸念が生まれると考えられます。

  • せっかく費用をかけて技能実習生を受け入れても、給料の高い企業へ人材が流出する可能性がある
  • 人材育成にかけたコストを最終的に回収できず、外国人材を受け入れる意味がなくなってしまう

企業にとって技能実習生を受け入れる意味がなくなれば、制度自体が行き詰まってしまう可能性があるでしょう。

技能実習生の受け入れ制度の廃止で企業側が取るべき対策

図1

これまで外国人の技能実習生を受け入れ、今後の人材確保や育成に課題を感じている企業の人事担当者が、技能実習制度の廃止後に取るべき対策を紹介します。

技能実習生の労働環境を整える

まずは、技能実習生の労働環境を整える取り組みが不可欠です。具体的には、次のとおりです。

  • 技能実習生の人権が保護され、キャリアアップできる仕組みを明確に策定する
  • 技能向上を客観的に確認できるよう、評価制度を取り入れる

また日本人労働者と同じ処遇にし、必要に応じて日本への長期滞在の機会を得られるようサポートするなどの対策も重要です。

人材派遣やアウトソーシングを利用する

企業の人事担当者として「人材不足」に大きな課題を感じている場合には、「人材派遣」や「アウトソーシング」を利用すると、既にスキルを保有した人材を確保できます。

人材派遣では、派遣会社と提携することで、即戦力となる人材を迅速に確保できます。従業員の退職などによる急遽の欠員や、業務の繁忙期に柔軟に対応できるサービスです。

アウトソーシングでは、社内の業務プロセスを外部委託できます。IT関連業務や各種バックオフィス業務など、専門的で時間のかかる業務を社外に切り出すことで、業務効率化が進みます。

まとめ

従来の技能実習制度は廃止され、新制度として「育成就労制度」の設置が見込まれています。今後、企業は外国人材の受け入れに際し「労働環境を整える」「キャリアパスを明確にする」などの取り組みを充実させ、人材の確保と育成に努める必要があるでしょう。

また昨今、日本人や外国人を問わず、そもそも働き手不足に頭を悩ませている企業も多いのではないでしょうか。生産性を向上するために、企業は人材確保や育成に関する課題を解消する必要があります。

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