人材不足の現状と対策|業界別解析と企業リスクへの効果的な解決策

「専門性の高い業務を担当できる人材が足りない」「組織のマネジメントに携わる人材がいない」など、人材不足に悩む企業は多いのではないでしょうか。

この記事では人材不足の現状や、業界ごとの状況について解説します。「人手不足」という言葉との違いや、人材不足の解決に向けて企業が取るべき対策も紹介するので、ぜひ参考にしてください。

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人材不足・人手不足の違い

最近、ニュースなどで「人材不足」や「人手不足」といった言葉が頻繁に登場します。これらの言葉を混同して、同じような意味合いで使っている方も多いのではないでしょうか?

厳密に言うと、「人材不足」と「人手不足」の意味は異なります。

  • 人材不足=業務に必要なスキルや経験を持つ人が社内にいないこと
  • 人手不足=労働者の数が足りていないこと

「人材」は、「中核人材」と「労働人材」という二種類に大きくわけられます。「中核人材」とは、難易度の高い専門業務を担当する人材や、組織の責任者となる人材のことです。対する「労働人材」とは定形業務を担当する人材のことで、中核人材の指揮のもと業務を遂行します。

企業によっては、「従業員の在籍数は多いけれど、専門性の高い業務を遂行できる人材が居なくて困っている」、つまり「人手は足りているけれど、人材は不足している」といった状況も起こっているでしょう。

人材不足・人手不足の現状

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「人材不足」と「人手不足」の現状について、詳しく解説します。

人材不足の現状

とくに今、不足が懸念されているのは「中核人材」です。

(1)中核人材が不足していると回答した企業は4割

「中核人材」の過不足状況について、4割の企業が「不足」と捉えています。これは中小企業庁とみずほ情報総研株式会社がまとめた「平成28年度 中小企業・小規模事業者の人材確保・定着等に関する調査作業報告書」によるものです。とくに「営業」「販売」「サービス」などは、ほかの業務と比較して中核人材の不足を感じている割合が高い傾向に。

中核人材が不足すると「事業運営が困難になる」「需要の増加に対応できなくなる」などの懸念が生じます。

参考:平成 28 年度 中小企業・小規模事業者の人材確保・定着等に関する調査作業報告書|みずほ情報総研株式会社

(2)中長期的に不足すると見込まれる職種・人材

多くの企業が「中長期的に不足する」と考えている人材として、とくに以下の4点が挙げられます。これは、財務省が2021年にまとめた「各地域における企業業績と雇用等の動向(特別調査)」の結果によるものです。

  • 現場の技能労働者(設計士や現場監督、大工など)
  • IT人材(新たなITシステムやツールを選定・導入し、社内事務作業のIT化を推進する人材)
  • 中核的な管理職(マネジメント・経営に携わる人材)
  • 定形作業を担う人材(中核人材の指揮のもと業務を遂行する人材)

企業は、これらの人材を早期に確保する対応が必要です。

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出典:各地域における企業業績と雇用等の動向(特別調査)|財務省

人手不足の現状

続いて「人手不足」の現状についても詳しく見てみましょう。

(1)7割弱が「正社員不足」

企業の7割弱が「正社員が足りない」と捉えています。これは東京商工リサーチが2023年4月に、全国の企業を対象に実施した「人手不足」に関するアンケート結果によるものです。また、大企業に絞って見た場合では7割超が「正社員不足」と回答。今や企業規模に関係なく、人手不足の問題が深刻化していることを示しています。

「宿泊・飲食サービス」「卸売・小売」「教育・学習支援」「医療・福祉」業界は、とくに人手不足に悩んでいることも明らかになっています。

参考:企業の66%が「正社員不足」、大企業は7割超 「人手不足」 運送、飲食、サービスで深刻化 | TSRデータインサイト | 東京商工リサーチ

(2)職業別の有効求人倍率

「有効求人倍率」とは、企業の雇用動向を測る指標です。

有効求人倍率=有効求人数 ÷ 有効求職者数

有効求人倍率が1を上回ると、「職を求めている人よりも、人手を探している企業の数の方が多い」、つまり「人手不足が生じている」ことを表します。

次表は2023年9月時点で有効求人倍率が高い職業の一例です。多くの業種で人手不足が生じていることが伺えます。

一般職業紹介状況(2023年9月分)

職業 有効求人倍率
建築・土木・測量技術者 5.69
情報処理・通信技術者 1.52
医師、歯科医師、獣医師、薬剤師 2.15
保健師、助産師、看護師 1.90
販売従事者 2.06
サービス職業従事者 3.09
機械整備・修理従事者 4.43
輸送・機械運転従事者 2.26
建設・採掘従事者 5.39

参考:一般職業紹介状況(令和5年9月分)の参考統計表|厚生労働省

(3)中小企業における人手不足

中小企業の人手不足や景気動向を把握するために、「中小機構」が定期的に実施している「中小企業景況調査」を見てみましょう。

2023年7-9月期の結果で「従業員数過不足DI」の推移に注目してみると、全産業において前期よりも「従業員数過不足DI」が低下傾向にあります。

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出展:第173回 中小企業景況調査|中小機構

「従業員数過不足DI」の計算式や意味は、次のとおりです。

従業員数過不足DI = 人手が過剰であると回答した企業の割合 ー 人手不足であると回答した企業の割合

→「従業員数過不足DI」は、大きくマイナスになるほど、人手不足であることを示す。

2023年7-9月期、「従業員数過不足DI」の水準は全産業で「▲22.5」です。折れ線グラフで前期からの推移を見ると低下していて、人手不足に悩む中小企業の割合が増えたことを示しています。また産業別では「建設業」「サービス業」「小売業」でマイナス幅が拡大しています。

参考:第173回 中小企業景況調査|中小機構

業界別に見る人材不足・人手不足

企業規模や、職業に関係なく人材不足・人手不足が深刻化しています。この章では業界別に、その背景を詳しく紐解きます。

①建設業界

国土交通省がまとめた「最近の建設業を巡る状況について」によると、建設業における就業者数は1997年の685万人をピークに減少を続け、2021年は485万人でした。ピーク時と比較して-29.2%となっています。また、55歳以上が35.5%、29歳以下が12.0%と、就業者の高齢化も進んでいる状況です。

この傾向について国土交通省は「年間の出勤日数がほかの業界と比べて多く、労働時間が長い。働き方改革が思うように進んでいない中、若手の採用が難しくなっている」と言及しています。

また、建設業界には「2025年問題」という課題も。人口の多い団塊世代が2025年前後に75歳を迎えるため、ベテラン就業者の大量退職が予測されています。さらなる人材不足が懸念されることから、働き方改革の推進と若手就業者の確保が急務だといえるでしょう。

参考:最近の建設業を巡る状況について|国土交通省

②介護業界

公益財団法人介護労働安定センターが発表した「令和4年度『介護労働実態調査』結果の概要について」によると、介護事業所において「人材不足」を感じている就業者は全体で66.3%でした。とくに訪問介護員が最も多く83.5%、次いで介護職員が69.3%という結果に。

就業者の具体的な悩みとして「仕事内容のわりに賃金が低い」「身体的負担が大きい」「業務に対する社会的評価が低い」「精神的にきつい」などがあり、課題が山積していることが伺えます。そのほか「職場の人間関係」を理由に離職する人も多いようです。

なお地域別での有効求人倍率にも大きな差異が見られ、とくに都市部で人手不足が懸念されています。

参考:令和4年度「介護労働実態調査」結果の概要について|公益財団法人介護労働安定センター

関連リンク:人材不足が深刻な介護職採用のコツとは? 助成金や採用手法まで包括的に解説

③製造業界

厚生労働省の「2022年版 ものづくり白書」によると、製造業の就業者数は約20年間で157万人減少しています。とくに若年就業者数は、約20年間で121万人減少していることも明らかに。

さらに「2023年版 ものづくり白書」では、約11万人の人手不足が指摘されています。

「後進の指導にあたることのできる人材が不足している」という事業所が多く、若手の教育が進まない点が課題となっています。

参考:2022年版 ものづくり白書|厚生労働省

参考:2023年版 ものづくり白書|厚生労働省

④IT業界

経済産業省の「IT人材需給に関する調査(概要)」によると、IT人材は2030年に最大で79万人不足する可能性がある、と試算されています。

また東京商工会議所による「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査 集計結果」によると、デジタル人材を「確保できていない」と回答した中小企業は6割以上でした。「十分確保できている」と回答した事業所はわずか4.8%という結果も明らかに。

DX推進とともに、今後は「ITに関する先進的な知識」「プログラミング」といったスキル以外にも、「経営課題・業務課題の理解」「アイデア・企画力」「コミュニケーション能力」など、さらに高度なスキルを持つ人材が必要になると指摘されています。

参考:IT人材需給に関する調査(概要)|経済産業省

参考:中小企業のデジタルシフト・DX実態調査 集計結果|東京商工会議所

関連リンク:IT人材不足に“ポテンシャル採用”で新たな一手を

人材不足・人手不足の原因

数多くの業界で人材不足・人手不足に陥っている原因を解説します。

少子高齢化

内閣府の「令和5年版高齢社会白書(概要版)」によると、2022年時点での高齢化率は29.0%。総人口のうち、3割弱は65歳以上であることを示しています。

この「高齢化率」は将来ますます拡大し、約50年後の2070年には「人口の2.6人に1人が65歳以上」「4人に1人が75歳以上」になると推計されています。

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出典:令和5年版高齢社会白書(概要版)|内閣府

これは15〜64歳人口(生産年齢人口)の割合が減っていくことを意味します。少子高齢化の進行とともに、労働市場の中核を担うことのできる労働力が不足。その結果、多くの企業は人材不足・人手不足の課題に直面しているといえます。

採用のミスマッチ

人材不足・人手不足は人口動態の問題だけではありません。

採用でミスマッチが起きれば、人材・人手を確保できたとしても、早期離職を招いてしまいます。

厚生労働省の発表によると、2020年に新卒で就職したものの、3年以内に離職した人は3割以上にのぼることが明らかに。「入社前と入社後のギャップ」が原因で早期離職につながるケースがあるため、働く様子を採用段階でできるだけ具体的に伝えることが改善のポイントだといえるでしょう。

参考:新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)を公表します|厚生労働省

人材不足・人手不足による企業への影響

企業が人材不足・人手不足への対策を講じない場合、具体的にどのようなリスクが想定されるのでしょうか。3つの影響を見てみましょう。

人手不足倒産のリスクが高まる

現在、人手不足と人件費の高騰による「人手不足倒産」が急増しています。

帝国データバンクが2023年5月に発表した調査結果によると、同年4月に「人手不足倒産」の件数が過去最多に。とくに「建設業」「サービス業」でその傾向が目立っています。

アフターコロナで人の動きが加速する中、モノ・サービスの需要は増加傾向であるにもかかわらず、多くの企業で人手不足が生じています。さらに物価高に伴う賃上げ機運の高まりで、人件費が高騰傾向に。こうした流れが、企業にとって大きな負担となっているのです。

モノ・サービスを市場へ十分に供給できる人手を確保してビジネスの収益を獲得し、その利益を従業員の賃金に反映する、というサイクルの建て直しが企業に求められています。

参考: 「人手不足倒産」が急増、4月は過去最多~需要の急回復による「人手不足リスク」が表面化~|帝国データバンク

新事業を展開できない

人手不足が続いて、「自社製品・サービスを十分に市場へ供給できず、収益を確保できない」といった状況に陥ってしまうと、会社の将来を見据えた新事業拡大も困難になります。

社内で新たなアイデアを出す人材や、戦略を立案する人材を確保できてこそ、新事業が誕生し売上規模を拡大していくことができます。

しかし、アイデアや戦略を練るスキルを持つ中核人材が不足していては、企業として新たな付加価値を創造するのは難しいでしょう。

人材不足は「短期的に、ビジネスの現場がうまく回らなくて困る」というだけでなく、長期的な企業成長にとってもマイナス要因になり得るのです。

若手を育成できない

人材不足は、若手の育成にも大きな影響を及ぼします。

業務を遂行するうえで必要な専門知識や、高度なスキルを持つ中核人材がいなければ、後進に技術・ノウハウの継承ができません。たとえば「建設業界」「製造業界」など、若年就業者の確保に苦慮し、業界全体で人材不足に陥っているケースも。

技術・ノウハウを継承し新たな人材を育てることが、会社として、また業界全体で将来の安定的な成長につながるといえるでしょう。

人材不足・人手不足を解消するための対策

企業が人材不足・人手不足を解消するには、具体的にどのような対策を講じるべきなのでしょうか。ここでは4つの対策を紹介します。

①働き方改革を実施する

まずは働き方改革を実施しましょう。

働き方改革とは、2019年から政府が推進している施策です。少子高齢化で人材・人手不足が深刻化している背景を踏まえ、「働き手一人ひとりが、多様で柔軟な働き方を選べるように」「働く人々が、より良い将来の展望を持てるように」といった社会を目指すことが働き方改革の目的です。

各企業が具体的に取り組むべきポイントとして、たとえば以下の項目が挙げられます。

  • 残業時間の見直し
  • 有給休暇の確実な取得
  • 労働環境の見直し(リモートワークの導入など)

女性やシニア層を含めた多様な従業員にとって、柔軟な働き方を選択できる環境であるかどうか、自社が改善すべきポイントを洗い出してみましょう。

②ITツールを導入する

ITツールを導入し、業務の自動化・効率化を推進できる部分を検討してみましょう。

たとえば生成AIツールやRPAツールを活用することで、データ入力をはじめ事務作業の一部の自動化や、大幅に時間短縮・省力化に成功している企業もあります。

IT活用によって、少ない人数でも生産性向上につながる環境を構築することがポイントです。

③リカレント制度やリスキリングを取り入れる

リカレント制度や、リスキリングを取り入れましょう。

「リカレント」とは、社会人の学び直しのこと。「リスキリング」とは、業務遂行上、必要なスキルを新たに獲得することを意味します。たとえば「社内DX推進のために、ITスキルを新たに獲得する」などが挙げられます。

厚生労働省のサイトでは、「人への投資」を強化することが、企業における人材開発の抜本的な強化につながる、といった考えが述べられています。

従業員のスキルアップを推進することで、若手・後進の指導もできるような中核人材が育ち、企業として安定的な成長を図れるでしょう。

参考:リカレント教育|厚生労働省

アウトソーシングを活用する

アウトソーシングを活用する策も考えられます。

アウトソーシングとは、業務の一部(または、業務プロセスのすべて)を外部企業に委託して遂行してもらうことです。

具体的にアウトソーシングが可能な業務例は、次のとおりです。

  • IT
  • データ入力・資料作成・翻訳
  • 事務・総務・人事などのバックオフィス業務
  • ヘルプデスク・コールセンター など

委託先企業が保有する専門スキルを活用しながら、人件費をできるだけ抑えつつ、自社はコア業務に集中できる点が大きなメリットです。また、新規人材を確保するための採用活動を自社で展開しなくて良い点も、メリットだといえるでしょう。

アウトソーシングサービス

人手不足「即」解消ならアウトソーシング。

人手不足に直面した際、アウトソーシングが最適解。効率と品質を両立させる方法です。

人材不足・人手不足を解消して競争力を高めよう

人材不足・人手不足は、今や企業規模や業界を問わず、あらゆる企業にとって早急に解決すべき課題です。対策を講じなければ人が育たず、企業として持続的な成長を望めなくなってしまいます。最悪のケースでは「人手不足倒産」のリスクもあり得ます。

具体的な解決策として、働き方改革の推進、IT・AIの活用、教育の強化といった取り組みが有効でしょう。

しかし「それらを遂行する人材すら足りない」といった場合には、アウトソーシングサービスや、人材派遣サービスを活用することも解決の一助となるでしょう。

人材不足・人手不足を解消して競争力を高めるために、さまざまなサービスの活用も検討してみてください。

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