サイバーリンクスに見る地方企業のテレワークの可能性

新型コロナウイルスの感染が拡大した直後から本格的にテレワークを導入した株式会社サイバーリンクス。同社は、和歌山を地盤とし、全国にITクラウド事業を展開しています。

大都市圏に比べ、地方ではテレワークの導入が進まないといわれるなか、同社の和歌山本社では従来の働き方からの脱却を目指し、テレワーク主体へと舵を切りました。

地方企業がテレワーク導入に積極的に取り組む意義とは何か。導入のポイントは何か。同社総合管理部の中谷裕介氏、クラウド基盤管理室の黒坂公一氏、浅尾健司氏に、和歌山本社での取り組みについてお話を聞きました。

BCP(事業継続計画)の観点からテレワークを積極的に推進

コロナ禍に伴い、多くの日本企業がテレワークに移行したといわれるものの、実際の利用率は地域によって異なります。国土交通省の公表資料「居住地でみた都道府県別テレワーク利用率」によると、2020年6月時点での利用率は東京都33%、神奈川県27%、埼玉県23%、千葉県23%と東京圏が高い一方で、ほかの地域では5〜15%というところが大半でした。

サイバーリンクス本社が所在する和歌山県は10%未満であり、国内で新型コロナ感染拡大が表面化した3月時点では5%以下という状態でした。そんななか、同社は2月下旬から、食品流通業向け事業の部署の社員を中心に、感染拡大が進む東京や大阪などの都市部の事業所と同じく、和歌山本社でもテレワークへの移行を進めました。

今回、スムーズにテレワークへシフトできたのには、2つの背景がありました。

1つは、同社が2017年に実施した社内研修のなかで、社員ができる限り長く働き続けられるよう、さまざまな働き方が選べる制度を整備すべきとの提案がなされたことでした。その後、発案の中心人物だったクラウド基盤管理室の浅尾氏らのメンバーに、総合管理部の中谷氏らが加わって検討チームが発足。新制度のパッケージのなかにはテレワークが含まれており、ここから具体的な導入方法の検討がスタートします。最終的には2020年1月に関連規程の準備が整い、まさにコロナ禍の直前にテレワーク制度が導入されたのでした。

「とはいえ、社員全員が一気に在宅勤務に移行するような事態を、当時は想定していませんでした。ただ当初の規程上では、介護や療養などを必要とする社員を基本の対象者としながらも、何か緊急事態が起こった際には、会社から社員に対し在宅勤務を指示できるという制度設計にしていました」

開始当初の状況と狙いについて、総合管理部の中谷氏はこう振り返ります。

テレワークへのシフトが進んだもう1つの背景として、BCP(事業継続計画)の観点から経営陣が迅速に決断したことが挙げられます。

「当社は、流通業・官公庁などを対象にクラウドサービスを提供する『ITクラウド事業』と、移動体通信機器の店舗販売を手がける『モバイルネットワーク事業』という2つの事業を主軸としています。特にクラウドサービスは、全国の食品流通などを支える事業なので絶対に止めることはできません。万が一、社内で感染者が出てしまうと、そのサービス自体が提供できなくなってしまう恐れがありました。社員の健康を確保するという意味合いはもちろん、BCPの観点からもテレワークは欠かせないと考え、流通業を顧客とする部門を中心に全面的な移行に踏み切ったのです。移行を少しでもスムーズにしたいと考え、テレワーク対象者に対し1日300円の在宅勤務手当の支給も決めました」(中谷氏)

同社の場合、システムを扱うという仕事柄、社員が客先に出向いてPCを使って業務をするケースが頻繁にあります。そのため、もともとシンクライアントシステムを導入しており、社外での業務にも対応できるようセキュリティを確保していました。

「その体制を全社的に拡張する形で、今回のテレワーク環境の整備を進めました。特にシステム保守部門は、以前から社外で仕事をすることにも慣れていたので、テレワークへの移行にも大きな違和感はなかったようです。もちろん、最初から周到な準備をしてテレワークに移行できたわけではないので、課題を抽出するため、7月に全社アンケートを実施しました。『以前よりも生産性が上がった』といった声が意外に多く、予想以上に円滑に移行できているなと感じています」
クラウド基盤管理室の黒坂氏は、テレワーク導入当初の状況についてこのように話します。

どのようにテレワークを浸透させたのか

1コミュニケーションの積極的な見直し

同社では、社内のメンバーが頻繁に顔を合わせ、ホワイトボードの前で対話しながら共有すべき事項を互いにノートに書き留めるような綿密なコミュニケーションを日々重ねていました。テレワーク移行によってそれが難しくなり、効率が大幅に低下することが懸念されました。そこで、すぐにビデオ会議システムを自社で構築し、社内会議のほか、顧客との打ち合わせにも活用し始めました。同時に、会議のあり方自体の見直しにも着手したと黒坂氏は説明します。

「ホワイトボードの機能をそのままビデオ会議システムに移行させるのではなく、そもそもなぜ自分たちはホワイトボードを使って会議をしていたのか、問い直したのです。じつは会議の主催者が事前に十分な準備をしていなくて、その場で考えながらホワイトボードに書いて説明するというケースが多かった。だから会議が長くなりがちだったのです。そこでホワイトボードがなくても説明ができるよう、ビデオ会議の前に資料を作成して共有するという形にしたところ、スムーズに進むようになりました。当たり前になっていた業務のあり方を、これを機にしっかりと見直したことが良かったのではないかと考えています」(黒坂氏)

また、これまでは「会議室が空いていない」といった物理的な制約で会議ができないケースもありましたが、オンライン化でそうした制約がなくなり、会議を必要なときに迅速に行えるようになりました。

「ただし、一人ひとりの部下たちの声をしっかりと吸い上げるような日常のコミュニケーションは、ビデオ会議の回数を増やすだけでは足りないと感じています。コロナ禍だからこそ、個と個の繋がりは大切です。当初はオンライン飲み会などを試みましたが、ビデオ会議システムだと、誰かが話し始めるとほかの人は発言がしにくい。そこで、全員が順番に会話に参加しないと成立しないようなゲームを取り入れるなど、少しずつ工夫を取り入れています」(黒坂氏)

2他社を巻き込んだ業務の見直し

システム業務を本業とするだけに、同社では社内業務の電子化・ペーパーレス化は以前から進んでおり、今回のコロナ禍を機に押印を伴う社内手続きについても電子化に移行しました。

ただし、顧客とはアナログ的な紙の書類のやり取りが残っているといいます。一部の自治体や、データセンターの運用に必要な部品を扱う地方のメーカーなどは、受発注にファクスを使う例が現在も珍しくないからです。

「相手の事情もありますので、当社だけが努力すればすべて電子化できるというわけではありません。この点については、ご理解とご協力をいただきながら、徐々に進めている段階です」(黒坂氏)

3主体性を引き出すマネジメントに注力

働き方が大きく変わったことから、マネジメントのあり方も見直しました。

「部下に指示・命令してその進捗を管理するスタイルから、メンバーそれぞれが決めた自らの目標に向かってきちんと作業できているかをサポートするというスタイルに徐々に移行しています。

いくらオンラインでのコミュニケーションを充実させたとしても、個々人が今まで以上に主体的に動かないと、テレワーク環境での仕事はうまくいきません。社員一人ひとりがセルフマネジメントを意識し、マネジメント層がそれを支援し評価していくという形のマネジメントを心がけています」(黒坂氏)

もちろん、メンバーの主体性が重要といっても、入社して間もない社員の場合、なかなかすぐには実践できないでしょう。

「年次の浅い社員には、業務に対する細かい指示・命令がやはり必要になってきます。しかし、彼らも主体性を意識することが重要です。そこで、『仕事における主体性とは何か』『自ら動けるとはどういうことか』について考えてもらう会議を取り入れると共に、社員自らが動ける環境を作っていくことをマネジメント目標の一つに掲げています」(黒坂氏)

慣れないテレワーク環境で、一人ひとりが自己管理して主体的に仕事をしていくのは簡単ではありません。主体性を引き出すマネジメントのあり方については、まだ試行錯誤の段階だとクラウド基盤管理室の浅尾氏は語ります。

「当然ながら一人ひとりの仕事の仕方もキャラクターも違います。われわれの業務内容でいえば、1日中、PCの前でプログラミングをするようなケースも珍しくないわけです。自宅で1人で作業しているからこそ、社員によっては悶々と考え込んでしまって、作業が思うように進まないこともあります。そうしたプロセスが見えにくい状態で、上司が結果だけを見て『なぜ進んでいないのか?』と責めるような指導の仕方は、主体性を引き出すという意味では適切ではないはずです。テレワーク下でのマネジメントを円滑に進めるには上司と部下との関係性が今まで以上に重要になると考え、関係性の構築を意識しているところです」(浅尾氏)

地方企業としてのテレワーク導入のメリットは「人材獲得」

地方企業として、テレワーク導入にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

まず大きいのは移動負担の軽減です。和歌山県内だけではなく、東京・大阪など大都市圏にも支社を置いており、本社から通勤・出張する社員は少なくありません。テレワークが定着したことで、社員たちの移動負担が大幅に軽減されたのは大きなメリットだったといいます。

もう1つは、人材獲得において優位になり得るということです。

「業種によっても事情は違いますので一概にはいえませんが、どんな地方企業でも、職種によっては社内でなくてもできる仕事が必ずあるはずです。今後『◯◯のスキルを持った人が欲しい』となったとき、必ず出社しないと働けない会社と、全国どこからでも働ける会社とでは、その欲しい人材を獲得できる確率も大きく変わってくると思うのです。その意味で、地方企業がテレワークをできる環境を整備しておくことは重要だと考えています」(中谷氏)

同社はすでに、アデコを通じてテレワークを前提に数名の派遣社員を受け入れています。「和歌山在住ではない派遣社員の方に気軽に働いていただけているので、とても新鮮な感じがしています。当社の人材ニーズに相応しい派遣社員を受け入れられるのも、テレワークが徹底されているからこそだと思います」(浅尾氏)

新たに浮上した課題をどう克服するかと、今後の展望

多くのメリットがある半面、テレワークが定着したことで新たな課題も浮上しているといいます。

「当社は2月頃からテレワークに移行していますので、当初は非日常感といいますか、社員の間でちょっとしたワクワク感がありました。しかし最近では、働き方としての新鮮さが失われ、『前のように出社してオフィスで働きたい』との声も出ています。

とはいえ、今後もテレワークを前提に生産性や効率性の向上を目指していく考えですので、昔のようなオフィス勤務の状態に単純に戻ろうとするのではなく、たまには会社に集まって、社内の空気を変えたり、社員のモチベーションを高められるような新しい勤務の方法を考えたりしたいと思っています」(黒坂氏)

「出社が減った結果、ずっと家に閉じこもりがちな社員も少なくありません。メンタルヘルス維持の観点からも、社員たちに対して例えば散歩をしてみるとか、ちょっとした気分転換を意識的に促すようなマネジメントも今後必要になってくるかと思っています」(浅尾氏)

また、まだ顕在化していないものの、中長期的な課題もいくつか認識していると中谷氏は話します。その一つが新たな離職リスクの高まりです。

「私どもが想像していたより、遙かに速いスピードで、世の中全体でテレワークが進んでいます。居住地域にかかわらず人材を獲得できる半面、働く側としては、本社がどの地域にある会社でも気軽に勤められる状態になった。つまり企業側としては、テレワークによる離職のリスクにも配慮する必要が出てきたということです。当社の仕事に愛着を持ってもらったり、在宅で仕事をする際にもできる限り充実した環境を提供したりするなど、さまざまな工夫が求められていくのだと思います」(中谷氏)

Profile

株式会社サイバーリンクス中谷氏
中谷 裕介氏
株式会社サイバーリンクス 総合管理部 人事課
2012年に入社後、株式上場準備などの総務・企画業務を経て2017年より人事課に異動。
現在は勤務制度の見直し・設計や健康経営推進などに取り組んでいる。
テレワーク制度の導入にあたっては制度詳細の設計、規程策定を担当。

Profile

株式会社サイバーリンクス黒坂氏
黒坂 公一氏
株式会社サイバーリンクス クラウド基盤管理室 室長
1995年に入社後、生産管理システムの開発を経て、2000年からは食品卸売業向けクラウドサービスなど食品流通業向けサービスの開発を担当。
2018年よりクラウド基盤管理室 流通基盤課長、2021年には室長に就任。

Profile

株式会社サイバーリンクス浅尾氏
浅尾 健司氏
株式会社サイバーリンクス クラウド基盤管理室 流通基盤課 主任
2001年の入社以来、食品卸売業向け・食品小売業向けシステム開発を幅広く経験。
2019年からは現部署においてAI関連サービスの設計・開発を担当している。
2017年開催の社内研修にてテレワーク導入を提案し、制度設計の立ち上げから参画。

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