シリーズ:次代を担う人事たち人の可能性を紡ぎ、成長を後押しできる人事でありたい
- 株式会社土屋鞄製造所 西島 悠蔵氏 -

コロナ禍により、人々の生活や企業活動は大きく影響を受けました。ニューノーマルな時代を迎え、採用、働き方、組織づくり、コミュニケーションなど、HR領域も大転換を余儀なくされています。

シリーズ「次代を担う人事たち」では、予測できない変化の中でも新たな挑戦を果敢に続ける人事の姿を紹介します。

第一回目に登場いただくのは、株式会社土屋鞄製造所の西島 悠蔵氏です。パイロットからHR業界にキャリアチェンジし、ITベンチャーの創成期から10倍の規模へと育て上げた西島氏。これまでのキャリアストーリーを振り返ると共に、土屋鞄製造所で得た気付き、コロナ禍での取り組みなどについて伺いました。

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「あんなに頑張って得た仕事が――」 キャリアの原点となる想い

――まずは、西島さんのターニングポイントについて伺っていきたいと思います。最初の転職では、ANAのパイロットからリクルートキャリアへという、大転換のキャリアチェンジをなさっています。そこにはどんな背景があったのでしょうか。

西島氏 私自身が新卒採用を受けた頃、まだエントリーシートの手書きが主流だったにもかかわらず77社を受けるほど、就職活動に力を注いでいました。結果、複数の内定をいただくこともできました。その中からANAにパイロットとして就職をしたのですが、いざ始めてみると自分には向いていないと感じるようになりました。その気持ちは大きくなる一方で、一度外の世界を見てみることにしたのです。

しかし転職活動は苦労の連続で、「専門性が強かった分、ビジネスにおいてはキャッチアップをしないといけないことが多いけど、大丈夫?」と、言われたこともありました。それでも最終的には、リクルートキャリアのほか、外資系企業や大手IT企業など複数社から内定をいただきました。今振り返れば、当時は青二才なところがあり、「あんなに就活を頑張ったのに、なんでこんなキャリアになったのか」という腹立たしさから「日本の就活はおかしい」と極端なことを考えていました。それなら、その根幹を創っている会社に自分の身を置いてみようと思い、リクルートキャリアへの入社を決めたのです。

――実際にリクルートキャリアで働いて、いかがでしたか。

西島氏 はじめに配属されたキャリアコンサルタントの部署ではベテランの方が多く、人に関わる仕事の面白さを学びました。その後、人事に異動となり、中途採用、新卒採用を担当しました。答えのない世界で戦っていくことの難しさや奥深さを感じ、今の仕事の礎となるような、貴重な経験ができたと思っています。

ベルフェイスも土屋鞄も、「先が見えないからワクワクした」

――次のベルフェイスへの転職には、どんなきっかけがあったのですか。

西島氏 先に転職をしたリクルートキャリアの先輩から、「面白い社長がいる」と紹介していただいたのが、ベルフェイスの社長でした。当時は知名度もまったくない会社でしたが、社長と会ってお話ししてみると、これ以上ないほどワクワクさせられて、もうその場で決めて握手してしまいました(笑)。私は、先が見えなければ見えないほど燃えるタイプです。当時のベルフェイスは、まだまだこれからの企業であり、不確定要素が多く、それがとても魅力に感じられました。

――当時は人事部門がなく、ゼロからの立ち上げだったのですね。

西島氏 1人で採用から教育研修や制度設計、そして労務の窓口まで、色んなことを行いました。ベルフェイスは、今でこそ300名を超える規模ですが、当時は10名程度。リクルートキャリアのような会社であれば、社内にベストプラクティスがたくさんあります。しかし、当時のベルフェイスには、人事についての事例が何もありません。分からないことに出会った時に、どう対応していくのかをすごく考えさせられましたね。あんなに胃がキリキリする中で仕事をする感覚は、後にも先にもあの時だけです。反面、任せてもらえる喜びを感じましたし、初めて「仕事をしている、生きてるな」、というそんな充実感がありました。

立ち上げ期は、本当にゼロから、地道に書籍を読んだり、他の企業に話を聞いたり、色々なことを勉強していました。インプットしたものを実践して、経験学習モデルじゃないですが、それがどうだったのかリフレクションをすることで、実感値を掴めるようになっていきました。

――「2年で社員を10名から100名に増やした人事」という華やかな実績の裏では、地道な積み重ねがあったのですね。

西島氏 おかげさまで、さまざまなメディアに取材していただき、記事が出ていたため、成功した人事のようなイメージを持たれがちです。しかし、実際には反省点も多く不甲斐なさもありました。そのうち、取材記事での格好いいイメージが独り歩きすることへの違和感が膨らんできたのです。

――それが、土屋鞄製造所(以下 土屋鞄)への転職に繋がっているのですね。これまでとは業種が全く異なりますが、入社の理由を聞かせてください。

西島氏 土屋鞄は「自分たちだけではなくモノづくり業界全体を、盛り上げていこう」という気概を持っています。そこに魅力を感じました。もうひとつは、先ほども話しましたが「この先どうなるか分からない」ことに、ワクワクさせられたからです。IT業界はもちろん面白いのですが、どの企業もIPOなど、目指すところが似ていると感じていました。一方でモノづくり業界は、今後どうなるのか全く予想ができません。その不明瞭さに惹かれました。

また、ベルフェイスとは異なる面白さも感じます。ベルフェイスでは、認知を広げる、今の言葉でいうと「バズらせる」ことへのニーズが強くありました。しかし、土屋鞄の場合は、単に広げるというよりは、組織の中から醸し出すブランドの深さを発信していく必要があります。企業のフェーズによる違いだと思いますが、ブランドというものの深さに興味が湧きました。

ガラス張りの工房に見る、「体験」の重要性

――西島さんが土屋鞄に入社した時、どのような課題がありましたか。

西島氏 土屋鞄は、ある程度認知があるため、もともと応募数はありました。土屋鞄を好きな人が集まるというのは、もちろん正しいことなのですが、企業として新しいチャレンジをする上では、多様な人材の採用を進める必要があります。そこで、土屋鞄を認知していない人に対してどうアプローチをして興味を持ってもらうか、それが一番の課題でした。

――土屋鞄の事業や風土の魅力をどう感じましたか。

西島氏 土屋鞄は創業55年、職人たちが一つずつ手仕事で鞄を組んでいく“品質”の良さが強みです。その品質を支えるのが、土屋鞄に脈々と受け継がれる「意義」だと思います。職人の世界は「背中を見せて育てる」イメージがありますが、当社は職人から職人へ伝承していく意識が強いです。これは、「自分たちがモノづくりの灯をともし続けていく」という意義を持っている人材が多いということだと思います。

さらには、私は「体験」という表現をよく使っているのですが、製品を購入していただく瞬間だけではなく、随所に土屋鞄「らしさ」を感じられる工夫をしているところが、当社の魅力です。よく職人のトップが「見せる工房、魅せる職人」という表現をしていますが、軽井沢の工房はガラス張りで、職人が一つひとつランドセルを作る様子を見ていただけます。そうしたお客様に提供する「体験」すべてが、土屋鞄の魅力です。そしてこれは、採用文脈でも同じことが言えると思います。

――採用でも「体験」が重要とは、どういうことでしょうか。

西島氏 例えば新卒採用において、学生が初めてコミュニケーションを取るのは人事です。その時の「体験」をどう作るかというのは、非常に大切なことだと考えています。

結果としてご縁がなかったとしても、土屋鞄のファンになってもらったり、革製の鞄を見た時に「そういえば土屋鞄を受けたな」と思い出してもらったり、そうなるための「体験」をどう作り込んでいくのか、常に考えています。

オンラインでは、熱量が伝わらない。果たして本当にそうか?

――西島さんは2019年に土屋鞄に入社されたため、初の新卒採用がコロナ禍での活動だったのですね。

西島氏 2~3月は全国で説明会を実施する予定でしたが、すべて中止になりました。そこで、社長や役員ともコミュニケーションを取りながら、2月上旬にはすべての選考をオンライン化する意思決定をし、結果的に最終面接まですべてをオンラインで完結させることができました。様々な採用活動のパターンを事前に想定して、選択肢を持った状態で動いていました。だからこそ、意思決定を早くできたのだと思います。

――早い段階から準備をしたとはいえ、オンラインでの採用活動は難しかったのではないでしょうか。

西島氏 結果として非常にいいチャレンジでしたが、もちろん様々な課題がありました。まず、リアルな接点を持てなくなりますから、認知も取りにくくなります。そこで、ダイレクトリクルーティングにシフトして、様々なメディアでスカウトを打つ体制を急ピッチで整えました。

認知だけではなく、アトラクトも難しいポイントでした。「このまま対面と同じ説明会をしていたら、伝わるものも伝わらない」という焦りがありました。そこで説明会のプレゼンテーション資料などをすべてオンライン用に作り直しました。そして、見極めのところでは、オンラインでの面接でどこを見るのか、事前に面接官や社長にレクチャーしました。

――リアルな説明会とは異なる環境で、どのように企業の風土や魅力を伝える工夫をしたのですか。

西島氏 オンラインでは、「なぜこの会社が魅力的なのか」をロジック立てて説明することが重要です。そこで、プレゼンテーション資料は、対面よりも文字数を多くしていました。そしてできる限り「我がこと」として捉えてもらう工夫を凝らしました。説明会の冒頭で、マーケットの話などを交え、学生がいかに今の日本やモノづくり業界の課題を、「我がこと」として感じてもらうか、演出にこだわりましたね。

――オンラインでは、双方の「熱量」が伝わりにくい印象もあり、見極めが難しそうです。

西島氏 私も以前はそう思っていました。しかし今回の新卒採用、ある学生との最終面接で、そのイメージは覆されました。その学生と社長と私、3名でオンライン面接をしていたのですが、学生の話にあまりに感動して、私が号泣してしまったんです。

社長からは「なんで、面接官の西島君が泣くの」と爆笑されましたが、オンラインでも話す内容や表情、声のトーンで、想いが詰まっていれば伝わると確信しました。

人事という仕事の奥行きに気付かせてくれた、土屋鞄という会社

――オンラインでは伝わらないと言われがちな「熱量」が、画面越しに伝わるのを、西島さん自身が体感されたのですね。さて、土屋鞄ではいち早くニューノーマルに順応されていますが、今後の採用はどのように進めていきますか。

西島氏 これからは、オンラインとオフラインを織り交ぜた採用になっていくと思います。その時に、求職者の方々には、面接の中で感動体験をたくさんしていただきたいんです。今考えているのは、一人ひとりの各選考ステップでの体験をカタチにして残せるような仕組みです。少しパワーは掛かりますが、土屋鞄を感じてもらえるようなことをしていきたいですね。

こうしたことを考えるようになったのは、当社に入社してからです。一つひとつのことを丁寧にすること、人を思いやること……。特にこういう仕事柄、当たり前のことなのですが、どこかで慣れが出てきてしまう。いかに効率よくやるか、ITの力をどれだけ利用できるかというのを考えていたと思います。もしかしたらオンラインでどんどん採用活動が広がっているからこそ、オフラインのリアルの価値が上がっていくのではないかと考えています。

――土屋鞄の理念や風土が、採用施策にも影響しているのですね。

西島氏 それは本当に大きいと思います。一方で、当初から求職者に向き合う姿勢は変わりません。その人が本当に他社に行った方がいいのであれば、背中を押してあげた方がいいと考えています。もちろん、人事の立場としては苦しいことですが、長い目で見れば、やりたいことを尊重して、自分らしい決断ができる後押しをすることが一番だと思っています。

私は以前から「人の可能性を紡ぐ」という言葉を大切にしています。これはANAを辞めた時の経験から繋がっているのですが、「向いていない」という烙印を押されることは、20代の私にとって非常にショックでした。しかし、人の成長スピードは各々で、何かのきっかけで大きく成長する可能性があります。その可能性を信じて拓いてあげられるような人事になりたい、それが常々考えていることですね。

――最後に、これから取り組みたいことを聞かせてください。

西島氏 今後は組織開発などにも取り組みたいと考えています。そして、経営に資する人事を目指しています。今の上司が、まさにそういうストロングなタイプの人事なので、私も早く追いつき、そして超えていきたいですね。

格好いいことを言おうと思えばいくらでも言えますが、現実はもっと勉強しなければなりません。まだ、自分が思い描く人事像と、現在の立ち位置に大きなギャップを感じています。そのギャップが認識できているからこそ焦っていますし、色んなことを吸収して早く成長したいという想いが強いですね。

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Profile

株式会社土屋鞄製造所の西島悠蔵氏
西島 悠蔵氏
株式会社土屋鞄製造所 人事本部人材開発課 課長
大学卒業後、2010年に新卒で全日本空輸(ANA)にパイロットとして就職。4年ほど勤務した後、リクルートキャリアに転職し、キャリアアドバイザーを経て、人事部に異動。中途採用リーダーを務める。その後、オンライン営業システムを開発・販売するベンチャー企業、ベルフェイスに入社。ゼロから人事部門立ち上げを担い、当時10名ほどの規模から100名規模への成長を支えた。2019年7月、土屋鞄製造所へ。現在は、同社の採用全般とオンボーディングを管掌している。

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