2023年4月改正! 育児介護休業法のポイントは? 注意点も紹介

育児介護休業法は、男女の性差に関わらず出産・育児・介護といったライフイベントと仕事を両立するために制定されました。2022年に大きく改正されましたが、2023年4月にも改正が行われます。

従業員にとっては、育児休業の分割取得が可能になるなど、従来よりも柔軟に働き方を調整できるようになります。その一方で、企業側では適切な育児介護休暇の管理や社会保険、税務対応などが必要です。

企業が押さえておくべきポイントや、実務上の注意点にはどのようなものがあるのでしょうか。改正の内容や実務で欠かせない手続き、企業内における周知について、具体的に解説していきます。

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そもそも育児介護休業法とは

そもそも育児介護休業法とはどのような法律なのでしょうか。具体的に見ていきましょう。

①育児介護休業法の概要

日本政府は、持続可能かつ誰もが安心して参画できる社会を実現するために、就労および出産・子育て・介護における二者択一構造を解消することが重要だとしています。

安心して就労できる環境整備の一環として、育児介護休業法が制定されました。

育児介護休業法は正式には「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」といいます。育児や看護、介護休暇や休業に関する制度を定めると同時に、労働者がこれらの制度を使いやすくするために、事業主が取るべき措置(短時間勤務や所定外労働時間の制限等)を明確にしています。

育児介護休業法は、育児や介護を行うための休暇取得や時短勤務など、柔軟な就労環境を実現するために欠かせません。

日本においては、育児休業 は主に女性が取るものという社会通念がありましたが、本法の対象は男女を問わない点も大きな特徴です。

これまで低い取得率に留まっている、男性の育児休業取得を奨励するために、新しい取り組みもスタートします。

②育児介護休業法の対象者

育児介護休業法の対象者とその具体的な条件を確認していきましょう。

(1)無期雇用労働者の場合

無期雇用労働者の育児休業と介護休業

育児休業の対象者は、1歳未満の子供がいる労働者です。1歳未満の子供1人につき、原則1回または分割して2回取得できます。

介護休業の場合は、要介護状態の家族を介護する必要がある労働者です。介護対象の家族1人あたり3回まで、合計93日まで休業が可能です。

労使協定が締結されている場合には、特定の労働者が育児介護休業について制限されている場合があるので確認してみましょう。具体的には週の所定労働日数が2日以下の場合や、1年以内に雇用関係が終了する場合などです。

(2)有期雇用労働者の場合

有期雇用労働者の育児休業と介護休業

育児休業の場合、1歳未満の子供がいることに加え、対象である子供が1歳6カ月になる日までに、契約満了し更新されないことが明らかでない場合利用可能です。無期雇用労働者と同様、1歳未満の子供1人につき、原則1回または分割して2回取得可能です。

介護休業の場合、要介護状態の家族を介護する必要があることに加え、休業の取得予定日から起算し93日から6カ月を経過する日までに契約期間が満了となり、更新されないと明らかでないことが適用条件になっています。介護対象の家族1人あたり3回まで、合計93日まで休業が可能です。

育児介護休業法の改正内容とその変遷

育児介護休業法は、これまで複数回改正されてきました。まずは2023年4月の改正ポイントから見てみましょう。これまでの改正ポイントも解説していきます。

①2023年4月の改正

2023年4月に施行された改正点は、育児休業取得状況に関する公表の義務化です。
従業員数が1,000名を超える企業は、

●男性従業員の育児休業取得率
または
●育児休業・休暇の取得率

を年に一回公表しなければなりません。
公表は、インターネットなど一般の方が閲覧できる適切な方法で行うことが想定されています。

「従業員数が1,000名を超える企業」に該当しており、上記の内容を公表しない場合、過料などの罰則が課される場合もあります。

参考・出典:育児・介護休業法について│厚生労働省

②2022年4月と10月の改正

■2022年4月の改正
2022年4月に施行された改正は、

  • 雇用環境整備
  • 個別の周知
  • 意向確認措置の義務化
  • 有期雇用労働者の要件緩和

です。
それぞれの改正ポイントについて詳しく見ていきましょう。

(1)雇用環境整備

雇用環境の整備については、2022年4月の改正前に特に定めはありませんでしたが、この改正において企業の取り組みの基準が定められました。

具体的には、従業員による育児休業を支援するため、企業は以下のような取り組みを行わなければなりません。

一つのみでなく、以下のうち複数の対策を取ることが望ましいです。

育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施
従業員に対して、育児休業・産後パパ育休に関する研修を行う必要があります。従業員や管理職全体に理解が浸透するよう、階層別の研修も有効です。
育児休業・産後パパ育休について相談窓口の整備
社内において、従業員が休業取得を検討した時のために、育児休業・産後パパ育休について相談窓口を設置しなければなりません。また、設置した相談窓口については、社内で周知しましょう。
自社における育児休業・産後パパ育休取得事例の収集と情報提供
従業員が具体的な取得イメージを持ちやすくするために、自社における育児休業・産後パパ育休取得事例の収集と情報提供を行うことが定められています。
自社における育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
企業は育児休業・産後パパ育休制度と取得促進に関して、従業員に対して自社の方針を周知しなければなりません。
これは育児休業と産後パパ育休の申し出が円滑になされるようにするためです。

(2)妊娠出産の申し出をした労働者に対する個別の周知と意向確認措置

本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出た労働者に対して、事業主は育児休業制度等に関する以下の事項の周知と休業の取得意向の確認を、個別に行わなければなりません。

育児休業・産後パパ育休に関する制度
育児休業を希望する従業員に対して、企業は詳細な育児休業・産後パパ育休に関する制度を説明しなければなりません。
育児休業・産後パパ育休の申し出先
育児休業を取得する際に、従業員が連絡するべき申し出先を周知します。人事部内に設けることなどが想定されます。
育児休業給付に関すること

育児休業給付に関する事項も説明しましょう。これは年度によって多少の制度変更があるため、都度内容を確認する必要があります。

参考・出典:育児休業給付について│厚生労働省

従業員が育児休業・産後パパ育休期間について負担する社会保険料について

従業員が育児休業・産後パパ育休期間を取得する場合、その期間の社会保険料については従業員自身が負担することになります。具体的な支払額の見込みなどを事前に説明しておきましょう。

また妊娠出産もしくは育児休業を申し出た従業員に対して、個別に面談・書面・FAX・メールなどで休業取得意向確認を行わなければなりません。

(3)有期雇用労働者の要件の緩和(育児休業の場合)

改正前における育児休業取得のための有期雇用労働者の要件は

  1. 1
    引き続き雇用された期間が1年以上
  2. 2
    1歳6カ月までの間に契約が満了することについてあきらかでない

であったものの改正後は「1」の要件がなくなり、「2」のみになります。
つまり1年未満の有期雇用労働者も対象となりました。

ただし、労使協定を別途締結している場合は「対象外」にすることは可能となっています。労使協定の内容については企業によって異なるため、労働組合もしくは企業に確認してみることが必要です。

③2022年10月の改正

2022年10月に実施された改正は、

●産後パパ育休(出生育児休業)の創設
●育児休業の分割取得

となっています。
これらについて詳細を見ていきましょう。

(1)産後パパ育休(出生育児休業)の創設

2022年10月から、産後パパ育休(出生育児休業)が創設されました。これは、配偶者の産後8週間以内に、最大4週間/28日の育児休業を取得可能とするものです。

養育対象となる子供については、親子関係がある限り実子か養子かは問われません。事実婚の場合、産後パパ育休の申し出を行うタイミングで認知が行われていなければならないことに留意が必要です。

名称通り、産後パパ育休の取得者は主に男性を想定していますが、養子縁組をしている場合などで法的な要件を満たしている場合は女性も取得できます。

(2)育児休業の分割取得

今回の改正で、従来は原則分割取得できなかった育休が、2回まで分割取得可能となりました。これにより、子の出生直後の育児休業がより柔軟に取得しやすくなります。男性の育児ニーズが高い期間における育児休業取得奨励が、2022年10月における改正の主な目的です。

参考・出典:介護休業法 改正ポイントのご案内│厚生労働省

企業に求められる対応

育児介護休業法における法改正がなされる中で、企業にはどのような対応が求められるのでしょうか。

①就業規則等の見直し

希望する従業員が円滑に育児や介護による休業を取得できるよう、社内における人事制度や就業規則などについて事前の見直しが必要です。

必要な場合は社労士などの専門家にも相談しながら進めましょう。労使協定を締結している場合は労使協定の内容についても確認しておく必要があります。

厚生労働省では、育児・介護休業等に関する規則の規定例や社内様式の例を公開しているので、作成時に参考にしてみましょう。

様式例では、休業開始予定の2週間前に申し出ているか、休業中の給与取り扱い、所属変更の有無など詳細な内容が網羅されています。

参考・出典:育児・介護休業等に関する規則の規定例│厚生労働省

②就業制度の整備

就業に関する各種社内制度を整えることも必要です。勤務形態については以下に挙げた四つのうち、いずれか一つ以上を設けることが企業に義務付けられています。

短時間勤務
短時間勤務は、9~16時などあらかじめ定められた短時間での勤務を認める制度です。子供の送迎などが円滑に行えるメリットがあります。
フレックスタイム
フレックスタイムは、定められた総勤務時間のなかで従業員自身が自由に始業・終業の時刻や勤務時間を決めることができる制度です。労働者がより柔軟に働くことが可能となります。
時差出勤
時差出勤は、始業時間と終業時間を変更して、出勤または退勤時の混雑を避けるための制度です。
介護費用助成措置
介護費用助成措置は、労働者が就業中家族における要介護者のために介護サービスを使用する場合に費用を負担する制度です。

③働き方の変化に伴う組織体制などの整備

育児休業の対象者が休業に入った場合、業務に混乱をきたさないように事前に業務整理や、育児休業中の割り当てを行っておきましょう。

企業が法令に違反した際の注意点や罰則など

従業員から育児・介護休業の申請が行われた場合、企業は必ずこれを受け入れなければなりません。さらに、これらの休業を理由として従業員が不利益を被るような処遇について行ってはならないとされています。「不利益を被るような処遇」とは、具体的には降格や解雇が該当します。

これらに違反した企業に対する罰則の一つとして、厚生労働省による企業名の公表が挙げられます。

また、事業所がある都道府県の労働局は必要に応じて企業に対して報告を求めることができます。都道府県の労働局に対して報告をしない、もしくは虚偽の報告を行った場合には、20万円以下の罰金が科される場合もあることに留意しましょう。

社内での実務と推進方法

①制度の社内周知

育児介護休業法改正に伴う制度や、就業規則の改定について社内に周知を行いましょう。従業員が休業の申請に使用する書類や資料の準備も欠かせません。社内で説明会や管理職向け研修なども行うとなおよいです。

社内で法改正に関する理解が十分に行われていないと、場合によってはマタニティハラスメントやパワーハラスメントなどにつながってしまい、大きな問題に発展してしまう場合も考えられます。

②育児介護休業の期日について管理体制を整える

従業員が取得する育児介護に関する休業については、法律で日数が決まっています。そのため、期日の管理が行える体制を整える必要があります。人事管理ソフトなどを使っている場合は、機能のアップデートについて確認しておきましょう。

正確な期日管理は、法令遵守と休業中における従業員の社会保険料納付、正しい育児休業取得率の公表のためにも重要です。

③社会保険などの対応

従業員が育児休業を取得する際には、社会保険などの対応も欠かせません。休業に伴って、対象となる従業員の社会保険料が免除になるか確認しておきましょう。さらに、給与計算もそれに従って正しく行われなければなりません。

まとめ

育児介護休業法は、出産・育児や介護などのライフイベントが起こっても仕事を両立するための法律です。直近では2023年4月・2022年4月・10月に改正され、さらに柔軟な働き方を選択できるようになりました。

企業には、改正内容に沿った就業規則等の見直しや制度の整備などが求められます。違反した場合には、厚生労働省・厚生労働大臣による企業名の公表や過料が発生する可能性もあることに留意が必要です。

従業員が安心して、働き続けるために環境を整えていきましょう。

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