障害者施策の大転換
~企業における合理的配慮の義務化~

2021年5月に障害者差別解消法が改正されました。現段階では施行日は明らかにされていませんが、改正日から3年以内に施行することが決まっています。今回の改正により国の障害者差別政策はどのように変化し、民間事業者はどのような対応をする必要があるのでしょうか?

本記事では、改正法の内容とその根幹をなす障害者施策に関する考え方、そして実務対応のポイントについて解説します。

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2021年障害者差別解消法改正で変わること

改正点

合理的配慮について、民間事業者についても義務化

  • 違反の場合の罰則はなし。行政指導の対象にはなりうる

国や地方公共団体において、施策の実行の支援強化

従来、国は障害者雇用促進法により法定雇用率を定め、障害者雇用を推進するとともに法的雇用率に満たない企業に対して納付金支払いを命じるという、いわば障害者雇用の量的拡大政策を採用してきました。

今回の障害者差別解消法の改正により、民間事業者に対し従来の量的雇用の促進に加え、障害者一人ひとりに対する合理的配慮を義務化するという、質的向上についても求めることとなりました。これは障害を一人ひとりの特性の問題(障害の医学モデル)と捉えるのではなく、障害を有する個人の能力を発揮できないという制度そのものを障壁と捉える「障害の社会モデル」の考え方を取り入れたものだといえます。

言い換えると合理的配慮の義務化は、障害者が能力を発揮する妨げになっている障壁を企業への働きかけによって解消し本来持っている能力を発揮して、生き生きと働くことを実現するダイバーシティ&インクルージョン施策の一環だといえます。

参考・出典:「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律案

障害の社会モデルの実現

では合理的配慮とは具体的にどのような概念なのでしょうか?

「差別をしない」というと、まずは平等に取り扱うことが必要だということが頭に浮かびます。例えば、同じコンサートに障害を持った人だけが参加できないというのは「差別的取り扱い」の一例です。日本の障害者政策もはじめは、この差別的な取り扱いの解消を目指していました。

しかし同じコンサート会場に入れたとしても、障害を理由に音が聞こえなかったり、アーティストの姿見ることができなかったら、せっかく同じお金を払って参加していても十分楽しむことができません。このような場合に、障害を持つ人の取り扱いを別にして、合理的な範囲で同じように楽しめるような環境を提供するというのが「合理的配慮」の考え方です。

なお、施設のバリアフリー化など障害特性にかかわらず、包括的に障壁を除去する措置を施すことは合理的配慮とは呼ばず、事前的改善措置と呼ばれています。

企業における合理的配慮提供プロセス

障害者差別解消法における合理的配慮提供の対象障害者の範囲は、障害者手帳保持者だけに限られず 「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する)がある者であって、障害および社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」全てです。

したがって実際に企業が合理的配慮を提供する際には、どのような対象者に対し、どこまでの配慮を提供する必要があるか、ある程度事前に想定しておく必要があります。 法律の条文を見ただけではこの点は明確ではないため、厚生労働省が出している「 合理的配慮指針事例集」や「 障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&A」などを参考にしながら、自社に合った合理的配慮の範囲と提供プロセスを今から整備しておきたいところです。

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