ハラスメント禁止はグローバルスタンダード 
~暴力とハラスメントの禁止条約の発効~

仕事上のハラスメントを全面的に禁じた国際労働機関(ILO)の条約、「仕事の世界における暴力及びハラスメントの撤廃に関する条約(暴力とハラスメントの禁止条約)」が、2021年6月25日に発効されました。「批准国はセクシャルハラスメントやパワーハラスメントだけでなく、全てのハラスメント行為について、仕事に関わる全ての人を対象として法令で明確に禁止し、違反者には制裁を求める」という初の国際基準です。

2021年6月25日、ハラスメント禁止条約が発効

日本は国内法の整備が追い付いていないことなどを理由に、批准を果たせていない状況です。また、本条約の現在の批准国数は7カ国と少なく、波及効果は限定的ですが、既に法整備が進みつつある欧米の国々が今後この条約に批准し始めれば、企業と関係を持つ全ての人に対するハラスメント防止に取り組むことが、グローバル企業の重要な経営戦略の一つとなりうると考えられます。

本条約では、ハラスメントを「身体的、精神的、性的、経済的危害を引き起こす行為と慣行」と定義し、それらを「法的に禁止する」と明記。労働者だけでなく、求職中の学生やフリーランスなども保護の対象としました。

日本のハラスメントに関する法整備の状況は……

日本では、2020年6月に労働施策総合推進法の中でパワハラ防止措置が盛り込まれ、大企業にパワハラ防止策として相談窓口の設置などが義務付けられました。しかし、労働施策総合推進法にはハラスメント行為そのものを禁止する規定は盛り込まれておらず、雇用者以外のフリーランス、就活生やインターン生などは対象になっていません。

また、日本にはセクハラやマタハラを禁止する男女雇用機会均等法や育児・介護休業法もありますが、ハラスメント禁止条約が労働に関して何らかの危害を引き起こす可能性のある全ての行為を禁止しているのに対し、日本の法令は個別のハラスメントを禁止するにとどまっているのが現状です。

また、日本にはセクハラやマタハラを禁止する男女雇用機会均等法や育児・介護休業法もありますが、ハラスメント禁止条約が労働に関して何らかの危害を引き起こす可能性のある全ての行為を禁止しているのに対し、日本の法令は個別のハラスメントを禁止するにとどまっているのが現状です。

暴力とハラスメント禁止条約
定義
身体的、精神的、性的、経済的危害を引き起こす、または引き起こす可能性のある行為と慣行や脅威
効果
法的に禁止し、違反した場合には制裁を課す
保護対象
雇用されている労働者だけでなく、求職中の学生、フリーランス、ボランティアも保護の対象
日本のハラスメント防止法
定義
パワーハラスメント、セクシャルハラスメントマタニティハラスメントを別々の法令で定義
効果
ハラスメント行為そのものを禁止していない。使用者に防止措置を義務付けた。罰則はなし
保護対象
雇用されている労働者のみ対象

ハラスメント禁止はグローバルスタンダード

1990年代に、ある企業の製造工場での児童労働など、劣悪な労働環境が明るみに出たことを発端として、サプライヤーに対する監督を強め、自社の労働条件に関する基準を遵守することを課すグローバル企業が多くなってきています。今回の条約発効により、今後はハラスメントについても、こうした基準の一つとして国内法を超える基準を求めてくるケースも増えてくるかもしれません。

日本は、従来から労働基準法をはじめとする国内法により、強制労働や児童労働を禁止していますが、海外の企業には国内法の状況を説明しても理解してもらえない場合もあります。日本は差別禁止法として整備を行わず、業法の中に組み込んで差別を禁止しているため、諸外国からはどのように労働者の人権を保護しているのか見えにくい側面があるのかもしれません。

また日本は、代表的な労働に関する国際条約で、世界176カ国が批准する「強制労働の廃止に関する条約」や、同175カ国が批准する「雇用及び職業についての差別待遇に関する条約」を批准していないこともあり、企業もこうした項目に対して無策である場合も多い状況です。

これらの中核的な国際条約も、発効当時の批准国数は少なく、その後国内法の整備に着手して批准にこぎつけている流れがあります。日本もハラスメント禁止条約の成立には賛成票を投じているため、今後は国内法の整備を急ぐことも予想されます。

SDGs項目8には「働きがいも経済成長も」という項目があります。海外の投資家が日本の企業に投資する際には、SDGsへの取り組みを重視する傾向にあります。時代の要請に応えるためにも、日本の政府はハラスメント条約を批准できるレベルの法制を目指す必要に迫られることになるでしょう。

これらのことから、企業がハラスメント防止対策に取り組む際には、現在の法令知識のインプットのみに終始することなく中長期的な視野に立ち、自社に関わる全ての人々に対するネガティブコミュニケーションを根絶するという明確な意志表明として、行動規範やビジョンの整備を行うことも効果的です。

ハラスメントの根絶には職場の意識変革が重要であり、マインドセットのチェンジは一朝一夕に実現できるものではありませんが、定期的にハラスメントに関するコミュニケーションを実施していくことが大変重要となります。先が見通せないVUCAの時代を従業員とともに前進する企業は、ハラスメントのない安心安全なカルチャーを従業員に約束できる企業である、ということが証明される日も近いかもしれません。

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