新テレワークガイドラインにおける労働時間管理のポイント

2021年3月26日付で、テレワークに関する新しいガイドライン(「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」以下、本項では「新テレワークガイドライン」といいます)が厚生労働省より発表されました。新ガイドラインは2018年の旧ガイドライン(「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」)の内容を大幅に刷新したものです。テレワークの定着に向けて労働法制の解釈の明確化を行うとともに、ウィズコロナ・ポストコロナの「新たな日常」、「新しい生活様式」に即して、時間や場所を有効に活用しながら 良質なテレワークの定着を図ることを目指しています。

そこで今回は、新テレワークガイドラインの柱である労働時間管理のポイントについて解説します。

テレワーク環境下の労働時間管理には私生活への配慮が必要

新ガイドラインの中心となっている部分が労働時間管理についてです。日本の労働時間法制は、主に賃金の不払いと過重労働という2つの視点から労働者を守るということを目的とし、使用者は労働時間の把握をできるだけ詳細に、かつ適正に行うことを求められきました。しかし、在宅勤務という新しい働き方は、従来の視点の他に、労働者が自身の生活空間で仕事を行うことから、労働時間管理にも私生活への配慮が必要であるという第3の視点が入ってきたといえるのではないでしょうか。

例えば、労働者が自宅で仕事をする場合に、使用者が仕事部屋の様子や在籍時間を常時監視するような対応は、使用者と労働者の間の信頼関係を壊し、労働者のモチベーションを下げる可能性があり、私生活と仕事の融合というテレワークのメリットそのものを奪ってしまうことにもつながりかねないと、新テレワークガイドライン策定時の検討会報告書には明記されています。このようなことから、今回の改定は労働者の私生活への配慮と過重労働や賃金未払い防止の観点との間のバランスを取った労働時間管理を目指しているといえそうです。

ガイドラインは法律ではないため法的な強制力はありません(行政の調査の際に指摘される可能性はあります)が、今回のガイドラインは労働基準法や労働安全衛生法の内容に関するものであるため、使用者は新テレワークガイドラインの改訂趣旨を十分理解し、労働時間管理を見直すことが必要だと考えられます。

テレワークガイドライン改訂の趣旨

  • テレワークの定着に向けた労働法制の解釈の明確化
  • 過重労働防止と私生活への配慮とのバランス
今回の改定は労働者の私生活への配慮と過重労働や賃金未払い防止の観点との間のバランスを取った労働時間管理を目指している

具体的な労働時間の把握方法

労働時間管理に関する基準は、新テレワークガイドラインの他に働き方改革関連法案の一環として改訂された労働安全衛生法上のガイドライン(「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」、以下本稿では「適正把握ガイドライン」といいます)が存在しています。テレワーク環境下ではこの2つのガイドラインに沿った形で労働時間管理を行う必要があることを理解することが重要です。

自己申告制による労働時間管理の必要性の高まり

テレワーク環境下では、事業場内で機能していたPCのログイン・ログオフ時間やドアの開閉時間による労働時間管理が実態を反映しないという場面が想定されます。自宅で業務をしていると通勤などの移動が生じないため、PCをログオフせずにそのまま放置することが物理的に可能になってしまうからです。

新テレワークガイドラインでは、このような場面に対応するため、簡便な形での自己申告制を認めており、例えば日々の終業時間に上長にメールで始業と終業時間を報告するという方法でも構わないとされています。ただし、労働者が申告時間以外に労働していたことを使用者が認識していた場合には、申告時間を修正させることが必要です。

適正把握ガイドラインの観点からの実態調査は今後も必要

一方、適正把握ガイドラインには「自己申告制を採用する場合には、客観的な方法その他の適切な方法により実態調査が必要」という記載があり、テレワーク環境下でも適用され続けます。したがって使用者は部下の申告時間外での業務実態を認識した場合の補正だけでは足りず、客観的な、その他の適切な方法を用いて実態を調査する必要があります。そもそもテレワーク環境下ではPCのログ時間などが実態を反映していないということで自己申告制を採用しているのに、どのようにして実態を調査すればよいのでしょうか?

この点について、自己申告時間が適切か否かを、労働者へのヒアリングを実施して確認することで足りるとする見解を示している労働基準監督署もあります。使用者と労働者が自己申告時間について合意するというプロセスを労働時間管理に取り入れることで、PCのログなどITツールを用いた検証なしに適正な労働時間とみなして差支えないというのであれば、使用者にとっては朗報です。

しかしながら、具体的なヒアリングの方法や頻度などが、現状では厚生労働省から示されている訳ではないため、できる限り実態に近い客観的証拠を用いて検証するなど、自己申告制の運用については当面慎重な対応が求められそうです。

適正把握ガイドラインの観点からの実態調査は今後も必要

事業場外みなし労働時間制の適用要件

新テレワークガイドラインの労働時間管理におけるもう一つの重要な柱は、事業場外みなし労働時間制の適用要件を明確化し、積極的に同制度の適用を認めていこうとしたことにあります。昨今のIT環境の進展から考えると、もはや労働時間の算定が困難な状況ということは考えづらく、旧ガイドラインまでは、事業場外みなし労働時間制の適用場面はほとんどないといわざるを得ない状況でしたが、今回はその要件を明確化することで、適用要件を緩和しています。

要件の明確化により適用が可能に

注目すべきは、「常時通信可能な状態におくこととされていないこと」という一つ目の要件の適用例として、「労働者が自らの意志で情報通信機器から離れることができたり、応答のタイミングを決められる」という労働者の「つながらない権利」を間接的に認めているということです。正に労働者の私生活への介入に配慮した改訂ということがいえます。

今後テレワーク環境下で事業場外みなし労働時間制を導入する予定の企業は、どのような場合に事業場外みなし労働時間制を適用できるか就業規則をはじめとして社内ルールを明確に示すとともに、同時間制の導入が労働者のつながらない権利を広範に認める可能性があることを十分理解し、対象労働者が事業場外みなし労働時間制を適用するにふさわしい自律した働き方を身に付けているかを考慮することが必要です。

事業場外みなし労働時間制

  • 「在宅勤務に限る」という要件は削除され、どの形態のテレワークでも可能
  • つながらない権利の明確化

(1)、(2)を満たした場合には適用可能

要件(1) 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
適用例
  • 労働者が情報通信機器から自分の意志で離れることができ、応答のタイミングを労働者が判断することができる場合
  • 会社支給の携帯電話等を所持していても、その応答を行うか否か、又は折り返しのタイミングについて労働者において判断できる場合
要件(2) 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと
適用例
  • 使用者の指示が、業務の目的、目標、期限などの基本的事項にとどまり、1日のスケジュール(作業内容とそれを行う時間等)をあらかじめ決めるなどの作業量や作業の時期、方法等を具体的に特定するものではない場合
PDF版をダウンロードする

関連記事

お役立ち情報 に戻る

人材に関するお悩みがございましたらお気軽にご連絡ください