シニア世代の就業継続を促進する一連の法改正

高齢者、複数就業者等に対応したセーフティネットの整備、就業機会の確保等を図るため、雇用保険法、高年齢者雇用安定法、労災保険法など多くの改正関連法が成立しました。
以下、主な改正点を解説します。

雇用保険は高年齢雇用継続給付の段階的廃止、65歳上で2つの企業での合計労働時間20h以上なら被保険者に。労災保険は、(年齢にかかわらず)兼業・副業の場合の賃金を合算して給付基礎日額を算定。高年齢者雇用安定法は、雇用確保努力義務もしくは創業支援。公的年金の在職老齢支給停止47万円へ引き上げ。65歳以上でも働いていれば毎年年金増額。企業型DCは70歳まで加入可能に。iDeCoは65歳まで加入可能に。

雇用保険法

令和2年3月31日 成立
令和4年1月1日 施行

ポイント

2つ以上の事業主の適用事業所に雇用される65歳以上のもので、①1つの事業主における1週間の所定労働時間が20時間未満であり、②2つの事業主の1週間の所定労働時間の合計が20時間以上である場合には、雇用保険の高年齢被保険者となることができるようになりました。 被保険者になれば、65歳以上で失業した場合にも高年齢者求職者給付金の支給を受けることができるというメリットがあります。

2つ以上の事業主の適用事業所に雇用される65歳以上のもので、①1つの事業主における1週間の所定労働時間が20時間未満であり、②2つの事業主の1週間の所定労働時間の合計が20時間以上である場合には、雇用保険の高年齢被保険者となることができるようになりました。

雇用保険では従来、同時に2つ以上の企業と雇用関係にある労働者については、当該2つ以上の雇用関係のうち1つの雇用関係(原則として、生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係)のみ被保険者となるものとされていました。このような適用関係では、実態としてフルタイムに近い働き方をしていたとしても、一つの事業所において週の所定労働時間が20時間以上とならない限りは、雇用保険の被保険者となることができない事態となってしまいます。

政府主導の働き方改革において、兼業・副業の促進も主要施策の一つとなっていますが、現行の適用関係は施策と逆行するものであるため、改正の議論が進められてきました。今般の改正はその布石として、高年齢被保険者を対象として特例的に雇用保険適用を認めたものと考えられます。具体的には以下の要件のすべてに該当する者が申し出た場合に、高年齢被保険者となることが認められます。

具体的には以下の要件のすべてに該当する者が申し出た場合に、高年齢被保険者となることが認められます。

要件

  1. 1
    2つ以上の事業主の適用事業所に雇用される65歳以上の者
  2. 2
    1つの事業主における1週間の所定労働時間が20時間未満である
  3. 3
    2つの事業主の1週間の所定労働時間の合計が20時間以上である

労災保険法

令和2年3月31日 成立
公布後6月を超えない範囲で政令で定める日に施行

ポイント

労働者が兼業・副業している場合で、労災給付を行う場合、非災害発生事業場の賃金額も合算した金額で給付基礎日額が算定されることとなり、給付の不公平が是正されました。

労働者が兼業・副業している場合で、労災給付を行う場合、非災害発生事業場の賃金額も合算した金額で給付基礎日額が算定されることとなり、給付の不公平が是正されました。

高年齢者雇用安定法と雇用保険法

令和2年3月31日 成立
令和4年1月1日 施行

ポイント

65歳から70歳の雇用確保措置を企業の努力義務とするとともに、代替措置として労働者の起業や社会貢献活動への支援措置を創設しました(労働者過半数代表の同意が必要)。
また、今後は65歳以降の雇用確保に主眼を置くという観点から、60歳代前半の高年齢雇用継続給付(雇用保険)は段階的に廃止となります。

定年の引き上げ、65歳以上継続雇用制度、定年の定めの廃止

労働力人口の減少を食い止める施策の1つとして、高年齢者の就業を促進するという趣旨から65歳以上70歳未満の定年の定めをしている事業主、または継続雇用制度を導入している事業主は、以下①~③に掲げる措置のいずれかを講ずることにより、現に雇用している高年齢者の65歳から70歳までの安定した雇用を確保する努力義務を課せられました。

いずれかの措置

  1. 1
    定年の引き上げ
  2. 2
    65歳以上継続雇用制度
  3. 3
    定年の定めの廃止

ただし、以下で説明する、④、⑤の創業支援等措置を講ずることにより、当該高年齢者の65歳から70歳までの安定した就業の機会を確保する場合には、上記①~③は免除されることになりました。

企業支援、社会貢献支援
  1. 4
    現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者が新たに事業を開始する場合等に、事業主が、当該事業を開始する当該高年齢者との間で、当該事業に係る委託契約その他の契約を締結し、当該契約に基づき当該高年齢者の就業を確保する措置
  2. 5
    現に雇用している高年齢者が希望するときは、次に掲げる事業について、当該事業を実施するものが当該高年齢者との間で、当該事業に関する委託契約その他の契約を締結し、当該契約に基づき当該高年齢者の就業を確保する措置
  1.  当該事業主が実施する社会貢献事業
  2.  法人その他の団体が当該事業主から委託を受けて実施する社会貢献事業
  3.  法人その他の団体が実施する社会貢献事業であって、当該事業主が当該社会貢献事業の円滑な実施に必要な資金の提供その他の援助を行っているもの
高年齢雇用継続給付の段階的廃止

また、高齢者の雇用促進を阻むとして、その必要性が議論されていた高年齢雇用継続給付(60歳から64歳までの間に賃金が75%以下になった場合支給される給付金で、在職老齢年金との調整あり)は、給付を令和7年度から縮小するとともに(令和7年4月施行)、65歳から70歳までの高年齢者就業確保措置の導入等に対する支援を雇用安定事業として位置付けました(令和3年4月施行)。

国民年金法と厚生年金法

令和2年5月29日 成立
令和4年4月施行予定(例外あり)

ポイント

労働者が65歳以降も働き続けている場合には、年金額が毎年増額改訂されることになりました。また月額28万円以上働いている場合に支給停止されていた60歳から64際の特別支給の厚生年金の支給停止基準は月額47万円以上に引き上げになります。確定拠出年金についても適用要件などが緩和されました。働き続けることにメリットを感じられるよう制度を変更したものといえそうです。

より多くの人がより長く多様な形で働く社会へと変化する中で、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るため、短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大、在職中の年金受給の在り方の見直し、受給開始時期の選択肢の拡大、確定拠出年金の加入可能要件の見直し等の措置を講ずることとなりました。

働いていれば毎年増額、支給停止を47万円以上に引き上げ

(1)在職中の年金受給の在り方の見直し

  1. 1
    在職中の老齢厚生年金受給者(65歳以上)の年金額を毎年定時に改定することとしました。厚生年金は長く加入するほど受給開始後の年金額も上がりますが、現在は65歳以降、厚生年金をもらいながら働いている期間は厚生年金の額に変化がなく、退職するか70歳になった時点でまとめて計算して増額する仕組みになっていました。

    今回の改正で年に1回、10月分以降、増額される仕組みに変わり、「働き続ければ年金が増える」ことをより実感しやすくなる制度になりました。

  2. 2
    60歳から64歳に支給される特別支給の老齢厚生年金を対象とした在職老齢年金制度について、支給停止とならない金額を28万円から47万円(令和2年度額)に引き上げます(ただし60代前半に厚生年金⦅特別支給の老齢厚生年金⦆が出るのは1961年4月1日生まれ以前の人だけです)。
受給開始時期の選択肢の拡大、確定拠出年金の加入可能要件の見直し等

(2)受給開始時期の選択肢の拡大

現在60歳から70歳の間となっている年金の受給開始時期の選択肢を、60歳から75歳の間に拡大しました。

(3)確定拠出年金等の加入可能要件の見直し等

  1. 1
    確定拠出年金の加入可能年齢を引き上げるとともに、受給開始時期等の選択肢を拡大します。
    ※企業型DC
    厚生年金被保険者のうち65歳未満→70歳未満
    個人型DC(iDeCo)
    公的年金の被保険者のうち60歳未満→65歳未満
    確定拠出年金の受給開始時期上限
    70歳→75歳
  2. 2
    確定拠出年金における中小企業向け制度の対象範囲の拡大(100人以下→300人以下)、企業型DC加入者のiDeCo加入の要件緩和など、制度面・手続面の改善を図ります。

まとめ

人生100年時代という言葉もすっかり定着した昨今ですが、コロナウイルス感染症拡大の影響等により企業も労働者も時代の急激な変化に沿った自己変革を求められています。一連の法改正はシニア世代の継続就業には追い風ですが、シニア期の就業を若い時からの延長線上と捉えるのではなく、若い世代とフラットな関係性を築き直し、イノベーションを支援する役割や職責を積極的に担っていく姿勢が求められているように感じています。
一方企業においては、これまでより一層、健康経営の視点が欠かせない時代に突入したといえそうです。

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