人事評価改革に欠かせないタレントレビューとリアルタイムフィードバック

これまでの評価手法では、変化が激しいVUCA時代においては、個人や組織のパフォーマンス向上につながっていないと考えられるようになってきたため、人事評価に変革が求められるようになっている。年次の評価に向けて上司、部下双方が、事前に大量の書類を用意したり、多くの会議に参加したりする。ことに評価者としてのマネージャーがそれに要する時間は膨大なものだ。そのような労力に対し、人事評価によるプラスの効果が見えづらい。費用対効果の観点からも見直しが図られる人事評価のあるべき姿を有識者に聞いた。

タレントレビューが部門ごとの評価基準を支える

どのように人事評価を変革しているのか。欧米ではノーレーティングを導入する企業が増えている。ノーレーティングといっても、人財を評価する活動自体をなくすということではない。その本質は、これまでの「成果主義」人事システムを見直し、時代に即した人事評価の枠組みを再構築することにある。画一的な基準で社員を評価するのではなく、ディスカッションを通じて部門ごとに求められる人財像を明らかにしていく。そして、親密なコミュニケーションをベースにして、相応しい人財を育成できるようなマネジメントを取り入れていくことが求められている。

では、具体的にどのように取り組めばよいのか。特に重要になるのが「タレントレビュー」と「リアルタイムフィードバック」であると、エム・アイ・アソシエイツ代表取締役社長の松丘啓司氏は話す。タレントレビューとは、部門ごとに直属の上司をはじめ経営層や人事担当者が集まり、メンバー一人ひとりの強みや課題からキャリアプランなどの個人の成長シナリオについて話し合う会議を指す。

「各部門において求められる人財像や資質・能力を最も理解しているのは、その部門の経営メンバーです。できるだけ各部門に評価を任せることが重要。基本給などの基礎になる等級の枠組みは人事部門が決めるとしても、その等級を満たす具体的な要件は人事ではなく部門ごとに考えるべきです。

例えば、その部門の人財に求められる能力とはどんなもので、いかなる要件をクリアすれば、その能力を満たしたと判断できるのか。あるいは、その部門でイノベーティブな仕事を成し遂げるとは具体的に何を指すのか。タレントレビューの積み重ねを通じて、その部門なりの評価基準を構築していくのです」

またタレントレビューを行うには、上司がメンバー一人ひとりのために多くの時間を費やすことが重要になると松丘氏は続ける。

「これまでのように過去を振り返るための資料づくりではなく、メンバーの将来を見据え、個々人の強み、成長課題、育成プランについて、タレントレビューの場で話せるようにしなければなりません。上司はその準備のために多大な時間が必要になります。ただし、部下の育成を前提にしたタレントレビューがしっかりと機能していれば、短期的な年次評価よりも適切な昇進判断などが可能となるはずです」

日本では、目標や評価基準、昇進について人事部門や経営上層部が決めるもの、上から与えられるものだと思われがちだ。「人財の評価に対する当事者意識、責任意識を持ってもらうためにも、できるだけ各部門に任せるべき」と松丘氏は言う。それによって、人財育成に対する社内の機運も高まると期待できる。

リアルタイムフィードバックの重要性

人財は、さまざまなビジネスの経験を通じて成長する。そのためには、本人による振り返りや上司による適切な支援がリアルタイムで行われるのが望ましい。上司と部下との頻繁なフィードバックを取り入れることも重要だ。

このときに上司が気をつけなければならないのが、意思決定の主体が「部下」にあるという認識。目標設定や、その目標達成に向けた行動や改善点などを決めるのは部下自身である。上司がやるべきは、その目標に向けて、部下の経験学習がより効果的なものになるよう支援すること。ただ、これまでの評価に慣れた上司に、急に変えてみようと伝えるだけでは結果はともなわない。部下との面談を効果的で有意義なものにするため、ミドルマネジメントに対する新たな研修を取り入れることも必要になる。

効果的な研修手法として松丘氏が挙げるのが、部下との対話を想定したロールプレイ研修だ。参加者と講師がそれぞれ上司役や部下役などを担い、現実に近い面談体験を通じて、部下の目標やビジョンを引き出す手法を学んでいく。そこで自分が活用できそうだと感じる手法を見つけ、職場で実践してみる。仮にうまくいかなければ別の手法を試す……という試行錯誤を積み重ねていく。以下のような質問例を参考にするのも良いだろう。

表 フィードバック時に部下に対する上司の質問例

強み・価値観を理解するため
  • どのような仕事をしているときに好調だと感じますか?
  • 日常生活の中で自然に心がけているのは、どのようなことですか?
キャリアビジョンを引き出すため
  • 3~5年後に、どのような活躍をしていたいですか?
  • いろいろな制約をいったん忘れると、どうなることができれば幸せだと思いますか?
強みの発揮を促すため
  • 今よりもっと充実感を得られるようになるためのチャレンジは何でしょうか?
  • あなたの強みを用いて、他のメンバーに貢献できることは何があるでしょうか?
振り返りを促すため
  • 最近、仕事で充実感や達成感があったのはどういうときですか?
  • 仕事をもっとうまくやるために、何が必要だと思いますか?

「日本では、部下が自分自身で目標やビジョンを立てる経験が乏しく、上司にはそれを引き出す技能やノウハウが求められます。こうした研修は、面談のスキルを身につけるだけでなく、人財育成や評価に対するミドルマネジメントの意識改革にもつながるので、ぜひ取り入れてほしいですね。
また、部下も上司を理解する姿勢を持つことがとても大切です。自分の上司は仕事に対してどんな価値観やこだわりを持っているのか。心情的に譲れないことは何なのか。一方通行ではなく、双方が理解を深めることで、チーム内のコミュニケーションの質が高まります。それは人財の評価や育成にも良い影響を与えるはずです」

「上司と部下との面談」というと、日本ではどうしても義務的なイメージが強く、楽しいものとは思いにくい。しかし、それを「自分なりの収穫や気付きがあった」「またやりたい」と思えるような有意義な体験に変えていく発想が大切だと松丘氏は言う。

「企業価値を高める上で、最近では顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)と同様、従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス)の重要性が日本でも意識されるようになっています。上司との面談について『嫌だけど義務だからやる』と考えるA社と、『有意義で自分のためになるからぜひやりたい』と捉えるB社があったとすれば、後者の方が当然社員たちのモチベーションやパフォーマンスは高まるでしょう。部下との面談においても、どれだけ満足度の高い体験を提供できるかという視点を持つことが重要です」

人事部門に求められる新たな役割

ノーレーティングの導入は、人事部門の変革の契機にもなると松丘氏は強調する。

「一律の評価基準をなくし、人事評価をできるだけ各部門に任せよと言うと、人事部門の業務が減るように思われるかもしれませんが、実際はまったく逆です。

これからは人事制度の構築やその運営・管理よりも、現場の人財マネジメントを総合的に支援するのが人事部門の大きな役割になります。具体的には、部門ごとの人財育成の方針に相応しい研修プログラムや、マネージャーの悩みに応えるようなワークショップの手法などをアドバイスしていくことが求められるでしょう。当然、今まで以上に知識やスキルが必要です。

人財評価の見直しを契機に、ぜひ人事部門の改革も進めるべきです。『人財のことで悩んだら真っ先に人事部に相談しよう』と頼りにされるような人事部門を目指してほしいと思います」

Profile

阿部 淳一 アベ ジュンイチ
松丘啓司氏
エム・アイ・アソシエイツ株式会社 代表取締役社長

1986年東京大学法学部卒業。アクセンチュアで一貫して人財・組織変革のコンサルティングに従事。2005年に企業の人財・組織モデル革新を支援するエム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立。パフォーマンス・マネジメント、ダイバーシティ&インクルージョンなどの領域を中心にサービスを提供。著書に『人事評価はもういらない』『1on1マネジメント』(ファーストプレス)など。

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