総務や人事の仕事と思われがちですが、経理にとっても重要な仕事のひとつに給与計算があります。会社で働く従業員の給与を確定し、支払う業務ですので、ミスが許されません。また、給与計算はすべての業務をひとりで担うわけではなく、チームで分担したり、別の部署と協力したりして行うこともあるようです。それぞれの工程について、きちんと理解しておかなければなりません。さらに、給与計算は保険や税金がからむ複雑な業務のため、理解を深めて落ち着いて対応する必要があります。
ここでは、経理も知っておきたい給与計算の手順や、チェックポイントについて解説していきます。
給与計算とは?
従業員の給与額を計算する給与計算業務。雇用契約や会社の規定などに基づいて、勤怠状況や手当などを計算し、給与の総支給額を求めます。健康保険料や厚生年金保険料、雇用保険料などの社会保険料や、所得税、住民税などの税金を差し引き、最終的な手取り額を算出します。
給与計算は単純な計算業務と思われがちですが、社会保険料や税金を計算し、徴収・納付まで行うため、国の事務を代行しているともいえる、大切な業務です。
給与計算にミスは厳禁!
企業と従業員は、労働に対して給与を支払うという労働契約を結んでいるため、給与計算は契約を履行するために欠かせない業務です。また、従業員にとって給与は重要な生活の糧であるので、支払いの遅延や支給額のミスは許されません。万が一、支給額にミスがあったら、従業員の会社への信頼が失墜してしまうだけでなく、調整が発生して、お互いに手間がかかってしまいます。
支給額のミスだけでなく、社会保険料や税金の計算ミスも厳禁です。社会保険料は社会保険事務所から納付額の通知が来るためミスを防ぎやすいですが、税金はしっかりと計算して納付しなければ、追徴課税となってしまう可能性があります。企業のコンプライアンス遵守に傷をつけないためにも、労働基準法や雇用保険法、税法といった法律の専門知識を押さえておく必要があります。
労務・税務の知識が必要
給与計算を正確に行うためにも、「労務」「税務」「情報漏洩」に関する知識が求められます。
例えば残業代を計算する際、ミスが発生すると残業代の未払いにつながるため、労務リスクが発生してしまいます。税金の計算ミスにより支払い漏れが発生すると、税務リスクを引き起こします。
給与計算の手順
給与計算は、実際どのような手順で行うのでしょうか。具体的に見ていきましょう。
1.各種手当・勤怠データから総支給額を算出
まずは、雇用契約書や就業規則で定められている基本給と、各種手当や勤怠データを基に変動する給与額を計算し、総支給額を算出します。
残業代や深夜手当、休日出勤手当に関しては、以下の計算式を用いて求めます。
休日出勤手当=時間外労働の時間数×1時間あたりの賃金×割増率
例えば、22時から5時までの深夜手当は割増率を25%以上とするように、労働基準法によって最低ラインが定められています。また、日々の計算において、労働時間は1分単位で計算に含める必要があり、15分未満を切り捨てるなどの判断は違法となるので注意が必要です。
2.社会保険料・税金・その他の控除額を計算
社会保険料や税金といった控除の計算を行います。雇用保険料や健康保険料、厚生年金保険料などのほかに、40歳以上65歳未満の従業員に関しては、介護保険料も計算しなくてはなりません。
所得税は毎月、おおよその金額を算出して税務署に納付します。1年間の正確な所得税額は年末調整で計算し、通常、従業員が還付金を受け取って調整されることになります。
住民税は、各市区町村から毎年5月に納付書が届きます。会社は、納付書に記載された額を従業員の給与から毎月差し引く、源泉徴収を行うことになります。
3.総支給額から控除額を差し引き、手取り額を決定
計算した総支給額から控除額を差し引き、手取り額を決定します。この際、計算ミスがないか、特に注意して確認しましょう。
4.台帳作成などの事務処理
賃金台帳や給与明細の作成など、事務処理を行います。賃金台帳とは、従業員の給与の支払い状況を記載した書類のことで、労働基準法によって作成と保管が義務付けられています。
定期監督や申告監督(臨検)の際に、労働基準監督署から労働時間の管理ができているか、または不利益変更がないか確認するために、賃金台帳の提出を求められることがあります。給与明細で代用できると考えず、賃金台帳を作成して正しく保管しましょう。
5.従業員へ給与を支給し、税金や保険料を納付
確定した給与は、所定の給与支給日に支払えるよう手続きを行います。所得税や住民税といった税金は、給与を支払った翌月10日に税務署へ納付します。
社会保険料は各担当役所から納入通知書が来るため、それを基に月末までに支払いを行います。
雇用保険は年1回まとめて納めます。毎年7月に、当年4月から来年3月までの1年間の見込み金額を納付して、ずれが生じた場合は翌年の支払い時に調整します。
給与計算で注意すべきポイント
給与計算の手順についてご紹介しましたが、実際に業務を行ううえで注意すべきポイントはどこにあるのでしょうか。
業務範囲を確認
給与計算業務は会社によって担当部署が異なるケースがあります。総務部や管理部が一括して行う場合や、人事部と経理部で手分けして行う場合など、さまざまなパターンがあるようです。
そのため、まずは自分の担当領域や業務範囲を上司や先輩に確認するようにしましょう。
労働基準法の「賃金払いの5原則」を頭に入れておく
労働基準法で定められた「賃金払いの5原則」は、給与計算業務において必ず押さえておくべき事項です。賃金払いの5原則は以下のとおりです。
賃金払いの5原則
- 通貨払いの原則
- 直接払いの原則
- 全額払いの原則
- 毎月1回以上払いの原則
- 一定期日払いの原則
これらを満たさないと、労働基準法違反となってしまいます。
残業代の割増しや時間外に注意
労働基準法では、法定労働時間を週40時間と定めています。これを超える残業についての割増率は、残業手当が25%、休日出勤手当が35%となっています。
夜10時から朝5時までの時間帯は、別途、深夜業として25%割増ししなければなりません。割増賃金の加算を忘れずに、給与計算を行うようにしましょう。
端数は労働基準法に準拠
労働基準法では、割増賃金の端数処理についても定められています。その内容は以下のとおりです。
割増賃金の端数処理
- 1時間あたりの割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、50銭以上1円未満の端数を1円に切り上げる。
- 1ヵ月間における割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、50銭以上1円未満の端数を1円に切り上げる。
独自の判断で端数を処理すると法律違反となる可能性があるため、慎重に対応することが求められます。
固定給与と非固定給与の確認
固定給与は、労働契約や就業規則に基づいて算出できますが、非固定給与は従業員によって変動します。
なお、固定給与は毎月決まった金額の給与を指し、個人の能力や勤務時間に関係なく支払われます。
役職手当や資格手当といった、一定額が支給される手当も固定給与に含まれます。
一方、非固定給与は、残業手当や休日手当、インセンティブなど、個人の働きで金額が変動する給与のことです。
非固定給与は個人の勤怠状況や成績によって異なるため、ミスが発生していないか、しっかり確認しましょう。
ミスなくスムーズに給与計算を行おう
給与計算は毎月発生する業務ですので、回数をこなしていくうちに自然と慣れていくはずです。しかし、会社の信頼やコンプライアンスに関わる業務なので、ミスは絶対に許されません。
給与計算の手順と注意すべきポイントを押さえて、実際に業務する際はミスがないように、慎重に対応していきましょう。
監修:梅澤真由美
profile 2002年公認会計士試験合格。管理会計ラボ(株)代表取締役。監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)、日本マクドナルド(株)およびウォルト・ディズニー・ジャパン(株)を経て、管理会計ラボを開設。
管理会計や経理実務の分野を中心に、セミナー講師、書籍や雑誌の執筆、コンサルティングに活躍中。 著書に『今から始める・見直す 管理会計の仕組みと実務がわかる本』(中央経済社)がある。