働き方 仕事の未来 キーワードで見る2019年の雇用・労働②「人生100年時代の雇用のあり方」70歳までの就業機会の創出へ

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2019.03.22

2019年は働き方改革関連法が施行され、これまで3年以上議論してきた働き方改革が本格的な実行段階に入ると同時に、新たな政策課題として浮上した外国人労働者と高齢者の雇用拡大に取り組んでいく――。
日本の雇用・労働にとって大きな節目の年として記憶されることになるかもしれない。
個人にとっては、人生100年時代の到来はキャリア形成に不確実性をもたらす。自律的なキャリア開発への取り組みが引き続き求められる。
2019年に注目されるトピックスのなかから、企業とそこで働く人はどんなことに留意するべきか。雇用・労働の専門家に話を聞いた。

2018年秋、政府は「人生100年時代」の到来を踏まえ、本人が希望すれば70歳まで働けるための環境整備についての議論を開始した。未来投資会議などを中心に検討を進め、20年に高年齢者雇用安定法改正案を国会に提出する方針だ。

企業は現在、「定年の延長」「定年制の廃止」「嘱託などの再雇用」のいずれかの措置により、65歳まで継続雇用する義務を負っている。政府は法改正によって70歳までの就業機会の確保を求める考え。ただし、高齢になればなるほど身体能力や健康状態、仕事の能力などの個人差が大きくなるので、一律に雇用確保を求めれば企業の負担は重くなる。そこで65歳以降の就業のあり方については、企業側により自由度の高い選択肢が用意される予定だ。

独立行政法人労働政策研究・研修機構労働政策研究所長の濱口桂一郎氏は次のように分析している。

「70歳までどのような雇用形態で、具体的にどんな仕事を任せるのか、賃金体系はどうすべきか、今後1年をかけて議論していくことになります。現実問題として、直接雇用だけで受け皿を確保できるかは微妙だといえます。現行制度でも、特定の子会社への移籍・出向などは継続雇用に含まれていますが、今後はさらに範囲を広げ、資本関係等のない会社への転籍や、再就職の斡旋に近い方法まで含めて検討することになるのではないでしょうか。シニア層を想定した転職市場の整備も必要です」

人生100年時代を見据えた雇用の確保はもちろん容易ではない。関連するさまざまな制度の見直しが必要となるからだ。

年功要素の強い賃金体系の見直しもその一つだ。仮に年功制を維持したまま定年延長すれば、企業としては賃金コストがかさむため、その分若年世代の賃金水準を圧迫する可能性がある。また、一旦退職して再雇用する道を選んだ場合は賃金水準が大幅に下がることが多く、不満が生まれやすい。シニア社員の就労意欲を高めるために、能力や成果、仕事内容に応じた賃金制度の導入など、処遇を改善する動きが企業にも広がり始めている。

今後ますます高齢化が進むことを考えると、中長期的には働く機会そのものを社会全体で創出していくことが重要になるといえる。

「雇用労働の範囲にとどまらず、定年退職者が個人事業主となり、元の勤務先から業務の外注を受けるといった方法で就業の場を確保していくことも一案です。
ネットを通じて不特定多数の人々(クラウド)に業務を依頼する『クラウドソーシング』の普及は、高齢者の就業機会創出のための重要な手段となっていくかもしれません」(濱口氏)

高齢者雇用のための制度設計は、年金制度をはじめとする社会保障制度の改革とセットで進めることが欠かせない。

「現役世代と高齢者との人口のアンバランスが拡大すれば現状の年金制度が行き詰まるのは当然ですが、70歳まで働ける代わりに年金支給開始年齢が引き上がることには受給者は抵抗感があります。人生100年時代の議論の過程で、社会保障制度の改革は、非常に重要な論点となるでしょう」(濱口氏)

Profile

濱口桂一郎氏
独立行政法人労働政策研究・研修機構労働政策研究所長

東京大学法学部卒業。労働省(現厚生労働省)入省。東京大学大学院法学政治学研究科附属比較法政国際センター客員教授、政策研究大学院大学教授などを経て現職。専門は労働法政策。近著に『働く女子の運命』(文春新書)。