仕事の未来 インタビュー・対談 人財 働き方 働き方の多様化がイノベーションをもたらす

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スペシャル対談 働き方の多様化がイノベーションをもたらす クリスティーナ・アメージャン氏 一橋大学大学院 経営管理研究科教授 平野健二 アデコ 執行役員 ジェネラル・スタッフィングCOO

現在、一橋大学大学院で教授を務めるとともに、三菱重工業株式会社などの日本企業の社外取締役も兼務するクリスティーナ・アメージャン氏が初来日したのは40年近く前のこと。当時の日本の会社員の働き方は、外国人の彼女の目にどのように映ったのでしょうか。そして、現在の働き方は──。日本企業で働いた経験もあるアメージャン氏と、アデコ社内での新しい働き方の実現を目指すプロジェクト「Adecco Future Way of Work Project」を率いる執行役員の平野健二が、働き方の現在と未来について語り合いました。

夕方5時になると本気で働き出す人たち

平野

日本に初めて来られたのは1981年だそうですね。日本企業で働かれた経験もあるのですか。

アメージャン

最初の日本滞在は4年間だったのですが、そのうちの2年間は京都の大手メーカーで会社員として働きました。

平野

日本人の働き方を見て、どのように感じられましたか。

アメージャン

当時、驚いたのは、勤務時間中にあまり働かない人が多いことでした。日中はおしゃべりをしたり、タバコを吸ったりしていて、夕方5時になると突然一生懸命働き出すんです(笑)。

平野

残業時間になると本気を出すということですか。

アメージャン

そう。残業をすることが前提で、5時過ぎまで働けるよう体力を残しているんです。残業をすれば残業代がもらえるし、早く家に帰ると奥さんに怒られるでしょう(笑)。私は、大学の指導教官で『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を書いたエズラ・ヴォーゲル先生の勧めで日本に来たのですが、「これがジャパン・アズ・ナンバーワン?」と思いました。「時間はコスト」という発想は、当時の日本の会社員にはほとんどなかったのではないでしょうか。

平野

今はずいぶん変わったと思いますが、それでも「効率的に働く」という考え方がまだまだ根づいていないところはあるかもしれませんね。会議のための会議が普通になっていたり、上司が長く働く部下を評価したりするケースは今も少なくはないと思います。

アメージャン

ホウレンソウ(報告・連絡・相談)とか根回しとか、チームの調和のために時間を使う傾向が日本の企業にはありますよね。もちろん、人間関係をよくするために努力することは素晴らしいことですが、そこに力を入れるあまりに仕事の生産性が下がってしまうのは、外国人の私から見るとちょっとおかしいと感じます。

「働き方の多様化」と「成果の見える化」

平野

昨年3カ月半ほど英国で生活したのですが、そのときに多くの英国人が「日本人は働きすぎて病気になる」というイメージを普通に持っていることを知りました。やはり、外国人から見ると日本人は働きすぎなのでしょうか。

アメージャン

アメリカでも働く人はものすごく働きます。日本と違うのは、それが個人の選択の結果ということです。仕事はとても忙しいけれど、給料がよくて、短期間でマネジメント職に就くことができる。だからその仕事を選ぶ。そんな人がいる一方で、子どもと家庭で過ごす時間を大切にしたいから、あまり働かないという人もいます。一人ひとりが自分の意志でそういう選択をしているわけです。

平野

働き方に多様性があるということですよね。それはとても重要なことだと思います。当社でもリモートワークやフルフレックスの仕組みを導入して、働き方の多様化を進めているところです。
しかし、単に多様化を進めればいいということではないと思っています。私が常々考えているのは、「働き方の多様化」は「成果の見える化」とセットでなければならないということです。それがないとそれぞれの働きを評価できないからです

アメージャン

成果を見える化するには、その人のKPIが明確でなければいけませんね。

平野

ええ。しかも、上司と部下の間だけでなく、同僚間でもそれぞれのKPIとそれに対する成果が可視化されるべきだと私は考えています。定時勤務に慣れた社員の中には、リモートワークやフレックスを活用しながら成果を出す自信がない人がまだまだたくさんいます。でも、同僚のKPIと成果が透明になっていて、これまでと違った働き方で成果を出している成功例が共有されれば、みんな自分に合った働き方を自信をもって選べるようになると思うんです。

アメージャン

重要なのは、個々の社員のKPIが企業の戦略にはっきり結びついていることです。すべての企業にはミッションがあって戦略があります。それを実現するために、それぞれの社員が何をやらなければならないのか。そこからおのずとKPIが設定されることになります。
もう一つ大事なことは「成果」だけでなく「成長」も評価の対象にすることです。以前はできなかったことができるようになった。そんな成長が評価される仕組みや文化が必要だと思います。

平野

部下の成長が感じられたときに上司が常に褒めてあげれば、社員のモチベーションは上がりますよね。もちろん、本人に「成長したい」という思いがあることが大前提ですが。

マネージャーのマインドセットの変革を

平野

私たちは、2017年11月から「Adecco Future Way of Work Project(Adecco Future WOW!)」というプロジェクトを始めました。技術の進化が進み、環境が大きく変わっていくこれからの時代に、今のままの働き方ではビジネスを成長させていくことはできない──。そんな問題意識がこのプロジェクトの背景にあります。このプロジェクトでは、トップダウンによる働き方改革ではなく「主体的に、自分自身でよく考え活動する。楽しみながら取り組む」というグランドルールを掲げ、5つのワーキンググループに分かれ変革を進めています。

アメージャン

それは素晴らしい取り組みですね。とにかくトライしてみて、ベストプラクティスを共有していくことが大切だと思います。新しいことをやれば必ず失敗もありますが、そこからいろいろなことを学べるはずです。すでに成果は上がっているのですか。

平野

リモートワークの活用率は確実に上がっていますね。それから、会議時間の削減も進んでいます。私自身、自分の部署の会議時間を減らすことをKPIにしています。無駄な会議はすぱっとやめる、アジェンダを会議の前に共有する、会議時間は15分単位で設定する。そんな施策によってKPIの達成を目指しています。社員のマインドも徐々に変わりつつあります。

アメージャン

現場のマインドセットを変えるには、まずはマネージャーが変わらないといけませんよね。

平野

まさにそこが重要だと思います。私もできるだけ在宅勤務の時間を増やすようにしています。3年ほど前、外資系企業で働く知人が「週に3日は家で仕事をしている」と話すのを聞いて、「え、家で仕事ができるの?」と正直思ったものですが、自分で実際にやってみて、非常に効率的であることがよくわかりました。おっしゃるように、まずはマネージャーがチャレンジしてみて、自分のマインドセットから変えていくことが大切だと思います。

イノベーションを創出するための多様な力をまとめるリーダーシップが必要

アメージャン

企業とは一種のコミュニティです。人が生きていくうえでコミュニティは必要ですが、一つのコミュニティだけで生きていると、視野が狭くなるし、新しい発想も生まれなくなります。働き方が変わることの一番のメリットは、時間に余裕ができて、外部のコミュニティにネットワークを広げられることです。地域活動、趣味のサークル、ボランティア、副業などを通じて会社とは違ったコミュニティに触れることで、自分の会社の問題点が見えてくるし、外部のベストプラクティスを社内に還元することもできるはずです。

平野

それこそが、まさにダイバーシティですね。

アメージャン

そのとおりです。ダイバーシティという言葉は、もっと広く捉えられる必要があります。女性や外国人、障がい者の採用を増やすことももちろん大切なことですが、それは「サーフィス(表面的な)ダイバーシティ」です。イノベーションは「ディープダイバーシティ」から出てくるものです。
人には、性別や国籍、ハンディキャップの有無といった違いだけではなく、経験、感性、考え方などの違いがそれぞれにあります。その違いを重視するのがディープダイバーシティです。個々の社員がいろいろな活動をし、いろいろな経験をすれば、多様なアイデアが会社にもたらされます。そこからイノベーションが生まれるのです。

平野

課題は、個人の多様な力をまとめていかに組織の力としていくかだと思います。そのために必要なのは、強いリーダーシップではないでしょうか。

アメージャン

そう思います。私は現在、一橋大学で「渋沢スカラープログラム」のディレクターを務めています。これは、グローバルリーダーを育成することを目的としたプログラムで、毎年20名近くの学生が参加し、英語を学び、外国人と一緒にチームを組んでプロジェクトを進めています。プログラムのモットーは「Out of your comfort zone(居心地のいい場所から抜け出そう)」です。外国人と英語でディスカッションをし、自分の意見を述べることは、初めての人にはとても怖いことです。しかし、それに挑むことで人は成長することができます。チャレンジがなければリーダーシップを身につけることはできない。私はそう考えています。

平野

やはり、リーダーシップは若い頃から学ぶ必要があるのでしょうね。

アメージャン

一般的に言って、40歳、50歳になってからリーダーシップを学び始めるのは遅いといえます。しかし、ライフステージが進むことによって発揮されるリーダーシップもあります。例えば、出産や育児を経験することでリーダーの才覚を発揮するようになる女性がいます。つまり、リーダーシップには経験値も必要とされるということです。重要なのは、いくつになっても常に挑戦できるチャンスがあることです。

平野

アデコグループは「キャリア開発があたりまえの世の中をつくる」というビジョンを掲げています。リーダーシップを含めた人財育成のあり方を考え、社内外におけるキャリア開発を「あたりまえ」のものにしていく。そんな取り組みを今後も続けていきたいと思います。

アメージャン

人財教育は、本来なら大学などの教育機関がやるべき仕事です。しかし残念ながら、それがなかなか機能していないのが現状です。ぜひアデコグループには、優れた人財を育てていっていただきたいですね。

Profile

クリスティーナ・アメージャン氏
一橋大学大学院 経営管理 研究科教授

ハーバード大学卒業。1987年スタンフォード大学経営大学院でMBA(経営学修士号)、95年カリフォルニア大学バークレー校でPh.D.(博士号)を取得。民間企業での勤務経験を経て、95年米コロンビア大学経営大学院助教授。2001年から一橋大学大学院で教鞭を執り、現在、組織行動やリーダーシップ、経営、コーポレート・ガバナンスなどを教える。現在、三菱重工業株式会社、株式会社日本取引所グループ、住友電気工業株式会社の社外取締役を務める傍ら、数多くの日本企業や多国籍企業に対する研修やコンサルティングも行う。

平野健二
アデコ執行役員 ジェネラル・スタッフィング COO

2004年にアデコ入社。15年に首都圏事業本部長就任し、18年に執行役員兼ジェネラル・スタッフィングCOO(首都圏事業本部長)に就任。