デジタルネイティブ世代の持ち味を生かし組織で活躍してもらうために

2018.10.1 MON

1990年代後半から2010年頃にかけて生まれた「ジェネレーションZ世代」。(※1)
そのなかでも25歳以下は特に「デジタルネイティブ」とも呼ばれ、物心ついた時からスマートフォンに慣れ親しみ、コミュニケーション方法や価値観、労働観において、ほかの世代とは違った特性があるといわれる。今後、ますます割合が増えていくこの世代に能力を発揮してもらい、活躍を促すことは企業にとって欠かせない。彼らをどのように活用すべきか。能力を最大限に引き出すための留意点は何か。
デジタルネイティブ世代の人財マネジメントに詳しいデロイト トーマツ コンサルティングの田中公康氏に聞いた。

※1 Deloitteでは調査において「ジェネレーションZ世代」を1995 年1月から1999年12月の間に生まれた世代、 「ミレニアル世代」を1983年1月から1994年12月の間に生まれた世代と定義している。

「デジタルネイティブ」はどんな傾向を持つのか。
田中氏は主に「本物志向」「自律成長」「フラットな信頼関係」「社会的価値提供」「デジタルとの高い親和性」の5つを挙げる(図1参照)。

図1デジタルネイティブ世代の5つの特徴

1 本物志向

外形的なイメージよりも本質的な品質、目先の経済的な価値よりも社会貢献や倫理観など、持続可能性を考慮した本物の価値を志向する。働くモチベーションとしての収入には必ずしも重きを置かない。

2 自立成長

何のために生きるのか、何のために働くのかという目的意識を持ち、それに向かって成長することを重視する。目的や成長に合致するスキルや専門性に対しては高いモチベーションを示すが、合致しないことには関心が薄い。

3 フラットな信頼関係

タテ社会の階層構造を前提とした、上意下達の人間関係を好まない。年齢にかかわらず、フラットで対等な関係性のなかで互いに認め合い、成長していくことを求める。

4 社会的価値提供

社会課題の解決や新たな社会構想の提言など、社会に対する自分の存在意義、価値を大切にする。

5 デジタルとの高い親和性

デジタルスキルやプログラミング的思考を身につけている。情報検索能力が高い。オンラインとオフラインのコミュニケーションを区別せずに日常的に利用する。

物的な豊かさを当たり前に享受してきたため、目先の経済的な利益よりも社会貢献や倫理的な行動を優先する傾向にある。目的意識を大切にし、それに合致したスキルや専門性の獲得に強いモチベーションを示す。
一方、共感しにくい、関心度の低い領域には消極的な姿勢を持つ傾向がある。大企業で働くステータスより、やりがいを求めてNPO 法人を選ぶケースも珍しくない。タテ社会や上下関係をあまり好まず、互いの信頼を前提とする対等な関係を求める。オンラインとオフラインのコミュニケーションに差がない。
SNSなどの影響で承認されたいという欲求が強い。情報検索能力に優れ、プログラミング的思考にも強い。これらがデジタルネイティブ世代に見られる代表的な傾向である。

帰属予定期間は「2年以内」が61%

この世代と、現在のマネジメント層に多い40代、50代では、価値観や労働観の違いは明らかだろう。このため、ビジネス現場でのコミュニケーションや人財育成のあり方などで悩みを抱えている管理職は少なくない。

しかし、デジタルネイティブ世代が日本企業に対して提起しているのは、世代間ギャップの問題だけにとどまらないと田中氏は言う。
「日本では年功序列や終身雇用を前提に、定期的ローテーションでキャリアを積ませ、ゼネラリスト型人財を育成していく発想がまだ根強く残っています。組織や人事制度、企業文化全体が、人財の質的変化に対応できていないことこそが大きな問題です。彼ら彼女らに迎合するということではなく、これを契機に多様な人財に柔軟に対応できるよう、人事制度から業務のあり方、企業文化の見直しを図るべき。乗り遅れれば、若い世代に選ばれない企業となり、人財獲得競争でも劣勢になってしまいます」

デジタルネイティブ世代のなかでも、特に優秀な人ほど、自分のキャリア形成に危機意識を持ちやすいと田中氏は分析する。最近では、学生時代に起業して成功したり、ベンチャー企業に転職して若くして幹部社員になったりする例は珍しくない。若手の管理職登用に力を入れている大企業も増えているが、駆け出しのベンチャー企業に比べれば活躍や成長の機会はまだ少ない。近年、入社後わずか数年で離職する若手社員が増えているのも、「同期に比べて、自分の成長が後れているのではないか」といった強い危機感が1つの理由という。

「新卒入社者の離職率に関するデータはよく目にしますが、当社がミレニアル世代とジェネレーションZ世代を対象に行った『ミレニアル年次調査』の2018年版では、現在の組織での帰属予定期間を『2年以内』と回答した人の割合が、ミレニアル世代の間では43%、Z世代に限っては61%にまで上りました。帰属意識に影響する要因として、デジタルネイティブ世代の考える企業の目的と自身の優先順位との不一致が挙げられると思います」

「特区」を突破口に彼らに合致した人事制度改革を

デジタルネイティブ世代の能力を生かすためには、マネジメント層の意識改革が重要だと田中氏は話す。
「日本は海外に比べ、人種や宗教などの多様性が少ない一方で、世代間の価値観の多様性は劇的に進んでいます。自分と考え方の異なる人を尊重し、相手を理解しようとする『ダイバーシティ&インクルージョン』の発想が、デジタルネイティブ世代のマネジメントには不可欠。日常的な指導・育成では、階層構造を前提とした上意下達型の指導方法ではなく、ロールモデルとして彼らに寄り添い、活躍をサポートしていくようなフォロワーシップが求められます」

もちろん、管理職世代にとって、自身が経験してこなかった方法で部下を育成するのは容易ではないだろう。実際、「自分のやり方では若手が動いてくれない」と悩む管理職は多い。デジタルネイティブ世代を想定したマネジメント研修を積極的に取り入れたり、メンター制度のように世代の枠を超えた対話の機会を設けたりするなどの対応が必要になる(図2参照)。

図2デジタルネイティブの人財マネジメントサイクル

評価・退職抑制 チェックイン式(1-on-1)フィードバック EX(※2)観点でのモチベーション向上策(多様な働き方) Know-whoネットワークコミュニティ強化 要員計画 デジタル戦略に基づく役割・要員の定義 内部人材と外部人材のポートフォリオ設計 人材要件の再定義(素質・スキル・経験・価値観・志向) 採用 採用チャネルの多角化(リファラル・ダイレクト)ブランディング力の向上(ロールモデル・好事例の発信) 面接プロセスの見直し(通年採用) 能力開発 プロフェッショナルスキル研修 OJT(コーチやカウンセリング)多様な就労・学習環境(複職・留職・進学)

人事評価制度を見直していくことも重要だ。デジタルネイティブ世代が登場する前から、若くて優秀な人財はどんどん出てきており、すでに年齢と成果がイコールにならない時代になっている。多様な人財に適応できる評価の仕組みをつくり、会社としてどう処遇していくか検討する必要性は高い。

人事制度を一度にオーバーホールするのは困難だが、既存の制度を徐々に変えるなら手を付けやすい。現実的な方法として、デジタルネイティブ世代に親和性の高い、IoTやフィンテックなどに関連する事業部門を「特区」としたり、別会社として独立させ、そこだけに新たな人事評価を試験的に取り入れる例が増えている。資格等級や職位など、人事評価の基本的なフレームワークは維持したまま、具体的にどんな資質や能力、成果を評価するかという評価項目だけを部門独自の人財要件に合わせて設定する方法もある。

「一番良くないのは、考えるだけで実行しないこと。日本の人事制度改革は時間がかかりすぎている例が多く、環境変化のスピードに取り残されてしまう。どの企業も現在、人財獲得に強い危機意識を持っている部門があるはず。そこを特区と位置づけ、小さな改革からやってみる。成功事例を積み重ねることで、社内の改革機運を高めていくのが現実的といえます」

デジタル時代の到来を踏まえた人財マネジメント戦略が重要に

今後は、人事部門もデジタルネイティブ世代を想定した人財マネジメントが求められると田中氏は語る。
AIやIoTをはじめとするテクノロジーの発達に伴い、あらゆるビジネス分野がデジタル化していく。これは、デジタルネイティブ世代が強みを発揮
できる領域の拡大を意味する。今後、どの事業部門にどのような要件を満たした人財が必要になるのか。その採用については従来の新卒一括採用を前提とした考え方でいいのか、あるいは専門の人財コミュニティ(リファラル)や、SNSを活用したスカウティング(ダイレクト)など、新たな採用チャネルを取り入れていくのか。能力開発については、既存のゼネラリスト型の育成モデルで対応できるのか。これらを明確に意識した人事戦略が必要になっていく。
デジタルネイティブ世代のモチベーションを高め、退職抑制のためにも、魅力的な企業風土やオフィス環境を作り上げていくことは重要だ。

図3は、若手社員の在籍予定期間と企業風土との関係についての調査結果を示したものだ。

図3ミレニアル世代の帰属意識と企業文化の関係

[Q現在の所属組織の文化にあてまはるものはどれですか?] 5年以上在籍する意向がある人と2年以内に離職する意向がある人に聞きました。 財務業績を超えた共通の目的意識(目的) 5年以上在籍する意向がある人は40% 2年以内に離職する意向がある人は26% 平等と受容による一体化(一体) 5年以上在籍する意向がある人は36% 2年以内に離職する意向がある人は22% オープンで自由なコミュニケーション(会話) 5年以上在籍する意向がある人は47% 2年以内に離職する意向がある人は31% 従業員が互いに助け合う寛容な企業文化(文化) 5年以上在籍する意向がある人は43% 2年以内に離職する意向がある人は29% すべての従業員にアイデア創出を積極的に奨励(創出) 5年以上在籍する意向がある人は38% 2年以内に離職する意向がある人は24% 若手の向上心に対する支援と理解(支援) 5年以上在籍する意向がある人は34% 2年以内に離職する意向がある人は20% 前述の6つの設問が長期在籍意向の従業員が回答する自社の企業風土を表しています。 (フラットな信頼関係を大切にする創造的で巻き込み型の文化を好んでいます。) 勤務時間及び業績が厳重に管理されている(管理) 5年以上在籍する意向がある人は27% 2年以内に離職する意向がある人は30% 締切・期限に追われている(締切) 5年以上在籍する意向がある人は30% 2年以内に離職する意向がある人は35% 自分の作業に追われ新しいことを学ぶ時間がない(作業) 5年以上在籍する意向がある人は20% 2年以内に離職する意向がある人は31% 利益および財務業績がその他すべてに優先する(利益) 5年以上在籍する意向がある人は20% 2年以内に離職する意向がある人は31% 前述の4つの設問が短期離職意向の従業員が回答する自社の企業風土を表しています。 他には細部にまでこだわることを非常に重要視する 5年以上在籍する意向がある人は38% 2年以内に離職する意向がある人は27% 自分の行動と業績に各自が責任を追う 5年以上在籍する意向がある人は44% 2年以内に離職する意向がある人は40% 職務をきちんと果たすかぎり好きなやり方で働ける 5年以上在籍する意向がある人は33% 2年以内に離職する意向がある人は29% がありました。 (出典:Deloitte"The 2016 Deloitte Millennial Survey." 2016)

5年以上在籍したいと答えた人は、自分の勤務先のことを、社員が互いに助け合う文化や自由なコミュニケーション風土があり、世代に関係なく社員の創造性を重視する職場だと捉えていることがわかる。逆に、勤務時間や業績への管理が厳格で、利益を最優先する風土、目先の作業に追われ学ぶ機会が持てないような職場環境の企業は、2年以内に離職したいと考える人が多い。

「若い世代ほど、自分の所属する企業がどんな文化・風土を持っているかを重視しており、離職率とも密接な関係があります。時間と業績への管理が厳格であったり、利益を最優先する企業が悪いわけではありませんが、相対的には好まれにくくなっている。こうした声を踏まえて企業風土を変えていくような努力は必要でしょう」

自社において、社員がどんな時にモチベーションが上がるのか。モチベーションの阻害要因はどのような局面で生まれるのか。社員に対する満足度調査やエンゲージメントサーベイなどを実施して把握することも有効だ。その結果を整理したうえで、社員の働きがいにつながるエンプロイーエクスペリエンス(EX)の観点を持った自社独自の施策をつくり上げたい。
「せっかく社員へのアンケート調査を実施しても、やっただけで調査結果が生かされないままというケースは少なくありません。具体的なアクションにつなげることが大切です」

Profile

田中公康氏
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
ヒューマンキャピタルディビジョン HRトランスフォーメーションユニット
シニアマネジャー

外資系コンサルティングファーム、IT系ベンチャー設立を経て現職。直近では「デジタル人事(Digital HR)」領域のリーダーとして、生産性・エンゲージメント向上に向けた働き方改革、デジタル活用によるイノベーション創出に向けた組織・人財マネジメント変革などのプロジェクトを多数手がけている。また、HRテクノロジー領域の新規サービス開発にも従事。著書『働き方改革 7つのデザイン』『ワークスタイル変革』等。その他、専門誌への執筆や講演等の実績多数。