インタビュー・対談 人財 若者のキャリア観にどう向き合うべきか【後編】

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社会構造やビジネス環境が激しく変化し続けているなかにおいても、若者が生き生きと働き、自己実現を目指せる社会が理想的な姿です。ご自身もゆとり世代である教育社会学者・福島創太氏と、アデコの人事部門を統括する土屋恵子の全2回にわたる対談の後編では、生産性の最大化を実現し、働く人と企業の双方にメリットがある働き方について、語り合いました。

目的ありきではなく新しい時代の価値探求を

福島

私の母方の祖父は大学の教員でした。母が実家にいた頃は、日夜、学生たちが集まって、にぎやかに議論を戦わせていたそうです。しかし、今の大学生は就職活動競争の激化、早期化などもあって、次のステップに進むのにつながるわかりやすい価値や意味を追い求めがち。議論についても、「その議論は何のためにするのか」という目的を真っ先に考えてしまいがちです。目的ありきの議論から生まれる価値には面白みがないように感じています。

土屋

「自分はこれをやりたい」「これをもっと探求したい」という好奇心や、意欲は大事だと思います。一方で、一つの正解に向かって限定された時間や条件のなかで最短距離で最大効果を得るというゴールでは、主体性は生まれにくいと思います。

福島

はい。学校教育のなかで図らずも身についてしまった「正解探し」の習慣によって、就職活動で不採用になったときにも、「自分の何がいけなかったのか」を必要以上に自問し、どんどん自己の価値を下げてしまっている学生も少なくありません。その一方で、「就職活動はゲームみたいなもの」と割り切って、求められる人財像を演じる若者もいます。

土屋

自分のほんとうにやりたいことや個性を抑えて、周囲が期待するイメージに自己を無理に合わせてしまう傾向があるということですね。「誰かが用意したたった一つの正解がある」という前提から抜けて、自分で考えてみる。働く、ということを、自分が何をしたいか、どのように社会と関わりたいかというちょっと広い視点から考えることも大事だと思います。

福島

そうですね。これは日本特有の現象のようにも思います。欧米では、例えば「自分は国際社会に貢献したいので国連職員を目指します」という、社会を良くするために働くという揺るぎない信念を軸に、就職先を選択する姿勢が見られます。ところが日本の若者は、「社会を良くしたい」という強い意思があるにもかかわらず、それが実際の就職先を選ぶ理由につながっていません。その結果、副業やボランティアとしてNPOや社会貢献活動をする。報酬を得る場所と、社会貢献をする場所を分けて考えていることに私は、違和感を覚えます。

土屋

これは企業側も熟慮すべき課題だと思います。欧米では、すでに多くのミレ二アル世代が、グローバル組織でもローカル組織でもリーダーシップをとる役割に就いています。この世代は、タイトルや昇進ということよりも、社会に価値を提供することで貢献したい、パーパスを大事にしたい、家族との時間も大事にしたい、といった思いが強い世代と言われています。そういった若いリーダーのなかでは、直接的に社会を変えることはできないにしても、自身が率いている会社のなかで、実験的に先進的な事業モデルを築いて、働く人にとっても、顧客にとっても、社会にとっても高い価値を提供していく。そしてその取組みを広く発信することを通じて、間接的に社会に影響を与えていって、より良い未来につなげたいと考えているリーダーもいます。

「学び」で得られた成果を共有し企業のちからに還元する

土屋

「人生100年時代」といわれています。そのなかにおいて、キャリア形成もより長期的視点で捉える必要が出てきました。これだけ変化が激しい時代、私は「ひと一生の学び」が大事だと捉えています。例えば、学校時代での学びの期間が終了しても、働くことを通じて、同僚やお客様との関わりのなかから多くの学びがあると思います。子育てで得る学びも非常に大きいものです。例えば、マンションの理事会や、地域などの小さなコミュニティでのつながりもそう。大人の学びはあらゆるところにあります。そうやって日常的に豊かな学びを実践している父親や母親との会話を通して、子どもの主体性にも良い影響を与えるのではないかと思います。

福島

同感です。子どもの教育は先生だけが担うものではありませんからね。土屋さんの「あらゆる場所が学びの場になる」というテーゼは非常に重要だと思います。例えば、育児休暇のなかで得られる体験は、ほかでは得られない貴重な価値を秘めているはずです。小中高生に対してキャリア教育を実施する企業は増えていますが、逆に彼らと接することで大人が学ぶことも想像以上にたくさんある。企業にもそういったところで獲得された社員の成長を、企業のさらなるリソースに還元するメリットを意識してほしいのです。

土屋

少子高齢化でますます減少する生産年齢人口のなかでは、AIやロボティクスなどの技術革新によって、生産力を拡大する方向にあります。あるサーベイでは、それらの技術革新により、今の小学生が就業する頃には、半分以上が、今はない、新たな業態の仕事になっているといわれています。今ある仕事の半分がなくなるともいわれています。こういった時代では、逆に人にしかできない発想や工夫、創造性が大切で、そのための働き方や学びがいっそう意味を持ってくると思います。だからこそ、こんなふうに働きたい、働くことを通じて社会に関わり、貢献したいというビジョンを持つことが大切だと思います。

福島

私自身、企業、大学での研究、ソーシャルセクターでの活動のパラレルキャリアという働き方を実践しています。同年代のなかには、私のように所属先を複数持つ人も増えてきました。そうなると気づきや成長機会も多くメリットはたくさんあるのですが、時間が限られるだけに、生産性を非常に気にするようになります。

土屋

生産性の向上ということでいえば、場所や時間にとらわれない働き方もそうですね。例えば、大都市圏では、通勤ラッシュがあります。会社まで通う往復の時間でエネルギーを使ってしまい、疲弊した状態で一日が始まるケースが多い。例えば、リモートワークなどで、自宅もしくはサテライトオフィスでも働くことができるといった柔軟な働き方を推進することでそういった時間をなくし、より良い状態で創造性を発揮できるようにしていく。これからは、自身が集中的に取り組めて、アウトプットが最大になる勤務形態を自ら主体的に考え実行することが大事になります。企業もそれを支援したほうが成果につながりやすいでしょう。もちろんそのためには、個々の社員がビジネスパーソンとして成熟していることが前提となります。

福島

そのうえで、イノベーションを生むための議論を活発化させ、さらに葛藤を乗り越えていく。こうして、人と人とが相互に高め合う「真の学び」が、長い目で見れば企業にとっても非常に大きな財産になっていくはずですね。

土屋

学びの基本は、「心が動く」ことだと思います。ビジョンの達成や社会への価値提供に向けて取り組み、チャレンジすることから生まれるワクワク感。失敗しても良いからそこから学ぶちから。あるいはチームで、ビジネスのゴールに向かう一体感・達成感を感じることも大切。これらは世代を超えて共通のことでもあると思います。働くことは、人と人との多様な関わりのなかでさまざまな学びが日々起こっている場でもあると思います。これからの100年人生は、ますますそうなっていくのではないでしょうか。

福島

今どきの若者は年長者が思うよりも、論理的だし哲学を持っています。年長者も自分の価値観を一度手放してみて、もっと活発に若者とコミュニケーションを図ってほしいですね。それが企業自体の組織改革や、事業創造、イノベーションを引き起こす種になっていくと思います。

土屋

そうですね。未来は不確実性が高いので、世代に関わらず一人ひとりの感性も尊重する、そんな動きがますます大切になってくると思います。上司が必ず正解を持っているという考えから発展して、みんなで探求して、動きながら考えるという柔軟なアプローチが有効になってきています。多様性のある、さまざまな観点から率直に話し合えるような場づくりを整備し、企業や個人の成長パワーに変えていきたいですね。

スペシャル対談:福島創太氏、アデコ 土屋恵子

Profile

福島創太氏
教育社会学者

1988年生まれの教育社会学者。早稲田大学法学部卒業後、株式会社リクルートに入社し、転職サイト「リクナビNEXT」の企画開発等に携わる。退社後、東京大学大学院教育学研究科修士課程比較教育社会学コースに入学し、修了。現在は株式会社教育と探究社で、中高生向けのキャリア教育プログラムの開発等に従事しつつ、同大学院博士課程に在学中。

土屋恵子
アデコ取締役
ピープルバリュー本部長

主にグローバルカンパニーで20年間以上にわたり、ビジョンの実現に向けて個人と組織が個性と強みを生かして共に成長することを基盤に組織開発をリードする。人事部門の統括責任者として、チームと共に日本およびアジアのリーダーシップ開発、人財育成、制度策定・浸透などを展開する。2015年より現職。ケース・ウェスタン・リザーブ大学経営大学院組織開発修士課程修了。