組織 人財 リーダーシップ論を振り返りながら考える、今後求められるリーダー像

  • このページをFacebookでシェアする
  • このページをTwitterでシェアする
  • このページをLinkedInでシェアする
2018.07.06

リーダーシップの定義としてよく挙げられるのは、「対人的影響力の一形態で、リーダーの望む方向に部下がうまく動くように影響力をふるうこと」というものである。リーダーとは「人びとを強力に引っ張る人」と考えられがちだが、肩書きや地位でフォロワー(部下や後輩など)がついて来るのは真のリーダーシップではないと、神戸大学大学院経営学研究科の金井壽宏教授は語る。ここでは金井氏の考えるリーダーシップについて、これまでの取材や経験を通じて感じたことなどをお話しいただいた。

真のリーダーシップとは、リーダーたる人物に対して、フォロワーがただ従うだけでなく、むしろ“喜んで”ついていくときに生まれるものです。これを英語にすると「willingly(=喜んで) follow(=ついていく)」になります。

たとえば、新しいプロジェクトの進行中に「前例がないし、本当にできるかな?」という部下が出てきたときのこと。ここで「仕事だから、やるしかない」と権威的に命令するのは良いリーダーシップとはいえません。ゴールに至るステップや、そこを目指したくなるようなビジョンを語り、それを聞いた部下たちが大変だけど実行したくなる。このように導くことこそが真のリーダーシップなのです。

「部下がついてこない」「仕事に対して“やらされ感”が先行して目的意識を持たない部下が多い」といった場合には、部下だけに問題があるのではなく、その上司にリーダーシップが欠けている可能性があります。必要なのは、ビジョンを提示し、その実現のための手順をわかりやすく伝えること。この場合のビジョンとは、会社の業績アップに対する貢献度合かもしれませんし、社会的意義かもしれません。成功の先に何が待っているのか、しっかり部下に語り、成功までのステップを示すことです。これが今の時代のリーダーシップの考え方です。

「すごいリーダー」はエモーショナルにビジョンを語る

時代ごとに変化するリーダーシップ論

古代ギリシャ時代から1940年代
リーダーシップ特性論 優れたリーダーに共通する身体や性格、あるいは行動特性に関する研究。「リーダーは作られるものではなく、生まれながら持つ特質である」という考え方が前提。
1940年代~1960年代
リーダーシップ行動論 機能・職能論ともいわれる。有効なリーダーとそうでないリーダーを区別する行動を発見することで、どのような行動が有効なリーダーをつくり上げるのかを発見しようとする。
1960年代~1980年代
リーダーシップのコンティンジェンシー理論 すべての状況に適応する、唯一最善の普遍的リーダーシップは存在しないという考えに基づいて、リーダーの特性や行動と状況の関係を明らかにしようとする。たとえば、有効なリーダーシップは部下の成熟度に依存して変化する。
1980年代~1990年代
カリスマ的リーダーシップ理論 カリスマ的な才能を持ち将来のビジョンを描ける人間こそがリーダーであり、その才能を保持すれば部下から大きな支持、貢献を得る、という理論。
変革型リーダーシップ理論 組織の発展に必要な「変革」を、永続的に実現するための理論。チームがビジョンを共有し、フォロワーの能力を引き出し、組織学習を促進して、変革を実現するというリーダーシップ。
1990年代~
多様なリーダーシップ論 サーバント・リーダーシップ、リーダーシップ・シェアリング(二人以上でリーダーシップを共有)やフォロワーシップ理論といった一人のリーダーシップだけでなく、フォロワーなど他者との関係性も考慮した多様なリーダーシップ論が展開される。

リーダーシップ論は時代ごとに変化してきました(表参照)。はじめはリーダー個人の資質に焦点を当てていましたが、そのアプローチでは新しいリーダーの輩出にはつながりにくかったことから、有能なリーダーの行動に注目し、それを真似ようとする「リーダーシップ行動論」に大きく転換しました。

次に、リーダーの置かれた状況次第で有効なリーダーシップ行動が変わると考える理論が生まれました。さらに、不確実性が当たり前になった現代社会に応じて提唱されたのが「変革型リーダーシップ」です。変革型リーダーシップは、リーダーが夢のあるビジョンを掲げて、自分がモデル(手本)となる行動を示すところから始まります。そして、ビジョンをわかりやすい言葉で伝えて、フォロワーが喜んでついてくるようにするのです。これこそ、「ただついていく」のではなく「喜んでついていく(willingly follow)」です。

ビジョンとは、単に夢を語るということではありません。会社や部門の環境を注意深く見つめ、変化の動向をかぎわけ、その理由や意味付けを説明します。そこからリーダーは、問題点を冷静に精査、原因を探します。その問題を解決したらどんな夢が叶うのかというビジョンをつくりあげ、そのビジョンの実現に近付いていくステップをわかりやすい言葉に落とし込むのです。これは経営者だけでなく、現場で活躍する管理職にも求められます。変革型リーダーシップにはいくつかの重要なポイントがありますが、そのうちの一つにフォロワーのエモーション(情緒)に訴えることがあります。ビジョンにエモーションが加わることでフォロワーがついてくるのです。

わたしは以前、「できるマネージャーと、すごいリーダーの対比」を表にしました。

できるマネージャーと、すごいリーダーの対比

できるマネージャー すごいリーダー
・理性、データ、分析(左脳) ・感性、感情、直感(右脳)
・クールでテクノクラート風
・冷静さ、客観性を重視し、計数管理がうまくできる
・熱くビジョンを語る
・強烈な価値観を持っていて、それを押し通す、カリスマ
・システムを使う
・論理学やルールを重んじる
・ルールを遵守する
・人間くささ、人間的魅力で人を引っ張る
・人間学や人間的愛情を重んじる
・自分のフィロソフィーを守る
・誰がやってもうまくできる仕組みをつくって、他の人(後継者)が効率よく仕事をやっていけるようにする ・この人についていきたいと思わせる、持って生まれた人間性が鍵なので、余人をもって代え難い
・バランス感覚にすぐれている
・しかし、どこか特別に際立っているところが必ずしもあるわけではない
・でも、抜けがなく安定力がある。平均以上にすべてがよくできる
・大きな絵やビジョンを考え、それを追い求める
・バランスがあるというよりは、ときに偏っているぐらいの特徴のある発想をもつ
・しかし、多少とも抜けがあり、はらはらさせる
・でもその絵やビジョンが外れではなく、人に熱くアピールする。ときには、周りもついつい応援してしまう
・危機的状況を予防したり回避したりする
・必然的の世界に生きる
・危機的状況で迫力を出す
・偶発的な世界に対処できる
・なにかを守る
・すでにある枠組みを大いに利用する
・何かを壊す、変化させる
・枠組みをつくり出すか、壊す
・調和、配慮
・人の割り振りを行う
・攻撃的で妥協しない
・自分でぐいぐい前進する

(出所) 金井壽宏「リーダーとマネジャー : リーダーシップの持論(素朴理論)と規範の探求」『国民経済雑誌』第177巻第4号, 1998年, p.69, 神戸大学経済経営学会。

上の表のように、「すごいリーダー」は人間くさく破天荒なイメージです。このような人が、前述したようにビジョンをエモーショナルに語ったら、思わずついていきたくなるでしょう。これが、変革型のリーダーシップを効果的に発揮できているリーダーの姿です。一方の「できるマネージャー」は、事務的で人間くささが少ない印象です。ただ、「すごいリーダー」は、管理がゆるくなる傾向があります。そうした点を「できるマネージャー」がフォローすれば、ビジョン実現への着実な道筋が開けるのです。

組織を継続するために、リーダーが後継者を育成する

今まで紹介してきたリーダーシップ論は、最近の若い部下に対しては当てはまりづらくなっている現実もあります。管理職を取材していると「若い部下に仕事の仕方を注意したら、辞めてしまった」「コミュニケーションが取れない」といった悲痛な声も耳にします。そのような時代に出てきたのが「サーバント・リーダーシップ」です。権威的なリーダーシップではなく、フォロワーをさまざまな形で支援し、下から支えるリーダーシップ。これは、部下の召使いになるという意味ではなく、フォロワー目線で考えるということです。「フォロワーはリーダーのために存在する」と考えるのが権威的なリーダーシップであるなら、「リーダーはフォロワーのために存在する」という考えがサーバント・リーダーシップです。

また、若手を理解できないと思ったら、きちんと部下の言葉に耳を傾けられる、アクティブ・リスナーになることで若手とのつながりを維持します。「あなたは若い世代のこういう部分がわかっていない」と教えてくれるフォロワーの言葉を受け入れる姿勢が重要になってきます。押し付けにならないように声がけすることも若手とのつながりを保つために気を付けるべき点です。たとえば、若手がはじめて幹部クラスの会議に呼ばれた場合、話についていけないことがあります。そのようなときに、きちんとした声がけで補足すると、部下の理解の助けとなるのです。

こうしたことを繰り返し、若い世代との信頼関係を築くことが、今のリーダーに求められる次世代の戦略的で変革志向のリーダー育成に役立つのです。現役のリーダーが、後継者となる次世代のリーダーを育てるときに重要になるのが自身の経験を込めた「言葉」です。リーダーを引き継いだ前世代からの「言葉」に自身の経験を踏まえた持論を足した言葉を、実際にともに実践を重ねる場で「薫陶」として受け渡すのです。このように、日頃から次の世代との連鎖を意識して行動することです。

薫陶には「これなら納得いく」とか「うまくいく」という成功体験による持論だけでなく、2~3割ぐらいは、失敗談や苦手な話を混ぜると、伝わりやすい。こうしてまとめた考えは、自分に対してもリードマイセルフができ、ぶれない軸を生み出します。リードマイセルフができている人は、他者や潜在的フォロワーを集め、良いリーダーとなれるのです。

Profile

金井壽宏氏
神戸大学大学院経営学研究科 教授

1954年神戸市生まれ。1978年京都大学教育学部卒。マサチューセッツ工科大学(MIT)のPh.D.(マネジメント)と神戸大学の博士号(経営学)を取得後、1994年神戸大学経営学部教授、1999年に大学院経営学研究科教授に就任。経営学研究科長を経て2012年から社会科学系教育研究府長。経営学のなかでもモティベーション、リーダーシップ、キャリアなど、人の心理・生涯発達にかかわるトピックを主に研究している。研究・教育の分野だけではなく、企業における研修、講演など幅広い分野で活躍している。『変革型ミドルの探求』(白桃書房)、『リーダーシップ入門』(日本経済新聞出版社)など、著書は50冊以上。