人財 働き方 ースポーツ指導におけるグロースマインドセットー 成長への期待値を最大化することが一流選手を育てる

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2018.07.17

企業の人事査定は年に1 ~ 2回程度。これに対し、第一線のスポーツ選手が身を置いているのは、毎試合プレイを厳しく評価される、はるかにシビアな世界といえます。そのため、優れた選手でも自分の成長性や可能性より、試合におけるミスや駄目な部分ばかりを考えてしまいがちです。

そこで私がスポーツ指導者として取り組んできたのは、選手自身も気づいていない強みや潜在的能力を見抜き、成長への期待値を最大化すること。その高い期待値に必ず到達できるのだと選手に語り続け、本人に確信させることでした。つまり、選手の意識やマインドセットに徹底して働きかけていく。ドゥエック博士の著書『「やればできる!」の研究』(原書タイトル『MINDSET』)で「グロースマインドセット」の概念を知ったときは、私が実践してきた指導哲学が間違っていないのだと思いました。

ドゥエック博士も肯定していますが、指導者としての経験から私もマインドセットはいつでも変えることができると考えています。コーチングディレクターとしてコーチを指導するときは、チーム全員をグロースマインドセットに変革できるよう導くことが重要であると伝えていますし、真の指導者はそのことを実現するのが仕事だとも捉えています。実際、私も一指導者として、選手をグロースマインドセットへと促すよう指導してきました。

私が監督を務めたU20(20 歳以下のラグビー日本代表)の代表選手のなかに、体格や運動能力に恵まれ、日本人選手との国内試合では抜群の成績を上げるのに、国際試合では本来の力を出せていない選手がいました。こういう場合に、周りが「あの選手は国際試合に弱い」「世界では通用しない」などとレッテルを貼ってしまうと本人もそう思い込んでフィックストマインドセットに陥り、成長できなくなってしまいます。私は彼と何度も面談し、実力を発揮できない理由をともに丁寧に探っていきました。
体格差に圧倒されるケースもありますが、彼の場合わかったのは、「自分は日本代表チームに残れるのか」と、周りの評価を気にして試合に集中できていないというのが理由でした。そこで、彼にはそのように考えて萎縮するのは自分にとってもチームにとってもマイナスで、挑戦し続けることで自分の可能性を伸ばすことが重要だと伝え、彼は、本来のプレイに没頭できるよう意識を変えていきました。結果、彼はその能力を国際試合でも発揮できる選手になりました。
また指導者として私が重視している点に「OFF the Field」、つまり試合や練習以外の時間の過ごし方があります。ラグビーの才能だけで良いと思い込んでいる選手は、日頃の生活態度を軽んじてしまうことがあります。チームメイトへのサポートは日常生活から取り組むべきこと。それができないと、試合でも良いチームプレイができない。ですので、私は人間性の部分まで見て指導するようにしています。

ラグビー界のなかには、私の指導法を受け入れられない指導者ももちろんいます。ですが、5年後、10 年後にこの考えがラグビー界全体に浸透し、「やっぱりこのやり方が正しかったよ!」と皆にいってもらえるようになると確信しています。まずは、誰よりも自らがグロースマインドセットでいることが大事ですから。

Profile

中竹竜二氏
株式会社チームボックス 代表取締役CEO
日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター

1973年福岡県生まれ。早稲田大学卒業、レスター大学大学院修了。三菱総合研究所を経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督就任。2010年、日本ラグビーフットボール協会「コーチのコーチ」指導者を指導する立場であるコーチングディレクターに就任。 2012年より3期にわたりU20日本代表ヘッドコーチを経て、2016年には日本代表ヘッドコーチ代行も兼務。2014年、企業のリーダー育成トレーニングを行う株式会社チームボックス設立。2018年、コーチの学びの場を創出し促進するための団体、スポーツコーチングJapanを設立、代表理事を務める。