仕事の未来 組織 働き方 人事制度の改革につながるこれからの評価制度

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2018.02.27

世界的に評価制度が見直されるなか、日本企業はどのような対応を取れば良いのか。
日本ゼネラル・エレクトリック(GE)やLIXILグループなどの経験を踏まえ、「人事戦略は企業の競争力の源泉」と語る株式会社people first代表取締役で株式会社ICMG取締役も務める八木洋介氏に聞いた。

横並びの日本的人事評価が健全な経営の足枷に

近年、ノーレーティングを取り入れる欧米企業が増えているのは事実ですが、それを日本企業が単純に真似するべきではないと私は考えます。問題の本質はノーレーティングの導入にはないからです。そもそも人事評価は、その企業のビジョンや経営目標と密接な関係にあるべきです。自社に必要なタレントの評価は、統一された評価基準ではできません。
しかし日本の場合、年功制に代表される固定的で画一的な人事評価が広く定着しています。
例えば、同じ年次の社員は同じペースで出世して、同等の管理職ポストに就くべき、という独特の"公平性"を重視してきた日本企業は数多く存在しています。その結果、会社の規模に比して階層構造やポストの数を増やしすぎている傾向にあります。組織の運営上、統計的には一つの組織あたりの人数は6人が最適といわれています。ここから導き出される管理職ポストの適正な比率は社員全体の17~18%ぐらいです。にもかかわらず、一時期日本企業では、同期入社の学卒社員が8割も管理職になるという時代もありました。
高度成長時代に適応していた年功制を、低成長時代になってからも見直せずに、従来の人事制度のまま残しています。それが日本企業の生産性が欧米に比べて低いといわれる一つの要因ともなっています。

図1:人事評価の本質 人事評価=経営ビジョン達成のために自社に求められるタレント像を追求する活動 目標達成に必要なタレント要素の洗い出し 現状のタレントの能力把握 現状のタレントに対する課題抽出 タレントの適材適所の見極め タレントに対する必要な処遇・配置 タレント育成の方針策定 上記について、各部門・階層ごとに最適解を発見するために徹底したディスカッションを展開する。

求められるタレント像の徹底したディスカッション

私は、日本の「人事評価」のあり方にも大きな問題があると思っています。目標管理シートのような評価フォーマットをもとに社員を採点していくことを人事評価と捉えている人も多いのではないでしょうか。
人事評価の本質は、採点表にしたがって処遇を決めることではありません。自社の経営ビジョンを達成する上で必要なタレント像を追求する活動そのものなのです。経営に「正解」がないように、人事評価にも、常に万能なベストプラクティスがあるわけではありません。だからこそ、徹底したディスカッションが不可欠なのです。経営目標の達成のためにタレントに求められる要素とは何か。現在の社員の資質や能力はどのような水準にあって、それぞれどう処遇・配置すべきか。仮に資質・能力が十分でなければ、誰にどんな業務を任せて育成していくべきか。
部門ごと・階層ごとに議論を重ねて、最も適切と思われる解を見つけていくのです。これが人事評価と呼ばれる活動の本質です(図1参照)。評価表は、あくまでこうしたディスカッションを有意義にするためのツールにすぎません。
じつはGEの「9ブロック」も、社員の評価について有効なディスカッションをするためのツールとして開発されたものです。
9ブロックとは、「パフォーマンス」と「バリュー」という二つの評価軸をとり、それぞれ3段階で評価(期待値を上回っていたか・下回っていたか・期待通りだったか)して、言葉の通り計九つのブロックでタレントを位置付けるものでした。詳細な評価項目で社員に序列をつけるのではなく、あえて評価軸を二つだけにして、これをもとに管理職たちがディスカッションしてタレントをマッピングします。そして、より適切なタレント育成や配置のために議論を重ね、その結果を活用しました。日本企業で定着している目標管理制度も、シートに記入された数値だけを評価するのではなく、本来はディスカッションの材料の一つとして使うべきものです。というのも、社員の仕事は目標管理だけでは捉えられないからです。

ノーレーティングは人事評価の本質ではない

近年、欧米企業の間でノーレーティングが広がっているのには、それなりの理由が挙げられます。環境変化のスピードが速くなり、年1~2回という頻度の評価で対応できない、というのが最大の理由でしょう。レーティングをやめ、上司と部下の間で頻繁なフィードバックをして、より大きな成果を導こうというのが、昨今の人事評価の大きな潮流です。
しかし繰り返しますが、人事評価の本質は、ディスカッションを重ねて自社のビジョンに最も合致したタレントの処遇・配置・育成を決断していく活動にあります。9ブロックという評価の枠組みを廃止したり、フィードバックの数を増やしたりすることはテクニカルなことで、そこばかりに注目すべきではありません。
日本の人事評価の課題は、タレントの力を通じて自社の経営ビジョンの達成に貢献しようという意志や戦略性が乏しいことだといえます。他社と横並びの人事評価から脱却し、自社ならではの評価の枠組みを構築すべきです。
大げさに聞こえるかもしれませんが、「人事制度の改革」といえます。ただし、やるべきことは至ってシンプルです。
より良い人事評価の仕組みや風土をつくり上げていくためにも、まず全社的な経営ビジョンや目標を明確に定義することが重要です。そして、人事部門はそのビジョンや目標達成のために何をすべきか、タレントを主軸に他社に真似できないどんな価値を生み出せるのか、そのためにタレントの採用・育成・配置にどんな戦略を打ち出すべきか、ぜひ考えていただきたいと思います(図2参照)。
私自身もLIXILという企業で2012年から数年間、人事制度の改革に取り組みました。徹底したディスカッションベースの人事評価の枠組みを取り入れるとともに、議論の質を高めるために全世代にリーダーシップ研修を実施。経営ビジョンや「タレントこそ競争力の源泉である」との意識の浸透を図りました。スピード感をもって成果を示していけば、徐々に変革への気運が醸成されていくものです。
これまで世界各国の人事担当者と出会ってきましたが、日本企業の人事部門には優秀なタレントがいます。自社におけるタレントの価値やビジョンを明確に定義して、戦略性の高い人事評価を本格的に始めたら、日本企業は大いに飛躍するはずです。

図2:より良い人事評価の仕組みをつくるために 会社としての経営ビジョンや目標を明確に定義する→経営ビジョンや目標に向けてタレントを主軸に価値を生み出すことを考える→タレントの採用・育成・配置に関する戦略を打ち出す→タレントを生かすための自社ならではの枠組みを構築する 人事担当がタレントを生かすには、社外から最高のタレントを雇う、もしくは社内から最高のタレントを発掘する、そしてベストなタレントとして育成し、そのベストなタレントに活躍してもらう。このようにシンプルに実現することができると八木氏はいいます。

Profile

八木洋介氏
株式会社people first代表取締役
株式会社ICMG取締役

京都大学経済学部卒業。マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院MS取得。日本鋼管(現JFEスチール)、National Steel出向(CEO補佐)などを経て、日本ゼネラル・エレクトリック取締役を務める。2012年にLIXILグループ執行役副社長に就任。CHRO(最高人事責任者)を務め、同社の変革を実践。2017年から現職。著書に『戦略人事のビジョン』。