インタビュー・対談 組織 人財 働き方 スペシャル対談:大沢真知子氏、アデコ 小田原加奈

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2016年4月、女性活躍推進法が施行されました。従業員301人以上の企業に女性活用計画の公表を義務づけたこの法律によって、企業における女性活用の見える化が徐々に進んでいます。しかし、「もっと根深い問題がある」と、労働経済学の専門家である日本女子大学の大沢真知子教授はいいます。日本における女性活用はどのような方向を目指すべきなのか──。大沢氏とアデコ取締役の小田原加奈が、自身の体験を踏まえながら語り合いました。

女性が能力を発揮すれば
会社の業績は上がる

──女性活躍推進法が施行されて1年半以上が経ちました。法律の効果をどう見ていますか。

大沢

実際の効果が現れるのはこれからだと思いますが、法律への取り組みには企業ごとの差があるような気がします。積極的な取り組みをしている企業がある一方で、対応が遅れている企業も少なくありません。

小田原

法律の趣旨は理解していても、具体的に何をすればいいかがわからないという企業が多いように感じます。いろいろなやり方があると思いますが、まずは仕組みをつくってみることが大事だと私は考えています。

私は過去15年、海外現地法人を含む、さまざまな外資系企業で働いてきたのですが、多くの企業では、採用や管理職登用における女性比率をルール化していました。ルールや仕組みを定めて、とにかくやってみる。そんな腕力が現在の日本の企業には求められているように思います。

大沢

女性活用の仕組みをつくることは、コストになる。そんな捉え方もありますよね。でも実際には、「ビジネスの成長のために女性に力を発揮してもらう」というのがあるべきロジックです。潜在能力を持った女性がその能力を仕事のなかで生かすことができれば、企業の業績は上がるのですから。

小田原

ポテンシャルのある人を責任あるポジションに起用すれば、その人も成長するし、その力が企業の成長にもつながるわけですよね。できる人を起用しないというのは、本当にもったいないことです。

大沢

しかも、今後の日本では若い人口が減少するので、女性の活躍なしで企業活動は成り立たなくなります。日本の女性管理職の割合は諸外国に比べて低いですが、今後は管理職ポストを男性だけでは埋められなくなるはずです。以前と比べると女性管理職も徐々に増え始めていて、係長クラスでは20%弱の方が女性です。女性活躍推進法がきっかけとなって、女性を管理職に登用する動きが加速することに期待したいですね。

小田原

私は企業の文化を変えていくことも大切だと考えています。以前勤めていたアメリカの会計事務所には、女性の上級管理職がたくさんいました。そのなかには小さなお子さんを持つ人もいて、仕事を休んだり早退したりするケースもよくありました。上司の不在により部下が困ることもありますが、その状況で「やりにくい」と口に出してはいけないという雰囲気がその職場にはありました。上司が不在でも、困ることがないように事前に確認をとっておいたり、自分で判断をする。そんな文化が根づけば、時間に制約がある女性も今よりももっと働きやすくなると思います。

大沢

その文化をつくるのが経営者や管理職の役割ですよね。意識されていない女性に対する偏見があって、それが女性社員にストレスを与えているということがあります。その企業で女性が働きにくいということは、何かしら「不都合な要素」があるということですから、それが何かを明らかにして改善していく努力が必要だと思います。

小田原

その「不都合な要素」は、女性にとってだけではなく、あらゆる働く人たちにとって不都合である可能性があります。女性が活躍できる土壌をつくることは、多様な人が生き生きと働ける土壌をつくるということでもあると思います。

なぜ、女性は
「管理職になりたがらない」のか

──女性のなかには管理職になりたがらない人が多いという指摘もあります。

小田原

「私には管理職は務まりません」という女性は確かに多いですね。

大沢

管理職になると子どもを持ちづらくなるとか、家庭を犠牲にしなければならないと考えてしまう人が多いようです。キャリア女性に対しても、「あの人たちは素敵だけれど、自分にはあんなことはできない」と感じてしまう女性も少なくないと思います。

小田原

十代の頃、周りには賢くてリーダーシップをとる女性がたくさんいたのに、彼女たちはどこに埋もれてしまったのだろうか、とよく思います(笑)。そこには教育や環境の問題があるのでしょうか。

大沢

働く女性の意識を高めるには、キャリア形成初期の5年の間に仕事のやりがいを感じることができるかどうかが勝負だといわれています。しかしこれまで、日本企業では、若い女性社員は男性社員の補助的な仕事しかやらせてもらえない場合が多かったので、働く意欲や自信がなかなか醸成されませんでした。家庭生活との両立ができずに辞めていく女性が多いといわれますが、それ以前に、仕事のやりがいを感じられず、キャリアの見通しが立たないとして離職する女性が非常に多いのです。

小田原

それはやはり企業の仕組みや文化の問題ですね。一方、「管理職になったら失敗はできないから、完璧にやらなくては」と思い込んでしまう人もいるようです。自分に厳しすぎて、何でも完璧にこなさなければならないと考えるから、ストレスをためてしまったり、過度に神経質になってしまったりする。そんな女性が多いと感じます。

本来、仕事は自分一人でやるものではなく、周囲の人と力を合わせたり、話し合ったりしながら進めていくものです。だから、自分ですべてを背負い込む必要はないのですが、優秀な人ほど責任を感じていろいろなものを背負ってしまうんです。本当は、もっと気楽で楽観的でいいと思います。上昇志向がまったくなかった私ですが、現在のような管理職に就いているのは、いろいろなことを気負わずに考えてこられたからだと思います(笑)。

大沢

起業に成功された方から、助けてもらえる力を持っているかが成功の分かれ道と聞いたことがあります。一人でやろうとしないことが大切なのですね。
私も上昇志向はありませんでした。今の立場にいるのは、ほかにやる人がいなかったからだと思ってます(笑)。でも、いざ責任あるポジションに就いてみると、いろいろな人と出会うチャンスが増え、視野も広がり、成長できたという実感があります。

小田原

私は自分がやりたいことがやれて、いいたいことをいえる環境が理想なので、管理職になってよかったと感じています。管理職になると自分の裁量で仕事ができる範囲が広がるので、合意形成の手間が少なくなり、より自分に合ったスタイルで働けるようになったと実感しています。

異質だからこそ
価値ある存在になれる

大沢

アメリカで女性活躍の機運が高まったのは、1970年代の後半からです。その頃の変化で私がとくに重要だと思うのは、女性のダブルアイデンティティが普通になったことです。それまでは、結婚すると妻や母親として生きることが当たり前でした。それが、女性は、結婚しても社会では個人として能力を評価される社会があり、家庭では妻であり母親であるという二つのアイデンティティを持つようになったわけです。

小田原

重要なのは「自分で選べる」ということですよね。もちろん選んだ結果すべてが思うようにいくわけではないけれど、自分の意志でチョイスしたという事実があるのとないのとではまったく違います。

今の世の中は、複数の選択肢から自分で選べるようにだんだんなってきているし、黒か白の二者択一ではなくてグレーの部分があっていい、グレーの濃淡にもいろいろなバリエーションがあっていい、そう考えられるようになってきています。以前のように「黒を選んだから白を犠牲にしなければならない」と女性が悩まなければならない時代は終わりつつあると思います。

大沢

その通りですね。現在の日本には、働きたいけれど働いていない女性がおよそ300万人いるといわれています。その多くが子育て中の女性です。このような女性が再就職がしやすい社会になれば、その人たちは企業にとって非常に重要な人財になります。日本も今後そんな時代に入っていくはずです。

小田原

一方、ブランクの後に女性が本格的に仕事復帰することが非常に難しいという傾向も、日本企業にはまだまだあります。出産・育児のために一旦仕事を辞めたり、夫の海外勤務のために数年間仕事を休まなければならなかったりする場合、職場に戻ることはできても、もう休職前のように働ける場所はなくなっている。そんなケースが少なくありません。これは日本特有の事情で、諸外国を見ても欧米だけでなく、アジア諸国と比べても、残念ながら相当遅れているといえます。

大沢

私は、企業の仕組みや文化だけでなく、男性の意識変革がもっと必要であると感じています。ご存じのように、日本の男性は海外諸国の男性と比べて、家庭における家事や育児の分担率が極端に低いという調査結果も出ています。それが、女性が働きたいけれど働けない一つの要因になっていることは間違いありません。女性が仕事で活躍するためには、男性も変わらなければならないのです。

小田原

女性の活躍を推進する目的は、女性活躍推進法があるからではなくて、男性と女性が平等に活躍できる状態が自然だからだと私は思っています。管理職に、男性しかいないというのは、とても不自然ですよね。女性が責任ある立場に就いていることがあたり前。そんな意識が広まってほしいと思います。

大沢

日本も働く環境が前よりも向上していることは間違いありません。しかし、変化のスピードをもっと上げていく必要がありますね。

──最後に、働く女性へのメッセージをいただけますか。

小田原

男性管理職ばかりだったところにいきなり女性が入ると、かなりの違和感があるのは確かです。でも、その違和感が実は大事だと私は思っています。異質だからこそ、企業にとって価値ある存在になれるわけです。同質な人たちだけが集まった企業にはイノベーションも成長も望めません。

だから、私は多くの女性に積極的に管理職を目指してもらいたいと思います。管理職になると、最初のうちは「できるかな」と不安に感じることもありますが、半年くらい経てば、何かしら恰好はついてくるものです。出る杭は打たれるといわれますが、出すぎた杭は称賛されます。ぜひ自信を持って「出すぎて」ほしい。そう思います。

大沢

女性はどうしても場に馴染むことを優先して一歩引いてしまいがちですが、少しくらい場から浮いても、自分らしさで勝負することがとても大事だと思います。それが自分をハッピーにするし、会社だって、女性が自分らしく伸び伸びと能力を発揮すれば結果的に業績が上がります。もっともっと多くの女性に、他人との違いを武器にして、仕事のなかで力を発揮してほしいですね。

Profile

大沢真知子氏
日本女子大学 人間社会学部現代社会学科教授
現代女性キャリア研究所所長

南イリノイ大学経済学部博士課程修了。Ph.D(経済学)。コロンビア大学社会科学センター研究員。シカゴ大学ヒューレット・フェロー、ミシガン大学助教授、亜細亜大学助教授を経て、現職。専門は労働経済学。内閣府『仕事と生活の調和連携推進・評価部会』委員。『ワークライフシナジー』(岩波書店、2008)、『日本型ワーキングプアの本質』(岩波書店、2010)、『妻が再就職するとき-セカンド・チャンス社会へ-』(NTT出版、2012)など著書多数。

小田原加奈
アデコ
取締役 オペレーション&アドバイザリー本部長

家業を営んでいた実家の帳簿付けをきっかけに財務管理への興味を深め、同志社大学在学中に公認会計士資格を取得。新卒で監査法人に就職後、日米の大手会計事務所ならびにベンチャーキャピタルを経て、外資系企業の財務部門のシニアリーダーポジションを歴任。2015年4月にアデコへ入社し、現職。近年はオペレーション部門も統括し、チェンジマネジメント、買収後インテグレーションをリードする豊富な経験と実績をもつ。公認会計士ならびに米国公認会計士。