組織 人財 日本はダイバーシティの土壌に恵まれている? イノベーションを促す食の多様性

  • このページをFacebookでシェアする
  • このページをTwitterでシェアする
  • このページをLinkedInでシェアする
2017.09.12

初版発行から10年を経た「ミシュランガイド東京」。2016年暮れにも最新版がリリースされた。改訂のたびに話題に上るのは、どの店が星を何個獲得したかについてだ。2017年版で三つ星を獲得したのは12店。興味深いのはその業種の内訳。本家フランス版であればフランス料理の店ばかりになるが、東京版ではフランス料理が2店で、残りが日本料理6店、すし3店、ふぐ専門1店となっている。
日本版だから和食の割合が高いわけではない。三つ星以外の二つ星、一つ星も含めて眺めると、イタリア、スペイン、中国、韓国と多彩な国の料理が加わっている。また、天ぷら、うなぎの高級料理から庶民の味のとんかつ、蕎麦、ラーメンまでもが並んでいたり、同じ肉料理でも、ステーキ、鉄板焼き、すき焼きなどと調理法ごとに細分化されていたりする。

世界には限られた食材と調理法で日々同じようなものを食べ続ける、あるいは伝統料理以外は口にしない地域もある中で、日本人が多種多様な料理を楽しんでいることは、しばしば海外からの旅行者を驚かせる。こと食事選びにおいては、日本人は新し物好きで柔軟に対応する。さらに、ラーメンやオムライスなどは外国料理を日本流にアレンジしたもの。世界各国の料理と自国の食文化を融合させ、新しいものを生み出す行為は、まさに食の多様性から促されたイノベーションといえる。

しばしば、日本人のビジネス上の弱点として保守的で消極的であることが挙げられるが、食における進取の気性と好みの多さ、アレンジの巧みさを見る限り、多様性を受け入れ、イノベーションに結びつける素質は、他国並み以上に備えていると考えられる。ただし、自国で生み出したものを世界に発信することはまだまだ苦手だ。米国のように自国産の技術や製品を世界標準にしたり、世界を席巻するビジネスモデルとして発信し、多くの優秀な人財を呼び込んだりする術には劣っている。これは国民性だけでなく、言語の壁によるところも大きい。現在、日本では2020年の東京オリンピックに向け、自動翻訳機の実用化が進められている。これが成功すれば言語の障壁が取り払われ、ダイバーシティ&インクルージョンにも弾みがつくのではないだろうか。

食の話に戻すと、厚生労働省がまとめた「日本人の長寿を支える『健康な食事』のとらえ方を整理」という資料には、生活習慣病の予防策として、「特定の食材を用いた料理を繰り返し選択するのではなく、多様な食材や調理法による異なる種類の料理を選択すること」が挙げられている。食の多様さが、健康につながるということだ。職場のダイバーシティも、組織の健康につながるに違いない。