Vol.28 トピック 個々の企業の方向性に合わせ、「同一価値労働同一賃金」を含めた雇用施策を検討していくべき(1/2)

待遇格差の是正に向け、議論されているテーマの一つ、「同一価値労働同一賃金」。
日本の労働市場にこれを導入していくことはできるのか、企業はどのようにこのテーマを捉え、
雇用施策に取り組んでいくべきか──。東京大学社会科学研究所の水町勇一郎教授に伺いました。

企業それぞれの実情に合った運用を

現在、待遇格差の是正に向け、「同一価値労働同一賃金」に関する議論がされています。「この考え方は日本にはなじまない」という意見がありますが、その背景には、日本独自の雇用のルールや概念があります。

「同一価値労働同一賃金」に先進的に取り組んできたEU諸国では、もともと職務内容で賃金が決まる「職務給制度」が確立されていました。このため、法律として「同一価値労働同一賃金」を導入することが可能な環境にあります。
一方、日本の企業は、新卒採用から定年までの長期スパンでキャリアの形成を見据え、スキルだけでなく、経験や勤続年数に報酬を支払う「職能給制度」を設けています。このため、仮に法律によって企業に「同一価値労働同一賃金」を義務付けたとしても、実現させるのは非常に困難です。

とはいえ、企業間の競争が激しさを増す中で、企業が適時最適な人材を確保し、継続的に成長していくには、多様な働き方を「同一価値労働同一賃金」で公正に処遇し、流動的な労働市場を形成していくことも必要です。
日本で「同一価値労働同一賃金」を推進するには、「国」と「企業」双方での取り組みが欠かせません。最近では、「同一価値労働同一賃金」を推進している企業に対し、国が助成する方法が議題に挙がっています。一方、企業においては、それぞれの職務の難度、複雑さなどから、企業の実情に合った「職務評価制度」を作り、「職務給制度」をうまく定着させていく必要があります。

「長期キャリアによる職能給」も活かしたベストミックスへ

企業が「同一価値労働同一賃金」を推進していくメリットは、人材の流動化に対応することにあります。雇用形態に関係なく、個人のスキルに見合った処遇がなされる環境があれば、仕事を柔軟かつ容易に選択することができます。企業側もさまざまなキャリアや志向を持つ人材と出会うチャンスが広がり、戦略に合致する人材を採用しやすくなります。

しかし一方で、長期キャリアで総合的な能力を蓄積していくことが、生産性を向上させるという企業もあるでしょう。たとえば、日本ならではのきめ細やかなサービスや、長きにわたって培われたチームワークが活かされる業務などです。こういった企業では、これまで通り「職能給制度」での人材雇用を維持する選択肢もあるでしょう。

つまり、企業の特徴や目的に合わせてどのような雇用システムを選択するかが重要であり、「同一価値労働同一賃金」は、その方法の一つなのです。私は、それぞれの企業で長期的にキャリアを築く働き方と、職務を切り口に能力を高めていく働き方が共存する、生産性の高い仕組みを作っていくことが最も理想的な形だと考えています。

日本における「同一価値労働同一賃金」は端緒についたばかり。そうした中で私が懸念しているのは、人事制度や就業規則を見直す際に、法律の変更や施行される内容のみに目がいきがちなことです。法律を遵守するだけでなく、事業の方向性や目的を即した人事制度・雇用施策を推進することが重要です。
 そういった運用を取り入れている企業が、働く人や市場に支持されるという良いスパイラルが生まれることを望んでいます。企業にとって、「同一価値労働同一賃金」は、 真正面から従業員を公正に処遇する”ことについて考え直す良いチャンス。そのように捉えてほしいと思っています。

水町勇一郎(みずまちゆういちろう)
profile

東京大学社会科学研究所教授。専門は労働法学。大学卒業後、東京大学社会科学研究所助教授、パリ第10大学客員教授、ニューヨーク大学ロースクール研究員などを経て現職。著書に『労働法入門』(岩波新書)、『労働法入門 第4 版』(有斐閣)などがある。


「同一労働同一賃金」と「同一価値労働同一賃金」 【同一労働同一賃金】同じ職種に従事する労働者に対し同一の賃金水準を適用し、労働の量に応じて支払う賃金制度 【同一価値労働同一賃金】職種が異なる場合であっても労働の価値が同じであれば、同一の賃金水準を適用する賃金制度 「同一価値労働同一賃金」登場の背景には、「同一労働同一賃金」では差別が残存するという問題がありました。たとえば、性別で異なる報酬体系にしたい場合、職務を性別で分けても、実際には賃金格差が残ります。一方、「同一価値労働同一賃金」では、たとえ職務分離をしたとしても、その価値が同一と判断されれば同じ賃金水準を適用する必要があります。「同一価値労働同一賃金」は、「同一労働同一賃金」のさらに一歩先に進んだ考え方といえます。
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