Vol.41 仕事と私 挑戦を通じて インタビュー ライフネット生命保険株式会社 代表取締役会長兼CEO 出口治明さん

ネット生保はまだ「ナッシング」。それを「サムシング」にするために、朝から晩まで休みなく働いています

不運に見舞われても動じる必要はない

ライフネット生命を立ち上げたのは、まったくの偶然でした。

僕はそれまで、30年以上日本生命で働いてきて、ロンドン事務所長、国際業務部長なども務めました。しかしその後、グローバル展開に関して会社との方向性が合わず、系列のビル管理会社へ出向になりました。いわゆる左遷です。しかし、それが挫折だったとは思っていません。

不運に見舞われると、多くの人は「どうして自分だけ」と考えてしまう。しかし歴史上の人物を見ても、ほとんどの人が必ずしも幸運続きではないことがわかります。上司に恵まれない、メンバーとの相性が悪い、会社が悪い─。そう思っている人は、単に不勉強なだけだと僕は思う。自分だけがアンラッキーなのではなく、この世に生まれた人の大多数がアンラッキーなのです。それが歴史のファクトです。だから、不本意なことが自分の身に起こったとしても、動じなくてよいのです。

出口治明さん

僕が勤めていた会社では、子会社に出向になって本社に戻ってきた人は過去一人もいませんでした。これもまた、歴史のファクトです。その頃、すでに55歳になっていたこともあり、30年以上携わってきた生命保険から身を引く潮時だと考えて、"遺書"として『生命保険入門』を書きました。その後、東京大学の総長室アドバイザーをやっているときに、「保険会社を作ってみないか」というお声がけをいただいたわけです。僕はその場で思わず「はい」と言ってしまいました。それが起業のきっかけです。

若い世代が貧しいわが国で、新しく生保を起業する意味は「保険料を半分にして安心して赤ちゃんを産める社会を創りたい」しかあり得ません。先の『生命保険入門』で、僕は「保険料を下げるには営業費を下げるしかない。そのためにはネットの活用が有効である」という持論を掲げていました。

起業のパートナーの条件に「保険業界のことを知らない若い人」を挙げました。人間もしょせん動物、動物の世界でもっとも重要なことはダイバーシティ(多様性)です。異なる種が共存することによって動物の世界は成り立っているわけですから。

僕は保険業界に詳しい年配者だった。だから、その真逆のパートナーと組むことによってダイバーシティが実現できると考えた。そうして紹介してもらったのが、現在、ライフネット生命の社長を務めている岩瀬大輔です。

社員の頑張りの積み重ねが会社の歴史となる

しかし、「ネットで生命保険を契約する」というモデルを理解してもらうのは、容易ではありません。生保は営業職員が売るもの。それが業界の常識であり、生活者の常識でした。それは今も大きく変わってはいません。

ネットで契約しても、何の心配もない。ライフネット生命は、長期にわたってお金を預けられる会社である─。お客様からそのような信頼をいただくまでには、まだまだ時間がかかると思っています。創業からの6年間で売り上げは76億円にまで伸びましたが、生保の市場規模が42兆円であることを考えれば、まだまだ微々たるもの。マラソンにたとえると、400メートルのトラックを走り終えて、ようやく路上に出たくらいのところです。

しかし、少しずつ前進してはいる。それはひとえに、社員に恵まれたことに尽きます。戦略が成功していると言ってくださる人もいますが、優れた戦略などそうそう立てられるものではありません。ダーウィンの進化論が示すように、生き残るのは、強い者や賢い者ではなく、変化に対応できた者です。会社が世の中の変化に対応して生き残っていくために必要なのは、社員一人ひとりのやる気であると僕は思っています。会社をもっとよくしよう、成長させよう──。そう思ってくれる社員がいて、毎日一所懸命頑張ってくれる。その積み重ねが会社の歴史です。

ネット生保の存在感は、業界全体から見ればほとんど「ナッシング」です。それを「サムシング」にすることが今の僕の目標のすべて。それを実現するために、毎日必死に働いています。まさか、66歳にもなってこんなに朝から晩まで働くことになるとは、夢にも思っていませんでしたがね(笑)。

出口治明さん
profile

1948年三重県生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命保険相互会社に入社。日本興業銀行への出向、生命保険協会財務企画専門委員会初代委員長、ロンドン事務所長、国際業務部長などさまざまな要職を歴任し、2006年に退社。生命保険準備会社を設立する。08年にライフネット生命保険を開業し、代表取締役社長となる。13年より現職。無類の読書家として知られる。『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『直球勝負の会社』(ダイヤモンド社)、『仕事に効く 教養としての「世界史」』(祥伝社)など、著書多数。


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