Vol.36 仕事と私 挑戦を通じて インタビュー 東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会 副理事長・専務理事 水野正人さん

オリンピックの“レガシー”を将来へつなげて活かしていく。そこにこそ大きな挑戦があるのです

招致活動に専念するためミズノの会長を退任

私がミズノの3代目社長に就任した1988年は、バブル経済が本格化しつつあった時期でした。何をやってもうまくいった時代で、ミズノも新しいビジネスに着手し、事業を拡大しました。

しかし、90年代に入りバブル経済が終焉するとともに、その拡張路線にも終わりが訪れました。私は経営トップとして、会社の規模を縮小させるさまざまな決断をしなければなりませんでした。辛い時期でしたが、これも自分の運命です。受け入れた上で、どうやってそこから最善の結果を引き出せるか。それを考えることこそが大切である──。私の変わらぬ信念です。

幸いにしてミズノは、「優れた機能と高い品質のスポーツ用品を開発して、世界のスポーツ振興に寄与する」という本来の使命に立ち返って、健全な経営を続けることができました。「機能と品質」は、現在もミズノ製品のアイデンティティになっています。

水野正人さん

そのミズノを、会長職を最後に退いたのは2011年のことでした。2020年オリンピック・パラリンピック大会の招致活動に専念するためです。

私はそれまでもIOC(国際オリンピック委員会)の活動に携わり、JOC(日本オリンピック委員会)では副会長の立場にありました。しかし、ミズノはオリンピックの公式サプライヤーだったので、オリンピック招致活動の当事者になることはIOCの規定に反することでした。

私はこの時、会社を退くことを決めました。「たいへんな決断だったでしょう」と周囲から言われましたが、私にとってはごく自然な身の振り方でした。

ミズノの創業者であった祖父は、64年の東京大会にスポーツ用品を提供しました。2代目の父は、72年の札幌冬季大会をサポートしています。ミズノが98年の長野冬季大会のゴールドスポンサーとなった時の社長は私でした。ミズノの歴史はオリンピックとともにあった。そのオリンピックの東京開催を実現するために身を捧げることは、自分の使命だと考えたからです。

多くの聴衆の心に届いた熱いメッセージ

最終プレゼンテーションにおける私の役割は、大会運営の具体的な方法を説明することと、東京というアジアの大都市で大会を開催することの意義を訴えることでした。しかし、それ以上に力を入れたのは『聴衆の心に直接訴えるメッセージを発すること』でした。

私たちは世界中のオリンピック関係者と長きにわたり友情を築き上げてきた。その友情の名のもとに、私たちを信じてほしい。必ずや大会を成功に導くことができるだろう──。それが、あのプレゼンテーションで最も伝えたかったことです。ジェスチャーや表情がよかったと言ってくださる方もいましたが、元来、私は身振り手振りが大きく、むしろプレゼンでは動きを抑制したくらいです(笑)。それでも、世界中に真心を伝えようとして、大きな身振りが自然に出てしまいました。

オリンピックの開催権獲得には成功しました。しかし、本当の挑戦はこれからです。今後6年半の間に計画を迅速に進め、大会を成功させなければなりません。さらに言えば、オリンピックは大会の成功によってすべてが終わるわけではありません。オリンピックの経験をもとに、その後どのような社会を築いていくかが問われるのです。

IOCは、オリンピック開催後に残るものを「レガシー」、すなわち「遺産」と表現しています。レガシーの中には、競技施設や都市インフラのように有形のものもあれば、大会を通じて得られた活力、一体感、ボランティア精神といった無形のものもあります。それらのレガシーを国の魅力にどのようにつなげていくか。オリンピックを触媒として国や社会をどう成長させていくか。それこそが、オリンピック開催国が挑むべき大きなチャレンジなのです。

私は、東京オリンピックが開催される年には77歳になっていますから、物事を中心で進める立場に今後も身を置こうとは思いません。若い世代が協力し合って、すばらしいオリンピックを作り上げることを期待しています。

しかし、スポーツを通じた健康増進や文化育成には何らかの形でお役に立ち続けたいと願っています。それこそが自分の運命であると思うからです。

水野正人さん
profile

1943年兵庫県生まれ。甲南大学経済学部、米カーセージ大学理学部を卒業後、美津濃(現ミズノ)に入社。小売り営業部、総合企画室、取締役副社長などを経て、88年に代表取締役社長に就任。96年よりIOCスポーツと環境委員会委員を、2001年よりJOC理事を務める。06年より務めた代表取締役会長を11年に退任し、東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会副理事長・専務理事に就任。大会招致に尽力した。


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