Vol.34 インタビュー:TABLE FOR TWO International 代表 小暮真久さん

仕事と私 挑戦を通じて

NPOの事業を社会に広く認められる「ビジネス」に育てたかった

外資系、国内大手企業を辞めてNPOの世界へ

マッキンゼー・アンド・カンパニーと松竹という毛色の異なる二つの企業を経て、NPO「TABLE FOR TWO International」(以下、TFT)を創設したのは2007年のことでした。

会社員時代に僕が考えていたのは、人の役に立っていることが実感できる仕事がしたいということと、これまでにない新しい事業を作り出したいということでした。僕の頭にあったのは、ニューヨークのマッキンゼーの同僚から聞いていた「ソーシャルビジネス」というモデルでした。ビジネスの世界で活躍していた人が、スキルや経験を活用して、社会問題の解決に取り組み、しかも、収益を上げる。それがソーシャルビジネスです。僕は、休暇をとって行ったアメリカで、実際にソーシャルビジネスに取り組む人たちから話を聞き、心底魅了されてしまいました。

小暮真久さん

しかし当時、「社会変革をビジネスにしていく」ことを掲げた団体は、日本にはありませんでした。自分で組織を作ろうかと考えていたところで出会ったのが、TFTでした。TFTのコンセプトは、企業の社員食堂や大学の学生食堂などで低カロリーのメニューを提供し、料金のうちの20円をアフリカの学校給食事業を支援する寄付金とする、というものです。アフリカの子どもたちが給食を食べられるようになるだけでなく、先進国における肥満の問題解決の一助にもなる。つまり、先進国と開発途上国のカロリーバランスを調整して、一方の肥満と一方の飢餓とを同時に解決しようというわけです。寄付金が20円なのは、それがアフリカの給食1食分にあたる金額だからです。

僕は迷うことなく会社を辞め、当時まだ動き始めたばかりだったTFTに参加しました。特に「挑戦してやろう」という意気込みがあったわけではありません。ごく自然に、やりたいことを始めたという感覚です。本当の挑戦が待っていたのは、TFTの活動のただ中に入ってからでした。

NPOのイメージを変えるためのチャレンジ

TFTは法人格上はNPOですが、僕が目指していたのはあくまでソーシャルビジネス、つまり「収益の確保と社会事業を両立できる組織」でした。しかし、世の中の人々の感覚は違っていました。「NPOで働いている人は、ビジネスの世界で生きることができなかった人であり、気ままにやりたいことをやっている自由人である」。それが、当時の日本における一般的な見方でした。企業にプログラムの説明に行くと、「で、本職は何なの?」とよく聞かれたものです。

僕の役割はTFTの活動を広め、プログラムを採用してくれる団体を増やすことでしたが、それだけでなく、NPOのイメージそのものを変えていきたいと考えるようになりました。それが、自分にとって大きなチャレンジであると──。そのために僕が取り組んだのが、コンサルティングの世界で言う「オペレーショナル・エクセレンス」、つまり、業務プロセスを徹底的に洗練させ、ビジネス効率を上げることでした。それはいわば、NPO団体が陥りがちな「甘え」を排して、TFTの社会的認知度を高めていくための挑戦でした。

僕たちは時間をかけて、プログラム参加ガイドや申込みフォームなどを用意し、シンプルな手続きで安心してプログラムに参加できる仕組みを構築しました。導入時の煩雑さをなくし、企業・団体のご担当者の手を煩わせないようにすることを目指したのです。

業務をここまで“仕組化”したNPOは、日本ではおそらく初めてだったと思います。このような取り組みが評価され、現在約600の団体がTFTのプログラムに参加してくださっています。

これからの目標は、TFTの活動を世界に広げていくこと。海外拠点は10カ所にまで増えましたが、事業が本格化するのはこれからです。日本で誕生したNPO活動がグローバルに広まった例はこれまでありません。TFTをその最初の成功例にしたいと思っています。

国連は、2025年までにアフリカの飢餓を撲滅することを宣言しました。十数年後、「飢餓撲滅のためにTFTは大きな力を発揮した」と言われるような存在にこの団体を育てていくこと。それが僕の夢です。夢を叶えるための挑戦をこれからも続けていきます。

小暮真久さん

profile
1972年東京生まれ。早稲田大学理工学部機械工学科卒業後、オーストラリアに留学。その後、マッキンゼー・アンド・カンパニー、松竹を経て、TABLE FOR TWOのプロジェクトに参加。2007年にNPO法人TABLE FOR TWO Internationalを創設する。同団体のプログラムは、現在、企業、官公庁、学校など、計約600団体で導入されている。近著に『社会をよくしてお金も稼げるしくみのつくりかた』(ダイヤモンド社)がある。