Vol.53 特集 “21世紀型人財”を育成するタレントマネジメント 第四次産業革命で激変する雇用情勢 求められる“21世紀型人財”とは

ITやロボット、人工知能の進歩などで、多くの専門家が将来的に雇用や職業が大きく減少すると予測している。劇的に変わっていくビジネス環境においても必要とされる人財やスキルとはどんなものなのか。そして、そんな“21世紀型人財”を育成するタレントマネジメントとは一体どんなものなのだろうか。

「今ほど、人財の“適材適所”が求められている時代はありません」そう語るのは、NTTドコモで“iモード”を立ち上げたことなどで知られる慶應義塾大学政策・メディア研究科特別招聘教授の夏野剛氏だ。

「会社は社員一人ひとりについて、何に興味があるのか、どんな特性やリソースを持った人なのか、それをしっかり把握してより本人の志向性に合った部署への配属や業務分担を行っていかないと、日本企業の未来は厳しいものになります」

現実はすでに差し迫ったところまできている。2016年1月、世界経済フォーラム(WEF)が『仕事の未来(TheFuture of Jobs)』と題した調査報告書を発表した。2020年までに予測される雇用や労働市場の動向と、その対応策などをまとめたものだ。
ロボットや人工知能(AI)、ナノテクノロジーなどの新技術の発達(第四次産業革命)によって、日本を含む15カ国・地域で2020年までに失業者数が510万人増加すると推測されている。具体的には、コンピューター関連やアーキテクチャー・エンジニアリングなどの分野で200万人の新しい仕事が生まれる一方、既存のホワイトカラーを中心に710万人の雇用が失われると予測している。残る業種・職種においても、求められるスキルが変化するという。
さらに、雇用環境の変化により、近い将来、現在の職業のかなりの部分で代替、自動化が進むとする予測が多数出ている(図1参照)。

【図1】将来の雇用予測 「2011年度に米国の小学校に入った子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在しない職業に就く」(2011年、米ニューヨーク市立大学のキャシー・デビッドソン教授) 「米国では今後10〜20年で、米国の雇用者の約47%の仕事が自動化されるリスクが高い」(2014年、英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授) 「10〜20年後に、日本の労働人口の約49%が就いている職業において、人工知能やロボット等に代替することが可能」(2015年、野村総合研究所)

21世紀型人財に必要な3つの能力と「振り返る力」

産業構造もビジネス環境も大きく変わるなかで、必要とされる人財=21世紀型人財とは、具体的にどんな資質・能力を備えた人物像なのだろうか。また、そうした人財を企業はどのように採用・育成すればよいのだろうか。企業・組織における学習や人財育成に詳しい東京大学・大学総合教育研究センター准教授の中原淳氏はこう語る。

「これから先、必要とされる能力は主に3つ。1つは『対人相互作用力』。つまり人と直接対面し、インタラクティブ(双方向)なコミュニケーションをする能力です。2つめは『即興対応力』。目の前にいる相手の即時的な要求に応えたり、突発的な事態に対応したりする適応力のことです。そして3つめが『問題発見能力』。ただ問題を解くのではなく、解くべき問題を自分自身でつくりだす能力です。誰にも先が見通せない時代に、問題を自ら見つけてそれに取り組み、未来を切り開いていくことは、与えられた問題をただ解くことよりはるかに難しい。これはAIには実現困難な能力で、今後ますます求められるようになるでしょう」

この3つの能力を伸ばす基盤となるのが、自らの行動と結果を自身で検討、反省し、改善していく「振り返る力」だという(図2参照)。

【図2】21世紀型人財として必要な能力(中原淳准教授) 振り返る力:自らの行動と結果をチェックし、改善できる能力 対人相互作用力:対面のコミュニケーション能力 即興対応力:リアルタイムに、即対応できる力 問題発見能力:自ら課題を見つける力

また、企業の人事部門のあり方や人事マネジメントに詳しい中央大学大学院・戦略経営研究科客員教授の楠田祐氏も、中原氏と同様に、21世紀型人財に求められる能力として対人コミュニケーション力を挙げる。特に重要なのが「周囲を巻き込む力」だという。

「どんな環境にあっても、目標に向かって周囲の人々を巻き込んで物事を進められる能力。これを欧米ではリーダーシップと呼んでいます。日本でリーダーシップというと、人の上に立つマネジメント層や経営層のみに必要だと思われがちですが、欧米企業ではすべての社員が発揮すべき重要な能力と捉えられています。また、いくらAIが発達しても、0から1を生み出すことは人間にしかできないはず。今までにないものを発想して創り上げるクリエイティブな能力も不可欠です。クリエーターや企画開発担当者だけではなく、すべてのビジネスパーソンが日常の業務の中で求められていく能力となるはずです」

“適材適所”で中長期的な育成を実現するタレントマネジメント

こうした能力が求められているにもかかわらず、人財育成の仕組みが追いついていない、と中原氏は指摘する。

「先に挙げたような資質や能力は、最近の科学技術の進歩とは関係なく、以前からその重要性が認識されていました。しかし日本の企業や学校教育は、まだ21世紀型の人財育成に対応できていない。社会全体でこれをいかに変えていくかは喫緊の課題です」

人財育成のあり方を見直す上で重要になりそうなのが、" 適材適所" を肝とする「タレントマネジメント」だ。

タレントマネジメントとは、目標達成のために、社員一人ひとりの能力(talent)をきめ細かく把握・共有して、人財の適切な配置や育成を図っていく人事的な諸活動を指す。21 世紀初頭から本格的に取り組みが始まり、すでに欧米企業の間では広く定着している。日本でも企業のグローバル展開が加速するなかで、海外拠点も含めた適切な人財の確保・育成・配置の必要性が意識されるようになり、タレントマネジメントを取り入れる企業が増えている。楠田氏が語る。

「タレントマネジメントの潮流は、これまでハイポテンシャル人財が中心でした。成長性の高い優秀な社員を見極め、次世代の経営幹部として全社的に育成していくというものです。現在も、この考え方に基づいてタレントマネジメントを導入している企業が多いです。しかし最近になって、対象を一部に限定するのではなく、すべての社員の能力を人事部やマネジャーがしっかりと把握し、その可能性を適切に開花させていくべき、という考え方が広がりつつあります」

日本では少子高齢化が進み、人手不足が深刻化しつつある。限られた人財で生産性を上げていくためにも、タレントマネジメントの発想を全社的に取り入れて、人員配置の精度を高めることは非常に重要だ。個々の潜在的な能力や志向を踏まえ、中長期的な視点で人員配置を決定し、一人ひとりの能力を最大限に発揮させていく。その結果、社員のエンゲージメントを高め、リテンションにもつなげることができる。

タレントマネジメントを導入する企業が増えているのは、日本の働き方や労働観の変化も関係している、と楠田氏は言う。

「数年前から『モチベーション3.0』という言葉が日本でも注目を集めています。報酬の高さなどの外発的動機づけではなく、自身の興味のある仕事に携われるか、自己実現ができるか、といった内発的動機づけによってモチベーションが大きく左右されるという考え方です。個々の社員がどんなキャリアプランを考え、望んでいるのか、人事部やマネジャーが把握・共有し、人員配置などに生かしていく必要性が出てきたのです。社員の自己実現を人事的に支えていく手段の一つがタレントマネジメントであるともいえます」

実体験を積むこととコミュニケーションが重要

21世紀型人財の育成に企業が取り組んでいくうえでの留意点について、中原氏に聞いた。

「『対人相互作用力』も『即興対応力』も、座学や研修ではなく、実体験を積み重ねることでしか得られません。リーダーシップを身につけるには実際にリーダーをやってみるしかない。自ら考えて行動し、決断することが求められるような業務に携わらない限り、『問題発見能力』は身につきません。しかし日本企業の場合、入社して10年ほどは現場の仕事だけに専念することを求められ、30代半ばぐらいになって突然『マネジャーとしての資質を身につけてください』などと言われて、山ほど研修を受けさせられる。もっと若い段階から、各社員の能力を開花させるような業務を与えていくべきです」

そのためにも、まずは個々の社員とのコミュニケーション機会を確保することが必要だ。各部門のマネジャーが部下一人ひとりと日常的に対話を繰り返し、能力や資質、本人のキャリアプランなどをきめ細かく把握していくことが望ましい。

「あるIT企業では、上司が部下と週1回のペースで、30分程度の1on1ミーティングを実施しています。日常業務の振り返りやフィードバックが中心ですが、本人が考える課題やキャリアプランについても定期的にヒアリングし、こうした情報を『人財開発カルテ』として蓄積・共有しています。そして、それぞれのキャリアプランに沿って、必要なスキルを身につけられるような業務を与えていく。これによって、社員の能力向上はもちろん、モチベーションやエンゲージメントを高めることに成功しています」(中原氏)

今後は、タレントマネジメントのグローバル化がますます加速していく、と楠田氏は話す。

「主な外資系企業では、グループ内のグローバル拠点すべてにタレントマネジメントを導入しています。新たに生まれたポジションを社員に公開する『オープンポジション』を全社的に展開して、例えば米国本社に勤務する社員が希望しているポジションが、ドイツのベルリン支社にあったら、すぐにわかる仕組みになっています。これにより、“グローバルな適材適所”が可能になります。将来的には、他社の人財や転職市場の人財も取り込んだ、より大規模なタレントマネジメントの仕組みが構築される可能性があります。自社以外の人財の情報もマネジメントして、ダイレクトリクルーティングや事業部単位のM&Aなどを通じて自社に人財を取り込んでいく。そんな時代の到来が目の前にやってきています」

夏野 剛氏
慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特別招聘教授
profile
早稲田大学政治経済学部卒業。米ペンシルベニア大学経営大学院ウォートンスクール卒(経営学修士)。NTTドコモに在職中に、「iモード」「デコメ」「おサイフケータイ」など革新的なサービスを次々と立ち上げた。08年にドコモ退社、現在は慶應義塾大学特別招聘教授のほか、KADOKAWA・DWANGO、セガサミーホールディングス、ぴあなどの取締役を兼任。

中原 淳氏
東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
profile
大阪大学博士(人間科学)。北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員等を経て、2006年より現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人々の学習・コミュニケーション・リーダーシップについて研究する。

楠田 祐氏
中央大学大学院 戦略経営研究科 客員教授 戦略的人材マネジメント研究所 代表
profile
大手エレクトロニクス関連企業3社に勤務した後、ベンチャー企業経営者を10年経験。2009年より年間500社の人事部門を6年連続訪問。人事部門の役割と人事の人たちのキャリアについて研究。多数の企業で顧問なども担う。
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