Vol.50 特集 「個々人に合ったオーダーメイドのキャリア開発」が企業を成長させる 「キャリア自律」の意識を目覚めさせるマインドセットが課題

ある日突然、自分のキャリアが通用しなくなるかもしれない──。
そんな厳しい状況がいつでも起こりうる時代に突入した。
企業は社員のキャリア形成、キャリア開発にどのように向き合っていくべきなのか。
自発的なキャリア開発、すなわち「キャリア自律」を正しく理解し、
支援するための課題と問題点について探った。


急激なグローバル化やIT、ロボット技術の進化など、近年のビジネス環境は激変している。個人に求められるスキルも高度化する一方だ。少し前まで重宝された資格や実績があっという間に陳腐化してしまうこともある。
近年、厚生労働省がキャリアコンサルタントの育成やキャリア形成促進を強く推し進める政策を打ち出しているのも、こうした時代背景を受けてのことだ。2000年に『キャリアショック』を上梓するなど、15年以上前から個人のキャリア開発の必要性について訴えてきた高橋俊介氏はこう語る。
「社員一人ひとりが、現在のキャリアが通用しなくなったときに次のステージをどうするのか、考えておくべき時代になりました。最も重要なことは、自分のキャリアは自分で切り拓くという『キャリア自律』の意識を持つことです。そして企業は責任を持って、社員のキャリア自律を支援する体制づくりを進めることが必須課題といえます」

誤解に基づくキャリア支援は逆効果になることも

キャリア自律を支援すると、社員の転職願望を誘発し、優秀な人財の流出につながるのではないかという恐れから、これまではキャリア支援に消極的な企業も多かった。しかし、社員一人ひとりのキャリア自律を支援したほうが、仕事に対するやりがいが生まれ、前向きな姿勢で取り組むことでパフォーマンスが向上する。労働力人口の減少による人手不足に悩む企業にとっては、キャリア支援は社員のためだけでなく、企業が成長する源泉にも成りうるのだ。

また、キャリア自律の意識を持つと環境に対する適応力がつき、人事異動への意欲も高まるため、社内人財の流動化が進む。その結果、部署間の緊張関係を緩和したり、退職という形での貴重な人財の流出を食い止めたりする効果も期待できる。

しかし、多くの企業が抱える問題として、社員のキャリア自律を正しく指導できる人財がまだまだ少ないという実情がある。高橋氏は「キャリア自律の支援は、専門的な知見を身に付けた人が行う必要があります」と話す。


慶應義塾大学大学院
政策・メディア研究科特任教授
高橋俊介

profile
日本国有鉄道(現・JR)、マッキンゼー・ジャパンを経て、ワトソンワイアット元代表取締役社長。現在は慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授を務め、コンサルティング活動や人財育成支援などを行う。『キャリアショック』、『21世紀のキャリア論』(いずれも東洋経済新報社)などキャリアに関する著書多数。

「語学や資格を習得しておけば、広い職種で活用できる『ポータブルスキル』になると考える企業も少なくないはずです。しかし、個人の能力や適性を見極めず、表面的なスキルの勉強だけを促すことは、むしろ逆効果といえます」

誤ったキャリア支援は、新社会人の採用にも弊害をもたらしかねないと高橋氏は指摘する。

「最初にゴールとなる目標を立て、そこから逆算するキャリアデザインは、実は現実的な手法ではありません。キャリアとは、人との出会いや世界経済の動向など、さまざまな要素が複雑に影響し合って出来上がっていくもの。最初に定めた目標は、数年後には消滅していたり、意味のないものになっていたりします。誤ったキャリア支援は、若者のキャリアの自律に対する誤った解釈を生みます」

適切でないキャリア支援策を行うと、社員が意欲を失ってしまう恐れもある。有効な解決策は、社内にキャリアアドバイザーを養成するなどして、キャリア開発に関する専門的な知見を持った人財を確保することだ。

キャリア自律支援の中核は、本人が自発的にキャリア開発に取り組めるように、意識改革を働きかけること、つまりマインドセットにある。自分は何をしたいのか、そのためにはどうしたらいいのか。それらを理解し、未来像をイメージできれば、「よし、やってみよう」という前向きなやる気が生まれる。意識や気持ちの問題だけに、一朝一夕で成果が出るはずもなく、実現までは時間がかかる。

特に、終身雇用が当たり前の時代に入社して、自身のキャリアを会社に任せてきたミドル・シニア世代の社員にとっては、突然自分で自分のキャリアを考えるように言われても、どうすればいいのか戸惑ってしまう。時間をかけて繰り返し働きかける必要があるだろう。

専門性を深める、幅を広げる二つのフェーズでバランスを取る

一方で、20代〜30代の若手社員たちはキャリア自律に関して前向きに考えるが、試行錯誤や無駄を望まず、ゴールに一直線に向かうキャリアを描く傾向がある。高橋氏はこの傾向を危惧する。

「効率的にキャリア形成しようとすることは、この時代においてはリスクといえます。無駄なく積み上げたキャリアほど、変化に適応できない可能性が高い。試行錯誤をして、無駄や回り道をしながらキャリアを形成していけば、想定外の変化が起きて方向転換を図らざるを得ないときも、落ち着いて適切に対応できるのです」

キャリア自律の重要性は認識できても、具体的に何をしたらいいのかわからない社員も多い。キャリア自律支援に当たっては、まずこれまでの仕事や人生を振り返ることから始めるべきだろう。

「キャリアには大きく分けて、専門性を深掘りして追求していく時期と、未知の分野にチャレンジして自分の幅を広げる時期があります。それぞれの時期をフェーズと捉えて、人生の中で各フェーズが交互にくるようにしたほうが、結果としてバランスがよく、変化に適応できるキャリアになる。出産、育児、介護などライフイベントの影響でキャリアが途切れたとしても、新しいフェーズを経験できる機会と捉えれば、再スタートしやすくなります」

キャリア自律の方向性は当人が主体となって決めていくものだが、転職や異動は、本人が希望したからといって必ず実現できるものではない。また、やりたい仕事と向いている仕事は違う。向いているかどうかは実際にやってみないとわからない。

人はそれぞれ仕事観や能力、適性が異なるため、一律の対応マニュアルが作れるわけでもない。社員一人ひとりが自分の内的な動機や価値観を顧みて、重要なもの、譲れないものは何かを考えながらキャリアを見直し、どうしたらいいかを考えていく必要がある。

企業はそこを理解したうえで、個々人に合ったオーダーメイドのキャリア支援をしていく必要がある。自己啓発の支援や研修・セミナーの実施、マンツーマンのカウンセリング、異動希望の受け入れシステムの整備など、メニューはさまざまだ。社員本人のマインドセットとともに、受け皿となる制度やシステムを整えることが、現実的なキャリア支援となるだろう。

「企業として、日頃からキャリア自律支援を積極的に行っていれば、環境が激変したとしても、社員は次のステップに進みやすくなります。それは企業にとってもメリットが大きいということを認識しておくべきでしょう」

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