Vol.47 特集 組織を活性化させる「ポジティブメンタルヘルス」 限られた人財で最大の成果を上げる「ワーク・エンゲイジメント」 Adecco’s Eye

従業員全員の心身の健康度を高め、仕事のパフォーマンスを上げる"攻め"のメンタルヘルス
──その手法の一つに挙げられるのが「ワーク・エンゲイジメント」だ。
日本におけるワーク・エンゲイジメントの第一人者に、会社として取り組むべきポイントを聞いた。


「労働力人口が減少し、限られた人財で最大の成果を上げなければならない昨今、どの会社も労働力の質の向上が求められており、職場のメンタルヘルスにおいても、社員の健康や生産性の高い職場作りが重視されてきています。そのためには、一人ひとりの社員の強みを伸ばしたり、意欲を活性化させたりする"攻め"のメンタルヘルス対策が必要なのです」
そう語るのは、東京大学大学院准教授の島津明人氏だ。同氏が攻めのメンタルヘルス対策として挙げるのが「ワーク・エンゲイジメント」である。「仕事に誇りややりがいを感じている」(熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)、「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)状態を「ワーク・エンゲイジメントが高まった状態」だという。この状態になると、活力にあふれ、積極的に仕事に関わり、パフォーマンスも高まる。「ワーク・エンゲイジメントは、"燃え尽き症候群(バーンアウト)"の対極概念として研究が始まり、2000年代から欧州を中心に普及し始めました(図1)。最近は日本でも、心理学や産業保健、看護の分野で重要だといわれています」


東京大学大学院
医学系研究科公共健康医学精神保健学分野
准教授
島津明人

【図1】ワーク・エンゲイジメントと関連する概念

組織資源の充実が個人資源の向上をもたらす

ワーク・エンゲイジメントを高めるにはどんな手段があるのか。欧州での実証研究によると、「個人資源」と「組織資源」の二つの要素が関わってくるという。「個人資源とは、心理的ストレスを減らしたり、モチベーションを上げたりする原動力となる内的要因のことで、楽観性、自尊心、自己効力感(やればできるという自信)などが含まれます。一方、仕事の負担や悪影響を緩和して、モチベーションを高める、組織内の有形、無形の要因が組織資源です。上司や同僚のサポート、仕事の裁量権、パフォーマンスに対する評価、仕事上および研修でのトレーニングの機会などがこれに当たります」
この個人資源と組織資源は密接に関係しており、基本的に組織資源が充実すると、個人資源も向上する。組織資源の中でも、特に大きな要因になるのが上司のフィードバックだ。「部下の仕事へのフィードバックには、ネガティブとポジティブの2種類があります。良い点を中心に評価するポジティブフィードバックを中心に行うことで、自己効力感などの個人資源を高められます。ただし、無目的に褒めると、独断専行するなど好ましくない行動が増えることもあります。部下の具体的な行動に焦点を当て、"この行動がよかった"と褒めるとよいでしょう」

【図2】ワーク・エンゲイジメントの規定要因

無反応が最もNG 裁量権は与える前によく観察を

最も良くないのは無反応だ。ネガティブフィードバックよりも部下のやる気をくじくことにつながる。自分が行った努力や仕事に対して上司の反応がなかったり、曖昧だったりすると、部下の心は不安定になりやすいという。
仕事の裁量権については、自分で判断して進める裁量の幅を拡大してあげたほうが個人資源は上がるが、逆効果の場合もあるため考慮が必要だ。「裁量権を与えて仕事を任せる際、ポイントが二つあります。一つは、完全に丸投げはせず、適時サポートし、相談に乗ること。裁量権が大きい一方で上司や同僚のサポートが少ないと、健康度が悪化するという調査結果もあります。もう一つは、裁量権を与えてよい人かどうかの見極め。言われたことをきちんとやるほうが楽な人は、むやみに裁量を与えると不安感が増幅します。このような人の場合は『この仕事をこうやってください』と、あえて裁量を狭めて、役割を明確にするほうがいいでしょう」
部下の個人資源を上げられる上司になる第一歩は、「部下をよく観察すること」だ。不安感から仕事に没頭せざるをえない「ワーカホリック」と、「ワーク・エンゲイジメント」が高い人の違いがわかってくるという。「この部下は裁量権を与えたほうがよいタイプか、そうでないかはよく観察して見極めてください。それぞれの部下の働き方をよく見ていると、同じように一生懸命仕事に取り組んでいても、心の健康度に大きな違いがあることが見えてきます。ワーク・エンゲイジメントの高い人は、自分自身で設定した目標をいかに達成するかという目的志向となっている一方、ワーカホリックは不安感を避けるために仕事に没頭しており、心身の健康を害しやすい。失敗を恐れ、心配の種を懸命につぶそうとするため、やらないといけないことが数多く生まれ、結果的に長時間労働になる。自己目標がなく、失敗を恐れる傾向がある人はワーカホリックの可能性が高いでしょう」
ワーカホリックをワーク・エンゲイジメントに導くには、仕事に面白みを見出してもらうことが有効だ。その手段として、「ジョブ・クラフティング」という手法が注目されている。「仕事のやり方や認識を少し変えて自分なりの面白みを見つけるということです。たとえば、銀行員がお札を数えるとき、ただ数えるだけだとすぐ飽きますが、毎回やり方を変えて時間を測り、最速で正確な方法を編み出そうと考えてやれば、楽しさも出てきます。『やらされ感』の強い仕事でも、少し意識を変えるだけで、やりがいを持つことができるのです」
まずは、社内の組織資源がどの程度あるのか、社内の生の声を集めることから始めるべきだろう。職場のストレス要因が可視化され、どこを改善するべきなのか、見えてくるはずだ。

【図3】組織のタイプと必要な対策

島津明人氏 東京大学大学院 医学系研究科公共健康医学精神保健学分野 准教授
profile
早稲田大学第一文学部、同大学院文学研究科卒業。同大文学部助手をなどを経て、2006年より現職。専攻は精神保健学、産業保健心理学。近著に『職場のポジティブメンタルヘルス 現場で活かせる最新理論』(誠信書房)など。

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