「働き方改革」座談会 "生産性向上"で企業競争力を強化時間・絆・働く喜びも経営資源に ダイバーシティやワークライフバランスを実現し、健全かつ持続的に成長していく――。しかし、"言うは易く行うは難し"が現実だ。そこで「働き方改革」に取り組む先進的な企業として、SCSK、全日本空輸の2社をピックアップ。働き方に関する企業コンサルティングを手掛ける東レ経営研究所の塚越学氏を加え、ディスカッションを行った。 SCSK株式会社 小林良成氏 理事 人事グループ人事企画部長 株式会社 東レ経営研究所 塚越 学氏 ダイバーシティ&ワークライフバランス推進部 シニアコンサルタント 全日本空輸株式会社 荒牧秀知氏 業務プロセス改革室 イノベーション推進部 部長

塚越本日はお忙しいところ、ありがとうございます。まず、それぞれ「働き方改革」を始めた背景と、取り組み内容について教えていただけますか。

荒牧当社は2012年で創業60周年。人間で言えば還暦です。そこで当時のトップが、厳しい国際競争を生き抜くため、「強く生まれ変わる」とメッセージを発信し、業務プロセス改革に取り組みました。その一環で、「IT推進室」を「業務プロセス改革室」と改め、「働き方改革」を全社的に進めました。

塚越具体的にはどんな改革を行われたのでしょうか。

荒牧いつでもどこでも仕事ができるよう、IT環境を刷新し、同時にオフィスのフリーアドレス化などを推進しました。生産性向上の成果を測るため、KPI(重要業績評価指標)を設定し、月間会議数、会議参加者数、決裁にかかる時間などを可視化。部署ごとにさらなる効率化策を考えているところです。

小林当社が属するIT業界は、一般的に長時間労働というイメージがある中、2009年からトップの「健康的に働いてもらいたい」という方針のもと、社員の健康増進および生産性の向上に向けて残業削減、有給休暇取得を推進しています。まず残業が多い32部署を選び、残業半減に取り組んだ結果、各人の作業量の平準化、業務の優先順位づけ、ノー残業デーなどの徹底で、16部門が残業半減を達成。次にこれらの成果を共有する形で全社的に取り組み、現在全社平均残業時間は月18時間程度、有給休暇取得率98%程度に。部門全体で残業を削減し、有給休暇取得率を増やすと、その部門の社員に金銭(インセンティブ)で還元するという仕組みにしたのが大きかったと思います。

塚越「残業を減らしてほしい」と人事や労政部が働きかけても、社員は残業代を生活給として必要としている実態があります。SCSKさんは削減した残業代を払うことで、この難題を解決した。会社側も社員側も損せずに残業が減る素晴らしい事例ですね。

小林現在は、むやみに残業する人は"仕事ができる人"から"効率の悪い人"と社員の意識が逆転したこともあり、今年からは残業の有無に関係なく、月34時間または20時間分の残業代を全社員の所定月間給与に一律上乗せする形に変更しています。もちろん20時間を超えれば、通常の残業代は払います。

塚越2社ともトップが強いメッセージを発し、部署全体を巻き込んでいる好例ですね。ワークライフバランス(WLB)推進部門がセミナーなどを開催するものの、実際の運用では本人や部署に任せてしまうケースがありますが、それでは予算がかかる割に定着率は悪い。両社のように、各部署が強い主体性を持ち、他部門とも横断的に取り組み、その成功例を共有する体制があると、1年半〜3年くらいで成果が現れてきます。一人ひとりの能力を最大限に発揮してもらうため、働き方を変えていくには、まずは「残業を減らしても業績は落ちなかった」と、小さな成功を体験することが大事です。

小林当社の場合、改革を始めてから営業利益率が1.9%向上し、成果が数字に現れてきました。今後少子化の影響で優秀な若手人財をなかなか採用できず、40〜50代の社員層に、より活躍していただく必要があります。しかし、この世代は親の介護などに直面し、今まで通りの働き方ができなくなる可能性もある。そうなっても変わらず戦力でいてもらうためには、働き方改革は必須だと感じています。また、少ない労働時間で効率的に働く職場をアピールできれば、若い世代にも響くでしょうし、今後の採用競争力の向上も期待しています。

荒牧当社では、改革の目標として、5つの柱があります。第1は、時間の有効活用を通しての生産性の向上。現在、航空業界は厳しい国際競争に晒され、社員数を増やすことはできません。限りある社員で事業規模を拡大し、新たな価値創造を行っていくためには時間当たりの生産性向上は不可欠です。第2は、社員の目線に立ったWLBの実現。社員の私生活が充実すれば、新しい観点からの発想も生まれてくるでしょう。第3は、"自立と自律"。社員が共通意識を持ち、互いにコラボしながらモバイルワークをすることで、時間価値が高まり、より効率的で高度な仕事ができます。第4は、時間内でのアウトプット重視への転換。第5は、長時間労働からの脱却による、間接コストの削減です。

塚越今「事業拡大を目指すが、人は増やせない」とおっしゃいましたが、これは、どの企業にも共通することです。すでに世界的に見て日本人の給料は高い。では、社員に何をモチベーションに働いてもらうのか。社員が求める働き方を提供することで満足度を上げていくのが有効だと考えます。お金ではなく、時間、絆、働く喜びなど、主観的な要素も経営資源と考え、そこに注力している企業はうまくいっているようです。会社を維持・成長させていく経営戦略として、「働き方改革」が必要な時代になったということです。とはいえ、実際に改革を進める上では、課題も多いと思います。

荒牧最近、"ゆう活"を政府が推進しています。弊社でも取り入れていますが、弊社ではすでにフレックスタイム制や在宅勤務など、働き方のメニューが多数あります。社員それぞれの家庭事情や希望する働き方は違うので、複数の選択肢から選べるようにしています。一つの方法論だけを一律に導入してしまうと、そういった個々人の状況に対応できず、ひずみが生まれる可能性があるように思います。

小林弊社では目標だけ設定し、各職場で実情に合わせて実現していくスタイルです。一律でやろうとすると、"できない理由"も発生してしまう。制度を導入はしますが、活用するかどうかは社員の選択。たとえばフレックスタイムを使う人もいるし、使わない人もいる。大切なのは、制度を"使う人"を"使わない人"が許容することだと思います。

塚越メンバーそれぞれの価値観を認めた上で、仕事ではチームワークを発揮してパフォーマンスを上げていく。この二つが両立すると、欧米企業にはない日本企業の良さや強さが出てくると思います。まずは"それぞれの事情を認め合う風土づくり"がカギになるでしょう。

※ゆう活…早めに出社して早めに退社する働き方

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