Vol.46 特集「働き方改革」待ったなし! 多様な人財の活用と働き方の実現が日本企業生き残りのカギ Adecco’s Eye

「モーレツ社員」「24時間働けますか」と勤労意欲をあおった言葉も今は昔。
労働力人口が減少し、グローバル化で国際競争も激化する昨今、かつてと同じ働き方では企業が生き残ることはできない。
10年後も企業が維持・成長できる「働き方改革」とは。


「少子高齢化、労働力人口の減少という社会的背景のもと、これから企業が生き残るためには女性、高齢者、外国人など、どんな人も高い意欲を持ち、能力を発揮できる組織になることが不可欠です」

そう語るのは、多様な働き方を実現するための「働き方改革」の必要性を説く慶應義塾大学商学部教授の樋口美雄氏だ。日本の労働力人口が今後ますます減っていく中(図1)、多様な人財の活用が求められるのは当然だが、樋口氏は日本企業を巡る経営環境の変化の観点からも、働き方改革は喫緊のテーマと強調する。「高度成長期からバブル期ごろまでは"全社員が一致団結し、目指す目標に向かって力を合わせる"ことが一番の成功モデルでした。"みんなで一緒に"という意識があるため、結果的に同じ場所で同じ時間働くことが求められ、また職を守るために、急な配置転換や転勤なども会社の指示に従わざるを得ませんでした。しかし、日本企業はいまや新興国などに低価格競争で勝つことは難しく、新しいモノや付加価値を生み出すイノベーションが必要な時代。高度な知識や経験も重要です。従来のように無理難題に耐えられる人だけを正社員として雇い、長時間勤務を強いて、頻繁な配置転換を受け入れさせる一方、定年まで雇用するという日本型雇用のモデルは、すでに崩壊しています」


慶應義塾大学
商学部教授
樋口美雄

【図1】雇用者数の増減と労働力率の推移 出所:総務省統計局『労働力調査年報』

このような経営環境の変化や人財不足から多くの企業がワークライフバランス(WLB)実現のための各種制度を導入し始めた。だが、「時短勤務や在宅勤務の実現など本格的な働き方改革を実行しようとすると、かなりのコストや手間がかかる。だから制度は建前として、本格導入は5年くらい先送りしたい」というのが実際のところだという。

しかし、働き方改革は本当に会社にとってコストなのだろうか。

樋口氏らは、各種WLB施策およびダイバーシティ施策が、企業の収益性と生産性にどのような影響を与えるのか、調査研究してきた。研究グループの山本勲氏らによる分析結果は意外なものだった。「1998年から2003年にかけてWLB推進に取り組んだ企業と、未導入の企業のその後を追跡調査しました。結論から言うと、外国人の採用や女性活躍の推進策など多様な人財の活用を進めるだけでは収益性の向上にはつながりません。しかし、同時にWLB推進組織の設置、長時間労働の是正など、WLBを実現する多様な働き方改革も進めると、全要素生産性(TFP)が向上する傾向があることが分かりました。つまり、WLBとダイバーシティの推進はセットになって初めて企業の収益性を高める効果があるのです」

TFPとは設備や資本投入分を除いて、どれだけ人的労働力による生産効率が上がったかを見る指標。WLBを推進すると、このTFPが5年程度で向上し始める傾向があるという(図2)。したがって、WLBの推進当初はコスト増となるものの、中長期的には組織の生産性向上および持続可能性に寄与する"先行投資"となるのだ。「海外を見ると、ドイツでは経営の意思決定機関に従業員代表を入れるなどし、長期的視点から社員の働き方に関する要望を取り入れています。時間は有限で大切なものだと考えられ、長期間働くことは能力開発に資するという観点から働き方改革を推し進めてきました。それが企業側にとっても、生産性、収益性の向上につながっていくという状況をつくってきたのです」

【図2】ダイバーシティ推進による経営効果について 多様な人財を活用する観点から、推進本部の設置など積極的にWLB推進に取り組んでいる企業は、取り組み後に企業の全要素生産性(TFP)を向上させている ●「企業活動基本調査」(経済産業省)の回答企業のうち、従業員100人以上の企業を対象に、RIETIの研究プロジェクト「ワーク・ライフ・バランス施策の国際比較と日本企業における課題の検討」において、郵送によるアンケート調査を実施し、回答を得た1677社を分析したもの。 出典:山本・松浦(2011)「ワークライフ・バランス施策は企業の生産性を高めるか? ─企業パネルデータを用いたWLB施策とTFPの検証」,RIETI−DP11-J-032

では、どうすれば日本企業もドイツのように働き方改革が生産性や収益性の向上に結び付くのだろうか。「日本の場合、雇用の入口にあたる採用のところで正社員、契約社員、派遣社員、アルバイト・パートなど、雇用形態(立場)を分けており、この立場によって仕事の内容、処遇、賃金などが決まる仕組みになっています。しかし、育児や親の介護など人生のさまざまなステージによって、求める給料や時間は変わってきます。正社員と契約社員を自由に行き来できるなど、立場を柔軟にする必要があるのではないでしょうか」

また、今後は従業員の時間当たりの生産性や生み出す付加価値を高めることが重要な経営課題となるため、社員評価、査定制度の改革がWLB実現の上でもカギになるという。「まずは管理職への評価方法を変えることです。部下の有給休暇取得率、残業時間、計画性ある仕事配分などを管理職の評価項目に入れること。そして、一般社員に対しては、あくまでアウトプット(成果)や能力で評価する。ホワイトカラーの場合、労働時間と成果は比例しないことがはっきりしています。管理職は部下に『定時で帰ってもマイナス評価ではない、給料はアウトプットに対して払う』と、明確に伝えることが重要です」

ただし、日本人は個人のアウトプットを評価するのが苦手だという。それで勤続年数や労働時間など文句が出ない点を評価しがちになり、結果として成果主義が機能しない一端にもなっている。「やはり自信をもってアウトプットや能力改善を評価できるよう、管理職に対する評価者教育も必要になってくるでしょう」

最近、ある地方圏の中小IT企業が「フレックスタイム制」で社員募集をしたところ、近隣にある大手の競合企業を出産後に辞めた優秀な女性が続々と入社したという。教育コストもかからずに戦力を確保した好例といえる。「このように、"働きやすさ"が優秀な人財を集め、業績も伸ばすという時代にすでになってきているのです」

【図3】人口の減少とダイバーシティ人財活用の必要性 生産年齢人口の減少 労働者数の拡大と質の向上が重要 性や年齢の違いにとらわれず、だれもが健康で、意欲と能力を発揮し、キャリアを形成できる就業環境の整備が不可欠 労働力人口を確保、同時に成果・労働生産性を向上 ダイバーシティ人財の活用+WLBの推進

樋口美雄氏 慶應義塾大学商学部教授
profile
コロンビア大学経済学部客員研究員、一橋大学経済研究所客員教授、スタンフォード大学経済政策研究所客員研究員、オハイオ州立大学経済学部客員教授などを経て現職。労働経済学、計量経済学を専門とし、ダイバーシティと経済成長および企業業績、ダイバーシティとワークライフバランスの効果などを研究している。

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