注目を集める「ジェネレーションZ」とは? 

組織と人の今とこれから

生まれた頃からパソコンや携帯などデジタルツールに囲まれて育ったジェネレーションZ。
いわゆる「デジタルネイティブ」の世代だ。それまでの世代とは異なる環境に育ち、独特の感性を持つとも評される彼ら。
近い将来、社会人となる彼らの価値観や労働観はどうなっているのか。近未来シミュレーションとともに解説する。

絶対的な安全と安心 常に追い求める

1991年、作家、ダグラス・クープランドが発表した『ジェネレーションX—加速された文化のための物語たち』から名付けられたジェネレーションX。60年代から70年代前半に生まれた世代だ。そして70年代半ば以降に生まれたジェネレーションY、そして今は1990年代以降に生まれたジェネレーションZたちが注目を集めている。まもなく社会人となる彼らには、どんな特徴があるのか。

恐怖・リスクを避けて、安全・安心を求める—。中央大学文学部教育学コース教授の古賀正義氏は、Z世代の特徴をそう総括する。実際に、そうした性向はデータからも見て取れる。内閣府が行った「若者の考え方についての調査」(平成23年度)を見ても、Z世代に相当する若者が「仕事を選ぶ理由」は「安定していて長く続けられる」ことが56.5%と、「自分の好きなことができる」(47.7%)や「収入が多い」(46.6%)などより回答比率が高い。

安定志向は、不安と背中合わせの関係ともいえる。同調査では「きちんと仕事ができるか」「働く先での人間関係がうまくいくか」「そもそも就職できるか、仕事を続けられるか」などの問いかけに8割近くの学生が不安を訴えている。なぜZ世代は、これほど不安に駆られているのだろうか?

「現実的に、リスクが肥大化していることが大きい。長年雇用環境が悪かったことに加え、『核家族』が地崩れしていることも要因。親世代の離婚が増え、シングルファミリーも多く、誰かが毎日朝食を作ってくれる、といった就労生活を支える『基本的な家庭環境』が十分でない人が増えていることも背景にあります」と古賀氏は分析する。

安定志向の背景には、『Z世代の親たちの就労環境』の影響もあると推察できる。

「Z世代の親世代、現在の30代後半~50代は、終身雇用が守られた環境にいるとは限りません。離職や転職する人も多く、リストラを経験している人も。だからこそ、その子ども世代は安定に憧れる面も大きいのではないでしょうか」

実際にZ世代の経済的事情はシビアで、奨学金を受給している学生の割合は52.5%と、10年前の31.2%から急激に増えている(日本学生支援機構「学生生活調査」平成24年度)。社会人になっても奨学金返済で貯蓄が難しく、自分の家庭を持つことも難しくなる人も。だからこそZ世代は「“全身就活”という言葉がはやるほど、何にも優先して就職活動に全精力を注ぐ」。それも以前のように「やりたいこと」を追求するようなどこか浮かれた感覚とは異なり、「今、目の前にある不安を取り除きたい思いから」なのだと言う。

人間関係も安心・安全 結果的に刹那的思考も

「安心・安全を求める」は、Z世代の人間関係作りにも通底する志向だ。

「親や仲間と他人を分けるゾーン・ディフェンス(境界設定)が高く、“親密圏”にいる人と付き合いたがる傾向が強くあります」。日本のZ世代のSNSの使い方が、未知の人々と知り合うよりは、親密圏にいる人とより親密になるために使われがちなのもそのためで、「卒論調査で大学の入学式前に同級生とSNSで知り合いになってくる人が、4分の1もいたほど」(古賀氏)だ。「自尊心と自己肯定感を高めたい欲求が強いがために、親密圏から排除されないよう、仲間に過剰なほどに配慮する傾向が見られます」

親密圏が狭いからこそ、思考は自ずと「個人主義的」、「現在思考」になりがちだ。「行動の原理が今現在の不安を解消することに偏りがちなので、長期的展望を描きにくく、『いま、ここ的』思考にならざるを得ない。だからこそ、あれほど“全身就活”したのにも関わらず、上司とそりが合わないだとか自分に合わないといった理由で会社を辞める若者も多いのです」(古賀氏)

デジタルネイティブゆえのグローバル意識も

もっともZ世代ならではの能力の高さや長所も数多い。その一つがデジタルネイティブならではの傑出したIT能力の高さだ。品川女子学院の教諭、神谷岳氏は「さまざまな挑戦へのハードルが低くなった」と指摘する。

同校の校長、漆紫穂子氏は「『起業したい』と高校2年生から相談されたこともある」そうだ。以前のように、高価なツールを使わずとも、アイディアとスキルがあれば簡単にアプリが作れる時代だ。

「学校で教えてもいないのに、スケジュール管理アプリを作ってApp Storeでリリースした子もいます」(漆氏)

ITツールの普及は、グローバル化とも親和性が高い。同校教諭の酒井春名氏は、実際その効用が見られると言う。「当校では中学3年時に修学旅行として、ニュージーランドにホームステイするのですが、生徒は帰国後もSNSでホストファミリーや学校で知り合った人とつながり、頻繁に連絡を取り合っています。ITツールによってグローバルとの垣根が低くなっていることも、Z世代の大きな特徴です」

さらに、酒井氏はITツールを使いこなすことで、価値観が多様化していることも評価すべきポイントと解説する。「以前は学校内で尊敬される生徒といったら、勉強やスポーツができる子が多かったのですが、今は『ITに強い』『表現力が豊か』など、尊敬される対象も多様化しています。こうした変化により、生徒たちは、人の人生の成功例は一つではないことを認識しています」(酒井氏)

その影響だろうか。最近の中高生は、生徒会長や部活のリーダーなど「目立つポジション」ばかりを目指す傾向は低く、「文化祭の実行委員など自ら進んで裏方に回る生徒も増えている」(漆氏)そうだ。「それは人から感謝されることにやりがいを見出す、社会貢献欲の強い学生が増えているからかもしれません」(漆氏)。実際データにも社会貢献欲の高さは表出しており、前出の内閣府の調査でも「仕事を選ぶ理由」として「多くの人の役に立つため」と回答したZ世代は73.7%と、多数を占めていた。

次ページからは、彼らZ世代が社会に出るときに備え、組織として、どのような備えをすべきかを聞いてみよう。

中央大学文学部教育学コース 教授
古賀 正義 氏

profile
宮城教育大学などを経て2003年より現職。内閣府や東京都の青少年問題の調査研究などを行う。

品川女子学院 校長
漆 紫穂子 氏

profile
東京都内の私立中高一貫校を経て1989年に品川女子学院へ。父の跡を継ぎ2006年より現職。

品川女子学院 教諭
神谷 岳 氏

profile
さまざまな企業と連携しながら実際に生徒たちが商品などを開発する総合授業担当。学年主任。

品川女子学院 教諭
酒井 春名 氏

profile
情報科教諭。神谷氏とともに企業と連携した授業などを担当する。

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組織と人の今とこれから

  • ①「ジェネレーションZ」とは? 絶対的な安全と安心を常に追い求める?
    ②「ジェネレーションZ」とは?人兼関係も安心・安全 結果的に刹那的思考も
  • 「Z世代」の育成を考える

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