Column:組織と人の今とこれから フラットな関係、徹底した無駄の排除 社員一人ひとりが責任を負う北欧企業

社長といえども、定期的に自社の製造ラインにつき現場を知る。ITを駆使して情報は徹底的に公開する。<br />そういった光景が当たり前のフィンランド企業の現場を知る田中健彦氏に聞いた。

富士通コンピューターズ・ヨーロッパ元副社長の田中健彦氏は、1990年代後半のフィンランド駐在時、驚きの連続だったという。

「フィンランド人は役職や性別にかかわらず、夕方4時を過ぎると皆、次々と帰ってしまうのです」

その理由は「息子をサッカークラブに送っていく」「習い事の送迎がある」とプライベートなことが多い。一方で仕事はきっちりとこなす。時間も自由に使い成果を出すことが、なぜ可能なのか?

「第一に、社員に権限と裁量が与えられているからです」

田中氏によると北欧のビジネスパーソンの特徴は「自立心旺盛。一方で、仕事に介入されることをよく思わない」とのこと。「その代わり、全員が全責任を負う。また合理的かつ計画的な思考を持っているので、仕事を始める前には、入念に全体の構想や計画を練る。仕事の仕方に無駄がないのです」

日本では意味や目的といった定義を明確にしないまま、仕事を部下に与えてしまう傾向がある。このため報告・連絡・相談が求められる。しかし北欧では、最初に仕事の定義を明らかにするため、上司がその都度、部下に報告を求めることはない。「部下の仕事の品質は、上司が部下に時々、進捗状況が明らかになるような質問をすることで管理しているのです」

大半の人は参加するのみで、活発な討論がなかなか見られないと言われる日本でありがちな「大会議」も、かの国々には存在しない。会議資料作成に多くの時間を要することもない。北欧で見られる会議は、参加者全員が発言者かつ当事者の、少人数制が基本だ。

「その代わり、社内の情報はITツールをうまく活用して、徹底して公開します。私がいた会社では、毎週財務諸表を社内ウェブサイトで公開していました」

組織はフラット、会社には権威主義などないため、上司が残っているから帰宅しづらい、ということはない。

「私がいた会社ではパソコンが商売道具。そのため社長をはじめ、全社員がパソコンの社業を理解するため、定期的に組立ラインに入り、製品を作っていました。それほど誰もが自社製品に関するプロフェッショナルであり、組織としても上下関係が緩く平等な環境。世界有数の携帯端末企業、ノキアの社長も、海外出張はエコノミークラスだと聞きます」

「合理性」が信条のため、昇進・昇格もそのポストに見合った能力を持つかどうかが基準だ。この評価の公平性が、働く人のモチベーションアップに一役買っている。

「日本の管理職は、部下が10〜20人いるのは当たり前で、人事考課などが大きな負担になりますが、フィンランドの場合、そもそもチームのユニットが小さく、部下の数も2〜3人と少ない。そのため部下のさまざまな側面を適切に評価できる面もあります」

だから育児中の社員が出世に不利になる、という状況はない。

「フィンランドのカップルは子育ても家事も平等に分担します。またよりよい人財を育むための家庭教育も重視する。このため、毎晩家族で食卓を囲み、子どもと会話します。この時間を確保することは、仕事と同じように重要なのです」

一見、マイペースに見える独特の教育思考だが国際競争力は日本より上位の6位。OECDによる子どもの学習到達度調査では、常に世界トップクラス。この結果が、フィンランド人の働き方の有効性を、無言のうちに証明している。

翻訳家 田中健彦氏

profile

1945年生まれ。慶應義塾大学工学部卒業後、富士通入社。96年よりフィンランドの富士通コンピューターズ・ヨーロッパにてPC開発を指揮。99年、ドイツの富士通・シーメンス・コンピューターズ副社長。02年、富士通パソコンシステムズ社長に就任。05年、退職。以後ビジネス書の翻訳者として活躍する。

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