インクルージョンに欠かせないアンコンシャス・バイアス

2018.5.22 TUE

ダイバーシティ&インクルージョンの阻害要因として、「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」への関心が急速に高まり、対応研修を取り入れる企業が日本でも増えている。そもそもアンコンシャス・バイアスとは何か。組織としてどう対応すればよいのか。
日本でいち早くアンコンシャス・バイアスに取り組んできたパク・スックチャ氏に聞いた。

米IT企業が相次いで研修を導入、一躍脚光を集める

「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」とは、2000年前後から知られるようになった新しい概念だ。特に米シリコンバレーのIT企業の間で、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の施策の一つとして取り入れられたのを契機に、日本でもここ最近注目度が高まっている。 「アンコンシャス・バイアスが重視され始めた背景には、米国でのD&Iの推進が行き詰まってきたことがあります」とアパショナータ代表のパク・スックチャ氏は話す。

「米国で中間管理職のポストについている女性の割合は約44%。日本よりはるかに高いものの、その上のシニアリーダーは頭打ちの状態が続き、多くの企業が対応に苦慮していました。そんな中で心理学や脳科学の研究成果により、アンコンシャス・バイアスは価値観や文化的背景の異なる人間同士の関係性にネガティブな影響を及ぼすことが明らかになりました。データやエビデンスを重んじるIT企業がこれに着目して研修に取り入れたことで、その実効性の高さが注目されるようになりました」

最も代表的なアンコンシャス・バイアスに「ステレオタイプスレット」が挙げられる。「女性はやさしくて世話好き」「インドの人々は数学が得意だ」といった先入観(図1参照)が人々の脳に刻み込まれ、本人が職業選択する時や、周囲が能力を評価する時に負の影響を及ぼしてしまうことを指す。偏見を持っていないつもりで、オフィスで女性社員ばかりに雑用を頼んでしまうのは典型的な例だ。頼まれた側は偏見を持たれたと感じるし、もし断ると頼んだ側は「期待を裏切られた」と感じてしまう。この積み重ねが関係性や評価をゆがめる。
「身内意識・よそ者意識」もバイアスの一種。性別や学歴などの判断基準で人々をチーム分けすることには注意が必要だ。自分と同じチームに所属するメンバーには親しみを感じ、それ以外のメンバーには警戒心や敵対心を感じるからだ。自分と同じ出身地・出身大学の部下に対して評価が甘くなるといったケースがこれに当たる。

図1 無意識の偏見の例 「シニアはパソコンが苦手」「最近の若者は根性がない」「女性は管理職に向いていない」「男性は家事が下手」「ドイツ人はルール(時間)を厳守する」「女性は細やかな心遣いができて気が効く「短時間社員は仕事より家庭が大切」 アンコンシャス・バイアスとは自分が育った環境や経験の中で、知らず知らずに脳に刻み込まれて持つようになった物事への見方や考え方のこと。上記の例を見て、「こう思っている相手がいる」と感じている人も多いのでは。

オーケストラ団員に男性が多い理由もアンコンシャス・バイアス!?

「バイアスや偏見というとネガティブなイメージですが、誰もが知らず知らずのうちに脳にすり込まれている判断のクセのようなもの。それ自体は悪いことではありませんが、無意識なだけに自制するのが難しい。ビジネスにおいては、意思決定や評価に影響を及ぼしやすいので特に注意が必要です」

実際にアンコンシャス・バイアスが人の評価を大きく左右していた有名な例として、米国のオーケストラ団員のオーディションがある。かつてオーケストラの女性奏者の割合は5〜10%程度だったが、応募者の性別が分からないよう、審査員との間にスクリーンを置くブラインド(目隠し)オーディションを取り入れた結果、審査をクリアする女性比率が数倍に跳ね上がったというものだ。この結果、女性比率は40%ほどになったという。
同じく米国で、履歴書の氏名欄が雇用判断を左右しているという研究結果もある。エミリー、グレッグなど白人に多い名前と、タイロン、ラキーシャなどアフリカ系アメリカ人に多い名前が記入された履歴書を雇用主に送ったところ、ほかの条件が同じでも、書類審査を通過した人数は、前者が後者の1.5倍も多かったという。名前から人種を無意識に類推し、それが評価を左右してしまうおそれがあるのだ。

まず気づくことが第一歩。バイアスの影響を避ける工夫も重要

アンコンシャス・バイアスは無意識だからこそ、まず自覚することが大切だとパク氏は言う。

「アンコンシャス・バイアス研修で多く見られるのは、まず写真や動画などを教材にして“気づき”を与えるものです。例えば太っている人と痩せている人の写真を見せて『どのようなイメージが浮かぶか』などと問いかけ、自分の中にさまざまなバイアスがあることを体感してもらうのです。『自分は偏見なんか持っていない!』と思い込んでしまうのが最もNG。逆に、自分がどんな事柄にバイアスを持ちやすいかを認識できるだけでも、日頃の行動が違ってきます」

自分のアンコンシャス・バイアスについて知りたい人も多いだろう。ハーバード大学とワシントン大学が開発した無意識の偏見レベルを測定するWeb診断が無料で受けられる。またマイクロソフト社では、本社の人事部門で開発された社員向けのオンライントレーニングを一般に公開している(図2参照)。

図2 アンコンシャス・バイアスを知るためのツール 「無意識の偏見のレベルを測定するIATテスト」 ハーバード大学の研究者らが開発した「無意識のバイアス」の程度を測定するテスト。画面を見て「哲学」が「科学または女性」か「人文学または男性」のどちらに属するのかをできるだけ速く選択。自分が自覚できない潜在的な意識を調べられるというもの。 「マイクロソフトではオンライントレーニングを公開」 マイクロソフトでは、世の中のインクルージョンを促進することを目的に、本社の人事部門で開発された、社員向けの「無意識の偏見」のオンライントレーニングを一般に公開。ビジネスの場において、アンコンシャス・バイアスをどう認識して対応をすればいいのか、具体的な例で解説している。

意思決定や人事評価などにおいて、アンコンシャス・バイアスの影響をできるだけ避ける工夫も重要だ。

「評価面談の際に、相手が同姓であったり、同じ大学出身だったりするだけで印象が変わってしまう可能性があります。評価基準や質問内容を統一し、事前に公表しておくことでもバイアスの影響を抑えられます。さらに事前のアンケート調査などを通じて、自社や自分のチームにどんなバイアスが存在するかをあらかじめ把握しておくのも良い方法です」

アンコンシャス・バイアスの影響を避け、組織における公平性をできるだけ担保することが、インクルージョンを進める上で欠かせないとパク氏は強調する。

「性別に関するアンコンシャス・バイアスがあっても、明らかに能力の優れた女性社員は当然出世できるでしょう。ですが男性社員と同等の能力を持った女性社員の場合、バイアスによって評価されなかったり昇進が男性より遅れたりしているケースがあります。もちろん性別以外のバイアスについても同様です。公平で客観的な評価をし、個々の多様な能力をのびのびと発揮できる風土を形づくることが、組織パフォーマンスの向上につながるのです」

Profile

パク・スックチャ氏
アパショナータ,Inc
代表

日本生まれの韓国籍。米国ペンシルバニア大学経済学部卒業、シカゴ大学MBA(経営学修士)取得。米国系企業に5年間勤務後、韓国延世大学へ語学留学。米国系運輸企業にて日本・香港・シンガポール・中国などの太平洋地区での人事、スペシャリストおよび管理職研修企画・実施を手がける。現在、ワークライフバランスとダイバーシティを専門とするコンサルタントとして活躍。