AI時代のその先に待つ働き方の未来像とは【前編】

2018.02.06 TUE

人の働き方は、狩猟採集から農耕へ、そして工業化から情報化へ、時代とともに変化してきました。さらに近年のAI時代の訪れとともに、企業のあり方や働き方は新たな変化を迎えようとしています。18世紀の第一次産業革命で起きた社会の変化を振り返りながら、これからの時代の働き方、働く人を守るための新たなルール、求められる教育などについて、専門家からの意見を二回にわたり紹介します。
前編では、AI時代を迎えるにあたり、世の中の働き方がどのように変化し、それに合わせて法やルールがどのように変わっていく可能性があるのかについて聞きました。

働き方は、「雇用型のオフィスワーク」から、「自営型のリモートワーク」へ

「AIに着目したのは、エリック・ブリニョルフソン氏ほかの『機械との競争』や、新井紀子氏の『コンピュータが仕事を奪う』といった衝撃的な内容の本を読んだのがきっかけです。人の仕事、特にホワイトカラーの仕事が奪われていくことは確かなようであり、これは、私のような労働法研究者にとっても無視できないテーマだと思いました」

このように語るのは、神戸大学大学院法学研究科教授の大内伸哉氏だ。

2015年の野村総合研究所の発表(「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」)では、AIやロボットに代替される仕事として、情報処理や一般事務といったホワイトカラーの仕事があげられている。また、国家資格であっても、税理士、公認会計士などの多くが代替されるといわれている。(職種ごとのAI・ロボットによる代替可能確率参照)

「グローバルな競争に勝つために、企業は、ロボットやAIに定型的な業務を代替させていくでしょう。一方人間は、機械にはできない知的創造性の高い仕事や、AIを活用する側の仕事、そしてヒューマンタッチの要素が大きい仕事をするようになると考えています」

人間の仕事の変化と同時に、リモートワークの拡大など、働き方にも変化が現れている。ICTやデジタライゼーションの進行により、リモートワークが可能になってきている。しかしながら、現在のリモートワークは、会社でしている仕事を家でするといった、在宅勤務のような形に過ぎないと大内氏はいう。一方で、リモートワークの効果的な活用についても語っている。

「リモートワークの本来の良さは時間や場所を自由に設定できることです。それをもっとも享受できるのは、雇用型ではなく自営型の働き方だといえます。今後は、契約によって自分のスキルを企業と取引する、自営型のリモートワークが主流になっていくのではないかと私は思います」

働き方が変化すれば、その変化に応じて企業も変わらざるをえなくなります。これまでの企業構造は、ヒエラルキー型の垂直的な構造であり、上司が部下を監督するといった雇用労働的な部分が大きい組織だった。しかし、仕事がモジュール化され、機械による代替化やアウトソーシングによるネットワーク化が進むことで、企業の構造は水平的になっていくことが想定される。

「企業の存在意義も変化していくはずです。企業は特定のプロジェクトを遂行するために人を集める場となり、現在のように組織に人を抱え込んで、いろんなプロジェクトを遂行するといったスタイルは減少していくと考えられます」

働き方の変化に応じて、労働法も変わっていく

これまでの歴史の中でも、人の働き方は大きく変化してきた。18世紀、イギリスから始まった第一次産業革命時にも劇的な変化が起き、それに伴って労働者を守るためのルール「労働法」が作られた。

「イギリスでは、第一次産業革命によって機械制大工業が広がり、大きな工場に大量の労働者が集められて働くようになりました。そこには、衛生問題、過労問題、児童労働問題などの悲惨な状況があり、労働者保護のために手を差し伸べる必要があったため、労働法が作られたのです。当時の政府や資本家層にとっても、持続的に優良な労働力を確保できるというメリットが労働法にはあったといえます」

18世紀のイギリスで作られた労働法は、欧米諸国や日本にも普及していった。

「労働法は、指揮監督下のもとに働くという状況を想定して成立しています。ところが、デジタライゼーションやAIによって、個人が自律的に働くようになることで、これまでの労働者像が根本的に変わろうとしています。ですから、その変化に応じて、労働法も変化していく必要があります。」

働く人をサポートする新しいルールが生まれる

今後、雇用はより流動化していくと大内氏はいう。

「AIやロボットによって経営環境が急激に変化する中、企業内で社員をシフトするだけで変化に対応しようとすれば、社員は常に不足した状態となり、企業は新しい事業を開発するタイミングを逃してしまいます。一方の働く人々にとっては、成熟産業や衰退産業から脱出し、自分の力を発揮できるところで働き、キャリアを築いていく機会を失ってしまう可能性があります。これは企業にとどまらず、日本にとっての損失だといえます」

そのため今後は、働く人々がキャリアを形成し、成長を続けていくことができる仕組みづくり、労働の需給調整のメカニズムの強化などによる雇用政策が重要になっていくだろうと大内氏は続ける。

労働者と雇用主の関係は、時代とともに変化している。第一次産業革命時に労働法が作られたように、このような社会の変化は、働き方や法律をも変えていく。自営的な働き方が増えていく社会において、労働法はどのように機能していくのだろうか。また、どのようなルールが新しく作られるのか。

労働法は、企業などの労働法でいうところの「使用者」の指揮命令を受けて労働に従事する「労働者」を適用対象としている。自営業は特定の企業に属さず、契約によって仕事をするため、労働法の対象にはなっていない。

「現在、自営業者は働く人全体の約1割に過ぎませんが、時代の変化によってこの割合が増えていくと、労働法の適用対象が減少することが考えられます。

自営業者が働きやすい市場環境を整備したり、自営業をサポートする新しいルールを作ることが必要になってくるでしょう。企業と個人事業主の契約で行われる仕事では、第一次産業革命当時と同様に、強い企業と弱い事業主といった関係が生じる恐れもあります。そこで、契約内容の適正化や優越的地位の濫用防止といった視点からのサポートが必要になるとも考えられます。
このように、人々の働き方が変われば、それに応じてルールも変わっていく可能性があるのです」

Profile

大内伸哉氏
神戸大学大学院法学研究科 教授

東京大学法学部卒、同大学院法学政治学研究科博士課程修了。
神戸大学大学院法学研究科教授。法学博士。労働法を専攻。
著書に『AI時代の働き方と法』(弘文堂)以外に、『雇用社会の25の疑問』(弘文堂)『君の働き方に未来はあるか?』(光文社)ほか多数。

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