インタビュー 寿命100年時代を生き抜くために今やるべきこと リンダ・グラットン ロンドン・ビジネススクール 教授

長寿命化がもたらす働き方や生き方の変化を『ワーク・シフト』『ライフ・シフト』の2冊の著作で鮮やかに描き出し、私たちが今すぐ取り組むべきことを多彩な観点から示唆したリンダ・グラットン氏。

これから個人のキャリアプランはどのように描くべきか、女性や高齢者、障がい者など多様な働き手を社会はいかに受容すべきかなど、働き方にまつわる問いは尽きない。今回、アデコの働き方改革プロジェクトのスタッフが、著者のリンダ・グラットン氏にインタビューするため、英国のロンドン・ビジネススクールを訪ねた。

『ライフ・シフト』は
高齢者に向けたメッセージではない

アデコ働き方改革プロジェクトスタッフ(以下、アデコ)
グラットンさんの新刊『ライフ・シフト』が日本で翻訳出版されました。今まさに日本が直面する超高齢社会における「生き方」へのヒントが示されています。

リンダ・グラットン(以下、グラットン)
『ライフ・シフト』で描いているのは、想像以上に寿命が延びた社会についてです。「もし100歳まで生きることになると、人生はどうなるのか?」という疑問を読者の皆さんに投げ掛けています。しかし、この本で考えたいことは10年、20年と延びていく引退後の生活をどうするかではなく、人生そのものを100年という単位で捉えたときに、学ぶ、働く、引退するという、これまでの人生における3つの大きなステージをどのように設計するかということです。
寿命が100年に延びる社会では、そのステージのどこか、あるいは全部を、少しずつ伸ばしていくという単純な変化では対応できません。就職する、引退するという一般的な適齢期も変われば、若者、高齢者といった世代の境界線も変わってきます。私たちが「標準」として信じていたフォーマットが根本的に崩れていくのです。生き方すべてに大きな「シフト」が訪れることは間違いありません。

アデコ現在は、寿命が延びていくのと同時に、健康寿命も延伸させることが大きな課題となっています。課題設定としては同じ視点に立ったものといえますか。

グラットン一般的に平均寿命が延びると、社会が高齢化するというイメージがありますね。しかし、私が予測する未来はそういったものではありません。むしろ若々しく生きる期間が長くなるのではないかと考えます。もしかすると、思春期が長くなるという可能性も考えられます。
また、その若々しさとは、「動けるかどうか」という視点だけではありません。現在、25歳の人の多くは、学ぶことから働くことへステージが移っているはずですが、平均寿命が延びた社会では、30歳でもまだ学んでいる人が珍しくないかもしれません。こうした年齢とステージが一意(ただ一通りに定められること)に結び付かない生き方が広がることで、社会はより多様かつクリエーティブになっていくことでしょう。

アデコもはや、「学ぶ→働く→引退する」という3つのステージが不可逆なものではなく、かつ人によっては何度もそれを繰り返すという時代が現実になってくるということですね。

グラットン『ライフ・シフト』では、「エクスプローラー」「インディペンデント・プロデューサー」「ポートフォリオ・ワーカー」という新しい3つのステージについて論じています。エクスプローラーとは文字通り冒険者のような生き方で、未知の環境を渡り歩き、そこで生きるための新しい知識や技能を得るだけでなく、人との関係を築くことです。インディペンデント・プロデューサーとは、起業家をイメージしてもらえばいいと思いますが、従来の起業家との違いは、事業を生み出すことそのものを目的としている点です。また、このステージに生きる人々は生産活動を通して学習を続けることに特徴があります。最後のポートフォリオ・ワーカーは、先の2つのステージを含むさまざまな活動に、同時並行的に取り組む人々のことです。
従来の学ぶ、働く、引退するという3つのステージでは、2回しか移行ができませんでした。つまり、就職と定年です。そのタイミングも事実上決まっており、一度それを逃すと、社会から正しい評価を得ることが難しかったのですが、私が示した新しい3つのステージは、収入を得ること、学ぶこと、充実した生活を送ることが、それぞれで統合されています。もちろん、新しい3つのステージにもそれぞれ適齢期のようなものはありますが、基本的にはいつでもどのステージにも立てますし、何度でも行ったり来たりすることができます。

会社を辞めなくても
「ワーク・シフト」は実現する

アデコどのステージでも、どのように働くかという問いは持ち続ける必要があると思いますが、ベストセラーとなった『ワーク・シフト』では、スペシャリストでもなく、ジェネラリストでもない、「連続スペシャリスト」というキャリアについて述べられていました。

グラットン私が提唱した連続スペシャリストというキャリアは、社会的に価値のある専門知識と技能を高いレベルで身に付け、実際のビジネスで発揮することを連続的に繰り返すというものです。従来のように1つの会社に属して、その会社の中でのスキルを高め、会社の中での自分の価値を高めるキャリアとは根本的に違います。
何年か前に、ある世界的な石油会社の社員の行動をリサーチしました。私たちが気付いたことは、そこで培われる知識やスキルは、会社の内側に向けて深まっていくということです。文化や習慣などをベースにしたアイデアの出し方や仕事の進め方、こうしたことはその会社にいる間は仕事をスムーズにしてくれますが、それが社会的に同じ価値として認められることはありません。つまり、他社に転職するとき、価値としてあまり評価されないでしょう。
連続スペシャリストというキャリアは、常に社会に対して価値を生み続けることになりますので、会社に依存するリスクを回避できるわけです。

アデコそれは常に所属する会社を移り続けなければ実現しないということでしょうか。

グラットンそうとも限りません。姿勢に関わってくる問題だと思います。連続スペシャリストになるということは、「マルチプル・アイデンティティ」を持つことです。皆さんも経験があると思いますが、1つの仕事を遂行しようとすれば、関連する第2、第3の仕事の知識やスキルが身に付きます。それを単にもともとの仕事に生かすというだけではなく、さらに第2、第3の仕事への知識やスキルを高めていくという考え方を持つことです。そうすれば結果的に「マルチプル・アイデンティティ」を獲得することにつながっていきます。
これは単に幾つもの仕事を経験したということではなく、さまざまな分野にまたがった実践的な知識とスキルを持つことにつながります。つまり、自身の価値が大きく高まるのです。

アデコグラットンさんは、まさに「マルチプル・アイデンティティ」を持っていらっしゃいますね。心理学の博士号を取得していますが、今では「未来の働き方」の専門家として知られています。

グラットン少し昔の話をすると(笑)、私は21歳のとき、大手コンサルティング会社に勤務していました。そこでは男女問わず、同年代で一番成功していたんですよ。でもそんな環境から離れました。会社を立ち上げたい、執筆もしたい、ロンドン・ビジネススクールにも来たかったのです(笑)。それには自立した存在になるしかないと思い、会社を去るという行動を取ったわけです。私はもっともっと独立した存在になりたかったのです。
その後もテクノロジーに関する研究に没頭した時期もありますし、人口統計学についても学びました。こうした過程が私自身を独立した存在にしたのと同時に、社会に対しての価値を作ってきたと考えています。もちろん私はどの選択も全く後悔していません。

「自分のキャリアは自分で決める」の罠

アデコどの会社で働くかが、キャリアデザインとイコールだった時代が終わり、また、人生で複数の仕事に就くことが当たり前の時代になった現在、キャリアデザインがいよいよ個人の選択として重要な時代になってきました。

グラットンキャリアデザインを描く上で、今後気を付けてほしいことは、自分の事情や価値観だけでゴールを設定しないということです。キャリアデザインを自分で描くというと、とてもポジティブなことに聞こえるかもしれません。こんな仕事に就きたい、という自分なりのゴールを掲げることは確かに重要です。しかし、その仕事が未来においても社会に価値を生み続けるものとは限りません。価値は相対的でもあり、変化し続けるのです。そこで重要になってくるのは、今後、どのような仕事に価値が生まれるか、予測する力を身に付けることです。

アデコしかし、無数の選択肢の中で、どういった知識、スキルの価値が高まりそうかを判断するのは難しいことのように思えます。基準やヒントのようなものはありますか。

グラットンその仕事が今後価値あるものになるかを見極めるヒントとして、3つの条件があると考えています。1つ目はその知識や技能が価値を生み出すことが広く理解されていること、次にそうした知識や技能を持つ人が少ないこと、最後にそれが模倣されにくいことです。これらの条件を基に、身の周りの仕事や業界を見渡してみると、選択肢は絞られてくると思います。
また、これから特に考慮しなければならないことは、テクノロジーの圧倒的な進化です。AI(人工知能)やロボティクスがこれからビジネスや社会に大きな影響を及ぼすように、私たちの仕事の価値にも大きな影響を及ぼすはずです。
現実に私たちの仕事をテクノロジーが担い始めています。重い荷物を取り扱う仕事は少なくなり、金融機関の窓口業務などもロボットに置き換わりつつあります。これからタクシーやトラックの運転手は自動運転機能によって職を失っていくことでしょう。その事実に目を背けるのではなく、現在すべきことは「新しい仕事はどこにあるのか」と考え続けることです。

アデコこれまでは、会社員一人一人のそうした予測や選択のリスクを企業側が担ってくれていたわけですね。もちろんある程度の「束縛」と引換えにすることになりますが……。

グラットンその通りです。これまでは会社が個人の知識やスキルに対して、生み出す価値の調整をしてくれていました。さらに、次に何を学べばいいのか、どんな技術を身に付ければいいのか、そうしたスキルアップの「戦略」についても設計してくれました。それがどれほど社会最適なものかにかかわらず、企業が責任を負ってくれていたわけです。
個人が自由にキャリアをデザインできるということは、同時に自分のキャリアデザインに責任を持つことだということを忘れてはいけません。そして、自分が今どんな価値を生み出せる存在かを問い続けること。これが主体的にキャリアをデザインすることの立脚点であるべきだと私は考えます。

(後編に続く)

インタビュー:リンダ・グラットン氏 —寿命100年時代を生き抜く—【前編】

リンダ・グラットン
Lynda Gratton

profile
英ロンドンビジネススクール 教授。人材論、組織論の世界的権威。組織のイノベーションを促進する「Hot Spots Movement」の創始者であり、85を超えるグローバル企業と500人のエグゼクティブが参加するコンソーシアム「Future of Work」を率いる。世界で最も権威ある経営思想家ランキング「Thinkers50」では2003年以降、毎回ランク入りを果たしている。2013年ビジネス書大賞を受賞したベストセラー『ワーク・シフト』や『Hot Spots』『Glow』など一連の著作は20カ国語以上に翻訳されている。2016年10月に出版された『ライフ・シフト』では、寿命100歳時代の生き方を示し、大きな話題となっている。