「無期雇用派遣」と働き方のこれから

2017.09.14 THU

2013年の改正労働契約法施行や2015年の改正労働者派遣法施行を契機に、「無期雇用派遣」が注目を集めています。派遣労働者や派遣事業者、派遣先企業にそれぞれどのような影響をもたらすのでしょうか。きっかけとなった法改正の背景や無期雇用派遣の定義、派遣労働全体への影響などを、有識者への取材を元に解説します。

「労働契約に期間の定めのない派遣労働という意味での『無期雇用派遣』は、以前からありました。それ自体が新しい働き方というわけではありません。ただ、今回の改正労働者派遣法において重要なのは、『有期』と『無期』の区別を明確にすることで、これまで曖昧にされていた派遣労働者の保護を強化したことです」

こう語るのは、独立行政法人 労働政策研究・研修機構の労働政策研究所長、濱口桂一郎氏だ。

今回、無期雇用派遣について触れる前に、まずは労働者派遣法の歴史と、2015年9月末に施行された改正労働者派遣法について振り返ってみる。

労働者派遣法の歴史

派遣法制定以前 労働者派遣事業は、職業安定法で規定する「労働者供給事業」として禁止 1985年 労働者派遣法が制定 1986年 派遣法が施行(専門知識等を必要とする16業務が適用対象業務) 1996年 規制緩和により、適用対象業務が16業務から26業務に拡大 1999年 適用対象業務の原則自由化により、建設、港湾運送、警備、医療、物の製造業務が禁止業務とされる 新たに対象となった26業務以外の業務については、派遣受入期間が上限1年に制限 2000年 許可基準の改正により、紹介予定派遣が解禁 2004年 物の製造業務への労働派遣が解禁 26業務以外の業務について、派遣受入期間の上限が1年から最大3年まで延長 2007年 製造業務の派遣受入期間が延長(原則1年・最長3年) 2012年 改正 ・日雇派遣の原則禁止・グループ派遣の規制・離職者の規制・派遣労働者の保護・待遇改善強化(無期雇用への転換推進措置の努力義務化等)・労働契約申込みみなし制度の創設(施行は2015年10月) 2015年 改正 ・26業務を廃止し、「事業所単位」および「個人単位」で期間制限をする制度へ変更・労働者派遣事業が、全て許可制へ変更・派遣労働者のキャリアアップ・処遇改善が強化

大きな改正点は次の3つだ。

①労働者派遣事業の許可制への統一

それまで許可制の「一般派遣」と届け出制の「特定派遣」に分かれていたが、すべて許可制となった。

②派遣期間の見直し

「登録型」派遣(派遣されるたびに労働者と派遣事業者が雇用契約を結ぶ)労働者の場合、それまではソフト開発など「専門26業務」とされる業務について期間の制限がなかったのが、今回の改正により、業務に関係なく、同じ職場で働ける期間は「3年」と定められた。一方で、派遣労働者と派遣事業者が、期間の定めのない無期雇用契約を結ぶ「無期雇用派遣」の場合は、同じ職場で3年を超えて働き続けることができる。

③雇用安定措置

登録型派遣の場合、同じ職場で3年続けて働いた派遣労働者に対し、(1)別の派遣先を紹介するか、(2)派遣先に直接雇用を促すか、あるいは(3)派遣事業者自身が無期雇用するか、いずれかを行うことが義務づけられた。

改正法施行からちょうど3年となる2018年に向けて、雇用安定措置の一環として、無期雇用派遣を拡大する可能性が出てきている。

もう一つ、派遣労働に関係するのが、2013年4月に施行された改正労働契約法だ。これにより、同じ職場で5年を超えて働いている労働者は、希望すれば無期雇用に転換できるとの規定が定められた。有期雇用契約を繰り返して同じ派遣事業者で働いていた派遣労働者の中からも、無期雇用を希望する者が出てくるだろう。この期限も2018年となる。

2つの改正法により、2018年は有期雇用のあり方にとって大きな変化の年となる可能性がある。そのため「2018年問題」と呼ばれている。最近になって、無期雇用派遣の注目度が高まっているのもそのためだ。

派遣労働における2018年問題

2013年4月1日改正労働契約法施行 直接雇用労働者 4月、無期転換措置義務 2015年9月30日改正労働者派遣法施行 有期雇用の派遣労働者 10月、個人単位の期限制限

無期雇用と常時雇用の違いと無期雇用派遣のメリット

「派遣労働を含む雇用契約において、『無期雇用』と似て非なる考え方として『常時雇用(常用)』があります。同じ会社・職場に継続的に働いている点は同様ですが、常用の中には、有期契約なのに反復更新している結果として、事実上常用的に働いている人々が含まれます。彼らは、同じ職場に長く働いているにもかかわらず、契約期間の定めがあるため、ある日突然、契約更新を打ち切られるかもしれないという不安感があります。この状態は、労働者保護の観点からは望ましくありません。2015年の改正でこの点を改めて無期・有期という考え方を明確に取り入れ、労働者派遣法が派遣労働者の保護のための法律であることを明確に位置づけた。これこそが今回の改正の要諦だと考えられます」(濱口桂一郎氏)

有期雇用派遣(登録型雇用派遣)と無期雇用派遣の違いは下記の図の通りだ。

有期雇用派遣と無期雇用派遣の違い

有期雇用派遣 派遣事業者へ登録 派遣企業A 派遣事業者と雇用関係発生、派遣先企業Aで勤務、給与支払いあり 雇用関係発生 派遣就業終了 雇用関係終了 給与支払いなし 派遣先企業B 派遣事業者と雇用関係発生、派遣先企業Bで勤務、給与支払いあり 無期雇用派遣 派遣事業者と雇用関係発生 派遣企業A 派遣先企業Aで勤務、給与支払いあり 派遣就業終了 派遣事業者で勤務または待機、給与支払いあり 派遣先企業B 派遣先企業Bで勤務、給与支払いあり

派遣労働者にとっての無期雇用派遣のメリットの1つは、派遣先で働かない期間も派遣事業者で勤務したり研修を受けたりすることで、給与が支払われる点だ。その意味で有期に比べて安心で安定的な雇用形態といえる。

一方、派遣先企業にとっては、有期派遣における3年の上限を気にせず、継続して働いてもらえるメリットがある。人手不足の深刻化で人財確保が難しくなっている中、無期雇用派遣を利用すれば、即戦力の人財を長期で確保できる。

人手不足が無期雇用派遣の追い風に

では無期雇用派遣は今後どのように普及し、企業の人財戦略や人々の働き方にどんな影響を与えていくのだろうか。

「今回の法改正が無期雇用派遣の普及にどの程度つながるかは未知数ではありますが、今のところ、アベノミクス以降の景気拡大と人手不足の深刻化が追い風となっているといえます。

無期雇用派遣と有期雇用派遣はどちらも重要な働き方であり、一方が良いということではありません。すべての労働者にとって働き方の選択肢が増え、自分の経験や能力を発揮できる機会が広がるのは好ましいことだといえます」

また今回の労働法の改正は、働き方の多様化推進の契機になる可能性があると、濱口氏は指摘する。

「派遣労働においては3年や5年といった期限が大きな問題となりますが、その一方で、新卒正社員の3年以内の離職率はじつに30%以上。つまり3年以上継続的に働いてくれる派遣労働者は、正社員よりも業務・職務を熟知している可能性が高いといえます。

このように働き方が多様化する中、企業側にも今後の対応策が求められます。社員それぞれの働き方に応じて、その社員が無限定正社員なのか、地域限定正社員もしくは有期雇用契約社員や派遣社員なのか、というようにきちんと定義、明文化する必要があります。その意味で、現在の法改正による流れは、これを明確にするための一つのきっかけになりえるといえます。

また今回の改正による影響から、労働者一人ひとりが自分にふさわしい職場や働き方を模索するといった考え方が定着し、企業を超えた人財の流動化や同一労働同一賃金にもつながっていくことも考えられます」

Profile

濱口桂一郎氏
独立行政法人労働政策研究・研修機構 労働政策研究所長
東京大学法学部卒。
労働省(現厚労省)入省。

東京大学大学院法学政治学研究科附属比較法政国際センター客員教授、政策研究大学院大学教授などを経て現職。専門は労働法政策。近著に『働く女子の運命』(文春新書)。