主体的に動く部下を育てるマネジメント術とは

2017.08.24 THU

部下が思うように成長してくれないと、お悩みの上司の方は多いのではないだろうか。「変化に対応するスピードが遅い」「新しいアイディアやイノベーションが生まれてこない」「なかなか成果を出してくれない」など。理想的なのは「上司の指示がなくても素早く対応し、活発に意見を出して主体的に動いてくれる部下」だが、そのように部下が成長していないのであれば、上司にも解決すべき課題があるのかもしれない。よりよいマネジメントを行うノウハウを、日本サーバント・リーダーシップ協会理事長の真田茂人氏の見識をもとに、ケースごとに解説する。

ケース1 部下の対応スピードを向上させるには

改善策:上司がすべてを一人で判断しないようにする

取り組みより円滑で質の高いコミュニケーションを

上司の指示を受けてから必要最低限のことしかやろうとしない部下は、自分で考えることをせず、上司に依存している状態といえる。しかし、これは部下だけの問題ではない。「自分は経験豊富で能力も高く、正確な判断ができる」と考えている上司は、部下の意見を「傾聴」しない場合が多い。聞いたとしても、自分の意見が正しいという前提を変えることはほとんどしない。そのような状況では、部下は「どうせ決めるのは上司なのだから」と自分で考えたり動いたりしなくなり、指示待ち人間になってしまう。
これは部下の育成だけでなく、業務においても致命的な問題となりうる。現在はビジネスを取り巻く状況の変化が速い。有能な上司が過去の経験をもとに方針を決めても、現状にそぐわないということは頻繁に起きている。一方で、現場や顧客に近い部下のほうが、ニーズや市場の変化に早く気付くこともある。上司が部下の持っている最新の情報を吸い上げ、それを判断材料に加えれば、環境の変化により適応した決断を下せるのだ。
そのためには、部下とのコミュニケーションの質を高めることが必要だ。話し合った後で、相手の意見も取り入れ、自分の考えを更新することが望ましい(図1参照)。「自分一人でも正しい判断ができる」「部下にいわれて意見を変えるのは、上司としての威厳が損なわれる」といった考えを捨て、部下の意見を取り入れる柔軟性を示すべきだ。どれほど優れた経営者でも完璧な未来予想や判断は不可能なのだから、コミュニケーションの結果、考えを変えることは決して悪いことではない。むしろ、より現状に即した形となり、話し合った効果が生まれる。最終的な決定が部下の意見と異なっていても、意見を聞いてもらえたことで、部下のモチベーションにもよい影響を与える。

図1コミュニケーションの質を高めるには

一方通行のコミュニケーションでは、現場の情報を吸い上げることができず、現状に合わせた行動がとれない。双方向のコミュニケーションでは、お互いがいいたいことをいい合うだけ。部下が新しい情報を上げても、上司の現状認識は古いままとなる。「より円滑で質の高いコミュニケーション」は、お互いの考えが更新されるのが特長で、変化に対応しやすい。

ケース2 新しいアイディア、イノベーションを部下から引き出すには

改善策:部下同士の情報共有を促し、活発に意見交換できる環境を整える

取り組み生産的な意見を得るには、フラットな組織づくりから

部下同士の間で日常的に活発な意見交換が行われない状況にあると、生産的なアイディアの数も減ってしまう。これではイノベーション以前の問題である。情報はただ蓄積され、可視化されても何ら価値を生まない。そこで必要なのが、部下たちが得た情報をチーム全体で共有すること。共有した情報をもとに部下たちが考え、それについて意見を交換し、新しいアイディアへと昇華させる。それによってイノベーションの創出も期待できる。
ここでも「より円滑で質の高いコミュニケーション」が不可欠。ひらめきというのは何気ないコミュニケーションの積み重ねから生まれるので、フラットな組織づくりが効果的だ。ヒエラルキー意識が強いと対等な意見交換が阻害され、相手の考えを取り入れる柔軟性が損なわれてしまう。
フラットな組織をつくるには、上司が率先して話しかけやすい雰囲気づくりに努めることが望ましい。部下に指示を出しすぎないように意識し、経験の浅い部下の意見にも傾聴する姿勢を示すこと。部下から上司へ意見がいいやすくなり、それがチーム全体にも波及して誰もが対等な関係で話せる雰囲気が醸成され、会議も活性化するだろう。

ケース3 部下の成長をさらに促すには

改善策:部下の可能性を信じて、長い目でサポートする

取り組み部下を一個人として尊重し、長所を見つける

業務でなかなか成果を出せない部下がいても、その時点で最終的な評価を決めることは避けるべきだ。成長には個人差があり、成長のスピードや得意分野、適性も異なっているのが当然。欠点を見つけ、それを矯正する育成法は、均質な能力を持つ人財を育てることには向いているが、個性や自発的な行動を抑えてしまう面もある。一人ひとりの異なる可能性に着目して、長期的な視点で育成することが望ましい。
前述のケース1・2の取り組みを実践して、コミュニケーションの改善や、部下同士の情報共有、議論が活発になる環境づくりを行えば、部下は自分自身の意見を持つようになる。そのうえで部下の適性を見極め、強みには正当な評価を与え、可能性を最大限に発揮できるように努めること。部下の言葉を傾聴するだけでなく、言葉以外の態度や様子からも、その心持ちを汲み取るようにすれば、部下は自分自身の存在価値を実感できるようになり、長い目で見た育成にもつながる。その過程で上司への信頼が増し、上司のために自発的に動いてくれるようになるだろう。
「今現在、成果を出す能力を持っているかどうか」だけで評価をするのではなく、組織のために協力し合う一人の人間として接し、部下一人ひとり、さらにはチーム全体の成長を考えていることを態度で示すことが大切だ。

まとめ今の時代に必要なのは、部下を下から支えるリーダー

今まで紹介したケース1〜3には、共通点がある。それは、リーダーが権力的なリーダーシップをとらず、「部下を一個人として尊重し、下から支える」姿勢をとっていることだ。これは「サーバントリーダーシップ」と呼ばれるリーダーシップであり、部下のモチベーションを高め、主体的な行動を促すことができる。
逆に、部下を権力で支配し、一方的に指示して動かすのであれば、部下は上司を恐れ、指示に従うことを第一に考えるようになる。結果、自分の頭で考えたり、行動したりしなくなってしまう。

図2サーバントリーダーシップと支配型リーダーシップ

左のサーバントリーダーシップの図は、大義のあるミッション・ビジョンの実現が目的。信頼関係を基盤とし、部下の自主性を尊重することで組織を動かす。傾聴がコミュニケーションの中心となる。
一方、右の支配型リーダーシップの図は、リーダー個人の欲求の追求が目的となりがち。権力を基盤とし、部下を畏怖させて動かす。部下への指示、命令がコミュニケーションの中心となる。

『部下に任せるより自分ひとりで動いたほうが早いし、成果も上がる』という考えでは、上司の抱える仕事が増え続ける一方だ。また、上司の能力の限界が、そのままチームの限界になってしまう。
「ビジネスの変化に素早く対応し、最大の成果を出すには、チームの一人ひとりが主体性を持ち、知恵をしぼって工夫しなければなりません。そのためにも、上司は部下への配慮と支援を欠かさず、部下一人ひとりに当事者となってもらうマネジメント手法を見に付け、実践してほしいですね」(真田氏)

Profile

【監修者】
真田茂人氏
NPO法人日本サーバント・リーダーシップ協会
理事長

株式会社リクルートなどを経て、株式会社レアリゼ設立。個人の意識変革を起点とした組織開発を強みとし、企業、行政法人、官公庁などで多数の研修導入、講演実績がある。サーバントリーダーシップの普及を通じ、グローバルに通用するリーダーの育成に注力。著書に『サーバント・リーダーシップ実践講座』(中央経済社)、『「自律」と「モチベーション」の教科書』(CEOBOOKS)など。