キーワードで紐解く管理職に求められるマネジメント力【前編】

2017.08.04 FRI

多様なバックグラウンドや価値観を持つ部下たちのケア・育成や、長時間労働対策など、管理職が対処すべき重要な課題は多い。以前よりも役割と責任が増しつつある管理職が、チームと部下のパフォーマンスを最大化するには、従来のマネジメント手法では不十分。多様な部下をまとめ、自主的に動くチームを育てるリーダーシップ理論や、生産性を向上させ部下の残業を減らすための時間管理術など、今後のマネージャーに不可欠なノウハウを、前編・後編の2回に分けてご紹介します。

(1)サーバントリーダーシップ

「サーバントリーダーシップ」とは、リーダーを組織におけるサーバント(奉仕者)と捉える組織マネジメントの考え方である。リーダーが組織の頂点に立ち、部下を指示・命令で動かす「支配型リーダーシップ」に対し、サーバントリーダーシップでは部下たちが主役と位置づけ、リーダーの役割は目標達成に向けて部下を支援することだと考えるのが特徴だ。1970年代に提唱されたものだが、最近特に注目度が高まっている。
「日本でも10年ほど前までは、『そんなやり方で組織やチームがうまく動くのか?』と懐疑的な声が大半でした。しかし、意思決定の迅速化やイノベーションの創出が求められるなか、従来の支配型リーダーシップでは成果が出しにくくなっています。部下たちの主体性を重んじ、その能力を引き出すサーバントリーダーシップの有効性が改めて評価されつつあるのです」
こう語るのは、日本サーバントリーダーシップ協会理事長の真田茂人氏だ。
「上司が時間をかけて計画を練り、部下に指示を出すやり方では、変化の速さに対応しきれませんし、最良の成果は導けません。サーバントリーダーシップは、個人の能力を重視したマネジメントを行うことで、主体的に動く部下を育てます。業務のスピードも高めることができ、変化にも対応しやすくなります」
もう一つ、サーバントリーダーシップが期待される大きな要因となっているのが、イノベーション創出に欠かせない多様性への対応だ。 「従来の支配型リーダーシップは、同質性の高いメンバーを動かすには有効ですが、個性を抑えてしまう面があります。イノベーションは、それぞれが持つ多様な知識や能力を発揮させることで初めて生まれます。一人ひとりの個性を重視するサーバントリーダーシップによってそれが可能になります」
サーバントリーダーシップを実践する上で重要な要素は、主にニつあると真田氏はいう。
第一に大義のあるビジョンを掲げることだ。個性を重視するといっても、進んでいく方向性が全員バラバラではチームとして成り立たない。個性を重んじるからこそ、彼らの行動の拠り所となるようなビジョンを考え、その価値をわかりやすく伝える必要がある。
「ビジョンは自分勝手なものではいけません。この仕事をすることで、どのように社会貢献できるか、自分たちが成長できるかなど、価値ある目標を示し、チーム全員を納得させるのです」
こうしたビジョンづくりに慣れていない管理職も少なくないのではないだろうか。このとき重要になるのが、サーバントリーダーシップの10の特性(図1)の「傾聴」だと真田氏は強調する。

図1サーバントリーダーシップの10の特性 1傾聴 相手が望んでいることを聞き出すために、まずは話をしっかり聞き、どうすれば役に立てるかを考える。また自分の内なる声に対しても耳を傾ける。 2共感 相手の立場に立って相手の気持ちを理解する。人は不完全であるという前提に立ち相手をどんなときも受け入れる。 3癒し 相手の心を無傷の状態にして、本来の力を取り戻させる。組織や集団においては、欠けている力を補い合えるようにする。 4気づき 鋭敏な知覚により、物事をありのままに見る。自分に対しても相手に対しても気づきを得ることができる。相手に気づきを与えることができる 5納得 相手とコンセンサスを得ながら納得を促すことができる。権限に依らず、服従を強要しない。 6概念化 大きな夢やビジョナリーなコンセプトを持ち、それを相手に伝えることができる。 7先見力 現在の出来事を過去の出来事と照らし合わせ、そこから直感的に将来の出来事を予想できる。 8執事役 自分が利益を得ることよりも、相手に利益を与えることに喜びを感じる。一歩引くことを得ている。 9人々の成長への関与 仲間の成長を促すことに深くコミットしている。一人ひとりが秘めている力や価値に気づいている。 10コミュニティづくり 愛情と癒やしで満ちていて、人々が大きく成長できるコミュニティを創り出す。

「リーダーである自分が一番詳しいとは思わず、チーム内の多くの意見を吸い上げていけば、顧客ニーズや市場の変化にも素早く気づけますし、ビジョンの修正も容易です。また、部下も『自分の意見を聞いてもらえた』と感じ、コミットメントも引き出せるでしょう」
第二の要素は、ビジョンを実現するために部下を巻き込み、彼らが活躍できるように支援することだ。
「強力なリーダーシップをもって部下を引っぱっていくのが支配型リーダーシップ。そうではなく、あくまでリーダーはサーバント(奉仕者)だと考え、部下たちがビジョンを達成できるように後方支援するのです」
そのためには部下に権限を委譲することも必要だが、ビジョンの提示と権限委譲だけですぐに主体的な行動が生まれるわけではない。
「まず、部下に話しかけてもらいやすい雰囲気を身に付けましょう。雑談の多いチームが目標です。ビジョンを提示するのはそのあと。部下からの意見も否定せず、発言しやすい雰囲気を醸成していくと、次第に主体的で生産的な意見が増えていくはずです。その上で権限委譲を行えば、部下たちは徐々に自分から動くようになります」
サーバントリーダーシップをうまく機能させるためには、部下との信頼関係の構築が欠かせない。
「日本では、管理職が権限や論理の力で人を動かそうとする傾向があります。それでは主体性は引き出せません。納得感や信頼関係をベースに自ら動いてもらうことが大切です。そのためにも日頃のコミュニケーションが重要になります。部下たちを仕事上の役職や役割だけで見るのではなく、一人ひとりの個性に注目しながら接すれば、より深い関係性が築けるはずです(図2参照)」

図2「サーバントリーダー」と「支配的リーダー」に従うメンバー行動の違い サーバントリーダーに従うメンバー行動 主にやりたい気持ちで行動する 主に言われる前に行動する 工夫できるところは工夫しようとする
 やるべきことに集中する リーダーの示すビジョンを意識する リーダーと一緒に活動している感覚を持つ リーダーを信頼する 周囲に役立とうとする姿勢を身に付けやすい 支配的リーダーに従うメンバー行動 主に恐れや義務感で行動する 主に言われてから行動する 言われたとおりにしようとする リーダーの機嫌を伺う 役割や指示内容だけに集中する リーダーに従っている感覚を持つ リーダーをあまり信頼しない 自己中心的な姿勢を身に付けやすい

サーバントリーダーシップの考え方を社内に定着させるには、管理職の意識改革や評価制度の見直しも含めた、全社的な取り組みが必要だと真田氏は強調する。
「先進的な企業では、意識改革のため、上司と部下の関係性を抜本的に見直す必要があることや、ビジョンがますます重要になっていることを伝えるための大規模な研修を行うケースが増えています。併せてコンピテンシー評価を導入し、部下を育てた人が高く評価されるような仕組みも取り入れ始めています。評価制度の改革は、ぜひ前向きに取り組んでほしいですね」

キーワードで紐解く管理職に求められるマネジメント力

Profile

真田茂人氏
NPO 法人日本サーバント・リーダーシップ協会 理事長

株式会社リクルートなどを経て、株式会社レアリゼ設立。個人の意識変革を起点とした組織開発を強みとし、企業、行政法人、官公庁などで多数の研修導入、講演実績がある。サーバントリーダーシップの普及を通じ、グローバルに通用するリーダーの育成に注力。著書に『サーバントリーダシップ実践講座』(中央経済社)、『「自律」と「モチベーション」の教科書』(CEOBOOKS)など。