スペシャル対談 グローバル時代に必要な組織の変化とリーダーシップとは 高津尚志IMD北東アジア代表×土屋恵子アデコ取締役 人事本部長

世界経済のグローバル化が進む中、新時代を切り開くグローバルリーダーの育成は、多くの企業の課題となっています。グローバル時代に求められる個人の能力と組織のあり方について、世界的なビジネススクールIMDの北東アジア代表の高津尚志氏とアデコ取締役人事本部長の土屋恵子が語り合いました。

土屋高津さんが北東アジア代表を務めるIMDは、スイスに拠点を置く、グローバル経営幹部教育に特化したビジネススクールとして世界的な評価を得ていますね。グローバル人財育成がご専門の高津さんから見て、日本企業のグローバル化への対応は、昨今、進んでいると感じられますか?

高津積極的に取り組む日本企業が増えているのは確かですが、スピードは足りないと感じています。実はビジネスアカデミアの世界では、日本がバブルのピークで“Japan As No.1“といわれた1980年代後半に、「このままだと日本企業はグローバルで勝てなくなる」ということがすでにいわれていたんです。なぜかというと、日本企業は日本人以外のタレントを有効に活用する経験が不足していて、訓練もされていない。それが今後の成長の重い足かせになるだろう、と。バブル後の失われた二十数年を振り返ってみると、まさにそのことが起こったといっていいと思います。

土屋その通りですね。

高津日本に勢いがあったのは、80年代の「国際化」の時代でした。その頃のビジネスは基本的に輸出モデルで、日本で高品質のものをつくって、比較的安い値段で海外の消費者に分かりやすく提供すれば売れた時代です。日米欧という北半球の三極さえ見ていればよかった時代ともいえます。
しかし今、起こっているのは「グローバル化」で、アジアからアフリカまで、新興国や途上国も含めた世界中を市場やプレイヤーとして見なければいけない時代になりました。G7でリードできた時代から、G20になったのは象徴的です。モノづくりや“カイゼン”が重要だった時代からイノベーションが不可欠な時代となり、アナログからデジタルの時代になった。このような大きな変化の中で、日本企業は「国際化」では勝てていたけれど「グローバル化」での勝ち筋を見出せていないと思います。

グローバル時代に必要なのは
深化すると同時に「探索」する力

土屋日本企業の多くが、東京や大阪の本社に人財やナレッジを集めて、精緻な意思決定プロセスを築いているのに対して、グローバルカンパニーでは、マーケットや技術力のある世界中の都市にフレキシブルに拠点を置き、さまざまな国籍の専門家でチームをつくって、ダイナミックに意思決定をしていきます。そのときに必要とされるリーダーシップは、これまでの日本の組織で求められてきたものとは明らかに違うと感じています。

高津グローバル経済の特徴である、多様で複雑で、予見しにくいものをマネジメントし、リードしていく力ですね。

土屋そうですね。かつて日本の製造業が強く、なおかつ大量生産の製品を輸出していた時代には、社員は一つの部門やラインを何年間も経験して、熟達していくことが求められていました。それも素晴らしいことなのですが、今必要とされているのは、熟練・熟達することだけではなく、不確実で複雑性が増す世界において、いかに想像力を豊かに、新しいことを走りながら展開できるか。求められる能力が大きくシフトしてきていると感じます。

高津共著『ふたたび世界で勝つために』にも引用しましたが、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授がしばしば言及しているように、グローバル時代の企業活動は「exploitation=知の深化」と「exploration=知の探索」の2つを重視する「両利き」の経営を目指さなければなりません。日本企業はこれまで、特にメーカー系などは、ある特定の技術を深く掘り下げる「exploitation(知の深化)」が得意でした。しかし今はその技術をどのようなビジネスモデルで展開するのか、どう新しいアプリケーションを見つけていくかも重要です。
そのためには同時に「exploration(知の探索)」もしていかなければ、発展や成長ができません。これまでの枠組みを超えて「知の範囲」を広げる力が組織にも、そして個人にも求められています。

土屋知らないところにどんどん出ていって、予定調和ではない経験をしてくる探索の力と、同時に、ビジョンを達成するためにやるべきことを深く探求する力の両方が必要なのですね。

高津その通りです。しかし、多くの日本企業はまだ「知の深化」のみを中心に人財育成を行っていて、「知の探索」の重要性に気付いていないと思われます。例えば、企業の精鋭が私どものようなビジネススクールに来て学び、さまざまな新しい知に触れ、「知の探索」をして組織に帰っても、組織側が「お疲れ様。じゃあ、今日からいつもの業務をしっかりやってくれ」と再び「知の深化」の枠に押し込めてしまうことがあります。これではせっかく個人が新しいものを持ち帰っても、生かすことができません。個人としての学びや探索をいかに組織としての成長や進化につなげていくかは、これからの企業にとって極めて重要な課題です。

「コンフォート・ゾーン」から出て
組織と個人の多様性を広げる

土屋今の日本の20〜30代前半の若い世代を見ていると、これまでの日本の社会の枠やハードルを軽々と超えて、海外に向けて発信したり、起業したり、国や所属を超えた仲間とコラボレーションして活動するなど、面白い動きが生まれています。これは良い傾向だと思います。

高津私も同感です。ただ、少し残念なのは、日本ではいわゆるミレニアル世代(80年代後半から2000年初頭に生まれた世代)の数が少子化の影響で少ないことです。企業の中を見ても、ここ十数年、不景気で採用者数を絞っていたこともあり、その上のバブル世代などの社員と比べて明らかに少ない。

土屋日本企業はグローバル企業に比べ、マネジャー職に昇進できる年齢が高い傾向にありますが、今のミレニアル世代にとっては、上の世代が多いので、ますますマネジャー職に就く時期が遅くなっています。若手がなかなか仕事を任せてもらえない、リーダーシップ経験を積めないという組織構造を意図的に変えていくことが必要です。

高津このままだと、ミレニアル世代の新しい考え方や働き方が会社に影響を与えるよりも先に、中堅・シニア層の考え方や働き方が、ミレニアル世代に影響を与えてしまいかねません。今の多くの日本企業の文化や仕組みは、企業内で一番多い中堅・シニアの男性社員が快適でいられるようにつくられているといえます。会社は彼らにとっての「コンフォート・ゾーン(居心地のいい世界)」なのですね。その世代は企業内でも“多数派”であり、さかのぼれば学生時代からマイノリティの立場を経験しないまま社会人になり、管理職になっているので、多様化とかグローバル化といわれても、アンテナが立ちにくい。一般的な傾向として、職場でも、若者や女性、外国人と対等な立場でやりとりをすることよりも、自分たちの「コンフォート・ゾーン」をどう広げるかを考えがちだと思います。ですが、それではイノベーションが起こりにくい。

土屋そうした中堅・シニア層が、まず自分の中の多様性に気付くことが大事だと思いますね。会社で肩書を持ってメインストリームにいる男性も、家庭では夫や父親の顔を持っていたり、マンションの管理組合のメンバーだったり、子どもの野球チームのサポーターであるかもしれない。会社以外の場所で、メインストリームから少し外れる体験をするといいですね。

高津会社では多くの人が、自分の中の、ある一部分の能力しか使っていません。会社の枠から一歩出て“越境体験”をすることで、新たな感覚や能力が引き出され、自分の中の多様性が広がります。企業が組織の中に多様性をデザインすることと同時に、個人も自らの中に多様性を創出し、それを生かしていくことが重要です。

土屋越境体験をすればするほど、自分の中の引き出しが増え、しなやかになっていく。自分にはどんな趣味があって、どんな家族や仲間がいて、どういうチャレンジをしてきたかという話ができないと、グローバルでは深い関係性が築きづらい。これは、グローバルリーダーシップにもつながると思います。
先ほどのミレニアル世代とその上の世代も、チームを組むことで、お互いの個性を尊重しぶつかり合いながらも信頼関係を築き、一緒に「知の探索」をしていくことが、組織の中で普通に起こってくると面白いですね。

高津グローバル時代の企業経営者に求められるのはチームマネジメントの力だといわれています。というのも、一人がすべてを知っていて意思決定できる、なんてことはありえない世の中になっているからです。いかに多様な観点や経験のあるチームをつくり、その人たちをまとめ、そこから知を生み出して実行していけるかが、グローバル時代のカギといえそうです。
企業に限らず、NPOや地域でも、世代や国籍、性別を超えたチームが次々と生まれ、私たちのような世代が、若者をメンタリングしながら、逆に若者からメンタリングされるようなことが社会のあちこちで起こるといいですね。

IMD北東アジア代表
高津尚志氏

profile
早稲田大学政治経済学部卒業。フランスの経営大学院INSEADとESCPに学ぶ。日本興業銀行、ボストン コンサルティング グループ、リクルートを経て2010年よりIMDに参画。著書に『ふたたび世界で勝つために―グローバルリーダーの条件』(共著、日本経済新聞出版社)、訳書に『企業内学習入門―戦略なき人材育成を超えて』(英治出版)などがある。

アデコ取締役人事本部長
土屋恵子

profile
主にグローバルカンパニーで20年間以上にわたり、ビジョンの実現に向けて個人と組織が個性と強みを生かして共に成長することを基盤に組織開発をリードする。人事部門の統括責任者として、チームと共に日本およびアジアのリーダーシップ開発、人財育成、制度策定・浸透などを展開する。2015年より現職。ケース・ウェスタン・リザーブ大学経営大学院組織開発修士課程修了。